ベースとなるイベントがあった
いきなり「そうだ、フェスをやろう!」と思ったわけではなく、友人に誘われて参加したイベントがきっかけだった。
それは飲食系同人誌を作っている3サークルが居酒屋を貸し切って、本に関連する料理を頒布するという内容である。同人料理即売会とでも言えばいいのだろうか。
そこに私も、一緒に『趣味の製麺』という同人誌を作っている友人と参加したである。
製麺サークル、うどんサークル、中世の料理を再現するサークルが料理を頒布する会があったのです。
このイベント、個人的には改善すべき点も多々あったが、当日は来場者数も多く、とても楽しかった。
そして複数の団体が作る料理を、同じ会場内で食べられるのであれば、それはもうフェスと名乗っていいのではという気がしたのだ。
会場は矢口渡(やぐちのわたし)という蒲田の隣にある居酒屋侍。矢切の渡しではない。
店の奥に広い座敷があり、大人数でも収容可能だ。
料理の説明を絵でしたところ、全然わからないとクレーム多数。
そして製麺フェスが生まれた
そんな経験を経てですよ。年明けに製麺同人誌『
趣味の製麺7号』の打ち上げをすることになったのだが、40人以上が集まれてキッチン付きのレンタルスペースが全然みつからない。あっても料金がとても高い。
ならば前回の経験を踏襲する形で、イベント型の打ち上げにしてみようかと考えた。料理の本なので、出店(調理)を担当してもいいよという人も集まり、『IRON・SEIMENフェスティバル』開催となった次第である。
上記画像の左から、私、
CHIZ・
渋さ知らズ・
東京中低域などでバリトンサックスを演奏する
鬼頭哲さん、さるハゲロックフェスティバルというイベントのフードを仕切る編集者の
小松ヌンチャクさん、ラーメン二郎や天下一品の再現レシピなどでご協力いただいている会社員の
マダラさん、料理本も出しているデザイナーの
ツジメシさん。飲食店関係者はゼロだ。
フェスといっても、その正体は居酒屋を一日借りて、希望者が料理を振る舞う宴会である。いわばフェスごっこ。
イベント名の『IRON・SEIMEN』は、アイロン・セイメンではなく、アイアン・セイメンと読もう。鋳物製麺機なのでアイアン。言葉の響きだけアイアン・メイデン(バンド名)のパロディだが、だからなんだという話なので、気づいてもらえなくてもOKだ。
久しぶりに大量の肉を買うぜ。
来場者数を把握しないと、何人前分を用意したらいいのかわからないので、来る人は事前に連絡してもらうようにした。
飲食系のフェスで、食券が前売り制になっている場合があるが、その気持ちがよく分かった。売れる分しか仕込みたくない。
容器や箸などと合わせて、前回の反省を踏まえて付箋を購入。これがとても役に立った。
おそらく来場者数は60人前後で、提供するのはハーフサイズのラーメンだから、2~3杯くらいは食べるはず。
それを私含めて5人が用意するので、それぞれ30~40杯分を用意してもらうことにした。余ったらごめん。足りなくなってもごめん。味付けよりも、このさじ加減のほうが難しいかも。
フェス当日がやってきた
雪が降ったらどうしよう、インフルエンザになったらどうしよう、誰もこなかったらどうしよう、不安要素はいくらでもある。
それでは想像してください。「大雪でイベントが中止となって仕入れた食材が全部ロス」、「機材と麺生地を用意するはずの主催者がインフルエンザで来られなくてイベント中止」、ほら怖い。
でもフェスのお客さんは友人とその友人、あるいは以前に参加希望のあった読者だし、きっとどうにかなるさと自分を励まして迎えた当日、天気は無事晴れてくれて、出店者側に病欠もでなかった。
もうこの時点で感無量である。
フェス会場の居酒屋侍。あくまでフェスと言い切りますよ。
フェス会場の『キッチンブース』では、さっそく料理の仕込みがスタート。男だらけの厨房で、各自がてんでバラバラな料理を同時進行で作っているというのがおもしろい。
飲食系フェスというか料理対決イベントっぽい気もする。そうだ、飲食系フェスとは他店との闘い、指名客の奪い合いなのだ!
とかいいつつも、やっぱり全部が平等に売れてほしい。
妙に緊張感のあるキッチンブース。手前は麺を茹でる係として呼び寄せた助っ人。ありがとう!
そういえば私はキッチンにいる時間がなさそうだぞと、急遽助っ人に調理をまかせることにした。本職っぽいがラーメン屋さんではない。ありがとう!
製麺フェスは面倒くさい
通常の飲食系フェスなら、料金や食券と引き換えに料理やドリンクを出せばいいが、今回は製麺がテーマのフェスなので、お客さんが自分で食べる麺を自分の手で作るというアトラクションが入ってくる。
ここが運営上で一番ややこしいポイントなのだが、これがやりたいので譲れない。
支払いは入り口で食券を買ってもらうスタイルにしたので、ブースでは現金を触らなくてすむ。このかわいい食券は居酒屋侍の店主が作成してくれた。
今までの製麺ワークショップの経験を踏まえ、3台の家庭用製麺機を用意して、4人の指導員が交代で教える体制を整えた。
もし人出が足りなかったら、お客としてきている製麺機ユーザーを捕まえればいいだろうか。本当にこれで回るのか。
さっきから胃がキリキリ、心はソワソワ、体はウロウロ、そりゃもう全然落ち着かない。
がんばれ製麺ブースの人。生地は10キロ以上あるよ。
冷静になって数えてみると、調理担当、製麺指導、券の販売や配膳サポートと、10人以上が運営側として関わってくれているのか。元々はただの飲み会なのに。本当にありがたい。
こんな大事だとは思っていなかった人から、「ただの飲み会じゃなかったの?」という声が聞こえてきたが、その辺は笑ってごまかした。ほんとだよね。
ご来場ありがとうございました!
そんなこんなで定刻通りの14時に、イベントはスタートした。
前回の反省を生かして、ちゃんとメニュー表と料理のサンプルを用意して、お客様を迎え入れることができた。
本日のお品書き。
料理サンプル。どれもおいしそー。
まったく一般性のない話で恐縮だが、一応製麺フェスのオペレーションを説明しておくと、まず注文する麺料理を決めてもらい、食券と引き換えに麺となる生地をお渡しする。
この時、付箋に料理名とお客さんの名前を書いておき、器に貼っておくのがポイントだ。これがないと、厨房で調理している間に、誰が作った麺なのかわからなくなってしまうのである。
この生地をお客さんが自分で麺にするという、考えただけでもオペレーションが大変そうなフェスなのだ。
麺作り自体はとても簡単。ネジの調整などは指導側の人が全部やるので、お客さんはハンドルをまわすだけ。
それでみるみる生地が伸びて、にょろにょろ麺ができるのだから、楽しんでいただけたと思う。生地の厚さで麺の太さが変わるため、毎回違う食感の麺になるのもポイントだ(茹でる人が大変だけど)。
横から見ていると、なんだかアタリしか出ない福引会場みたいな盛り上がりだった(たぶん)。
クルクルとハンドルを回すだけで、誰一人として失敗することなく麺作りに成功してもらえた。
この日のために荒武者というかっこいい名前の中華麺用小麦粉を仕入れてきたので、麺の味はバッチリだ。
こうして作った麺を器ごとキッチンブースへと持っていくと、指定した調理法で仕上げをしてもらえるシステム。
市場とかで買った魚を希望の調理法で料理してくれる店がたまにあるけれど、それにちょっと近いかも。あるいはホストの指名制度か。
各自の作る麺料理がバラバラなので、それぞれの調理方法がとても気になる。
仕事の都合で夕方からの参加となったマダラさんが、ラーメンの具となるカレー味のすいとんを作りだした。自由だ。
このような流れで完成したラーメンは、付箋に書かれた名前を頼りに、麺を作った人に引き渡される。
自分が製麺機で作った麺を、5種類の個性豊かなラーメンで食べられるなんて、夢のようなフェスじゃないですか。ねえ。
作り手側は忙しくて全然食べられなかったけど、味の評判はとてもよかったと思います。
夕方にお客さんが一気に来て、10人くらい製麺待ちの行列ができてしまったのは申し訳なかった。
こんなラーメンが出ていました
ここで出店者が丹精込めて作ったラーメン達をご紹介させてください。
ほら、おいしそうでしょう。ちょっと麺が伸びた状態の写真で申し訳ないですが。
鬼頭哲:中華そば『鬼』 or つけ麺 鬼のように普通の中華そばスープは、サッパリしつつも濃い味わい。自家製麺を水でシメた、つけ麺スタイル(低加水麺を多めで)での提供もあり。
ツジメシ:スパイス山羊肉麺 中国とインドの影響下にあり、小麦文化圏かつ現在の日本と麺の好みが近い、架空の山岳民族の伝統料理という設定の妄想郷土料理。
作り方はこちら。
小松ヌンチャク:コンローミー 現地旅情を感じられるマレーシアの和え麺『コンローミー』と、豚肉のスープ『ミースープ』をセットでご提供。小松さんだけに小松菜だ。
マダラさん:カレーすいとんキーマカレー麺
第9回さるハゲカレー大会で優勝した『カレーすいとんキーマカレー』を、汁なしラーメンにアレンジ。すいとんで麺を食べる不思議感覚麺。
玉置標本:生麺の沖縄(風)そば
豚の茹で汁と鰹節だけで作ったスープでいただく沖縄そばの生麺版。三枚肉(皮つきばら肉)と軟骨ソーキをトッピング。作り方は
こちらの記事をどうぞ。
どの料理も万遍なく注文があり、イベントは21時までの予定だったのだが、19時過ぎには麺生地もスープも売り切れとなった。3杯、4杯と食べてくれた方が多かったのかも。
まだ食べたりないよという人のために、麺生地を急遽追加で仕込み、ありあわせの調味料やコンビニで買ってきた唐揚げを使って、『シェフの気まぐれまぜそば』とかを出したりして。アドリブに強い出店者ばかりで心強い。
コンビニのチキンが乗った謎のまぜそば。このジャンクな味が一番うまかったという声もチラホラ。
熱い丼がひっくり返ることもなく、誰かが酔っぱらって潰れることもなく、どうにか無事にフェスという名の打ち上げが終了。
ただ出店者達からは、今日は同人誌の打ち上げなのに7時間立ちっぱなしで疲れ切ったので、打ち上げの打ち上げが必要だとのクレームが多々。はい、ごめんなさい。
なんだか生前葬でもやったような達成感だった。
製麺戦隊グルテンファイブ、お疲れ様でしたー。
家飲み宴会の主催とか、居酒屋の一日店長とかの延長線としてやってみた、テーマを決めた飲食系フェスごっこは楽しかった。こんなことをやらせてくれる居酒屋は、この店以外に思いつかないけど。
関係各位、ありがとうございました!
お客さんの製麺が終わった頃、ようやく自分のまかない麺を作る出店者達。
トークイベントのお知らせ
2月22日(木)に埼玉県川口市(ほぼ東京)で、製麺じゃなくて、捕まえて食べる方のトークイベントがあります。よろしければどうぞ。詳しくは
こちらから。