特集 2014年2月14日

ダムの活躍を讃える会を催したら大変なことになった

ダムの活躍を讃える会を催したらこんな大変なことになりました(撮影:星野夕陽)
ダムの活躍を讃える会を催したらこんな大変なことになりました(撮影:星野夕陽)
ダムが好きになってはや十数年。自分が観に行くだけに飽き足らず、楽しさやかっこよさを人に伝えたりしているうち、役割や実際のはたらきを目にする機会も増え、その魅力にますますのめり込んだ。

しかし、ふつうに暮らしているとダムの活躍はあまり耳に入ってこない。そこで、1年間のダムの活躍を表に出し、讃えようとイベントを開催した。あくまでファン目線で。

その結果、何だか大騒ぎの事態になってしまったのだ。
1974年東京生まれ。最近、史上初と思う「ダムライター」を名乗りはじめましたが特になにも変化はありません。著書に写真集「ダム」「車両基地」など。
(動画インタビュー)

前の記事:この液体が高い

> 個人サイト ダムサイト

ダムの活躍を表に出したかった

ことの発端は一昨年の年末。何気なくTwitterでその1年のダムの活躍を振り返っていたところ、多くのダムファンの友人から「あのダムがこんな活躍をしたよ!」と教えてもらった。
何気ないつぶやきが人生を変えた
何気ないつぶやきが人生を変えた
ずっとダムのことばかり考えていても、自分の生活に関係ない地域だと忘れていたり、知らなかった活躍がたくさんあったのだ。これは面白い、いくつかの部門を作ってみんなで侃々諤々と決めるイベントをやりたい、と思ったのだけど、年末で時間もなかったので、ひとまず当サイトの記事として発表した
これが記念すべき第1回
これが記念すべき第1回
記事自体はまあ、それほど目立った反響もなかったのだけど(違和感もほとんど出なかった、というのは時代が変わったなと思う)、1年間のダムの活躍を振り返ってノミネートを考え、いろいろな要素を比較したうえで受賞ダムを決める、という過程はものすごく楽しかった。
書いてた本人も驚く結果に!
書いてた本人も驚く結果に!

イベントにするぞ

というわけで、去年は夏前からイベント化を企画。いつもダムのイベントでお世話になっている東京カルチャーカルチャーの横山店長に、かなり早い段階から年末に予定を組んでもらい、ダムファンの友人たちにも情報収集をお願いした。

記録的な大雨や水不足が起こった夏が過ぎる頃、ダムファンの友人たちと「日本ダムアワード選考委員会」を立ち上げ、ネット上に会議室を作って、まず選考する部門を決め、そしてそれぞれの部門にノミネートするダムを考えた。

イベントは、出演者の中から各部門ごとに1~2名のプレゼンターを決め、部門ごとにノミネートされたダムを全力でプレゼン。その後、観客の皆さんにあらかじめ配布しておいた投票用紙に記入してもらい、投票されたものを集計。イベントの最後に結果発表、という流れ。初めての開催だけど、さも格式のあるイベント感を出すために壇上は全員正装である。
生まれて初めて蝶ネクタイつけたと思う
生まれて初めて蝶ネクタイつけたと思う
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日本ダムアワード2013開催

今回の日本ダムアワードでは、時間の都合もあって選考部門を4つに絞った。その部門とは、もっとも印象的な放流を行った「放流賞」、もっとも印象的なイベントを開催した「イベント賞」、渇水に対してもっとも印象的な活躍をした「低水管理賞」、大雨に対してもっとも印象的な活躍をした「洪水調節賞」である。そして、ノミネートされたすべてのダムの中から、もっとも印象的な活躍をした「ダム大賞」を決めることにした。
こんなもっともらしいロゴも作ったりして
こんなもっともらしいロゴも作ったりして
こういう説明も、もう何年か前だったらちょっと何言ってるのか分からないです的な状況だったと思う。いや、今でも分かってもらえるのかは分からないけど、機は熟した、のだと自分に言い聞かせる。

ところで、こういったアワードにつきものなのが特徴的なトロフィーである。アカデミー賞のオスカー像や、ほかの映画賞でも金熊賞とか金獅子賞といった、その分野以外の人から見たら、それ、もらって嬉しいの、と言いたくなるモチーフが多い。というわけで、日本ダムアワードでもダムに因んだトロフィーとして、「金のクレストゲート像」というものを作った。
これが「金のクレストゲート像」だ!
これが「金のクレストゲート像」だ!
ダムの水門の形をしている
ダムの水門の形をしている
ダムのてっぺんにあるこの水門がモデル
ダムのてっぺんにあるこの水門がモデル
クレストゲートとはダムのてっぺんに設置された水門のことで、ダムを見たときにまずチェックする、ダムの写真を撮るときにピントを合わせる、多くのダムファンにとってダムの象徴とも言うべき場所である(たぶん)。製作は3DCADができるダムファンのひとりが設計し、詳細はよく分からないけどなんだかうまいことやってでき上がった、らしい。ファンが本気を出すとこうなる、という見本のようなすばらしい完成度である。

当日のダイジェスト

ではここで簡単に、イベント当日の様子をお伝えしよう。

まず放流賞は12ダムがノミネート。ノミネートと言っても、1年間に行われたすべてのダム放流をカバーなんてできないので、ダムファンの皆さんが撮った放流写真をかき集めて、珍しいものや迫力のあるものを選んだ。
こんな感じで写真を見ながらあーだこーだと
こんな感じで写真を見ながらあーだこーだと
その中で放流賞に選ばれたのは、水門の動作試験を兼ねながら、なんと6門あるクレストゲートを1門ずつ開け閉めして放流、最終的にすべての水門を一斉に開けて放流した、とてもファンサービス精神あふれる川治ダム(栃木県)。会場からも「これは行きたかったー」というため息あふれる貴重な放流シーンだった。僕も行きたかった!
放流賞は12ダムあったノミネートすべてに票が入っていた
放流賞は12ダムあったノミネートすべてに票が入っていた
続いてプレゼンが行われたイベント賞は5ダムがノミネート。ダムでイベントと聞いてもイメージが湧かないかも知れないけど、普段立ち入りできないダムの中や点検用通路などを見学できるイベントや建設中のダムの見学イベントのほか、一般の団体が企画した、ダムを使ったコスプレ撮影イベントなんてのもあってバラエティーに富んでいた。
ダム管理所公認で行われたコスプレイベント
ダム管理所公認で行われたコスプレイベント
その中でイベント賞に選ばれたのは、危険なため通行止めな場所以外はほぼ自由に好きなだけ観てまわることのできる、大解放DAYなるイベントを開催した小渋ダム(長野県)。通常、見学会は職員さんによる先導がついていて、ルートや時間が限られているのだけど、この日の小渋ダムはダムの上も下も中も、ほとんど自由に解放されていて、たとえば通常立ち入れない水門の真下に2、3時間佇んでダムを愛でる、といったことができたらしい(これも行けなかった)。平和な日本だからこそできるイベント、という気もするけどぜひ継続して、そしてほかのダムにも広がってほしい!
「この眺めを全て体験しよう。」とプレスリリースに書かれていたらしい
「この眺めを全て体験しよう。」とプレスリリースに書かれていたらしい
後半はぐっとアカデミックに、水を貯めたり流したりといった、ダムの実際のはたらきに対する部門で、まずは低水管理賞。名前は難しいけど、つまりダムに水を貯めておいて、日照り続きでも下流の飲み水や農業用の水が干上がらないように少しずつ流す、渇水と戦ったダムの部門だ。
グラフと数字で急にアカデミックなプレゼンに
グラフと数字で急にアカデミックなプレゼンに
ここでノミネートされた6ダムの中から受賞したのは、ほぼ毎年洪水や渇水と戦っている早明浦ダム(高知県)。四国のいのち、という異名もあるほどで、このダムがなかったら四国4県は干上がっていたかも知れない、という活躍がプレゼンされ、堂々の受賞となった。

最後のプレゼンは、ダムのはたらきの中でも派手で花形と言える洪水調節賞。大雨が降ったとき、下流の川があふれないようにコントロールする役割である。
何と言っても台風18号がすごかった
何と言っても台風18号がすごかった
例年と比べても多くの台風がやって来た中、受賞したのは限界プラスアルファまで水を貯め、下流にある京都の街の洪水被害を最小限に抑えた日吉ダム(京都府)。その活躍の模様はダム好きだけじゃない多くの人がリアルタイムにインターネットでシェアしていた。
プレゼン聞けば日吉ダムのはたらきを示すこのグラフがいかに凄いのかが分かる
プレゼン聞けば日吉ダムのはたらきを示すこのグラフがいかに凄いのかが分かる
最後に、この日ノミネートされプレゼンした全ダムの中から1ヶ所、もっとも記憶に残る活躍したと思われるダムに投票してもらい、ダム大賞を決定した。ちなみに各賞の集計は選考委員が別室で行い、結果の書かれた紙を封筒に入れて壇上に届け、わざわざ封筒をハサミで切って受賞ダムを読み上げる、という演出を入れたんだけど、実はこれが意外と緊張感を出した。
緊張の瞬間、さて日本ダムアワード2013ダム大賞は!?
緊張の瞬間、さて日本ダムアワード2013ダム大賞は!?
ダム大賞を受賞したのは洪水調節賞も獲得した日吉ダムだった。やっぱり効果が分かりやすい洪水調節、しかも過去十数年を見渡してもとびきり強力な台風相手の戦いが印象的だった。
がんばった、超がんばった日吉ダム
がんばった、超がんばった日吉ダム
というわけで日本ダムアワード2013は大盛り上がりのうちに幕を閉じた。初めてのイベントの割には大成功だったと言えるだろう。

でも、トロフィーを渡さなければイベントは終わらない。本来ならノミネートされたダムの関係者を招待して、その場で授与式、となるのだろうけど、なにしろファンイベントである。予算の都合でそこまではできなかった(呼ばれても困るだろう、とも思う)。そこで、直接届けに行くことにしたのだ。
直接お届けします!
直接お届けします!
そしたら、これが、大変なことになったのだ。
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公認された!

実はこのダムアワード、あくまでファンが勝手に企画したイベント、ということで、ダムの関係者の方々には事前に内容を説明していなかった。だから突然ダムアワード大賞受賞!などと言っても意味が分からないだろうなあ、どうやって説明しようか、と悩んでいた。

そしたら、イベントが終わった直後、大賞を受賞した日吉ダムを管理する水資源機構の公式Twitterがこんなツイートを出したのだ。
これ公式Twitterだよ!?
これ公式Twitterだよ!?
まだ何も説明していないのに、既に公式で「日本ダムアワード」という言葉がふつうに使われていた。お嬢さんをください、と挨拶に行こうと思ったら親戚中に顔と名前が知られていたような驚きと戸惑いである。

しかし、いちおう日吉ダムには「日本ダムアワードというイベントを勝手に開催しまして、日吉ダムが受賞しまして、トロフィーを作ったのでよければ受け取っていただけませんか」というような遠回しに丁寧なメールを書いた。すると「ぜひ喜んで!」というお返事をいただいた。そして、そのメールには続けて、管理所長さんが直々にトロフィーを受け取ってくれる、新聞、テレビ、業界誌の取材が入る、地元のゆるキャラが駆けつけてくれる、などと書かれていた。

さあ、大変なことになった。

予想もしないほどおおごとになり心細かったので、ダムファンの友人たちにも声をかけたところ、平日にも関わらず関東から関西まで、14人ものダム好きが集まった。

直接お届けへ

あいにくの雪の降る中、日吉ダムの皆さんは暖かく迎えてくれ、まさに受賞理由となった台風18号との戦いの操作が行われた部屋で、トロフィーの授与式が行われた。
当日、操作室に行くとこれがいた
当日、操作室に行くとこれがいた
というわけで所長さんと地元のゆるキャラ「ゆっぴー」にトロフィー授与ー!(撮影:星野夕陽)
というわけで所長さんと地元のゆるキャラ「ゆっぴー」にトロフィー授与ー!(撮影:星野夕陽)
上の写真の後ろはこんなことに(撮影:星野夕陽)
上の写真の後ろはこんなことに(撮影:星野夕陽)
その後、グラフからだけでは見えない、具体的にどんな戦いが行われたのかを当時操作していた職員さんに直接説明(これが淡々としていて超かっこよかった)してもらったり、下流に流す水をコントロールしていた水門を間近で見せてもらったりして、解散になった。
実際に台風と戦った日に操作をしていた職員さんの説明は胸に迫る
実際に台風と戦った日に操作をしていた職員さんの説明は胸に迫る
下流への水の流れをコントロールしていたダムの中の水門
下流への水の流れをコントロールしていたダムの中の水門
堤体にうっすらとついた茶色い跡(矢印のへん)くらいまで水を貯めたとのこと
堤体にうっすらとついた茶色い跡(矢印のへん)くらいまで水を貯めたとのこと
というわけで、日本ダムアワードは無事に2013年の大賞授与が終わり、いつの間にかダム関係者も知るイベントとなっていた。

あくまでダムは防災インフラだから、できればダムアワードの受賞ダムがないような平穏な天気が続くことが望ましいのだけど、きっとそうも言っていられないので、今後も年末の風物詩として続けていきたいと思う。

そして、せっかくカルカルでお世話になっていながらこんなこと言うのもどうかと思うけど、いずれはニューオータニの鳳凰の間でド派手に開催したいと思っている。

予想もしないおおごとに

というわけで、ある日のふとしたTwitterのつぶやきから、地方のゆるキャラまでが出動する騒ぎになった一部始終を書いてみた。

ダムの中の皆さんには今年も無事な管理をお願いするいっぽう、放流賞やイベント賞ではぜひアグレッシブな挑戦をお願いしたい。

また、台風をはじめとした自然の皆さんにはお手柔らかに、でもダムがそこそこ活躍するスリリングな気象状況をお願いしたいと思っています。
ゆっぴーは今治のバリィさんに激似かと思ったけど画像検索したらけっこう違った
ゆっぴーは今治のバリィさんに激似かと思ったけど画像検索したらけっこう違った
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