「すき焼きを食べたい」と思い続けて15年の友だち
今回、一緒にすき焼きを食べに行ってもらうことにしたのはハヤトさんという友人である。
デイリーポータルZの取材にも何度か協力してくれている人で、過去に書いた「友達の家でもなく、本当の店でもない「ひとんち酒場」が楽しい」という記事では、晩御飯には豆腐だけを食べているという食生活について語ってくれた。
そのハヤトさんがすき焼きを食べたのは15年前だという。現在33歳になるハヤトさんはその時、実家の岡山に暮らす高校生で、母親がすき焼きを作ってくれた。その後、お母さんはご病気で亡くなられ、ハヤトさんも高校卒業と同時に実家を離れて一人暮らしを続けているため、すき焼きを食べる機会が全然なかったんだそうだ。
「すき焼きを食べに行きませんか!」とお声がけしたところ「まじすか!行きます!」と二つ返事で取材を了承してくれた。休日の昼、大阪メトロの谷町六丁目駅で待ち合わせた。


すき焼きを食べに行くお店は「きよ助」さん。お店の中に入ると席が空くのを待っている人がいるような人気店である。

店内の椅子に腰かけて順番を待ちながら、早速ハヤトさんに話を聞く。

――すき焼き久しぶりなんですよね?
食べてないっすね。高校卒業して、15年ぐらい食べてないです。
――そんなに!
食べる機会なくないですか!?一人暮らしで、しないし。
――たしかに。なんか特別な時の感じですよね。お正月とかお盆は……
ずっと実家帰ってないっすからね。
――なるほど、そうなると食べるタイミングがないか。
僕、村上春樹の『ノルウェイの森』が大好きで年に一回は必ず読み返すんですけど、最後にすき焼きのシーンが出てくるんですよ。ビール飲みながらすき焼き食べてて、その描写がよくて、それを読んでると「めっちゃすき焼き食いてー!」ってなるんですよ。だから年に一回は必ず食べたくなるんすよ。
――ははは。昔に読んだ気がするけど、そんなシーンありましたっけ。
なんで覚えてないんですか!最後の大事なシーンに出てくるんですよ。村上春樹はすき焼きが好きらしいんですけど、奥さんが「5年に1回食べるぐらいでいい」って言ってるから5年に1回しか食べられないらしいんですよ。僕なんか15年ですよ!
――それはかなりだなー!
だからめっちゃテンションあがってる。昨日の夜からなんも食べてないですよ。胃を調整してきたからね。ヨーグルト飲んで。っていうか、生卵自体、久々なんですよ。
――ははは。そうかー。たしかに日常に生卵のチャンスってあんまりないかも。
(お店の方)「お次は二名様ですか?テーブル席でしたらすぐにご案内できます」
――はい!テーブル席で大丈夫です!
ガスの匂いがもう嬉しい
(お店の方)「今日のランチはすき焼きだけなんですけどよろしいでしょうか。“梅”の方でよろしいでしょうか。特撰のお肉もご用意してございますが」
――梅は一人前2500円で、特撰が4500円か……。特撰でお願いします!生ビールも2つお願いします!
いいの!?本当にいいの!?
――だって、せっかくじゃないですかもう。


(お店の方が野菜などの入った鍋を持ってきてガス台に点火してくれた)
うおお、ガスの匂いだ!ガスの匂いが久々だから嬉しいです!

――それはなかなかないですね。そうか、普段料理しないですもんね。
うおおー!!うおおーー!やっべー!!玉子が二つだー!ええー!!

――ははは。落ち着きましょう。まだお肉来てないですから。でも自分もこんな風にすき焼き食べるのすごく久々な気がします。
野菜の時点で贅沢過ぎる!大丈夫!?やっべー!!


――よし、乾杯しましょう。

うおお。生ビール、うっめー!!
(お店の方がお肉を運んできてくれる)「鍋が湧いてきましたらお肉を入れてくださいませー。大根おろしをつけるとあっさりしたお味になりますので、そちらもよろしかったらどうぞ」

うおおお!すごい!これ、肉、やばくない!?こんなカーペットがあって欲しい。

絹豆腐と木綿豆腐を交互に……
――明らかに美味しそうなお肉ですね。楽しみ!ちなみに最近のハヤトさんは何を食べていましたか?
豆腐ですよ。
――そうか。そこは変わらずなんですね。豆腐一丁だけ?
そうそう。絹と木綿と交互に。
――日替わりなんだ。
交互に食べてるんだけど、僕は昔は絹の方が好きだったんですよ。だけど最近、木綿の方が断然好きになってきて、だから、絹の日はテンション下がるんですよ。
――ははは。
木綿の日は。「今日は木綿の日だ!」って仕事中もテンション上がるんだけど、絹の日は「今日、絹かよ……」って。
――面白い。別に毎日が木綿でいいじゃないですか。
そこは、交互に食べるって決めちゃってるから。
――ははは。知らねー!半分ずつにしたらどうですか?
え、何、ハーフ&ハーフ?それはダメでしょう。
――よし、鍋がグツグツしてきたので一旦豆腐のことは忘れてお肉を食べよう。

いいの!?いただきます!玉子、こんなにたっぷりつけていいの!?
――いいと思います。





グフフフ。はははははは!これだよー!15年ぶりだよ!うっわー!米もうめえ!米がうめえ!はははは!冗談抜きでうめえ!
――うわ!本当だ。めちゃくちゃ美味しいお肉だ!うっまー!!
だよね!うわ、野菜もうっめー!
――これはちょっと、感動ですね。
大根おろしもつけてみよう。こうしてこうして、うめえー!米がうめえー!


――そうそう。ご飯がそもそも美味しい。最高ですね。いやー。

15年前に家族で食べたすき焼きの話
――15年前のすき焼きはどんなものだったんですか?
家で、フライパンでやりました。母親が台所で作ったのを鍋敷きの上にドーンって置いて。
――それはご家族みんなで?
うち家族揃うことがほとんどなかったんですよ。父親の仕事が帰り遅かったから、その時も父親はいなかったね。母親と僕と兄貴と弟の4人だね。父親は帰ってきてから後で食べてたんだと思う。
――それはなんか特別な日だったんですかね?
うーん。なんもないと思う。父親の給料日だったのかな。
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