特集 2018年2月19日

100グラム50円以下のうまくて安い肉!

素敵な肉と出逢いました。
素敵な肉と出逢いました。
最近になってその存在に気が付いたのだが、100グラムあたり50円以下の安くてうまい豚肉があったのだ。

しかもタイプの違う肉が、2種類である。
趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

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肉屋で気になる存在を発見!

いろんな部位が売られている大きめのお肉屋さんで、ちょっと気になる肉を見つけた。

豚の『タン下』である。
キロ単位で肉を買う時に、よくお世話になっているお肉屋さん。
キロ単位で肉を買う時に、よくお世話になっているお肉屋さん。
焼肉屋のタンには『上タン』と『並タン』のヒエラルキーが存在するけど、下という表記は初めてだ。

そのお値段、なんと100グラム45円である。豚肉とはいえ、かなりのお値打ち品だ。
どんな肉なのか全然わからないけど、とにかく安い!
どんな肉なのか全然わからないけど、とにかく安い!
気になったので店員さんに聞いてみると、顎とタンを繋ぐ筋肉とのこと。タンの下の肉か。

ランクの問題ではなく、物理的な位置としてのタン下だった。言い換えれば、シタのシタの肉である。
これが豚のタン。この右側にある付け根部分の下のお肉らしい。
これが豚のタン。この右側にある付け根部分の下のお肉らしい。
牛タンの半値以下である豚タン、さらにその半値以下とは、ずいぶんとお買い得じゃないかということで、試しに500グラムほど購入してみた。

これが豚のタン下か

さっそく家に帰ってタン下とやらを確認してみると、ゴロンゴロンとした塊肉が6~7個入っていた。

赤身を覆うように程よく脂肪がついている。これ、すごくうまい肉なんじゃないだろうか。
写真の色味がおかしいですが、実物はもっと美味しそうです。。
写真の色味がおかしいですが、実物はもっと美味しそうです。。
まずは素材の味を確かめようと、適当な大きさに切ってフライパンで焼き、塩、胡椒だけで食べてみることにした。

包丁を入れてみると、肉質は安い割にかなり柔かく、形がボコボコなので薄切りには向かないタイプだ。ならば食べごたえのある大きさに切ってみようか。
焦げ目がしっかりとつくように、あまり動かさずに焼く。
焦げ目がしっかりとつくように、あまり動かさずに焼く。
焼き上がったところで、ちょろっと醤油を一回し。

にじみ出た油と共に、オン・ザ・ライス。
タマネギくらい入れればよかった。
タマネギくらい入れればよかった。
ご飯と一緒に頬張ってみると、存在感抜群のタン下がうまい。肉の味が濃いぞ。

舌の付け根というよく動くであろう部位だけあって、噛んだ時の弾力が嬉しい。かといって硬いという訳ではなく、この大きさでも楽々と噛みきれる気持ちの良い歯ごたえだ。

肉の味はロースやモモに比べると、少し獣っぽい感じがあり(血の味が濃い)、私としてはそれが好ましい。場所が似ているというのもあるが、カシラ(ホホやコメカミ)に近い味かな。

この味と弾力であの値段である。こりゃ買ってよかったな。

ポークカレーにはタン下が最高かもしれない

ただ焼いただけでこれだけうまいんだから、もう少し料理らしくしてやれば、さらに化けるのではないだろうか。

豚の塊肉といったら、やっぱりカレーだろう。よし、食べ慣れた普通のやつを作ってみよう。
普通のカレーを作ります。肉と野菜を炒める。
普通のカレーを作ります。肉と野菜を炒める。
水を加えて20分ほど煮込んで、普通のカレールーを入れる。
水を加えて20分ほど煮込んで、普通のカレールーを入れる。
ジャガイモを入れ忘れた以外、ごく普通のカレーである。

ただし、いつもよりも肉が少し多い。なぜなら安い肉だから。火を通したら縮んだので、もっと多くてもよかったか。
肉がゴロゴロと入ったカレーのできあがり。
肉がゴロゴロと入ったカレーのできあがり。
調理時間30分で作ったカレーだが、たっぷりと入れたタン下の旨味がしっかりと出ていて、とてもおいしいカレーとなった。普通だけど、いつもよりちょっとうまいというやつだ。

なんといっても程よい歯ごたえの肉がうまい。今後、我が家のポークカレーの肉は、すべてタン下でいい気がする。肉の味が濃すぎてホワイトシチューには合わないかな。

唐揚げにしてもうまいのでは?

焼いても煮てもうまいタン下、では揚げたらどうだろう。

カチカチに硬くなっちゃいそうな気もするが、もしかしたら更なる可能性を見せてくれるかもしれない。

肉の形的に、トンカツよりは唐揚げだろうか。
ちょっと小さめに切って、塩麹、醤油を揉みこんで一晩寝かす。
ちょっと小さめに切って、塩麹、醤油を揉みこんで一晩寝かす。
しっかりと下味をつけたタン下に片栗粉をまぶし、160度で揚げてみる。

そういえば鶏肉ではなく豚肉を唐揚げにするのは、人生初かもしれない。いろんな人生初があるもんだ。
途中で一度取出して、予熱で中まで火を通してから、二度揚げでフィニッシュ。
途中で一度取出して、予熱で中まで火を通してから、二度揚げでフィニッシュ。
うん、うまそうな唐揚げだ。
うん、うまそうな唐揚げだ。
食べてみて驚いたのだが、この肉は揚げてもそんなに硬くならないようだ。揚げ物との相性良しである。酢豚とかいいかも。

それなりに肉が硬くならないように注意はしたものの、私の努力を上回る結果といえよう。こりゃうまい。
ほら、ジューシーでうまそうでしょう。
ほら、ジューシーでうまそうでしょう。
タン下、安いけどうまいぞとインプット。

また一つ、生きるための知恵がついた。
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豚バラ先軟骨も安い

続いてもう一つ、これまた安い豚肉を紹介したい。沖縄そばの作り方を習った時に(この記事)その存在を知った、『豚バラ先軟骨』という部位である。

こちらはなんと100グラム38円だ。豚ガラ(ダシ用の骨)よりちょっと高いくらいである。
私の行く肉屋だと1キロ強の塊が最少ロットだ。
私の行く肉屋だと1キロ強の塊が最少ロットだ。
豚バラ先軟骨とは、沖縄そばだと軟骨ソーキと呼ばれている部位。肋骨の先っぽ、スペアリブ(骨付きバラ肉)から切り落とされた部分らしい。

茨城の友人が買った店では『パイカ』という名前で呼ばれているそうで、青森県の三沢ではパイカを使った料理が名物になっているとか。
パイ力(りょく)かと思ったら、パイカだそうです。初めて聞く単語だ。
パイ力(りょく)かと思ったら、パイカだそうです。初めて聞く単語だ。
骨が硬いスペアリブと違って、この部位は軟骨なので長時間煮込めば全てが食べられる。それなにスペアリブの半額以下という謎の値段設定。

沖縄そばの出汁として、そして具として、マルチに優秀だったので、もっといろんな料理に使えると思うんだ。

場所によって軟骨の硬さが違うっぽい

豚バラ先軟骨を解凍すると、恐竜の歯みたいな形をしていた。ちょっと怖い。
この量で440円ってどういうことだ。
この量で440円ってどういうことだ。
怖い。ほぼ歯だ。
怖い。ほぼ歯だ。
怯まずに広げて確認すると、歯のように埋まっている軟骨の硬さが、左右で違うことに気が付いた。

どうやら頭側の軟骨は硬く(太く)、お尻側は柔らかい(細い)ようだ。この差を料理によって使い分けることで、さらに利用価値が上がるかもしれない。
硬さを揃えるべく、全部を3等分してから使ってみよう。
硬さを揃えるべく、全部を3等分してから使ってみよう。

柔かい軟骨なら焼くだけで食べられる?

まずは実験から。豚バラ先軟骨の尻側だけを焼いて、そのまま食べてみることにした。

柔かい側の軟骨なら、意外と丸ごといけるのではという淡い期待を胸にじっくりと焼く。
丸ごとは無理だろうなというのは焼いていてわかるのだが、もしかしたらいけるかも。
丸ごとは無理だろうなというのは焼いていてわかるのだが、もしかしたらいけるかも。
恐る恐る齧ってみたが、現代人の噛む力で食べられる硬さではなかった。無理をしたら、こっちの顎が砕けそうだ。
かったい!
かったい!
だめだ、焼いただけだとスペアリブと大して変わらないようである。

ただスペアリブみたいなものなので、肉の部分はとてもうまい。うまい肉はやはり骨のキワだな。

ただし骨が多くて食べにくい。スペアリブのように豪快に骨から肉をむしり取るとはいかないのだ。安い理由はこのあたりかな。

やっぱり煮込んでこそだろうか

焼いただけで丸ごと食べるのは無理と判断し、そのままカレー作りに移行。

作り方はだいたいタン下と一緒だが、煮込む時間を1時間と長めにした。柔らかい側の軟骨なら、これくらい煮れば食べられるはずだ。
肉と野菜を焼く。エリンギを入れてみました。
肉と野菜を焼く。エリンギを入れてみました。
煮詰まりすぎないように気を付けつつ、1時間煮込んでルーを溶かしたらできあがり。
煮詰まりすぎないように気を付けつつ、1時間煮込んでルーを溶かしたらできあがり。
さっそく食べてみると、目論み通りの軟骨がまるごと食べられるカレーとなった。うん、全然大丈夫だ。

ケンタッキーのフライドチキンを骨のギリギリまで攻める人、あるいは居酒屋で鶏の軟骨揚げを頼む人なら、喜んで食べるであろう歯ごたえである。
ボリューム満点のカレーになったよ。
ボリューム満点のカレーになったよ。
もちろん肉の部分はトロリと柔らかく、この歯ごたえのコントラストが楽しいのだ。

軟骨の成分がカルシウムなのかタンパク質なのかゼラチン質なのかはよくわからないが、なんにせよ私に足りていない成分だと思われる。
ザクッと噛みきれる程度の硬さ。
ザクッと噛みきれる程度の硬さ。
この硬さ、小二だったら泣くだろうが、中二だったら狂喜するはず。

骨付き肉には、冒険を感じさせてくれる良さがある。

揚げたら丸ごといけるかな

タン下とまるっきり同じ流れで恐縮だが、焼く、煮ると試したら、次はやっぱり揚げるしかないだろう。

軟骨が一番柔らかい部分だったら、魚のアジやカサゴみたいに、二度揚げすれば骨ごといけるかもしれない。
デジャブーを感じながらの下ごしらえ。
デジャブーを感じながらの下ごしらえ。
ジョワー。火が通りやすいように小さめにカットした。
ジョワー。火が通りやすいように小さめにカットした。
二度揚げしたらできあがり。
二度揚げしたらできあがり。
やっぱり硬いかなーと思いながら食べてみると、歯が丈夫な人であれば、ほぼ問題なくいけるというレベルの硬さだった。

軟骨が柔かい部分なら、二度揚げすれば全部いける!ただし保証はしない!
たまにすごく硬い部分がガキっとなるけど、おおむねいける!
たまにすごく硬い部分がガキっとなるけど、おおむねいける!
食べていると顎がそれなりに疲れるが、この歯ごたえが私には嬉しい。肉の部分はもちろんうまい。

もし育ちざかりの男子学生に料理を作る寮母さんに生まれ変わったら、唐揚げはこの豚バラ先軟骨しか出さないだろう。きっと人気メニューだ。

「いや硬いよ!」という人は、骨だけプイっとだせばいいのだ。
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硬い側を3時間煮てみる

軟骨が柔かい部分を使い切ったので、続いては硬い側を料理しよう。あまり難しく考えず、ごく弱火で3時間くらい煮てみようか。

もちろん圧力鍋を使えば、もっと短時間でいけるとは思うのだが、なんだか弱火でじっくりが似合う気がする。柔かくなりすぎてもつまらないしね。
大根と煮てみましょうか。
大根と煮てみましょうか。
アクをとったらフタをして弱火で3時間。
アクをとったらフタをして弱火で3時間。
味付けは塩と胡椒だけでいいだろう。まずスープを飲んでみると、これがめっぽううまい。

肉と骨のいいとこどりという味の良さ。クセがまるで無く、上品なんだけど力強い。肉だけとも、骨だけとも違うこのダシを使って、おでんや鍋をやってみたい。
スープも具もうまいのよ。
スープも具もうまいのよ。
さて肝心の豚バラ先軟骨だが、余裕で全部いける柔かさだ。ただこのように薄味で食べると、軟骨自体はそんなにうまいものではないという気もする。歯ごたえだけで味がないのだ。

もちろん肉部分はホロホロでうまい。でも味の染みた大根が優勝かな。
汁がうまいのでにゅうめんにしてみた。そりゃもううまい。
汁がうまいのでにゅうめんにしてみた。そりゃもううまい。

炊飯器調理との相性を確認しよう

まだ硬い側の豚バラ先軟骨が余っているので、最後にもう一品試してみよう。みんな大好きな炊飯器調理である。それにしても、なぜ人(私含む)は炊飯器で米以外を炊きたがるのか。

下茹でをしてからタレで煮込むべきか迷ったが、いきなり味を染み込ませてみることにした。
肉500、酒400、醤油100、砂糖50グラムにネギ、ニンニク、ショウガを適当に。
肉500、酒400、醤油100、砂糖50グラムにネギ、ニンニク、ショウガを適当に。
落とし蓋としてアクとりシートをかぶせて、炊飯のスイッチをオン。

炊きあがったら、そのまま2時間保温。さてどうなったかな。
炊飯器調理だとアクをとる作業ができないので、アクとりシートを使うといい気がする。
炊飯器調理だとアクをとる作業ができないので、アクとりシートを使うといい気がする。
この炊飯器でいきなり煮込んだ煮豚的なもの、うまいことはうまいのだが、まだちょっと軟骨が固いし、味が濃すぎたかな。

こういう郷土料理だよと言われて出されれば、なるほどこういうもんかと食べるけど、まだ正解ではないかなという感じ。
ちょっとしょっぱかったか。これだとご飯や焼酎が進み過ぎる。
ちょっとしょっぱかったか。これだとご飯や焼酎が進み過ぎる。
もし次にやるとしたら、まず水と酒だけで豚バラ先軟骨を炊飯して、その煮汁と調味料でタレを作って、さらなる炊飯で煮込めばきっとバッチリ。あるいはタレに漬けて保温という手もあるか。

豚バラ先軟骨、その硬さが調理工程次第というのが、無限の可能性を感じる。軟骨ごと叩いて肉団子にしてもおもしろそうだ。

タン下や豚バラ先軟骨は、どこの肉屋も売っているという部位ではない。もしご興味を持たれても、なかなか手に入らないかもしれない。逆にわざわざ言われなくても当たり前に食べているぜという人も多いだろう。

でも大丈夫。肉屋でも魚屋でも八百屋でも、まだ使ったことのない食材が、きっとなにかあるはずだ。

「こんな安い部位があったよ!」という報告がしたいのではなく、「未知の食材を使うと楽しいよね!」という話なのである。なんてな。
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