女性がハイヒールをコツコツ鳴らして歩くのをかっこいいと思っている。タップシューズを履いて歩くのも同じくらいクールかと思ったが、残念ながらそんなデキる女風にはならなかった。タップダンサーではない素人のおっさんが奏でるリズミカルな足元にかっこよさはなく、むしろコミカル寄りである。しかし、世界をほんの少しだけ愉快にしてくれるのだ。
散歩×タップダンス
というわけで、さっそくタップシューズを買った。一番お手頃なやつでアマゾンで5980円だ。高いのか安いのかよくわからないが、これで散歩がミュージカルになるなら惜しくはない。
タップシューズ。「41」ってなんだろう
タップシューズはけっこうかっこよくて、フォーマルな場でも通用しそうなデザインだ。葬式で軽快なリズム刻んでたらひんしゅくどころじゃないだろうけど。
履いてみよう。そしてビートを刻んでみよう。
履いてみよう。そしてビートを刻んでみよう。
しかし、カーペットの上ではタップシューズの性能を十分に発揮できない
なので街に飛び出すことにした
カカカン、カカカン、カカカンカン。階段で、廊下で、アスファルトで、いつもよりリズミカルな歩行音が二日酔いの(前日3時まで飲んでました)足取りをも軽くする。
もちろん僕にタップダンスの素養などない。基本のステップも分からない。つま先から降りてかかとで着地する、ただそれだけ。それだけで、いつも以上に散歩が楽しくなる。
もちろん僕にタップダンスの素養などない。基本のステップも分からない。つま先から降りてかかとで着地する、ただそれだけ。それだけで、いつも以上に散歩が楽しくなる。
※音が出ます
冒頭でサウンド・オブ・ミュージックだのミュージカルだの大風呂敷を広げてしまったが、ごめん、言い過ぎた。せいぜい足元が1.5倍くらい小気味よくなる程度の楽しさだ。
しかし、いつもの散歩にはない高揚感があるのは事実。見慣れた近所の道のあのへんやそのへんが、「僕の音」をクリエートするためのステージに見えてくる。
しかし、いつもの散歩にはない高揚感があるのは事実。見慣れた近所の道のあのへんやそのへんが、「僕の音」をクリエートするためのステージに見えてくる。
たとえば長さ約1m程度のマンホールの蓋
記念すべきファーストステップ
初舞台がマンホールだなんて、伝説のアーティストの逸話っぽくてかっこいい。将来スーパースターになったときのwikipediaの一行目が決まった。
このまま、いつもの散歩コースを歩いてみよう。九段下から千鳥ヶ淵を歩いて、北の丸公園の広場でビールを飲むのが僕のお気に入りだ。
このまま、いつもの散歩コースを歩いてみよう。九段下から千鳥ヶ淵を歩いて、北の丸公園の広場でビールを飲むのが僕のお気に入りだ。
赤信号が行く手を阻んでも
ステップを踏めばゴキゲン
青信号に気づかないほど没頭してしまうのが難点
カンカン、コツコツ、カキンカキン。都市の地面は色んな素材でできていて、踏む場所によって音が変わる。タップシューズで歩くと地球が楽器になるのだ。
右足と左足が違う音を奏で、期せずしてアンサンブル。「ゆず」みたいな地面である
街の音とコラボする
そんなふうに聴覚を働かせながら歩いていると、日頃聞き流している音にも敏感になる。街にはじつに様々な音があるものだ。カラスの鳴き声とかラーメン屋のダクトから出るブオーっていう排気音とか、まあべつに聞き逃して差し支えないような音なのだが、そんな「街の音」とコラボするのもまた一興である。
ラーメン屋の排気ダクトと。ブオー、カツカツ、ブオー、カツカツ
九段下から皇居の周りを歩いていくと音楽の殿堂、武道館にたどり着く。この日は「テニプリフェスタ」という人気のライブイベントが行われていて、男性ヴォーカリストの美声が会場の外まで漏れ聞こえてきた。これはコラボの大チャンスである。
あまりの倍率の高さにじつは当選者なんて一人もいないのでは、とささやかれるほどの人気ライブとのこと
会場の外には、チケットはとれなかったけど「テニプリ」が好きすぎるゆえ足を運ばずにはいられなかったファンも大勢いた。傷心の彼女らに配慮して、やや遠くからステップを踏む。すると大人気の「テニプリ」にキャストとして参加したみたいな気持ちになれてしまう。
もはや武道館デビューといっても差し支えあるまい(とか書くと怒られそうだ、冗談ですよ冗談)
記念撮影のフリしてこっそりステップをキメる
皇居のお濠もなんとなく秋の気配
親子で双子コーデとはかわいらしい
やわらかな緑と穏やかな気候、ほどよく人が少ない散歩道。千鳥ヶ淵や北の丸公園は桜と紅葉の時期が人気だが、夏とも秋ともつかないこの中途半端な時期こそ最高に気持ちいいと思う。
思わず踏んでしまうよね、ステップを
貧乏ゆすりに見せかけてビートを刻む
そうこうしているうちにお気に入りの広場に着いた。僕にとって特別な場所で、嫌なことがあったときはここで小一時間も昼寝すれば、大抵のモヤモヤは消化できる。のび太にとっての裏山みたいな存在なのである。人間は誰しも、いくつになっても裏山を必要としている。
昼寝、ピクニック、イチャイチャ。ただただ平和な世界
だが、癒ししかもたらさないこの空間も、タップシューズとの相性という点では最悪である。一面芝生なので、完全にリズムを封じられてしまうのだ。
リズムが刻めない…じゃないか!
まあいいか、ビール飲んじゃえ
二日酔いなのに、今日も結局飲んでしまった。へけけ。
ホロ良い気分の帰り道。鳴らし甲斐のありそうな飛び石があったので渡ってみたら今日イチの愉快なビートが刻まれた。この世で最も楽しいステップは、やはり「千鳥足」なのかもしれない。
ホロ良い気分の帰り道。鳴らし甲斐のありそうな飛び石があったので渡ってみたら今日イチの愉快なビートが刻まれた。この世で最も楽しいステップは、やはり「千鳥足」なのかもしれない。
わーい
『君の名は』のロケ地、とは無関係の歩道橋
ただし、1回の散歩でシューズはけっこう傷つく