高い店の安いもの 2024年12月30日

銀座久兵衛に太巻きの答えがあるのかもしれない

かもしれない

寿司が好きだ。でも太巻きはそこまで好きではない。

あれば食べるけど、金を出してまで「太巻きが食べたい!」と思ったことは1度もない。

ただそんな私の “太巻き観” も、銀座久兵衛の太巻きならば変わるのでは……?
 

若い若いと言われつつも、初老に片足を突っ込みました。老眼も始まってます。たぶん人生折り返してるので、これからは好きなことだけして生きていきたい。
娘・ポケモンGO・旅行・千葉ロッテ・プロレス・スターウォーズ・食べることを愛する在日韓国人です。


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限界がある

幼い頃から太巻きを好まなかった理由が1つだけある。

ピンク色のでんぶがイヤだったのだ。

幼心に「あの蛍光色はおかしい」と感じていた私は、自然と太巻きを遠ざけ生きてきた。

それでも大人になりでんぶを克服。好きではないが太巻きを食べられるようになった。

一方で、早い段階から太巻きに限界を感じていたことも事実。これって60点満点くらいの食べ物なのでは……?

今でもでんぶは得意じゃない

太巻きはどれを食べても同じような味で、海鮮や肉を使用しない以上、具で上積みは期待できない。

それでも──。

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久兵衛に賭けたい

キング・オブ・寿司屋との呼び声も高い、銀座久兵衛の太巻きならばどうだろう?

スシローなどのチェーン店を除けば、日本で……いや、世界で最も有名な寿司店、銀座久兵衛。

もちろん行ったことは無いけれど、太巻きですらもメチャメチャ美味しいに違いない。

逆に久兵衛でダメならば、今後の私の人生において太巻きが表舞台に立つことは無いだろう。

凛とした佇まい

しかも銀座久兵衛では太巻きがテイクアウトで購入できる。※前日までに要電話予約

3780円ならギリギリ手が届かないことも無い価格だ。

太巻きへの手切れ金だと思えば、むしろ妥当な金額なのかもしれない。

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テイクアウトで初久兵衛

というわけで、銀座久兵衛へ。

銀座にはちょいちょい来るけれど、銀座のどこに久兵衛があるのかさえ知らない。

そして辿り着いた久兵衛は、新橋寄りの銀座にあった。

店頭で太巻きを取りに来た旨を伝えると、そのまま店内へ通されしばし待つ。

店にいたのは太巻きを待つ間の2~3分だったけど、それでも超高級店の雰囲気がヒシヒシと伝わって来た。

お客さんが注文した熱燗を「お銚子」でオーダーを通すところが妙に高級店っぽい。

ちなみに「銀座久兵衛」の紙袋を持って歩く銀座は、いつもよりちょっぴり嬉し恥ずかしな気分だった。

ドリカムを思い出した
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食べてみた……が

さてさて。持ち帰った太巻きは、標準より小ぶりでも大ぶりでもない、まさに太巻きサイズ。

さっそく開封してみると、太巻きは10切れにカットされていた。

また見たところ具は、穴子・えび・きゅうり・しいたけ・たまご焼きの5種類。

穴子とエビは確かに高級食材だけれど、久兵衛のイメージからすると思ったよりもシンプルな印象だ。

意外とクラシック

これが久兵衛の太巻きか……! さっそく厳かな気持ちで1つ食べてみたところ、正直に言って「普通の太巻き」としか思えなかった。

もちろん美味しいのは美味しいが、目の前にあるのはあの銀座久兵衛の太巻き。

であるならば、食べた瞬間に「フォォォオオオ!」となりたかった気がしなくもない。

そうか、久兵衛でも太巻きはこんなもんか。やはり太巻きという料理自体に限界があるのだろう。お疲れ様でした。

リアクションが取りづらい

ところが……。

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こんなハズじゃ

5分後には目の前の太巻きが全て無くなっていた。あれよあれよという間に、気付けば完食していたのだ。

1つ食べ終えるごとに、自然と太巻きに導かれる手。味見のつもりだったハズが、なぜこんなことに……?

繰り返しになるが、私は太巻きがそこまで好きではない。

味として最初に来るのはタマゴや穴子、しいたけのの甘さ。同時に食感要員として、えび・きゅうり・しいたけが機能し始める。

最期を締めくくるのが穴子の風味で、これが酢メシの風味と相まってメチャメチャ後を引く。食べ終わりの余韻は完全に穴子寿司だ。

ただし穴子はフィニッシャーであって、そこまでのチームプレイが素晴らしい。ここで気付いたが、久兵衛の太巻きはいわゆる「プラスの料理」なのだろう。

絶妙なコンビネーション
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プラスマイナス

一般的に和食は「マイナスの料理」とされており、最低限の品数で素材の風味を引き出すことに長けている。ネタ + 酢メシで完成する握り寿司はその最たる例だ。

ところが世界を見渡すと「プラスの料理」の方が圧倒的に多い。

例えば最もポピュラーなフレンチのソース「ソースブールブラン」には、エシャロット・白ワイン・酢・レモン・バター・生クリーム・塩・胡椒……などが使用されている。

素材を足して足して足し算で複雑な旨味を作り上げるプラスの料理は、本来なら銀座久兵衛と対極にある存在。ところがどっこい、太巻きに関しては完全にプラスの料理だった。

具の数はもちろん、たまご焼きやしいたけの煮物に使用される調味料の数は、少なくとも10種類以上。ネタと酢メシで完結する握り寿司のことを思えば、異例の品数である。

それでいて見境なく具材を増やさないところに、久兵衛のエレガントさとプライドを感じなくもない。久兵衛の太巻きの具材たちは、選び抜かれた精鋭たちなのだろう。

パッケージもエレガントな気がして来た

答えなのかもしれない

結果的に久兵衛の太巻きは「トータルで信じられないほど美味しかった」と申し上げるしかない。

派手さこそ無いものの、全ての具材が見事なバランスで織りなす味わいは、まさに太巻きのオーケストラ。

当初は普通かと思いきや、気付けば太巻きのラビリンスにまんまと引きずり込まれていた。

普通に考えて、3780円の太巻きは確かに高い。正直、この先自腹で購入するかはわからない。

ただ久兵衛の太巻きには、90年近い歴史と日本最高峰の技術力で導き出された「太巻きの答え」があるのではないだろうか?

たかだか海苔と酢メシの巻物でここまで思わせる銀座久兵衛の太巻きは、やはりタダ者ではなかった。 

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