値段はピンキリ
当初はここで記事にするつもりはなく、買ったそばから食べていたため、手元には5種類の缶詰しか残っていない。収集のためではなく、あくまで「味わう」のが目的なのだ。致し方あるまい。
ではまず、最近のサバの水煮缶がどういうことになっているのか、ちょっと一緒に見てみましょうか。
秋から冬にかけて獲れるサバは身が締まって脂肪が多く、 それを使っているから「限定品」なのだそう。334円。
ちなみに静岡の会社のものです。サバの絵がリアル。
こちらはどーんと迫力の370グラム。「手詰」とわざわざ 書いてあるということは、珍しいことなんでしょうか。
八戸で水揚げされたサバを使っているそう。420円。
こちらは三陸産のサバを使用。
そして塩は沖縄。静岡の工場の缶詰です。238円。
とろサーモン、とろサンマがあるなら、当然あっていい、 とろサバ。こちらも三陸沖。420円。
なんとワインビネガー入り!塩以外の調味料が使われているのは、これだけでした。
ご覧のように、ひとくちに「サバ缶」といっても、価格はピンキリである。その気になれば100円で済ませられるサバの缶詰に、400円だとか500円を払う価値は本当にあるのだろうか? と疑問に思う方もいることだろう。
次の缶詰なんて、貫禄の630円です。繰り返しますが630円ですよ。
町の食堂でサバ味噌煮定食くらいなら余裕で食べられる金 額じゃないか。
それにしても630円…。マクドナルドでセットが食べられ るぞ! 牛丼なら並が2杯以上だぞ!
あまりのことに、つい興奮してしまった。だって、たったの缶詰1個に630円ですよ!(しつこい)
いくらサバ缶に夢中だからといって、さすがにこれを買う時には勇気が要った。その分、食べるのが楽しみでもあるのだが、果たして中身はどんなことになっているのだろう。パッカン、とフタを開けてみた。
うわ、なんかもう見るからに脂ノリノリで、表面がキラキ ラ光ってるんですけど…
あまりの柔らかさに、取り出すだけでホロホロと崩れま す。うわー。うわー。
まずはそのまま食べてみた。こんなにしっとりした水煮は 初めて。もはやジューシーと言っていいレベル。
ちょっとレンジでチンしてからネギを散らし、ポン酢をか けてみた。
思った以上に、味に値段が反映されている。確かに脂ののりっぷりがスゴイ。そして、その脂の上品なこと!
この缶の漬け汁をお湯でのばしただけで、上等なお吸い物ができるのでは…? と思えるほど、臭みはまったくない上、脂に若干の甘さも感じられる。
しかし、ここまで脂がのってると、自分の身から出た脂で煮た「魚版コンフィ」と言ってしまっていいのではあるまいか。とにかくうま味がとんでもない。
う…うまい…。ひとくち食べるごとに、後頭部を何かでぶん殴られてるような衝撃が走る。いや本当に。
これはすごい…。たまらん…。
そもそも、このサバには微塵の臭みも存在しないため、臭み消し用のネギも、脂のくどさを包み込む目的のポン酢も、それぞれ本来の役割を果たすことなく、ただサバのうま味を助長するためだけに存在している。その潔さがうまい。ナイスアシストぶりが美しい。
このひとくちを簡潔に言い表すとするなら「脂と酸味と香り」であろうか。これほど完璧な食べ物が世の中に存在したとは。こんな幸せな関係、ちょっと見たことない。
中骨ももちろんクシュッとほぐれます。ああもう。
しかし、である。「やっぱり所詮、缶詰じゃないの?」と言いたい気持ちも実は少しあるのだ。
なにも630円も出さずとも、自分で新鮮なサバを買ってきて柔らかくなるまで煮たら、缶詰の水煮を上回る逸品が出来てしまうのではないか?
というわけで、サバの水煮を自作することにした。
レシピなし
ある程度予想はしていたが、ネットで「サバの水煮 レシピ」と検索したところで、出てくるのは缶詰を利用した料理ばかり…。
だいたい水煮ってなんなんだ。普通は味噌煮とか醤油煮とか調味料の名前が付くべきところを、なぜ水なのだ。あえて言うなら塩煮だろう。
ブツブツと文句を言いつつ、会社の昼休みにデパートの鮮 魚コーナーへ立ち寄り、
朝獲れたばかりの神奈川から来たサバを購入。
獲れたてのゴマサバ、一尾480円。缶詰より安いぞ
保冷バッグに入れて帰宅、さっそく調理へ。
「サバの生き腐れ」という言葉もあるだけに、買ってきたサバはとっとと調理するに限る。
しかし、魚を丸ごと一尾を調理するなんて、ずいぶん久しぶりだ。
まだ元気(?)そうで安心しました。
缶詰の水煮を思い出して、豪快にブスブスと切っていきま す。
もう一尾買ってきて、そっちはしめ鯖にでもすれば良かっ たか…と思ったほど鮮度バツグン。
そして秘密兵器登場。嬉しすぎて笑いが止まりません。
なんと義母が「これがあったら便利よー」と圧力鍋を贈ってくれたのだ。これでサバを煮たら、缶詰の物のように骨までホロリと崩れてくれるに違いない。
問題は、味付けだ。
どの缶詰にも、これしか書いてない。
ならば、その通りにするまでよ。
かぶるくらいの水に、塩を適当に入れてみた。
サバの表面に熱湯をサッとかけてみたが、もしかしたら必要ではなかったかもしれない。これだけ鮮度がいいのだし、次に作る時は省略しよう。
そんなこんなで、いまいち確信が持てないままではあるが、恐る恐る点火してみた。
フタの上に乗せたおもりが激しく振動したら、火を弱める のだそうですよ。おもしろい。
もう、この時点でニヤつきが止まらなかった。鍋から、とてつもなくいい匂いがするのだ。サバって、こんな匂いがするんだ…と驚くほどのいい匂いである。
弱火にして30分ほど放置したのち火を止めた。すぐにでも鍋の中身を確認したいところだが、圧力が低下するまで待たなければならない。
もどかしい思いで待つことしばし。「フタ開けていいよ」 のサインが出たので、恐る恐るフタをとってみると…
あ、これサバの水煮じゃないですか。
中には、缶詰でさんざん見慣れた水煮が入っていた。とりあえず、見た目は合格といっていいのではないか。
この鍋から発せられる匂いを、どう言っていいのか分からないが、あえて表現するとしたら「しあわせの匂い」が一番近いような気がする。ほわほわと優しい香りだ。
そしてスープのおいしいことと言ったら! 黄金色に染まった透明なスープの上品なうま味には、本当に驚かされた。
思わず「わー、本物みたい」という、意味不明なことを言 っていた。気持ち、分かってくれますか。
見事なまでにホロホロです! 骨もこの通り!
なんたって出来たてなのだ。レンジでチンなんてしなくても、まだ温かいのだ。
身は柔らかく、そして…
う、うまい!
これはまさしくサバの水煮です! 高級なサバ缶にも負けない水煮です!
魚はやっぱり鮮度が命なんだな…と思わずにはいられなかった。それにしても本当においしい。「缶詰みたいでおいしい」っていうのも変な言い方であるが、その通りなのだから仕方がない。
やっぱりこれも、ネギとポン酢で食べてみよう
…クーッ!(たまらずビールに手が伸びました)
「もう一尾買ってきたら、しめ鯖にすればよかった」と思ったのを訂正して「全部丸ごと水煮にしたい!」と思ったのは言うまでもない。
いやー、それにしても本当にうまい。たとえ圧力鍋がなくとも、新鮮なサバが手に入ったら、塩水で煮ることを強くオススメしたい。
思わず「クーッ!」って言いたくなりますよ。
寒くなったらまたやりたい
確かにおいしかった。おいしかったが、本物(高級サバ缶)とは決定的な違いがひとつある。お分かりだろうか。そう、脂の量だ。
自作の水煮は、ちょっと中がパサつくところがあるのだ。口の中でモソモソするというか、「あーこの感触、安いサバ缶で食べたことあるかも」と思ってしまったというか。
こうなったら、脂をたっぷり溜め込んだ秋~冬のサバを是非とも入手して、また水煮を自作してみるしかないだろう。ああ、寒くなるのが今からとても楽しみだ。
足りない脂は、
油専門店の油で補えばいいだけの話です。 (レモン風味の油をかけたらものすごくおいしくなった)