求む!最強の挑戦者
たくさんの鳩よけを見ることで、いろいろな凶暴さがあることが分かって面白かった。
こういう記事を書くと、生活の楽しみが増えるからいい。いま最強の鳩よけは、最後に紹介した「駒込の長城」。これからも強そうな鳩よけを見つけては、勝手に戦わせて最強を更新していきたい。
【イラスト協力】
七星 海咲
千葉県の市川市にある、JR総武線の本八幡(もとやわた)という駅の近くに住んでいる。
駅前はほどよくにぎわっていて、東京の都心にも20分で出られる一方で、駅から少し離れると静かな住宅地になっていて、とても住みやすく気に入っている。
ただ、1つだけ違和感を感じていることがある。
この町の鳩よけが、凶暴すぎるのだ。
この町の鳩よけ凶暴すぎないかな?
僕がはじめてそう思ったのは、いつも利用している駅前の駐輪場でのこと。
この駐輪場はJRの線路の高架下にあることもあって、たしかに鳩は多く、正直その糞で汚くなっていることもある。なので、絶対に鳩を寄せつけないぞという強い気持ちは頼もしいしありがたい。
ただ一方で、その強い気持ちが鳩よけをここまで尖らせたことは面白くもある。見るたびに笑ってしまっていた。
このことに気づいて以来、鳩よけがあるとその戦闘力が気になるようになった。すると分かったのは、本八幡は凶暴な鳩よけだらけということだ。
ここでいったん、僕の中学時代の話をさせてください。
僕が通っていた中学校は、当時「県でいちばん荒れている」と言われていた。そしてその名にふさわしく、ベランダから鉄製の傘立てがふってきたり、不良グループがあき教室を占拠して、壁に赤いスプレーで大きく「死」と書いたりしていた。
そんな中学だったので、ときどき聞こえてきた声がある。
「今日の夜、となりの〇〇中とケンカしにいくぞ!!」
そう、とがった奴らは、となり町とケンカをして自分たちの強さを示したいのだ。
尖りまくった本八幡の鳩よけたちもきっとそう。となり町の奴らとバトルして、自分たちの強さを示したいはずだ。
しかし、それぞれの縄張りを離れることはできないのが鳩よけの宿命。ならば僕が、近くの町の鳩よけとどっちが凶暴か代わりに調べてきてあげよう。
わが町「本八幡」の鳩よけ最強伝説を証明するため、JRの総武線に沿って、それぞれの駅の強そうな鳩よけを探していくことにした。
まずやって来たのは、同じ市川市内の「市川駅」。
ローカルネタで恐縮だが、本八幡駅と市川駅の間には「どっちが市川市の中心か論争」が常にある。本八幡の方が駅前が栄えていて、市役所もある一方で、市川駅は総武線の各停だけでなく快速も停まるからだ。なのでここは絶対に負けられない。
バトルの相手となるような鳩よけを探して駅前を歩いていると、「カラオケまねきねこ」の猫が「ようこそ市川駅へ」とにこやかに招いてくれていた。
と思いきや、その左手をよく見ると、
まさかのメリケンサック!いくら猫パンチとはいえ、これで殴られるのは痛すぎる。
さらにこの「メリケンサック招き猫」、右腕や頭も、針のような鳩よけで武装されている。
そしておまけに、右手にはマイクに見せかけた釘バットまで持っていた。
市川市を制覇しようと乗りこんだのはこちらだが、武器ありだなんて聞いてない。
まともにやりあったら、ボコボコにされたうえに「本八幡は快速の停まらない田舎です」というタトゥーまで入れられそうだ。
ここは負けを認めておとなしく撤退しよう。
ちょっと歌いにきただけですよとカラオケに入り、相手を極力刺激しないよう、さだまさしを一曲だけ歌って帰ってきた。
まずは市川市の制覇をと思っていたが、メリケンサック招き猫によりいきなり夢をくだかれてしまった。
ならば今度は、反対側の船橋市に遠征しよう。その入り口となる「下総中山」は小さい駅なので、まずはここでオラオラいわせて自信を取り戻したい。
改札を抜けてロータリーに出ると、やはりここはそれほど大きな町ではないようだった。
よし、これならそんなに強い奴もいないだろう。楽勝だ!そう思って後ろを振り返ると、
現れたのはワイドモヒカンのガスト!
完全に油断していたので、思わず「うおっ」という声とともにのけぞってしまった。奇襲だ!小さい町には小さい町なりの闘い方があるということか。
鳩たちも、「あのガストには近づかない方がいいぜ」とあきらめているようだった。
たしかに、あのワイドモヒカンと鉄壁の守りににらまれていては、そう簡単に攻めこむことはできない。本八幡の名誉のためにはもう負けるわけにはいかないのだが、ここは引き下がるしかないのだろうか。
しかしその時、
一羽の鳩が飛びたち、ガストの軒先の赤いテントにとまった。鉄壁のガードがされているように見えたガストだったが、ここだけはトゲがなくがらあきだったのだ。
鳩がきちんとよけられていないのは、鳩よけとしては致命的。これは、われわれ本八幡の勝ちと言っていいだろう。
船橋市の入り口「下総中山」に勝利し、自信を取りもどすことができた本八幡。この勢いで、船橋市の本丸である「船橋駅」まで攻めあがろう。
しかしそこに待っていたのは、屋外のエスカレーターを鳩から徹底的にガードする「鳩よけ要塞(ようさい)」だった。
そしてひときわ目につくのが、この噴水のような形をしたもの。
周りのトゲたちのような強い攻撃性は感じないが、少ない素材で確実に持ち場をブロックしている。こういう鳩よけもあるのかと、素直に感心してしまった。
そして何より、このエレガントな見ためは、要塞のインテリアとしても絶妙に調和している。
だんだん「建もの探訪」のような紹介になってきてしまったが、無数のトゲと噴水鳩よけを組みあわせて、上から下までとにかくスキがない。まさに要塞だ。
そのスキのなさ、動画でもご覧ください。
ここまでスキのないガードを固めるには、相当なチームワークが必要なはず。
この船橋のトゲたちも、きっと最初は1本1本それぞれが町の荒くれ者として争いあっていたのだろう。そこに「伝説の総長」と呼ばれるような人が現れて、1つのチームにまとめあげたのだ。
個々でツッパリあっている本八幡では、この結束力には遠くおよばない。完敗だ。
本八幡の鳩よけたちの強さを証明してあげようと思い近くの町に乗りこんだが、結局勝てたのは下総中山だけ。市川市も船橋市も制することはできなかった。
「俺たち最強っしょ!」とイキがっていた本八幡の鳩よけたちだったが、しょせんは井の中の蛙だったということが分かってしまった。余計なことしてごめん。
しかしこの時、僕の心には火がついていた。もはや勝ちとか負けではなく、もっと強い奴が見たい、最凶の鳩よけが見たい。そんな「凶暴鳩よけハイ」になっていたのだ。
きっと東京には、強い奴らがゴロゴロいるに違いない。そいつらと闘いに、東京に殴りこみにいこう。
そう決意した矢先、1つのウワサを聞きつけた。
山手線の駒込駅に、とんでもない奴らがいるらしい。
ウワサを聞きつけてやってきた駒込。
大都会東京ということもあり、駅前からメンチをきられまくるかと思っていたが、降りてみると拍子抜けするぐらいにのんびりとした雰囲気だ。
待っていたのは、これまで見たことがない鋭さの鳩よけたち。
君たちは「不良」とか「ヤンキー」のカテゴリーにはおさまらないんじゃないかな?と感じるような、圧倒的な本物感がある凶暴さだ。
そして何よりヤバいのは、この最恐の鳩よけ、見わたすかぎり延々とつづいているのだ。
結局この鳩よけは、駒込駅を中心に、東は田端の近く、西は巣鴨をこえたところまで、2km近くにわたって延びていた。
この長さ、もはや「鳩よけの長城」だ。こっちはタイマン(1対1)のつもりで乗りこんだのに、軍勢レベルの尖ったナイフたちに袋だたきにされてしまった。
でもこれこそが、「凶暴鳩よけハイ」になっていた僕が求めていたもの。お前たちが最強の鳩よけだ!
たくさんの鳩よけを見ることで、いろいろな凶暴さがあることが分かって面白かった。
こういう記事を書くと、生活の楽しみが増えるからいい。いま最強の鳩よけは、最後に紹介した「駒込の長城」。これからも強そうな鳩よけを見つけては、勝手に戦わせて最強を更新していきたい。
【イラスト協力】
七星 海咲
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