みんな商品に指示されたくない
大北:人々の行動というのは簡単に指示できないのだなと。そこにあるのはプライドですかね
安藤:指示されると反発したくなるから。でも書かなきゃいけない。ジレンマですね
大北:人間は自由でいたいのだなとも。
大北:という広告の世界を覗き見た回でした
安藤:電車に脱毛サロンの広告あるけど、毛を処理した方がいい、とは書いてないもんな
ダイソーで湯たんぽを買ったら「毎日を快適に過ごそう!!」と書いてあった。その通りだなと思った。同時になにかそれがおもしろいなと思った。
私のすべき行動が書いてある。私はダイソーの意のままに生きている。まるで「欲しがりません勝つまでは」のように見えてきた。
商品に書かれたこうした文言を集めたい。そしてもう十分自分の意のままに生きたので今後は企業の意のままに生きたい。
ことの発端となったダイソーの湯たんぽとはこれ。
「毎日を快適に過ごそう!!」と勢いよく言われて本当にそうだなと思った。同時に、商品に隠されたメッセージが表に出てきてしまってるのではとも。
映画『ゼイリブ』ではサングラスをかけると商品に隠されたメッセージが読み取れるようになるのだ。(興味がある人は↓の思想家ジジェクが語る動画を見るとよいかも)
「毎日を快適に過ごそう!!」と書いてある湯たんぽ。「毎日回して健康になってね!!」と書いてあるフラフープ。「毎日飲んで腸内環境をよくしてね!!」と書いてあるヨーグルト。
こういう商品を一回集めてみたいと思った。そして毎日その通りに過ごすのだ。
判断や決断に迫られる日々を40年くらい過ごしてもう飽きてきた。なんにも判断せずにパッケージに書いてある通りに暮らすのだ。それは生まれたての赤ちゃんのようなちょっとした自由さがあるだろう。
そう思って商品がたくさん集まる場所に行った。
担当編集の安藤さんに企画を説明して一緒に家電量販店にやってきたのだがパッケージに命令や指示を書いてあるものが見つからない。
「そういう指示が書いてあるのを見たんですけど……おかしいな」と焦っていろんな売り場を回る。ようやく入浴剤コーナーにあった。
ないことはない。あるところにはある。しかし全体としてはそれほどない。ダイソーの湯たんぽはそうだったんですけどね……と安藤さんとダイソーにやってきたが湯たんぽ以外では見つからない。
ダイソーにも全然ない。ところが唯一入れ食いのように命令やお誘いをしてくるコーナーがあった。
たしかに子供のおもちゃには呼びかけが書いてある。だけどそれ以外は思ったよりもない。これは一体どういうことだろうか。その行動を促す文言の書いてなさっぷりの方が気になってきた。
一回自分で調べてみます、と後日スーパーに行ってから再び安藤さんに報告をした。
大北:あの後、スーパー行ってみたんですよ。そしたらやっぱり全然書いてないんですよね。
大北:でね、よく考えてみれば食品には「食べて」って書いてないんですよ
安藤:いわれてみればそうか、「お早めにお召し上がりください」くらいですよね
大北:そうなんです。「開封後はお早めにお召し上がりください」これくらい。でも開封しろとも食べろとも言ってない、開封したら、ですね。
安藤:「毎日の食卓に」とかか
大北:「(この商品は)毎日の食卓に(適しています)」こういう書き方が多いですよね。健康系の食品は毎日摂取してほしいだろうし書き方もそれに近いものがありましたね。
大北:「こんな小麦粉ほしかった」ちょっと変化球ではこういう私の声を代弁してくれるものも。「ほしかった」って。でも私の行動は促さない
安藤:腹いっぱい食べよう、みたいなのはないですね
大北:そうそう、ないんですよ
大北:唯一あったのでいうとこういうのかな。キャラクター化しているもの
安藤:これはキャラに言わせてますね
大北:食べ方を指定したいときにはありましたね。こうした「そのままでお召し上がりください」や「焼いてお召し上がりください」とかね。
安藤:それは食べかたに対する手ほどきであって、生き方に対してのアドバイスではないですよね
大北:そうなんですよね、私の生き方までは指定してない。イデオロギーっぽいものが見たいんですけどね。
安藤:そこまで踏み込まないのかな
大北:ダイソーもそうでしたけどプライベートブランドになるとその辺がちょっとゆるむんですよ。「~タイムにおすすめです」ちょっと範囲を狭めるとあるかもなと。食べ方に続いて。
安藤:ちょっと人の顔が見えますね
大北:本音を言うとどれも「毎日でも食べてね」ですよね
安藤:前に実家から送ってもらった餅に「年内に食べること」って書いてありましたが。母の顔が浮かびます
大北:行動を促すのは母的なおせっかいとも言えるかもしれませんね。
安藤:食べ方を限定されると心配されてる感がでます
大北:「白髪を目立たなく(しよう)」と僕は言われたいのに「しよう」は言わないんですよね。
安藤:「したほうがいいよ」とは書かない
大北:省略の美なのかな。
安藤:言い切らないのは逃げ道とも言えるかも。やりたければやればいし、あなたが嫌ならやらなくてもいいわよ、と
大北:言外のことを察してくれよという、これが日本文化だと思ったんですよ。安藤さんと見た海外の入浴剤にも「明日も笑って」がありましたし。
大北:で、もしかしたら輸入食料品店のカルディに行ったら世界が変わるかもと思ったんですよ
安藤:海外は遠慮のトーンが違うかもですね
大北:「私はリサイクルできます。リサイクルしてください!」こういうのはあったんですけど、食べろって書いてるのはないですね
安藤:リサイクラブルって単語あるのか。主語が缶だ。
大北:これ見て気づいたんです。「FOR」で始まるやつ。「一杯の良い紅茶に」って。そうなんです、「~に」文体は世界共通でした。
大北:ということでカルディでも全然なかったんですが唯一あったのはクリスマスを祝え系のやつ。陽気になれ、明るくなれと
安藤:こういうBEはちょっと圧力感じますね。祝えや、という
大北:メリークリスマスは命令形なんですかね
大北:そうそう、スーパーで唯一あったのはこれです。応募もの。
大北:応募しよう!とかはなんか思い当たりますよね
安藤:あるね。あたるかわからんけど、応募しよう
大北:そしてダイソーでも子供向け商品に書いてましたがヨドバシカメラのおもちゃ売り場に行ってきました。プラレールは「しよう」系がっつりあります
安藤:子どもには生き方を指南してもいい風潮なのか
安藤:指導的立場で
大北:シルバニアはちょっと控えめで物語内での指針を書いてるから子供に向けてではない
大北:人形をあなただと考えて遊園地に遊びに行こうと。ちょっと間接的というか複雑ですね。
安藤:そうですね、こちらに踏み込んで来てないですね。表現にゆとりをもたせるのって日本特有なのかな
大北:でも輸入食品見たらそうでもなかったですからね。
大北:ドリル「みんなでひらがなをかこう!」もありますね
大北:リカちゃんになると「ちゃお」文体が現れます
安藤:このちゃお、は「ちまおう」ですね
大北:デコっちまえ(笑)
大北:「遊びつくそう」これはけっこうぐっと踏み込んでますね。ドラえもん系のおもちゃ
大北:他には「遊んじゃおう」という文体もありますね。これは「遊んでしまおう」の短縮版かな
安藤:やはり子供向けに呼びかけが多いのか
大北:「つなげてみよ!」もありますね。これは心の声を書いてるのかな
安藤:こういう本部からの指令みたいな文体ありますね「君は今日から探偵だ!みたいな」
大北:あるある。
大北:ところがこのおもちゃ界隈も対象年齢が若すぎると現れないんですよね
大北:赤ちゃんは命令されないんですよ!
安藤:だって赤ちゃん言ってもわかんないから。「泣くな!」「遊べ!」とか書かれても困るでしょ。
安藤:「おしゃぶりをしゃぶりつくせ!」とか
大北:(笑)「君のハイハイを見せてみろ!」とかね
大北:でも1.5才以上のおもちゃは書いてある場合もある
安藤:早いですね
大北:「これなんて書いてあるの?」ってお父さんお母さんに聞くのかもしれませんね。『「にぎってみよう!」って書いてあるよ』と言われる
大北:同じおもちゃ売り場でも手品になると急に現れなくなるんですよね
安藤:「客をだませ!」とか書いてない
大北:手品みんなそういうことなんですけど書いてないですね。
大北:ぼくは「運命をあやつろう!」とか書いてほしいんですけどね。「よし、運命をあやつるぞ」とか思いたいんですよ
安藤:「あやつるかどうかはお任せします」「うまくできたらあやつれます」という逃げなんじゃないかな
大北:省略しているとしたら「(私はこれで)運命をあやつる!!(君もどうだ!)」これを読み取ってくれと
安藤:まわりくどいですね。
大北:さてここでコピーライターでもありデイリーのライターでもある小堀くんにちょっと聞いてみました。メッセージで、だから簡単にですけど
安藤:それは興味ありますね
大北:Web記事の話法と同じで、特に明確なルールが存在せず、なんとなくこういう言い方がいいよねってかたち作られていく文化なので、そんな考え方もあるのねってぐらいの認識でいてね、とのことなんですが…
大北:なんで行動を促す「毎日を湯たんぽで暖かくしよう」とかは書いてないの? と聞いてみたところ
あ〜面白いテーマですね。明確にルールがあるわけではないと思うのですが、例えば、こんな理由が考えられますかね
【短い言葉が強い】
店頭で商品が見てもらえるのは、数秒。
一文字でも短いものが選ばれる傾向があります。
湯たんぽで、暖かくしよう。
↓
湯たんぽで、暖かく。
それを逆手に取り、一周まわって堂々と伝えている名作コピーもありますね。
ただ、広告では許されても、PKG上でここまで言い切るのは
リスキーなのでどの会社もやらないのかなと思います。
安藤:PKGっていうのはパッケージですかね
大北:ということだそう。PKGとはパッケージのようで、卵かけご飯のことをTKGと呼ぶのはもしかしたらこっちの広告系の人から来てるのかもしれませんね(脱線ですが)
そして、【短い言葉が強い】【行動促す呼びかけはハードルが高い】
この2つをどちらもかえりみた結果、
となっているのではないでしょうか。
あとご指摘の通り、なぜか子ども向けの商品では許されていますね。
子供向けのお菓子を担当しているのですが、確かに煽る文体が多いなと思います。
ゲームなんかも、「君もこのバトルに参戦しよう!」みたいな言葉が使われがちですが、エンタメ性のある商材で、企業とお客さんで「お遊び」であることが握れている場合は使いやすいのかもしれません。
でも、「湯たんぽで、暖めろ!」って書いてあったら、それはそれで売れそうですね。
安藤:メリークリスマスもgood morningも前のi wish you aは言わないのが固定されてますね。言わないけどわかるでしょう、ということかな
大北:小堀くんの話にあった「下心を直接表すのはタブー視」これ言われてみればそうかと
安藤:たしかに。見え見えなんですけどね
大北:分かってるんですけどね(笑)
安藤:「買ってください」は言わない
大北:なので一回ぼくがヨーグルトメーカーになった気持ちでパッケージを作ってみました
安藤:うわ
大北:まあ値段次第では買いそうですけどね
安藤:ここまで言われると買わざるを得ない
大北:全広告会社あこがれのデザインと言えるのでは!
安藤:いやどうかなー…書きすぎると怪しいっていううがった見方もできる。なんでそこまで買わせようとするの、と
大北:こっちだと?
安藤:これは自然ですね。含みがない
大北:これくらいなら「まあそうだよな」「酪農家の安定生産のためにもなるしな」と買ってくれそうですよね
安藤:そうですね、さっきの「浴びるほど」って書いてあるのおかしくていいですけどね。どんだけ買わせる気か、となる。あまり書きすぎると面倒くさい危ない系の商品かなと思っちゃうし
大北:さて、さきほどの小堀くんに、「プレゼントに応募しよう!」とかキャラクター使ったもの、子供向けとかは「~しよう」があったんだけどどういうこと? と聞いてみました。
プレゼント企画も子ども向け商品と同じく、
商品と直接関係ないお楽しみ要素なので「しよう!」が解禁されてるのかもしれませんね
男梅もキャラクターが立ってるので、「食べてくれ!」と言い切ってくれると逆に気持ちいいですね。
(ちなみにノーベルのCMってほぼ全て同じフォーマットでできていて見比べると面白いですよ)
普段制作しているTVCMだと、プレゼント企画って、
だいたいCM の最後のぶら下がりの2秒とかに収める必要があるので、
「〇〇当たる!」って言い切る方が多いかなと思うのですが、
このあたりは作ってる人たちの好みですかね
安藤:「当たる!」って言いきると「はずれたじゃねえか!」ってクレーム来ないのかな
大北:たしかに「運が良ければ」が省略されてますよね。「書かなくてもわかるでしょ」は「書いたら馬鹿みたいでしょ」と表裏一体の関係なんじゃないですかね。「食べろ」とか
安藤:そうですね、知ってるわい、ばかにすんな、となる
安藤:家の洗顔フォームに「目を閉じてお使いください」って書いてあってそこまで書かないといけないのかと思った記憶があります
大北:それはいいですね。
大北:安藤さんも動画シリーズのむかない安藤で「パッケージにむけって書いてないからむかない」ってよく言ってますが、そうですよね。行動を指定する際は「バカにすんな」がつきまとう
大北:便座を上げて用を足してくださいとか探せばたくさんありそう
安藤:PL法?だっけな、書かなきゃいけなくなったんですよね。誰でもわかるように。
大北:>製造物の欠陥によって生じた損害に対して、製造業者等に損害賠償責任を負わせる法律 PL法の説明。
安藤:こんにゃくゼリーとか「噛んで飲み込んでください」って書いてますよ
大北:揉んで尻に敷く人とか出てくるから(笑)。
大北:人々の行動というのは簡単に指示できないのだなと。そこにあるのはプライドですかね
安藤:指示されると反発したくなるから。でも書かなきゃいけない。ジレンマですね
大北:人間は自由でいたいのだなとも。
大北:という広告の世界を覗き見た回でした
安藤:電車に脱毛サロンの広告あるけど、毛を処理した方がいい、とは書いてないもんな
▽デイリーポータルZトップへ | ||
▲デイリーポータルZトップへ | バックナンバーいちらんへ |