特集 2011年8月8日

現実世界ダンジョンは地下何階まで行けるのか?

あなたともつながっている地下5階
あなたともつながっている地下5階
「ドラゴンクエスト」などのロールプレイングゲームにおいて、冒険の舞台として存在するダンジョン。ゲームの世界では、敵を倒しながらどんどん下の階へと進んでいくとボスキャラがいたりする。

フィクションの世界では地下深くまであるダンジョン。現実世界でも、例えばデパートの地下なら2階くらいまでは普通にある。では、実際に行ける地階として、現実に存在するのは何階くらいまでなのだろうか。

そしてそこは、一体どんな場所なのだろうか。できるだけ深い地階を求めて、現実を探検してみた。
1973年東京生まれ。今は埼玉県暮らし。写真は勝手にキャベツ太郎になったときのもので、こういう髪型というわけではなく、脳がむき出しになってるわけでもありません。→「俺がキャベツ太郎だ!」

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浅い地階にも意外性を求めて

できるだけ深い地階を探す、ちょっとした都市の冒険。一気に最深階を目指すのではなく、地上からだんだん下がって 様々な地下を巡ってみることにしたい。
上にも伸びてるけど地下も発達した東京駅
上にも伸びてるけど地下も発達した東京駅
もちろん、地下3階くらいまではざらにあるので、浅い階では冒険気分を出すためにも、できるだけ意外性を求めていくことにしよう。まずやってきたのは、東京駅の八重洲口だ。

ここに大きな地下商店街があるのはよく知られている。すでに有名なそこに、知られざる何かを発見できないだろうか。
階段を下りる効果音を心の中で流して
階段を下りる効果音を心の中で流して
マップがダンジョンっぽくてうれしい
マップがダンジョンっぽくてうれしい
ゲームと違って明るい地下1階
ゲームと違って明るい地下1階
パン食べ放題、発見
パン食べ放題、発見
これまで何度も歩いたことのある八重洲地下街だが、改めて地図を見るとゲームのダンジョンのような形をしていて冒険気分が盛り上がる。ただ、薄暗いゲームのダンジョンとは異なり、とても明るい。

発見したのは、パン専門店が行っているパンのランチビュッフェ。カツサンドやフルーツの乗ったパンなど、かなりの種類があるらしい。これは魅力的だ。

ただ、これってあんまり地下探検気分にはそぐわない。冒険物語の主人公がパン食べ放題って、なんだかまぬけな響きがある。
実は存在する地下2階
実は存在する地下2階
地下1階とは異なる雰囲気
地下1階とは異なる雰囲気
東京駅八重洲口の地下街はかなりキラキラした商店街であるわけだが、地下2階があるのはあまり知られていないのではないか。下りてみると、そこは地下1階とは違って地味な雰囲気。

あるのは歯科医院や会議室といったもの。知っている人以外はわざわざ下りてこないような、隠しフロア的なムードが漂っている。
さらに下へと続く階段が
さらに下へと続く階段が
そして、地下2階からさらに下へと続く階段が存在する。細くてやや薄暗いその先には、一体何があるのだろうか。この感じ、いよいよ冒険っぽくなってきた。
ドキドキします
ドキドキします
開かない!それがむしろうれしい!
開かない!それがむしろうれしい!
下りた先の扉には進入禁止の標識の紙が。「この扉からは入れません」「進入できません」と、念を押すように書いてある。

しかし、よくあるような従業員専用の通用口というわけでもなさそうなこの扉。小さく青い字で書いてある文をよく見ると、「首都高速降車場出口専用です」とある。

つまり、扉の向こうには高速道路があるというわけか。駐車場を経由せず、地下街 と歩道で直結していた首都高。降車場はそこで車を降りた人が地下街に入るためにあるようで、逆にここから入って車に乗ることはできないらしい。ドアは一方通行 、ノブに手をかけても回らず、開けることができない。
逆側からダンジョンを目指す
逆側からダンジョンを目指す
ならば、反対から回ってみたくなるというもの。日を改めて、車に乗って高速道路側から訪れてみることにした。
駐車場の表示を慎重に左に入っていく
駐車場の表示を慎重に左に入っていく
こんなところ、あったんだ
こんなところ、あったんだ
例の地下3階とは、首都高速道路の八重洲線というルートからつながっている。本線から左に逸れて八重洲の地下にある駐車場に入り、その 駐車場の入り口をスルーしたところに、ひっそりと「乗客降り口」はある。

ちなみに駐車場からも地下街には行けるのだが、この場合は一度首都高を出たことになる。乗客降り口の場合は出たことにならない点が違う。

つまり、高速料金一回分だけで東京駅や周辺施設を利用する人を送ることができるわけだ。知っている人だけが使えるちょっとした裏技のようで、そういう要素はゲームっぽくもある。
確かに八重洲の地下街に行けるらしい
確かに八重洲の地下街に行けるらしい
戻れないことをグイグイ押してくる
戻れないことをグイグイ押してくる
薄暗かったりドアが一方通行だったりするのも、ゲームのダンジョン風。一度出たら戻れないことを警告する表示がいくつもあり、ただならぬ雰囲気も感じられる。

こちら側からは扉が動くはずだ。ノブに手をかけて開けてみる。
この間の階段を下から見上げたところ
この間の階段を下から見上げたところ
おお、しっかり開いたぞ。先日訪れたときに見た階段が確かにある。このまま上って行きたくもなるが、手を離してドアが閉まったら大変なことになる。停めてある車に戻れない。

そういうドキドキ感も楽しい。なかなかのダンジョン気分を味わえる地下3階だ。
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地下4階の神殿、そして誰もが知ってるはずの地下5階

地下3階まで進んできた、都会のダンジョン探訪。今回の探索ではできるだけ様々なところを訪れたいと思っているのだが、もう1階分だけ東京駅を探検したい。
構内へと入ります
構内へと入ります
人でいっぱいの東京駅
人でいっぱいの東京駅
先ほどまでは八重洲の地下街を探索していたが、今度は駅に入っていく。入場券を買って構内へと進んで行こう。

その名も示す通り、東京を代表する駅の一つだけあってさすがに構内は混雑している。店やレストランもたくさん並んでいて、駅というよりはちょっとした街のようですらある。さあ、地下へと潜っていこう。
エレベータがあってゲームより便利
エレベータがあってゲームより便利
東京駅はかなりの路線が乗り入れているだけあって、その全貌はまさにダンジョンのように入り組んでいる。地階も複雑に構成されているのだが、その中から訪れたのは総武線ホームの一つ上にある地下4階。

エレベータから降りて、様子を探ってみる。
人がいない…
人がいない…
急に中ボスが出現したりしないだろうか
急に中ボスが出現したりしないだろうか
総武線への連絡通路として存在しているらしいこの地下4階。タイミングにもよるのだろうが、人がほとんどいない。

こんな風に突然だだっ広くなっている階、ゲームのダンジョンでもあった 気がする。丸くて太い柱は神殿のようでもあり、静かにそれっぽさをにじませる。

さて、ここまで地下4階まで東京駅近辺を探検してみた。次の地下5階は、別の場所を探ってみたい。

親しみやすそうに見えてハードな仕掛けが
親しみやすそうに見えてハードな仕掛けが
最下階の下にある管に注目
最下階の下にある管に注目
やってきたのは小平市に「ふれあい下水道館」。その名の通り、下水道とふれあえる施設だ。

さらっと書いたが、特に「ふれあい」の部分が本気。この施設には地下5階まであるのだが、そのフロアは現役本物の下水管と つながっていて、その中に直接入ることができるのだ。(どうしてもそういう話題になってしまうので、パスしたい方は次ページへどうぞ)

展示スペースは建物を入って上階に進むのではなく、どんどん地下に潜っていく各フロアにある。そちらも見てみよう。
入り口のドアの張り紙、最後の行から本気がわかる
入り口のドアの張り紙、最後の行から本気がわかる
しっかり勉強できそうな展示が充実
しっかり勉強できそうな展示が充実
そうかと思えばシュールな雰囲気も
そうかと思えばシュールな雰囲気も
何枚も張ってあって買う気にさせられそう
何枚も張ってあって買う気にさせられそう
便器の断面モデルなど、身近なことながら普段はあまり意識しない下水道についての展示が盛りだくさんのこの施設。中にはその歴史について説明するコーナーもあった。
俺、7世紀末じゃやっていけないかも
俺、7世紀末じゃやっていけないかも
「(実物)」という但し書きに息を呑む
「(実物)」という但し書きに息を呑む
平安時代にはトイレットペーパーの代わりに木切れを使っていたとの話もあった。その名の通り平和で穏やかだったとされる平安時代だが、トイレのあとに使っていたのは木。実はハードな部分も持ち合わせていたのだ。

「籌木(ちゅうぎ)」というらしいそれは、実物も展示されていた。時が全てを洗い流してくれているのだろうが、使用前なのか使用済みなのかが気になる。
「Fureai」って単語知らないと思ったら「ふれあい」だった
「Fureai」って単語知らないと思ったら「ふれあい」だった
向こう側に大ボスがいそうな扉
向こう側に大ボスがいそうな扉
そして最下階である地下5階に到着。「ふれあい体験室」という柔らかい響きの言葉であるが、ふれあう対象はリアル下水管だ。防臭扉が設けられているのも、心の準備を促されているように思える。

この雰囲気に、ゲームの主人公のような気持ちにもさせられる。扉を開けて、進んでいってみよう。
いよいよ目的の地へ
いよいよ目的の地へ
かなりがっちりガードできる仕組みになっている
かなりがっちりガードできる仕組みになっている
そして本物さんご登場
そして本物さんご登場
何重かの扉で仕切れるようになっている向こう側に行くと、現役バリバリの下水管にすっぽりと入れる。管の横に穴を空けて、そこから橋を架け て渡れるような造りになっているのだ。

水量は少なく、管の底の部分をうっすらと流れる程度。ただ、その流れにじっくり視線を落としてよいものか戸惑いを覚える。

においの方は、まああれだ、本格的とでも言えばいいだろうか。
なぜか苦みばしったポーズ
なぜか苦みばしったポーズ
地下5階にあった「ふれあい体験室」。誰もが知っててお世話になっているけど、その実態を知らない世界があった。
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たどり着くのが大変なのが今回はうれしい

続いて目指すのは地下6階。以前利用したときのことを思い出した建物がある。
個人的には意味なく行きたくなる場所
個人的には意味なく行きたくなる場所
秋葉原にあるヨドバシAkibaだ。ご覧の通りかなり大きな建物で、地上も9階まである。いつだったか車で訪れたとき、ここの地下駐車場に入れ たらずいぶんグルグルと深く潜っていった覚えがある。
「B6」ってあんまり見ない表示
「B6」ってあんまり見ない表示
エレベータ上部にずらっと並んだBがかっこいい
エレベータ上部にずらっと並んだBがかっこいい
この建物、地下は駐車場になっているのだが、その深さが地下6階まで。広い土地を確保しづらく、車で訪れる客がたくさんいるという条件ゆえにこうなったのだろう。

今回は車ではなかったのだが、どんな様子か建物内を下りて見に行ってみよう。
あれ、地下4階以下が押せない
あれ、地下4階以下が押せない
エレベータに乗ったが、ボタンが反応するのは地下3階まで。訪れたのはたまたま平日の午後。なるほど、きっとこの時間帯は地下深くまで駐車場を開けるほどの利用がないので、このようになっているのだろう。

存在は確認できたものの、未踏となってしまった地下6階。残念だが、別の場所でさらにもう一つ下の地下7階を目指そう。

情けない顔の恐竜を見に行ったヒルズ
情けない顔の恐竜を見に行ったヒルズ
(深すぎるという)悪夢のダンジョン入り口
(深すぎるという)悪夢のダンジョン入り口
やってきたのは六本木。ここを通る地下鉄には日比谷線と大江戸線があるわけだが、比較的最近になってできた大江戸線は、どうしても他の路線より深く作らざるを得ない。

大江戸線が全体的に深いというのはよく言われることだが、ここ六本木駅はその中でも特に深い。
知らないで利用すると不安になる
知らないで利用すると不安になる
以前利用したときに、どんどん下に行ってもなかなかホームに辿り着かなくて驚いた覚えがある。本当にこれで道が合っているのか心配になる深さなのだ。

ただ、今回は深いところを探していっているので、階段やエスカレーターを継いでいくたびに「まだか!まだなのか!」と、うれしい気持ちになる。
異世界に続くかのようなエスカレーター
異世界に続くかのようなエスカレーター
その横の壁にあった深さ表記
その横の壁にあった深さ表記
電車を利用したくて使うときはイライラさせられるだろうが、今回はその深さに興奮。地下7階のホームへ続くエスカレーターはかなりの長さで、 上からだと到着点がとても小さく見える。

降りていく途中の壁には、地上からの深さを示すパネルが掲示してあった。早く電車に乗りたい人は「ふざけんな!」と思うような40mの表記。

今回の場合は、具体的な数字を実感できる貴重な表示。地下への冒険気分を盛り上げてくれるアイテムだ。
着いてしまうと拍子抜け
着いてしまうと拍子抜け
見慣れない表示がうれしい
見慣れない表示がうれしい
しかし、実際にホームに着いてしまうと、そこが深くにあるという実感は特に持てないこともあって、今ひとつ気持ちが盛り上がらない。言われなければ普通の地下鉄駅なのだ。

深いという物語は、やはり移動の途中にある。ここにはエレベーターでも辿り着けるようになっていて、ご覧の通り「B7」の表示もしっかり出てくる。

赤い点で構成された字が、「こんなに深くまで来たのか…」と、心地良く不安を煽ってくれる。普段は腹立たしくもある深さが、今日ばかりは 感慨深い。
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神々しささえ漂う最下階とは

できるだけ深い地階を求める今回の冒険も、いよいよ終わりに近づいてきた。六本木駅の「地下7階」というのも相当耳慣れないが、さらに下がある建造物があった。
右にチラッと隣に建つ議事堂が見える
右にチラッと隣に建つ議事堂が見える
注目はこの新館
注目はこの新館
それは千代田区永田町にある、国立国会図書館。国会議事堂の隣にある建物だ。

日本で出版された本はなんでも収蔵するというこの図書館。個人的には今回初めて訪れたが、基本的に18歳以上であれば誰でも利用できる。

建物は本館と新館があり、今回の探索の目的となるのは新館の方だ。
6階建ての本館
6階建ての本館
あまり高さのない新館
あまり高さのない新館
6階まである本館とは異なり、新館は高さが低い。しかし、逆に地下は深くまであり、階数としては六本木駅を上回る、いや下回る と言うべきなのか、地下8階まであるのだ。

国会図書館では基本的に自由に本を見られるわけではなく、注文した本を閉架式の書庫から職員に持ってきてもらって閲覧する方式。その書庫が地下8階にまで伸びているというのだ。

そうした形式のため、書庫には通常入ることはできないのだが、あらかじめ参観の申し込みをすれば見学できる。今回は申し込んで見に行ったというわけだ。
こういう掲示でドキドキするのはやめにしたい
こういう掲示でドキドキするのはやめにしたい
なお、国会図書館にはカメラの持ち込みは禁止。しかし参観の場合、一般利用部分ではカメラを出さないでおけば、書庫などの一般利用者がいない部分では撮影可能とのことだった。

担当の方に案内されて、まずは施設についてのビデオ鑑賞、続いて一般利用部分の見学を終えて、いよいよ書庫へと進む。
「B8」までしっかり刻まれている
「B8」までしっかり刻まれている
ついに今回の最下階へ到着
ついに今回の最下階へ到着
なぜ地上に建物を伸ばすのではなく地下に階を設けたのか尋ねたところ、その主な理由は景観上の問題だと教えてくれた。すぐ近くに国会議事堂や最高裁判所などの建物があるため、あまり高い建物は建てられないというわけなのだ。

なるほど、そういうことなのか。自分の予想としては資料の保管に地下の環境が適しているからだと思っていたので、少々意外な話だった。

さて、地下8階でエレベーターを降りる。まず案内された場所がこういう光景だった。
意外な展開を見せる地下8階
意外な展開を見せる地下8階
とてもそうは見えないと思うが、ここが今回到達した最下階である地下8階。「光庭」と呼ばれている吹き抜けの部分だ。

地下ダンジョンの最深部とは思えない明るさ。上に見えるのはガラス窓で、自然光がこの階にまで届くように設計されている。

この「光庭」、国会図書館のサイトによると、空気層が有効な断熱層として働くため、書庫内の温度・湿度の変化を小さくすることに役立っているそうだ。 また、職員の方の話によると、ここで働く方の精神衛生や、停電時の明るさを確保する意味もあるらしい。
実に不思議な雰囲気
実に不思議な雰囲気
壁面のテクスチャも面白い
壁面のテクスチャも面白い
斜めになってるところは階段
斜めになってるところは階段
途中まで上らせてもらった
途中まで上らせてもらった
深さ30mの地点にあるこの地下8階。実は大江戸線の六本木駅より浅いのだ。

書庫は通常のフロアと違い、棚にある本を取りやすくするために、あまり天井を高くしない設計となったそうだ。そういうわけでこれまでの最深地点ではないが、今回は「地下何階まで行けるか?」をテーマにしたため、ここが最下階となる。

そこは地下深くにありながら、天からの光が注ぐ場所。一見矛盾しているかのような状況に、神秘性さえ感じる場所だった。

古いアルバイト情報誌まで揃う書庫も見ごたえあり
古いアルバイト情報誌まで揃う書庫も見ごたえあり
現実世界でどこまで地階があるのか探してみた今回の試み。訪れてみるとそれぞれ特徴があって、ゲームの世界のダンジョン探検に劣らない面白さがあった。

最後に訪れた地下8階が意外な様相だったのも、ゲームのようなドラマ性。何か新しい視点があれば、現実世界もファンタジーの舞台のように見えてくるのかもしれない
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