カメラにも怖がられた
遅れて来る人の撮影は三脚を使って一人でやっていたのだけど『歩きから突然全力疾走』を撮っている途中でカメラのバッテリーがなくなった。


携帯の充電器があったので撮影に支障はなかったのだけど、待っていたカメラが呆れて帰っちゃったような感じがして悲しかった。
待ち合わせに遅れた相手が走ってこちらに来るまでの時間。あの時間が妙だ。
遠くにいる相手をじっと見ながら、そんなに走らなくてもいいよとも思うし、遅れてきたんだら急いで欲しいとも思う。とにかくどんな顔したらいいか分からないなとか考えているうちに相手が来て、結局「おおぉ」「ごめっ」「いやぁ」みたいな文字で表しにくい中途半端なやり取りをするのだ。
あの妙な時間が気になる。あれは、遅れて来る方の『向かって来かた』を変えるとどんな変化をするのだろうか。
まず通常のパターンをおさらいしておこう。
画像を7枚も使ってしまった。この、人が遠くからだんだん近づいてくるのを見守る時間が妙だと思うのだ。感情がどこにも振り切れないまま、ただじっと見つめるしかない。頭が働かない。突然電源のコードを引っこ抜かれた感覚になるのだ。これは暮らしに現れたバグである。
動画だとよりリアルにあの感覚を味わえます。
では遅刻した人の向かって来かたを変えると、待っている方の不思議な感覚も変化するのだろうか。やってみよう。今見た普通のパターンを含め、パターン8まで紹介します。
パターン1のような感じで色々な遅れてくる人を撮影し、後日デイリーポータルZ編集部の皆さんからコメントをもらった。ここからは画像ともに、皆さんのコメントを載せていきます。
パターン2は『歩いてくる』だった。姿を確認してからこちらに来るまで1分近くかかっている。走るべきところを走らない、という、明確なずれがあるからか、最初にあった不思議な感覚はなくなり「走れ」というメッセージを形を変えて飛ばし合う時間になった。
待っている方が複数人いればこれで解消できるが、一人だったらこの「走れ」という気持ちを抱え込む一方になるのでさぞモヤモヤするだろうなと思う。
動画だとよりモヤモヤします。
「なんで走んないんだろうって考えたら怖くなってきた」という感想ももらった。遠くにいて表情が読み取りづらい分、体の動きで感情を伝えてほしいのだ。僕は今まで、小走りしたってかかる時間は大して変わらないよなーとか思っていたが、あれは待ってる人への「ごめん…!」というメッセージだったのだ。それが歩いて来る人を見てよく分かった。
待ち合わせの所作とは、お互いの気持ちを思いやるコミュニケーションなのだ。
次は雰囲気をお伝えするために全編アニメーションにしてみよう。
そう、パターン3は『全力疾走』だ。大人になってからほとんどしないし見なくもなった『全力で走る』という行為。おかしな迫力がある。
動画です。
びっくりして落ち着いた後にこんな感想ももらった。
やはりこれもメッセージだ、と思った。どんなに急いでも遅刻という事実は動かせない以上、優先するべきはスピードではなく、待っている人間の気持ちを思いやるという心なのだ。そしてその思いやりを体で表現すると「小走り」になるのだ。なんだかおかしなことだが、僕らの生きているのはそういう世界なのだ。
パターン4は『歩きから全力疾走』だった。
動画です。
歩いて来た人がこちらに気づいて小走り、というシーンはよく見られるが、それが全力疾走だとすごく怖かった。「逃げなきゃ…!」と思う。待ち合わせなのに。
皆さんからはこんな感想があった。
もう遅刻したことへの謝罪を、とかそういう話じゃなくなってる。動物を見た感想である。動きが怖いし、何より話が通じなさそうな雰囲気が怖い。やはり待ち合わせとはコミュニケーションなのだ。冒頭で出た結論を繰り返し噛み締めている。
色々分かってきた感触があるが、とりあえず一通り見てみよう。
パターン5は『凧揚げしながら来る』だ。この人が凧を揚げてる意図はよく分からないが、どうせ走るなら凧でも揚げとこう、という感じなんだろうか。そんな意図が想像される。
凧揚げしやすい気候でした。
このパターンは、動画を見た直後は「一切反省がない」「待ってる人のためだけに走ってほしい」など厳しい意見が出たが、色々話しているうちに「愉快なやつと待ち合わせたな」「なんかめでたい」など、どうも憎めないなという方面に気持ちが落ち着いた。
どうせ遅れて来るならほのぼのした話題を持って行こう、という風に遅れた人の感情を推測すると確かに憎めない。そして「遠くから何か持って来るな…」から「凧だ!」と気が付く瞬間がなんか楽しかった。そんな色々な要素が相まって「しょうがないやつだな〜」という気持ちに落ち着いたのだろう。
そしてもう一つ、意外に悪くないなという感想に落ち着いたのがこちらだった。
『お詫びの品を差し出しながら来る』だった。「それを用意する時間があるなら急いで来なよ」と思うが、そんなレベルじゃない大遅刻だった場合にはこういう用意があってもいい。あんまり大遅刻して来る人を遠くから見る、っていうシチュエーションが無いですが。
パターン7もサクッと紹介しよう。
これは『謝る前に逆に感想を求めてくる』というパターン。当たり前だが、待っていた方はイライラする。「ドッキリでしたってこと?」「でもドッキリっていうほどのことも起きてないし…」「全てがモヤモヤする」と皆さん戸惑っていた。
待たせた上に戸惑わせちゃダメだ。
そして最後に、同じく戸惑わせてしまったパターン8をじっくり紹介して終わろう。
パターン8は『般若のお面つけて来る』だった。
動画で、じわじわと般若を認識してください
パターン1(普通のやつ)で感じていた違和感を、そのまま恐怖に転化したという感じがする。人が遠くから来てなんか変な感じだなー、居心地悪いなーとか思っていたらその正体が般若だったのだ。しかもそれにじわじわ気がつく。待ち合わせのあの妙な時間は恐怖と相性が良かった。
一通り見た後みんなで振り返った。まとめるとこんな感じである。
やはり、凧揚げは嫌じゃなかったね、という意見でまとまった。「遅刻」という条件があり感情がプラスに働きにくい中、しかも謝る意思を前面に出さずに、嫌じゃないと思わせたのはすごい。ほのぼのさの勝利だ。
もう一つ、このシチュエーションって恐怖とすごく相性がいいことに気がついた。そういえば「待つ」ってすごく無防備なことなのだ。相手や用件によっては、相手がいつ、どこから来るかわからないじっとりした緊張の中に絶えず晒されることになる。
僕がそもそも感じていた待ち合わせの妙な感覚も、表情が読み取れない遠くの人間と、うまくコミュニケーションが取れないという恐怖だったのかもしれない。だったら今度から、今までよりもっと大きく手を振って「遅れてごめん」「全然大丈夫だよ」というメッセージを伝え合おう。体を使ってコミュニケーションを取るのだ。
色々やったが「大きく手を振ろう」という決意でこの記事を終わろう。
遅れて来る人の撮影は三脚を使って一人でやっていたのだけど『歩きから突然全力疾走』を撮っている途中でカメラのバッテリーがなくなった。
携帯の充電器があったので撮影に支障はなかったのだけど、待っていたカメラが呆れて帰っちゃったような感じがして悲しかった。
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