特集 2023年9月20日

東京国立博物館の愛くるしい埴輪(はにわ) ベスト3(選者:山田窓)

こんにちは、編集部 石川です。

隔週でお送りする「ベスト3を発表します」のコーナー。デイリーポータルZのライター陣に、何でもいいからベスト3を決めてもらうコーナーです。

今日は山田窓さん。「東京国立博物館の愛くるしい埴輪(はにわ) 」ベスト3を聞きました。

インターネットにラブとコメディを振りまく、たのしいよみものサイトです。

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山田窓さんが選ぶ「東京国立博物館の愛くるしい埴輪」ベスト3

――東京国立博物館、よく行かれるんですか?

山田:はい、好きです。通称トーハクっていうんですけど。

古いもの好きライターと紹介していただいてまして、記事ではバブルの町並みや60年代のビルなんかを古いものとして愛でるという感じのものが多いんですけど、もともと博物館にあるようなオーソドックスに古いものも好きなんです。

――どういうところが面白いですか?

山田:特に、人間だったりどうぶつだったりをかたどっているものが好きですね。

同じものを見ているはずなのに、時代や場所によって、あらわし方が全然違うのが面白くて。その最たるものがはにわ。

――東京国立博物館にはたくさん埴輪があるんですか?

山田:常設展示だけでめちゃくちゃ広いのですが、ちょっと奥まったところにある平成館の考古展示室というところが埴輪だらけで壮観です。

人や動物、器や家などさまざまな種類が展示されています(山田)

そこで、埴輪の魅力を知ってしまいました。

――埴輪ってそんなにいろんな種類があるんですね。

山田:そうなんですよ。一番有名な埴輪って、東京国立博物館にある‟踊る埴輪”だと思います。

「踊る人々」(6世紀、東京国立博物館蔵)これです(山田)
トーハクくんという公式マスコットキャラにもなってます(山田)

山田:あれってめちゃくちゃ無表情じゃないですか。

同じ大きさの丸い穴が3つあって顔!っていうミニマムさ。

――たしかに。

山田:だから埴輪=虚無ってイメージが強かったんですが、トーハクでたくさんの埴輪を見ていくうちに、すごく表情豊かで人間味があることに気づいて。

大量生産品なのに、個性的なんです。

――昔のことだから、大量生産っていっても結局手作りですもんね。

山田:そうなんです。作り手も上手すぎないからなのか、それぞれ違いがあって、愛くるしい。

それで好きになって。

あと、埴輪って大きな古墳、いわゆる前方後円墳なんかが作られた時代のものなんですが、同時代の文献資料がほとんど(まったく?)ないため、形・格好についての解釈がわかれているところも面白いです。

――へー、そうなんですね。

山田:例えば「踊る人々」はその名の通り、葬送の場での歌舞をあらわした埴輪ではないかと昔から言われています(今の博物館の解説もそうなっています)。

でも、最近はまったく異なる学説もあり、「馬飼(うまかい)」をあらわしているという説が有力視されてるそうです。

――それは文字通り、馬を飼っているという?

山田:そうです。同じように左手を上げた馬を引く埴輪がたくさん出てきて。

左手に馬をひくための手綱を持っているのではないかと言われてます

――なるほど、言われてみれば。

山田:そんな風に、解釈の余地があるところにロマンを感じます。

言い方はあれですけど、素人でも妄想する余地があるというか…。

そんなわけで、東京国立博物館に行ったら絶対見て欲しい、三つの埴輪を紹介させてください。

――選んだ基準としてはどんなところですか?

山田:デフォルメと解釈のせめぎ合いからくる、なんともいえない愛くるしさです。

埴輪を鑑賞してから、その埴輪のタイトル(資料名)を見ると、ギャップが大きいことがあって。

かわいい埴輪だな~、…え、まさかそれを表してたのか…言われてみると、そう見えるような…あー、だんだん見えてきた…!って感じで、一粒で二度おいしい(?)のが埴輪の魅力です。

「振分け髪の男子」温泉であたまに手拭いを乗せてリラックスしてる人かと思ったら、
お洒落なセンター分けの髪型でした(山田)

山田: 逆に、ああ、すごくシンプルな造形だけどたしかにそうとしか見えない…!みたいな埴輪もあって。その妙も楽しめます。

狩猟の場面を表現した「矢負いの猪」は、非常にストレートな表現です(山田)

――シンプルなのにちゃんと動物に見えるし、かわいいですね。ではランキング、第3位からお願いします!

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【第3位】

「鍬を担ぐ男子」(6世紀、群馬県伊勢崎市出土)

――いい顔。

山田: 見てください、この得意げな表情。エッヘンとしてるみたいで、博物館の解説にも「この愛らしい笑みを浮かべる男子」と書かれています。

耳飾りをつけ、鍬を担ぎ、腰に刀をさす男性像で、農民の代表者か、古墳づくりの関係者という説があるそうです。

――表情には意味があるんですか?

山田:埴輪にはときどき笑みを浮かべているものがあるのですが、嬉しさや楽しさの表現ではなく魔除けのための「あざ笑い」を表していると言われています。

「盾持人」は、盾を持ち笑みを浮かべることで、邪悪なものが古墳に近づくのを払う役割を持ちます(山田)
愛くるしい…!

山田:でも、この埴輪はどう見ても平和主義的です。ピースフルな世界観に生きていると思います。

こんなに親しみやすい文化財って珍しいですよね。

――それも解釈の余地ということでしょうか。

山田:そうですね。もしかしたら自分の感じている親しみやすさと全く別の価値観で作られてるかもしれない。この手が届きそうで届かない感じも魅力の一つだと思います。

――では、次は第2位お願いします!

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【第2位】

「片手を挙げる女子」(6世紀、群馬県伊勢崎市出土)

――一気に渋い表情に。

山田:3位の男子とはうってかわって、凛々しい表情がかっこいい女性です。

埴輪って不思議ちゃんだったり、かわいいだけではないんだ、ということを知らされた埴輪です。

すみません。愛くるしいランキングといいながら、埴輪の魅力はそれだけではないんだ、かっこいいんだと伝えたくてランキングにいれてしまいました。

――確かに。顔の彫りが深いですね。

山田:人物埴輪は何かの儀式に参加している場面をあらわしていることが多いのですが、この埴輪も儀式で踊っているか、カスタネットのような楽器を持っているかという説があるそうです。

なんにしろ、この引き締まった表情。自分の仕事に誇りを持っている職人気質な女性を想像してしまいます。(山田)
斜めからみても決まってる!立体的で彫刻としても完成度が高いです(山田)

――この凛々しい表情で踊ってると思うと面白いです。次はいよいよ1位お願いします!

⏩ 次ページは1位の発表!

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