通天閣がお出迎え
大阪の姑によれば「私らの頃は『行ったらあかん』って言われるような場所やった」そうで「昔は串カツの肉は犬のやって言われたりしてたわ~」だそうだが、最近の新世界はいたって明るく健全だ。
道行く人も家族連れやカップルが多い。もちろん観光客もたくさんいて、通天閣をパシャパシャ撮影しまくっている。
そして街は「串カツだらけ」と言って差し支えないほど、串カツ屋が密集した地域となった。
地下鉄の階段をあがると、まず通天閣が目に入ってくる
訪問したのは、まだ新年あけてホヤホヤの1月4日。
おせちに飽きて、なにかこってりした物でも食べたい頃ではあるが、果たして新世界(串カツ界)はどうなっているのだろう。
通天閣の真下は、まだそれほど観光客もおらず。
さすがに午前中から串カツを食べに来る人なんていないか…と思いきや。
振り返ってみて驚いた。
まだ11時前だってのに、この行列。
並んでいたのは人気店の「だるま」だった。ここはいつ来ても行列が発生している超人気店ではあるが、それにしてもすごい。この時間に食べる串カツって何だ。おやつか。おやつ扱いなのか。
どうやら串カツを欲する気持ちに時間や時節は関係がなく、影響もしないことがわかった。かくいう筆者も串カツを食べる気まんまんなワケで、まったく人のことを言えた義理ではないのである。
さて、他の店の様子はどうだろうか。
三店舗連続も珍しくない
一般的に、同じ業種の飲食店が三軒連続で並んでいる状態というのは、相当に珍しい光景だと思う。たとえばパン屋が三軒続けてあったら「なぜ?」と思うのが当然であろう。
しかしここ新世界では、それがさして珍しいことではない。
串かつ三連チャン
この街に限っていえば、隣に新たな串かつ屋が出来たところで、それはもはや商売敵ではないのだろう。
かえって「あればあるだけ吸引力になる」とか「ポツンと一軒だけあるより迫力が出ていい」と歓迎さえしているのではないかと思うほどだ。
別館、分館だらけ
帰ってから写真を整理していて気がついたのは、別館の多さである。「あれ、この店また出てきた」とか「この店って他にも店舗あったんだ」と後から気付かされた店が何軒もあった。
この店も、そういえばさっきの三連続の中にあった
さほど広くない街を何度もぐるぐる回っていると、あちこちで似た店構えの系列店と出くわすことになり、これが奇妙な夢を見ているようで、ものすごく混乱させられた。
店の佇まいが派手なことも手伝い、ちょっとした非日常感もある。ますます夢っぽい。
さながら串カツ屋無限地獄といったところか。こんな地獄ならば落ちてもいい。二度づけ禁止ソースの池地獄。ええやないか。浸かってみたいやないか。
ファミレス化している
新世界から歩いてすぐの所に天王寺動物園があるとはいえ、串カツ屋に子どものイメージはない、のだが。
この二店舗は他店との差別化がすごかった。
左の店、キッズメニューが豊富だった上に、
なんとキッズルームまで!
ここまでファミリー歓迎ムードを前面に押し出した串カツ屋は滅多にあるもんじゃない。
ちなみに以前、子どもとここに入ったことがあるのだが、子連れウェルカムの店ってだけでやたら安心できたことを覚えている。安心 is プライスレス。これは大きい。
さらに右隣の店では、あろうことか「食べ放題」をやっていた。
いいのか。やっちゃっていいのか。
これは安い。60分の時間制限ではあるが、じゅうぶん過ぎる。やりたい。やりたいが今日のところは企画が違う。日を改めよう。
とにかく派手だ
阪神と串カツ屋がドッキングしたような店があった。やっぱりオーナーは阪神ファンなのだろうか。
ビリケンさんが阪神のユニフォームを着ている。
とにかく巨大な看板が目を引く。役者名でも書いてありそうな立派な筆文字だが、実際に書かれているのは「イカ」とか「豚バラ」である。看板役者ならぬ看板食材。私が鶏なら「豚バラになりたい! それがダメならホルモンで!」と憧れるところだ。
さらに世界広しといえど、これほど大きく美しい文字で書かれた「ウインナー」は他にないだろう。
これ夜になったらさらにスゴイんだろうなあ
派手さでいえば、この店がダントツだった。
黄色と赤の配色に脳がシビれかけたところに、畳み掛けるような「本場の串カツやっ!」「~でっせ!」と圧迫感溢れる宣伝文句。なにもかもが過剰すぎて感動すら覚える。
かと思えば、ビリケンさんが相撲を取ろうとしてる店が。
全体的な店構え。なにがどうしてこうなったのか。
「横綱」という店名に基づいているとはいえ、よくぞここまで…という店構えである。のぼりや屋根など、細部まで凝っているのがよく分かる。
そして巨大なビリケン力士。これも夜になったらライティングでスゴイことになりそうだ。
こちらは別館。スケールダウンしてはいても基本は変わらず。
派手な店ばかりが続くなか、隣にポッと地味な店が突如現れたりする。
ものすごくおいしそうに感じる不思議
なぜかジーッと見入ってしまっていた。撮影記録をみると、この店の写真がなぜか大量にある。なんの変哲も無い、地味な食堂の写真を何故…。
今ならわかる。きっと視覚と心のバランスを取っていたんだろう。
だって、こんなんばっかり見てたら麻痺するって。
えべっさんが釣り竿の代わりに串カツを持っている。意味は分からないが、なんだかめでたい。縁起も良さそうだし正月早々食べるんならココか?
いや待て。この店の隣も、めでたさが突出しているぞ。
はい、鶴と亀がどーん!
ついに木彫りになった。
冷静に考えてみてほしい。ここまで見てきた店舗はテーマパークや遊技場ではなく、どれも「串カツ屋」であることを。
なぜだ。なぜ串カツ屋なのにここまで過剰なんだ。
…とか思ったら、いきなり基本に返られた。
思わず「ですよねー。ここ出発点ですよねー。まずは串カツをハリボテにするところからですよねー」と店のお姉さんに話しかけたくなった。ついでにビールまで巨大化している。
うむ。そういうことか。
きっと提灯やら看板やらビリケンさんやらは、当初あそこまで大きくなかったのではないか。店舗を改装したり増築する際、人はつい串カツ だけに飽き足らずビリケンさんを巨大化させ、提灯を増やし、看板を大きくし、恵比須さんに串カツを握らせてしまったのだろう。その積み重ねが、いまの新世 界なのだ。
小さな店も山のようにある
串カツ屋は大型店舗以外にもたくさんある。
店の外にも席を作ってます。
パッと見は普通の居酒屋でも串カツ推し。
細い路地にもちゃんとあった。
まだ出来て間もない店も。
こういう小さい店がやたらある。
ダイニング! ついに串カツダイニング!
おや珍しい、ここのだるまは行列がないぞ?と思いきや、
道路を挟んだ向かいの路地にずらり。
「そういえばジャンジャン横町にある串カツ屋を忘れてた」と向かったところ、またしても長い行列に遭遇。
三たび、だるま。
新世界に三店舗ある全てのだるまに行列が出来ていた。もうこの行列込みで名物なのだろう。
思わず「観光客のみなさーん、新大阪駅の構内にもだるまがあるのをご存知ですかー。並ばずに食べられますよー」と教えてあげたくなった。
こちらもいつも行列ができてる人気店の「てんぐ」
天狗のお面がひとつ…。シブい。
さらに、その隣も行列の絶えない人気店「八重勝」なもんだから、この辺の人口密集具合ときたらスゴイものがある。
行列の人と通行人とで、狭いアーケード内がえらいことに。
この八重勝とてんぐ、そしてだるまが串カツ御三家と呼ばれる人気店らしい。
なるほど、どこも大行列だった。
この店、横町の中にもあった
ここも通天閣付近にあったな
さらに、普通の立ち飲み屋なはずなのに「串カツ始めました」と宣伝している店まであって、本当に新世界は串カツに占拠されたといっても間違いではないな、と改めて思わせられた。
でも、この店では牛肝ステーキだろう!
まだまだカメラには串カツ屋の写真が残っている。撮影したすべての店を紹介したいところだが、さすがにもういいだろう。
撮り損ねた串カツ店もまだまだあったことと思う。
でももう店構えだけを見て回るのはたくさんだ。食べよう。もうとっくに昼も過ぎている。観光客もぐんと増えてきたぞ。
だいたい巨大化したフグがぶら下がってるのからして、何かの間違いじゃないかと思う。
先の串カツ御三家以外の店は、どこもそう並ばずに入れそうだった。
一人なのでふらりと入って、サッと食べてパッと出たい。
空いてる店にパッと飛び込んで、盛り合わせ10本を頼んだ。
あー、串カツって本当にいい。何も考えずに食べられるところがいい。
気取ったところが一切なくて、安くて、おいしくて、箸さえ必要ないくらい簡単に食べられて、ビールがすすんで、おいしくて、おやつにもおかずにもなって、具も豊富で、おいしくて、熱々で、おいしくて、おいしくて…ああ、書いてるだけでまた食べたくなってきた。
次に大阪に行けるのはいつになるだろう。待ち遠しいことである。
何度でも来よう
「そう広くはない街を同じ食べ物で盛り上げる」というと、もんじゃ焼きで有名な月島を思い出す方もいることだろう。あそこももんじゃ焼き密集地帯だ。もんじゃだらけだ。
似ている。確かに似てはいるが、やはり違う。串カツ屋は店の造作自体が異質なのだ。異様といってもいい。
しかし店構えが派手なのは新世界に限った話ではなく、大阪の繁華街全体の話だ。
つまり「大阪の店は派手なのが多い」とまとめてしまえば話は終わってしまうのだが、えーと、要はそういうことでよろしいでしょうか。
とにかく串カツ屋及び新世界がどう変貌を遂げていくのか、これからも見守っていこうと思う。
東映の映画館もある! いつまでも残っていて欲しいものです。