廃墟か? 謎の階段
横浜駅東口の道路上に、誰も通らない謎の階段があるという。
投稿をもとに横浜駅東口に行ってみると、ルミネなどが入居する駅ビルとそごう横浜店を結ぶ歩道橋から、それらしき階段を見ることができた。
人の気配のない階段がぽつりと
道路に囲まれている
どこにつながっているのか。それとも封印でもされている?
上には首都高速横羽線の高架が走り、日中でも薄暗い。国道1号線の上下線にはさまれる形で、階段とガードレールに囲まれたエリアだけが孤立している。道路は車が高速で行き交い、徒歩で渡るのはまず不可能。なんだか廃墟のようでもあり、工事途中で放置された階段のようにも見えるが、誰が何のためにつくったのだろうか。
地図をよく見ると、地下には横浜ポルタの地下街が広がっているあたりで、投稿の通り何か関係がありそう。
ポルタとの関係は?
ポルタ運営会社の横浜新都市センター株式会社に事情を伺うと、「確かにポルタの非常階段です」との回答をいただいた。さらに詳しく話を聞いてみる。
同社総務部の江成健(えなり・けん)さんと防災保安担当の蔦木健太郎(つたき・けんたろう)さんによれば、1980(昭和55)年のポルタの開業に合わせて作られたもので、緊急時にはこの階段を使って地上に避難できるという。
ポルタのフロアから駐車場に向かう階段の近くに、この非常階段の入口がある。もちろん普段は鍵をかけて封鎖されている。
奥に見える扉が階段につながる非常口の扉
件の非常階段は「U階段」と名付けられている
同様の非常階段はほかに3箇所あり、やはり地上に出口がある。しかしほかの非常階段が横浜駅側に設置されているのに対し、出口が道路のど真ん中にあるのはこのU階段だけだ。
ポルタのフロアマップで、地上への非常階段の場所は非常口のマークで示されている
バスやタクシーの降車場近くの分離帯の上に2箇所
地上から見た様子。高いフェンスで囲まれている
国道1号上り線沿いにも1箇所作られている
地下の扉。いずれの階段も扉1枚隔てて地下街とつながっている
なぜU階段だけ道路の中間に設けることになったか不思議だが、江成さんや蔦木さんも詳しい理由は分からなかったとのこと。とはいえ、「当時の法律や安全基準を満たすように設置しています」と蔦木さんは説明してくれた。
非常階段の役割
非常階段ということで、ポルタの来場者が地上に避難するための階段であるが、ポルタ側としては極めて重大な災害で使われることを想定しているという。
「災害が発生しても、まずは非常口を使わなくても地下街の通路を通って外に避難できる設計になっています。ただし、大規模火災が発生し、煙で通路が遮断されるなどして避難が困難になった時に、扉を開けて地上に避難することを想定しています」と蔦木さん。
4箇所ある非常階段を使わなければならないのは本当に危機が迫っている状況に限られるようだ。緊急時に備え、錠のカバーを外せば簡単な操作で解錠できるようになってはいるが、もちろんみだりにカバーを外したりすれば防災センターで警報が鳴るのでイタズラは絶対ダメ。
イタズラ厳禁!
ポルタは毎日平均17万人の人が利用するという横浜有数の地下街。安全のために二重三重の防災体制が敷かれており、謎の非常階段もその一翼を担っていた。
実際に歩いてみた
今回、特別に許可をいただいて、非常階段から地上に出ることができた。
写真撮影はNGとのことだが、扉の向こうへ
階段を二十段ほど進むと、国道1号線の上下線に挟まれた地上部に出る。階段は万が一に備えて防災センターに勤める人の手で定期的に清掃やメンテナンスがなされていて、照明も点いており歩きやすい。道路に挟まれた避難スペースは外から眺めた印象よりも広く、数百人くらいは滞留できそうだ。
細長く広がる避難スペース
首都高横羽線の出入口付近まで広がっている
ただ前述のように非常に道路の交通量が多いため、「ここから移動するには警察や消防と協力して、避難者を誘導することになると思います」と江成さんは説明してくれた。
開業から38年、大きな事故や災害に見舞われることなく営業してきたポルタに備えられた非常階段。一見何のためにあるのか分からない謎の階段だったが、これが役に立つ日が今後も来ないことを祈りたい。
ある意味、使われないことに意義がある階段だ
取材を終えて
筆者は最初にこの階段を見たとき、
トマソンのようなシュールさを感じたが、ポルタを訪れる人々の生命を守る重要な役割を担っていることが分かった。
横浜駅の喧騒の中でひっそりとたたずむ4つの非常階段。38年間無言で「万が一」に備えてきたその姿に、頼もしさすら覚える取材だった。
―終わり―