めざすは新調味料
つまり最初から醤油に油が混ざっていれば、ただの赤身がトロになるのでは? という提案である。
油ってやっぱりあれ、うま味の一種だと思うんですよねぇ(異論は認めます)。
最近は密封ボトルタイプの醤油を愛用。
このまま食べても、もちろんとてもおいしい赤身なわけですが。
しかし無邪気に「醤油と油をドッキング」と言ったところで、両者が簡単に混ざるはずもない。
餃子のタレにおける醤油とラー油の混ざらなさ具合を思い出すまでもなく、水と油(この場合は醤油ですが)は分離しまくるのが世の常だ。
どうしたものか…と腕組みをしつつ、油のことは油のプロに聞け!とばかりに浅草橋に向かった。
やってきました金田油店。油といえばここ! 油好きの聖地!(前回訪問時のようす)
国内外のありとあらゆる油がズラリと並んでおります。
厄介な相談を持ちかけにきたことは自覚している。
お店の迷惑にならないよう、お客さんのいない時を見計らってスタッフの方に「醤油に油を混ぜたいんですけど、どうすればいいですかねぇ?」と聞いてみた。
悩ませてしまった
「え! うーん、考えたこともなかったなぁ。どう…すればいいんですかね…」
こちらが恐縮するくらい真剣に考えてくださった。
「醤油と油を一体化させるってことは…乳化させればいいのかなぁ。でも乳化ってどうすれば出来るんだろう?」
店内のパソコンでネット検索までして調べてくれたものの、乳化のナゾは解けない。
練りゴマでさえ分離。透明な上澄みは油。
店内のえごまドレッシングもこの通り。
筆者(右)も一緒になって「うーん…」と考え込む
店内であれこれ知恵を絞ったが、ここは潔く乳化のことは諦めざるをえない…。
醤油に混ぜておいしい油
スタッフの方におすすめをお聞きした。
「サラッとした油の方が混ぜやすいと思いますよ」というアドバイスを受け、熱に弱く生での使用が推奨されている「えごま油」で勝負に挑むことにした。α-リノレン酸を多く含む、健康面でも優秀な油である。
いい油を手にし、ホクホクで店を出た。
奥出雲で作られている「えにしの雫」という油を購入。
本当にサラッサラ。知らない人が見たら化粧品と間違えそうな見た目。
混ぜる油は決まった。あとは醤油に混ぜるだけ…なのだが、この日は人に会う予定があった。
せっかくなので買ったばかりの自慢の油を振る舞うことにしよう。
肉には最初から脂がある
入った店が牛肉専門店だったのが、今にして思えば失敗であった。
振る舞い油。私としては最上級のもてなし。
まずは頼んだ肉が来る前に醤油の舐め比べをしてもらった。
醤油だけの皿と、油と醤油を混ぜた皿の二種類を用意して、最初は醤油だけをペロッと舐めてもらおうか。
まずは醤油だけをちょんちょんっと箸に付けて…
DPZライターの大塚さんに舐めてもらいました。「うん、醤油だよね」
一瞬にして口の中が「醤油!」になるというか、しょっぱさが一直線に味蕾を刺激するというか、鋭利でトンガっている印象。
一方、油を混ぜた醤油はというと…
よーく混ぜて、と…
ペロリ。…あ、醤油が奥に隠れた。
醤油が油というクッションを挟んだ状態で舌に到達するせいか、とても穏やかな味になる。
あの鋭利なしょっぱさが、途端に丸く優しい印象に変わった。俗にいう「まろやか」というやつだ。
冷製肉も、醤油と油入り醤油とで食べ比べ
油醤油は、肉自体に脂があるから少しくどい
サーロインのステーキは、
うーん、もうどっちでもいい! うまい!!
なにごともバランスって大事だよな、と思う。
なんといいますか、肉は最初から脂を含んでいる。そこに油を追加することで、かえって味がぼやけてしまう物もあった。
やはりここはシンプルで脂っ気のない食べ物で試してこそ、だと思う。最初に戻ってマグロの赤身で勝負するのが一番ということになった。
まさかのドレッシング疑惑
醤油と油をよく混ぜるには、泡立て器を使うのが便利ですよね
このえごま油は本当に風味が爽やか!
シャカシャカやってたら、だいぶ混ざってきました。
泡立て器をシャカシャカやっていて、さすがに自分でもハッとした。
…これってドレッシングじゃないか?
ドレッシングといえば、瓶に入れて作る方式もあったよなー、と振ってみた。
さすが。トロリとしてます。
世紀の大発見のごとく「醤油には油を混ぜたらうまいに違いない!」とか大口を叩いていた自分の浅はかさが恥ずかしい。
これって、酢を混ぜたらまるっきりドレッシングだよ!
もしかして皆さん、最初から気付いてましたか。
それでもいい。顔を赤らめながらも挑戦は続けることにしよう。
そうしないと、いろいろ知恵を貸してくださった金田油店の皆さんにも申し訳がたたない…。
油+醤油をチョンと付けて、と
結論から言うと、ものすごくおいしくなった。醤油だけで食べてもおいしい赤身が、良質の油が加わったことで赤身の味自体をより深く感じられたのだ。
噛めば噛むほど、マグロのうま味が口の中に広がる。醤油の印象が弱まるせいか、赤身の味がより引き立つ。
これは発見だ。トロになるとかならないとか、そういうことは二の次でいいと思える味わいなことは確かだ。
えごま油+醤油 ★★★★★(満点!)
他の油でも試してみたい
世の中には他にも油がたくさんある。わざわざいい油を使わなくとも、同じような効果は期待できるんだろうか?
あれこれ試してみた。
森のバターと言われているアボカド+醤油ではどうか。
激辛わさび醤油みたいな見た目になった。
アボカドはマグロと一緒に食されがちな素材なだけに、合わないわけはない。
さあ、どういうことになるんだろうか。
ディップみたいな濃度。
うん。そりゃマズくはないよ。ないけどね、これは出来れば分けて食べたい。
アボカドとマグロをぶつ切りにして一緒に食べるより青臭さが全面に出てしまったのが残念だった。
アボカド醤油 ★★☆☆☆
森のバターがまさかの2点という結果にガッカリし、「ならば…」と本物のバターを用意した。
電子レンジで柔らかくしたら、
素早く混ぜる!
「バター醤油味」というのは確率された味覚ジャンルだが、こうして本物を目の当たりにしたのは初めてである。
バター(山)と刺身(海)という、本来は出会わないはずの2人が出会ってしまった。その結末や如何に!?
禁断の出会い
すごい。合わない。笑っちゃうほどに合わない。なまじ刺身だと思うから「うげー」となるんだろう。
いやでもね、君たちをフライパンでジューッと炒めたら一気においしくなることを私は知っているよ。
バター+醤油 ★☆☆☆☆
香ばしさという仲人がいて、初めて成り立つ組み合わせだったのかもしれない。
もはや、なんの新鮮味もない組み合わせ。
これは野菜なんかが合うんだろうな。
マヨ醤油はわりとメジャーな組み合わせだと思うが、果たして赤身のマグロとの相性はどうだろう。
そういえば「赤身をマヨネーズに漬けておくとトロっぽくなる」という話をどこかで聞いた覚えがあるな。
これは期待できる…
うん。これは好きな人は大好きな味だろう。
マヨネーズの味が強力なせいか、せっかくの赤身のうまみが隠れてしまったのは残念だったが、逆に言えば刺身が苦手な人には最適の食べ方かもしれない。
マヨネーズ+醤油 ★★★☆☆
つまりは餃子のタレなわけですね。
学生時代の友人が、餃子を食べに行くたびに「世は21世紀だというのに、なんでラー油と醤油は混ざらないままなのか!」と愚痴り続けていたのを思い出しながら、シャカシャカしまくった。
今回は特別に「ごまラー油」を使用。
餃子を食べるときは泡立て器なんて使わないだけに、初の試み。
すごくよく混ざった。油の粒が小さい!
食べるのは餃子じゃなくて、マグロの赤身という違和感。
これは完全に中華料理だ。中華の前菜にありそうな味だ。
辛味が強いだけに刺身だと思って食べるとガッカリするが「こういう料理です」と言って出されたら、おいしくビールが飲める組み合わせと言えよう。
ごまラー油+醤油 ★★★☆☆
こういう刺身パーティーがあってもいい
あれこれ試してみたが、やっぱり一番おいしかったのは、えごま油を混ぜた醤油だった。
油がうまい具合に醤油をコーティングしてくれて、刺身の味を邪魔しないどころか、赤身のおいしさをさらに引き出す結果となったのがなんといっても素晴らしい。
圧勝である。
油をちょいちょい混ぜていこう
お刺身を食べていて、たまに「醤油の味が強いなー。これって塩で食べた方がいいのかも」と思うことがあったが、そういう時こそ「油+醤油」なのだと確信した。
油好きとして、素直に嬉しい。これは是非とも人に勧めたい。布教したい。
時間が経てば分離してしまうが、そんときゃ箸でグシャグシャ掻き混ぜれば大丈夫ですし!
バター醤油は時間が経っても分離せず! 残ったらごはんにかけて食べようっと。