腹持ちも40倍
このピザと牛丼、昼間に食べたのだけどその日眠るまでずっとお腹いっぱいだった。もう何も食べなかった。12時間ほどお腹いっぱいだったのだ。
ピザやリゾットや牛丼の頭に「3種のチーズの」と付けるとおいしそうだ。
これの、種類の数を増やした超すげえやつを作りました。
40種だとしたら10倍クアトロフォルマッジだ。(「考えようによっては」と付けている部分はあとで説明します)
ドラゴンボールごっこをしていて「10倍界王拳だ!」とか「100倍かめはめ波だ!」とか言いませんでしたでしょうか。その時の気持ちを思い出してください。
どちらも普段では食べられないおいしさとカロリーだった。放心状態になりました。
それでは、これを作るまでの過程を説明します。
頭にこれを付けておけば無条件においしそうに響く、という言葉がある。「天然酵母の」とか「じっくりコトコト煮込んだ」とかがそうだ。
中でも「3種のチーズの」は良い。色んな味がしてコクがあって、これでもか、というぐらいチーズの味がすることが分かる。
「3種の」という修飾語がついに「とろ〜り」と並んだかと思うとグッとくるものがある。
「◯種のチーズの」と言うとおいしそうだ。その次に思ったことは「100種のチーズの」とか言ってみたいな、ということだった。
小学生男子が「100億兆円」と言うのと同じだ。「100」が「究極」を意味しているのだ。
100種のチーズをそろえるためにチーズ専門店に行った。
チーズ専門店である。
静かな店内に聞いたことのないチーズが並んだケースがある。
「100種類チーズおためしパック」みたいなものがあればそれを買ったのだけど、なかった。チーズの塊を100種類買えばいいのだけどそんなにたくさん食べきれない。
最初の一歩で頓挫してしまった。だがこれは失敗ではない。失敗を失敗と認めなければ転んだまま転がって進むこともできる。
お店のおっちゃんに「予算内でなるべく沢山の種類のチーズを食べたいのですが…」と聞いてみる。相談した結果、カットして販売できるチーズを少しずつ用意してもらうことになった。
あとで分かったのだけど、おっちゃんはすごく手間のかかる作業を二つ返事で引き受けてくれていた。
「片付けが大変なんだからこれっきりにしてくれよー」と冗談っぽく言ってくれたが、チーズ屋さんの事情を知らず大変なお願いをしてしまって申し訳なかった。
100種のチーズ牛丼を作りたい人はお店の人とよく相談してチーズを用意してください。
帰る間際に「こんな変な注文初めてだよー。チーズの試験でも受けるの?」と言われて「牛丼を…」とは言えず「えへへへ…」と返していたら、「試験頑張って!」とお店から送り出された。
試験頑張ります。
計11種類の専門店のチーズ。どんな味がするのか、一口ずつ食べてみる。
サリエットという植物とローズマリーをまぶしたチーズ。トロッとした感触で幸せな気持ちになった。
スペイン南西部、エストレマドゥーラ州が原産地。この地方産の殺菌されていない山羊乳のみを使っているそうだ。だからか分からないけどお酒みたいな味がした。
お店のホームページの解説によると「ブルーチーズの最高峰に君臨しつづけるブルー」とあった。
ロックフォールと名乗るには、フランスのある決まった山の自然の洞窟で最低3ヶ月熟成させなければいけないらしい。すげえ、忍者の修行みてえだ。
味わったことのないコクの深さからか、舌がビリビリした。ワインの他にハチミツと食べてもおいしい。
用意できたチーズは11種類。「11種のチーズの〇〇」でも十分多いが、キリよく20種になるようにスーパーでチーズを買ってきた。
今写真を見て気がついたのだけど最後に粉チーズを振っていたので21種だ。多い分にはいい。人がより幸せになるミスもある。
21種のチーズが溶け、渾然一体となっていく。これだけ境目が分からなくなっちゃうとノートにメモした意味なかったな、とか思いながらピザを見守る。
20種(粉チーズ入れたら21種)のチーズのピザができた。赤っぽい色合いがすごくきれいだ。具が何もないのにこの賑やかさはすごい。これでもかというくらいチーズのいい香りがする。
一口ごとにはっきりと違う味がする。甘い部分、チーズのコクが強い部分、食感が変わる部分などあって全然飽きない。焼く前、ピザに合わないチーズもあるのでは、と思っていたが、全然そんなことなかった。どの部分もしっかりおいしかった。
どこが何のチーズか確かめずにバクバク食べてしまったけど、コクのあるいいチーズが来るとやっぱり嬉しかった。
あとやけにモニョモニョする食感のところがあって、そこだけはさけるチーズと分かった。しれっと異質なものを混ぜてみたが、隠しきれない個性があった。
やはりタバスコをかけると味わいが違ってまたおいしい。2倍楽しめる。そう、タバスコをかけると味わいが違う。2倍楽しめるのだ。20種のチーズのピザが。
…。
40種だろう。
40種のチーズのピザと言っていいだろう。無理に100に近づける意味もないのだけど、ここまで来るとできるだけ多くあって欲しいという気持ちにもなる。
5倍クアトロフォルマッジが10倍クアトロフォルマッジになった。タバスコによる界王拳である。
牛丼屋さんで買ってきた並盛りの牛丼に20種類チーズを乗せて温めた。
牛肉をほとんど感じない。ご飯とチーズと、その間に牛丼のタレがあって、これはドリアだなと思った。ドリアおいしかった。
「100が最強だ」という小学生的発想にいいチーズを巻き込んでしまったけど、普段スーパーでは手に取れないチーズを味わえたのはすごくよかった。これから、お酒やクラッカーと一緒にじっくり楽しみます。
このピザと牛丼、昼間に食べたのだけどその日眠るまでずっとお腹いっぱいだった。もう何も食べなかった。12時間ほどお腹いっぱいだったのだ。
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