まずは伊勢丹へ
タコとイカのおつまみを探しに街へ出る。
トップと底辺、それぞれを知る必要があると思い、購入先は伊勢丹とドン・キホーテの二店舗にしぼった。
物産館やネットショップの存在もチラと頭をかすめたが、高級塩辛やワタの和え物などの珍味に「これでもか」とばかりに購買意欲を煽りまくられ、あげく日本酒がとまらなくなって二日酔いで屍のようになるのは目に見えている。
だからいいんだ…、伊勢丹とドンキで正解なんだ…。自らにそう言い聞かせ、まずは伊勢丹へと向かった。
ご存知、デパート界の雄。
向かってから気がついた。伊勢丹ってことは、いわゆるデパ地下ってやつだ。つまりはお惣菜天国だ。
…うむ。早々に店の選択を間違えたことに気が付いたが、もう引き返すことは出来ない。ここで北海道物産館になんか行ってみろ。待っているのは屍になった自分だぞ。
なんかデパ地下における「頂点」って感じがビンビンします。
仕方なくフロアをうろつくが「これぞ」というつまみがない。
そりゃそうだ。こんなきらびやかなフロアにイカの焼ける匂いが漂っていいわけがない。
そのうえ買えもしない高級惣菜ばかりを見ているうちに、悶えすぎて具合が悪くなってきた。どっちにしろ死ぬのか。つまみひとつで何故。
と、いきなりこんなものが目に飛び込んできた。
フラフラになりながら総菜エリアを離れた時、その店はあった。いわゆる地方からの出張店舗というやつだ。伊勢丹ぽさゼロ。聞けば岩手からの出店だという。
見ればなにやら軟体生物の足をスライスした魅力的な商品が売られているではないか。
「これこれ、こういうのを探していたんだよ!」とばかりに駆け寄った。
なんとイカでした
しかしコレは果たしてタコなのか、イカなのか。色合いや太さを見る限りタコな気がするが「いぶり足」としか書かれておらずまったく判別のしようがない。それにしてもえらい太さだ。
「これタコですか?」と聞いてみると「イカだよイカ。おいしいよー」とのこと。すごい。これイカなのか。
200グラムで1,260円となかなかのお値段だったが、試食がうまかったので即購入。
いいイカのつまみが買えた。この調子でタコもいきたい。
うん、あるある。タコ飯・蛸と野菜の炊き合わせ・タコのマリネ・タコの唐揚げ…って、どれもこれも立派な「一品」じゃないか。気軽に「どれ、ちょっとつまみでも…」と口にするものとはかけ離れている。
やはり惣菜コーナーってのががイカンのだ。特に伊勢丹のはイカン。危険すぎる。ここはいさぎよく諦めて、鮮魚コーナー周辺に目を向けるとしよう。
デジャブかと思うようなものがあった。
思わず「おっ!」と声がでた。見た目がさっきのイカに瓜二つじゃないか。
うむ。これは味の比較をするのにちょうどいい。60グラムで500円だから、値段的にも釣り合いが取れる。さっそく購入。
しかし伊勢丹の食品売場はいつ来ても緊張しますな。
ドンキにはイカがくさるほどある
さて、伊勢丹の対局にあるかのような存在といえば、ドン・キホーテで間違いなかろう。言わずと知れたこの激安店には、どんなイカタコのつまみがあるのだろう。
いささか騒然としているが、伊勢丹の後だけに気楽さだけはある。そんな店内をふんふん鼻歌まじりにうろうろするうち、恐ろしいことに気がついた。おつまみコーナーがイカだらけなのだ。
おつまみコーナーの、
あちらこちらが、
圧倒的なほどに、
イカで構成されてました。
果たしておつまみコーナーは完全にイカの支配下にあった。「征圧」と言っても差し支えがないほど売り場はイカにまみれ、あっちを見てもこっちを見てもイカ・イカ・イカ状態。
さきいか・スルメ・いかフライ・のしいか・炙りイカ・するめソーメン・酢イカなどなど、書き切れないほどのつまみが並んでいた。まさかドンキがここまでイカ天国だったとは。
なかには「タコ風味」が売り文句のイカまであった。いいのか。これってタコになめられてるんじゃないのか。
イカにもプライドってもんがあるだろう。
おつまみだけじゃない。駄菓子コーナーでもイカは勢力を拡大していた。
私が子どもの頃は、せいぜい「よっちゃんいか」と「酢漬けいか」くらのものだったのに。ああ、今の子どもが心底羨ましい。
しかし駄菓子にしちゃあ高いな。
そして振り向けば、イカ。
それはそうとタコがない。売り場を何周もぐるぐると見て回ったが、まるで売ってない。
これでは勝負にならんじゃないか。いつから対決企画になったのか我ながら謎だが、イカと同じように食べ比べられるタコがないとなると、 ちょっと寂しいってもんだ。
そんな折、ふと目にとまったのがコレだった。
なぜか缶詰が大充実。もしや「缶つま」って「金妻」を意識してませんかね。
つまみコーナーの一角で輸入ものを含めた缶詰が大量に売られており、なんとあれだけ探してもなかったタコが売られているではないか。
だれかイカの宣伝文句も書いてやって~。ちゃんとプッシュしてやって~。
このタコ缶、価格は600円近い。「激安の殿堂」にあるまじき強気の価格設定である。ドンキ、いや世間的に見ても高級な部類に入るのは間違いないが、タコはコレしか売ってないんだから買うしかなかろう。
食べ比べ用にイカの缶詰も購入。「安っ!」と思ってしまったが、冷静に考えてみればこちらも缶詰にしちゃあ高価だ。
そしてこのイカ缶、外箱にわざわざ注記がある。
(タコではありません)
ここでもイカはなめられている。どういうことだ。
まあタコのような太さだけに「間違えないで!」という配慮なのかもしれないが、それにしたってイカが気の毒すぎる。もはやプライドずたずたなんじゃないのか。大丈夫か。
タコうまい
さっそく帰ってビールをプシッ、缶詰をパカッとそれぞれに開け、イカタコだけで晩酌を始めよう。
まずはあのかわいそうなイカ缶だ。
オイル漬けではなく、調味液漬けだそう。
食べ慣れたイカの調理法ではないだけに、味がいまいち分からない。イカより調味液の味をダイレクトに感じてしまうせいだろうか。
ふと思いたち、塩をパラリと振ってみると途端にイカの味が口の中にひろがった。…あ、確かにイカだわ、これ。うん、この味は知ってる。
それにしても太い。普段あまりお目にかからない太さだ。この足からすると、本体はいかほどの大きさなんだろう。
着色料は使ってないようなので、この色は香辛料によるものに違いない。
いつまでも味のことに触れないのでやきもきしてる方もいらっしゃるかもしれませんが、そこは察してください。…察して。
続けてタコ缶もいこう。
色は薄いが、こっちがタコ。紛らわしい。
これは食べてすぐに「うまい!」と思えた。タコ・塩・オリーブオイルのみというシンプルさでありながら、噛めば噛むほどうまさがにじみ出てくる。私にしては珍しくワインが飲みたくなった。
「やっぱりタコっておいしいんだな…」と改めて思い知らされた。イカが不当に扱われるのも無理は無いと思ってしまうほど、おいしかった。(イカすまん)
ちなみにこの缶詰、イカ・タコともに製造元はスペインだという。なるほど。
安心の味
では、伊勢丹で買ってきたイカタコはどうだろう。
イカ。2~3センチほどの直径。太い!
こちらもほぼ同じ太さのタコ。
これはどちらも同様においしかった。
スペインのイカタコはオイルでうまみを閉じ込めていたが、日本は塩分でうまみを凝縮させているような印象を受けた。しみじみうまい。噛んでも噛んでもうまい。
より燻されているイカの方が味が濃く、締まった印象がある。されどタコもソフトな感触に仕上がっており…って、いやもうこれは甲乙付けがたい!
どっちもビール! 全部飲んだら、次は日本酒!
イカってえらい
イカは庶民的な食材だと思ってはいたが、まさかここまであからさまだったとは。不憫という言葉さえ出かけたほどの待遇であった。イカに親近感を覚えたのは言うまでもない。
しかし、あれだけ加工され、店頭に並びまくり、そして消費されているというのに「近年めっきり漁獲高が…」という話を聞いたことがないのもすごいと思う。
考えてみれば、タコはわざわざモーリタニアあたりから来てるんだし、たこ焼きという重要任務もあるのだ、無理に量販店に並ぶことはない。
これからもお手軽おつまみの世界はイカを中心に展開されていってほしいし、きっとそうであることだろう。
なんにせよ、大事に食べたいものです。
さて、これはイカ・タコどっちの晩酌セットでしょうか?
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当サイトからは、森翔太、べつやくれい、玉置豊、クリハラタカシ、乙幡啓子、大北栄人、そして私こと高瀬克子が寄稿しております。
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