特集 2017年12月11日

家庭料理としての沖縄そばを学びそして作る

皮つきの豚バラ肉を使った、こだわりの沖縄そばを作りました。
皮つきの豚バラ肉を使った、こだわりの沖縄そばを作りました。
なんか最近寒いですね。これが冬ですかね。

こう寒いと南国あたりでしばらく過ごしたいなと思う訳ですが、なかなかそうもいきません。ならばせめて年越しそばを沖縄そばにしようかと、本格的な作り方を習ってきました。

やってみると意外なほどに簡単で、とても美味しくできました。
趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

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沖縄県民はどれくらい沖縄そばが好きなのか

沖縄そばとは、蕎麦粉ではなく小麦粉の麺を使った、あっさりとしたスープの麺料理である。たぶん。関東に住んでいると、なかなか食べる機会のない料理だが、沖縄県民にとってはどれくらい身近な料理なのだろうか。

さぞや熱いであろう県民の思い入れ具合を、当サイトにも寄稿しているDEEokinawaの安田麻衣子さん、本田義統さんに伺ったところ、2万文字くらい行きそうな勢いで返事が返ってきた。ちなみに二人とも沖縄への移住組である。
本田です。僕は1998年に沖縄に来たんですが、まずびっくりしたのが沖縄そばの普及率でした。当然学食にもありましたし、誰もがイチオシの沖縄そば屋を持っていて、結構な頻度で食べている。沖縄でそばといえば沖縄そばなので、焼きそばの麺も沖縄そば、年越しそばも沖縄そば。
玉置です。本当に沖縄そば一色なんですね。年越しも沖縄そばなんだ。
安田です。以前、香川にも住んでたことがあるんですが、香川では地元の人が言う「お昼食べに行こうか」は、ほぼほぼ「うどん食べに行こうか」で、平日のランチは9割がたうどんでしたが、沖縄はそれほどではないかと。多い人でも週に2~3回かな。
でも毎日買い弁の人は、毎日お弁当に付いてくるそばを食ってそう。汁物代わりのそば。
ああ、それはあるね。
年越しそばも沖縄そば。迎春!
年越しそばも沖縄そば。迎春!
弁当屋の100円そば。味噌汁変わりなのかな。
弁当屋の100円そば。味噌汁変わりなのかな。
トッピングの豚肉が、ソーキ派、三枚肉派、てびち派に分かれる。ソーキでも本ソーキと軟骨ソーキに分かれたり。
それ、東京の沖縄料理屋で沖縄そばを注文しようとして、なにがなんだかわからなかったやつだ。
ソーキとは骨付き豚アバラ肉のこと。
ソーキとは骨付き豚アバラ肉のこと。
三枚肉は皮つきの豚バラ肉。詳しくは後述します。
三枚肉は皮つきの豚バラ肉。詳しくは後述します。
汁もトンコツ系か、カツオ系か分かれてるよね。
そうそう、こってりか、あっさりか。紅しょうがでスープの味が変わるから、最初から乗せられているのは嫌だとか。そばの好みを言いだすと、沖縄県民はいくらでも語れるよね。
移住組でここまで語れるくらいですからね。
マイベストそばは、細麺・三枚肉・かつおだし強め・針生姜(赤くないやつ)・フーチバー(ヨモギ)あり、ですな。コーレーグースはラスト3~4口になったタイミングで入れる!
こだわりが強い。ところで沖縄そばの麺って、ゆで麺をサッとお湯で温め直して出す方式ですよね?
基本はゆで麺ですね。でも今は生麺タイプのお店も多くなってきてるのでは。
うーむ、昔ながらのそば屋はゆで麺で、ちょっとこだわった店とか新しめの店とかは、生麺とかゆで麺とか自家製麺とかが選べたり、というイメージでしょうか。前者は大衆的で安め、後者は観光客も意識してたりでちょっと高め。
なるほどー。家でも作って食べます?
私たちみたいな移住者はあまりやらないと思いますが、スーパーやそば屋で麺とだしを買って帰って、家で沖縄そばを食べるという人はけっこういると思います。
妻が沖縄出身なんですが、なんかあるごとに近くのそば屋から汁(ペットボトルに入れてくれる)、麺と具を持ち帰って、自宅で食べてましたね。
だしぐらいは自分で作る人もいるけど、麺から打つ人はいないよね。
麺を自分で作るひとはいないんじゃないかなー。きっとうどんよりも手打ちしない。
石垣島で売られていたダシ用の豚骨。具となる肉も、生から味付きまで各種売られている。
石垣島で売られていたダシ用の豚骨。具となる肉も、生から味付きまで各種売られている。
めんつゆならぬ、そばだしが常備されている家も多いとか。
めんつゆならぬ、そばだしが常備されている家も多いとか。
かくも熱く語れる郷土食があるって羨ましい。二人の話を聞いて私まで思い入れが強くなり、より沖縄そばを食べたくなってきた。

この「食べてみたい!」という思い入れこそが、未知の味(でもないが)を美味しく食べるために必要な調味料だと思うのだ。

沖縄そばの作り方を習う

沖縄そばの作り方を習うのは別の方。沖縄料理の本を出している同人誌サークル『がちま家』の麻生あいみさん(沖縄県那覇市出身)から、おばあちゃん直伝の本格的(ただし家庭料理の範疇で)なレシピを習いつつ、家庭用製麺機による自家製麺で今風に進化をさせてみたい。

麺作りは私がしたいだけなので、沖縄の製麺所で作っている市販の麺の方が、本場の味に近いとは思う。
こんな本(ここで買えます)を作っている方です。沖縄そばはもう毎日のように食べていたとか。
こんな本(ここで買えます)を作っている方です。沖縄そばはもう毎日のように食べていたとか。
沖縄そばを作るにあたって、まず買い出しをするために、必要な肉を確認しなくてはならない。ソーキとか三枚肉とか、あれってなんですか。

「三枚肉は皮つきの豚バラ肉を煮たもので、沖縄そばでは標準の具です。皮、肉、脂と3層になっているから三枚肉といいます。ソーキは骨付きの豚アバラ肉で、これが乗るとソーキそば。本ソーキとも呼び、この骨は硬くて食べられないのですが、最近は軟骨ソーキという骨ごと食べられるタイプも人気です。骨置きの小皿がついていたら本ソーキ。それにカマボコ、青ネギ、紅ショウガを乗せます。沖縄は長ネギが育たないんですよ」

先程のソーキそばの写真を確認すると、骨用の小皿があった。では全部乗せのゴージャスなやつを作りましょう。

「いいですね。ソーキや三枚肉などの具を煮た茹で汁が、沖縄そばのスープになります。せっかくだから、味くーたーなスープにしましょう。くーたーは方言で『濃い』って意味です」
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豚肉のスープを作る

まず手を付けたのは軟骨ソーキ。手に入るか謎だったのだが、豚バラ先軟骨という名前で近所の肉屋にて売られていた。

これは骨ごと食べられるように、茹でてアクをとってから、圧力鍋で30分ほど煮ておく。理想は弱火でコトコト3時間とからしい。
100グラム40円と激安だった軟骨ソーキ。
100グラム40円と激安だった軟骨ソーキ。
臭みのないダシがとれて、骨まで食べられるのだからお得だ。
臭みのないダシがとれて、骨まで食べられるのだからお得だ。
他にも三枚肉、本ソーキをたっぷりと用意し、軟骨ソーキを煮たスープに水を足して、アクを取りながら2時間程煮込む。ところで下茹でとかは必要ないのだろうか。

「旨みが逃げちゃうから、お肉の下茹ではしません。そんな勿体無いことをするの、たぶん内地(本土)の人だけですよ」

豚骨のダシではなく、豚肉や豚の骨付き肉なので、そこまで臭みはないということか。これはコスト度外視の肉だくさんスープだが、お店では豚骨がダシのメインになると思うので、下茹で等をしているのかもしれない。
具でありスープの素でもある肉は、たっぷりと用意したいところ。
具でありスープの素でもある肉は、たっぷりと用意したいところ。
これが皮つきの豚ばら肉、三枚肉なのか。
これが皮つきの豚ばら肉、三枚肉なのか。
「沸騰してからは、蓋をしないで弱火で煮てください。スープを白濁させないのがポイントです。この皮つきの三枚肉がおいしいんですよ。最近は脂身が食べられなくなってきましたけど……。沖縄では、豚は鳴き声以外全部食べるといいます。皮だって美味しいんだから、食べなきゃもったいない。たまに毛が残っていたりしますけどね!」
下茹でをしない分、アクはしっかりと取る。
下茹でをしない分、アクはしっかりと取る。
豚バラ肉を長時間煮ていると、どうしても脂身が崩れてしまいがちだが、皮つきだとその心配がない。これは通常のラーメンや角煮作りにも応用できそうだ。

スープに鰹節を加える

鍋の中から肉類を取り出し、この豚のエキスが溶け込んだ旨味たっぷりの茹で汁に、厚削りの鰹節をたっぷりと加えて、10分ほど煮て濾したらスープの完成だ。

意外なことに、昆布や香味野菜は一切使わない。豚と鰹節だけのスープである。
「鰹節はよくおやつ代わりにそのまま食べてましたね。ムシャムシャ」
「鰹節はよくおやつ代わりにそのまま食べてましたね。ムシャムシャ」
「昆布は食べ物だからダシとしては入れません!っておばあちゃんが言っていました。沖縄で昆布は採れないですが、昔からよく食べるんですよ。もし昆布のダシを加えたい場合は、ちゃんと取り出して、具とか料理に使って食べるのであれば、おばあちゃんも納得するかな」
鰹節が香る澄んだスープの完成。
鰹節が香る澄んだスープの完成。
豚と鰹節だけのスープを作るのは初めてで、味の要素が足りなくないかと不安だったが、味見をしてみたところ十分な旨味成分が溶けている。

いわゆる豚骨を使っていないので、ニンニクやショウガを入れなくても、臭みはまったく感じない。

具の肉を用意する

メインの具となる三枚肉、本ソーキ、軟骨ソーキは、水で洗ってアクを落としてから、適当な大きさに切って、調味料で煮て味を染み込ませる。
余計なアクを洗い流す。
余計なアクを洗い流す。
「調味料は醤油1、酒1、みりん1、砂糖はお好みっていう感じですかね。分量はてーげーで。適当って意味です。砂糖は上白糖を使いましたが、コクがでるからと黒砂糖を使う人も多いですね。30分くらい弱火で煮て、煮詰まっちゃいそうならスープをてーげーで足してください」
「私はそんなに甘くしない派」といいつつ、結構な量の砂糖を入れた。
「私はそんなに甘くしない派」といいつつ、結構な量の砂糖を入れた。
軟骨ソーキも同じように煮ておく。これ絶対にうまいやつだ。
軟骨ソーキも同じように煮ておく。これ絶対にうまいやつだ。
他の具は、青ネギ、カマボコ、紅ショウガくらいなので、買ったものを切るだけなので簡単だ。

凝るべきポイントは肉だけというのが、実にシンプルでよい。
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作らなくてもいいけど麺から作る

沖縄そばの麺は、太めの平麺を手もみしたもので、これが本島で食べられている一般的な沖縄そばの麺である。石垣島などで食べる八重山そばは細い丸麺のストレート、宮古そばは細い平麺のストレート。

共通するのは製麺所で麺を茹でて、油をまぶして袋詰めしたものを、家庭でも店でも使うということ。最近は生麺を使う店も多いらしいが、麻生さんに言わせると、「ないちゃーがーしーしてー」となる。内地に染まりやがって、みたいな意味のようだ。

市販のゆで麺を使ってこそ沖縄そば。だが私は内地の人間なので、あえて自家製麺を生麺で使おうと思う。麺作りが趣味だから。レシピは沖縄生麺共同組合のサイトに掲載されていた、『本場沖縄そばの定義』を参考にした。
沖縄そばだけど麺から作ります。
沖縄そばだけど麺から作ります。
本場沖縄そばの定義
1.沖縄県内で製造されたもの
2.手打式(風)もの
3.原料小麦粉 タンパク質11%以上 灰分0.42%以下
4.加水量 小麦粉重量に対し34%以上~36%以下
5.かんすい ボーメ2度~4度
6.食塩 ボーメ5度~10度
7.熟成時間 30分以内
8.めん線 めんの厚さ1.5~1.7ミリ切葉番手 薄刃10番~12番
9.手もみ 裁断されためん線は、ゆでる前に必ず手もみ(工程)を行う
10.ゆで水のPH8~9
11.ゆで時間 約2分以内で十分可食状態であること
12.仕上げ 油処理してあること

沖縄で作らなきゃダメとか、業務用製麺機にしかない切刃を使おうとか、どうにもできないものがいくつかある。できる限りの努力をした沖縄そば風の麺ということで勘弁していただきたい。といいつつ生麺。
みんなで製麺をする集まりで作ったので、本来の沖縄そば作りの工程に不要な製麺をします。そう、製麺がしたいのです。
みんなで製麺をする集まりで作ったので、本来の沖縄そば作りの工程に不要な製麺をします。そう、製麺がしたいのです。
具体的にどんな麺を作るのかというと、ラーメンで使うような強力粉を使い、うどんくらい塩分が多く、中華麺にしてはかんすいが少なめで、水分量を控えた太麺を熟成させないもの。

「へー、麺に入れる塩が多いんですか。沖縄って気温も湿度も高いから、食材が傷みやすいんですよ。それで塩が多いのかも」

なるほど、茹でて油をまぶしておくというのも、保存性を高めるための処理なのかもしれない。こうしてレシピに隠れている意味を紐解いていくことで得られる好奇心の満足が、料理の隠し味となっていく。

生麺タイプの沖縄そばが完成した

製麺した麺は茹でおきせずに、生麺のまま使用する。縮れなしの平麺ストレートなので、タイプとしては宮古そばが近いだろうか。

本来の沖縄そばはもう一回り太いのが一般的のようだが、茹で麺ではなく生麺なので、このくらいの太さがちょうど良いと思うのだが。
かんすいの量が少ないので、ラーメン用の中華麺ほど黄色くない。
かんすいの量が少ないので、ラーメン用の中華麺ほど黄色くない。
麻生さんには、沖縄そば用の縁が広い杯型をした丼も持参してもらった。関東の一般的なそば・うどん用よりも一回り容量が小さいだろうか。素朴な味わいがある器だ。

最近はプラスチック製品などに押されて、この伝統的な丼を作っているところも少なく、里帰りした際に10軒以上の店を回って、どうにか手に入れたそうだ。
逆三角形の杯型をした沖縄そば用の丼。
逆三角形の杯型をした沖縄そば用の丼。
底の模様がまたかわいいんだ。
底の模様がまたかわいいんだ。
スープの味付けは、塩だけで十分とのこと。お好みで醤油を少し入れたり、スープが薄ければダシの素や化学調味料を入れても良し。

沖縄そば用の平たい丼にスープを注いで、塩とごく少量の醤油で味付けをして、茹であがった麺を入れる。

そして上に三枚肉、純白のカマボコ、紅ショウガ、細ネギを乗せたら完成だ。
白、赤、緑と、実に鮮やかな色の組み合わせである。
白、赤、緑と、実に鮮やかな色の組み合わせである。
さて肝心の味だが、これがびっくりするほどうまかった。油っ気のない薄味のスープながら、贅沢に肉と鰹節を使ったためか、物足りなさをまったく感じない。

麺もコシのあるツルツルの生麺ながら、かんすいを抑えているためか、このスープと相性が良い。沖縄の食堂で食べるなら、柔らかいゆで麺が一番かもしれないが、ここなら食べ慣れている生麺がやっぱりうまいかな。とにもかくにも大成功と言える出来栄えだろう。
2杯目は太麺で。この太さだと茹ですぎ位がスープと合う。
2杯目は太麺で。この太さだと茹ですぎ位がスープと合う。
「ちゃんと作ると、美味しくできるもんですね。私もスープから作るのは初めてなので、実はちょっとドキドキしていました。おばあちゃん、ありがとう!」

え、初めてだったの!

もちろん鶏ガラや香味野菜などを加えていけば、さらに濃厚でコクのある味になっていくのだろうけれど、それをやったら沖縄そばから離れてしまう。このスッキリした味こそが、沖縄そばのスープなのだと思う。
生の細麺という沖縄そばにない方程式も好評だった。ツルツルいける。
生の細麺という沖縄そばにない方程式も好評だった。ツルツルいける。
本気でラーメン用のスープを作ると、鍋の中にガラや野菜のカスが大量に沈むことになるが、沖縄そばはそれがない。

食べ終わって残るのは、鰹節のダシガラとソーキの骨だけ。その美味しさはもちろんのこと、後始末が楽なことにも感動した。まさに大晦日に最適である。

ゆで麺タイプは失敗しましたがコミケに出ます

これは余談になるのだが、後日また沖縄そばを作った際に、ゆで麺方式を試してみた。ちょっと固めに茹でた麺をボールに入れて、すぐにサラダ油をまぶしたのだが、麺の熱で油が乳化してしまい、ベトベトの麺になってしまって失敗。本式の再現、素人にはなかなか難しいようだ。
ベッタベタになっちゃった。
ベッタベタになっちゃった。
ところで『趣味の製麺』という製麺同人誌をまた作っています。早いものでもう第7号。10分で作るラーメンの選手権レポートや製麺機の文化史、麺レシピに製麺マンガなど、きっと楽しい本になるはずです。大晦日にコミケ会場で待ってます。詳しくはこちらから。
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