シマウマの缶詰で自粛生活に花を添えよう
シマウマを缶詰にしてしまうとはたいしたものだ。例えるなら「スーパーで買い物をしたらレジ打ちがモーガン・フリーマンだった」くらいの衝撃だ。そんなことが許されるのだから驚きである。
珍しいものをもらった興奮が収まると、すぐに食べてしまうのはもったいないような気がしてきた。なんせシマウマだ。しかるべき、ベストなタイミングで味わい尽くしてやるべきだろう。
はて、一体どういう時にシマウマを食べたい気分になるものだろうか?と思ったが、答えが出なかったのでしばらく置いておくことにした。なあに、相手は缶詰なのだ。その気になるまでじっくりと待てばよい。
いったん放置し始めるとつい放置しすぎてしまうのが悪い癖で、結局2年もほったらかしてしまった。そのうち時代は令和へと移り、やがてコロナウイルスの流行で自粛自粛の世の中に。自室で完結する娯楽が奨励される今こそ、シマウマのような珍味にふさわしいだろうと思って、埃をかぶった缶詰を引っ張り出してきた。
産地は南アフリカ
ハーブとワインで味付けされて、おしゃれなデザインの缶に詰められている。量も多くはない。さしもの南アフリカでも、シマウマは珍味の枠に入れられているのだろう。
African Savannah Products(アフリカン・サバンナ・プロダクツ)という会社が作っているようだ。検索してみたら、ホームページが出てきた。
AFRICAN SAVANNAH PRODUCTS
シマウマの他にはクーズー、ヌー、インパラ、スプリングボック、ダチョウ、クロコダイル
などなどをせっせと缶詰にしているというから驚きだ。まさにサバンナの何ふさわしいラインナップ。お客はライオンの一家かしら?
材料は天然物なのだろうか?だとしたらどうやって捕まえてくるのか?他の動物も試してみて、その上で今のラインナップになったのか?だとしたら決め手は味だったのか?興味は尽きないがそろそろ缶詰を開けてみることにしよう。
開封する
味が濃そうなのでリッツと一緒に食べてみることに。
気になる味やいかに。
サバンナ生まれとは思えないほどクセがなくて上品な味
ふんわりとしたクセのない味で、ローズマリーの香味も合わさりとても美味しい。なんなら、もうちょっと我を出してこっちをギョッとさせてくれてもいいんだよ?と言ってあげたくなるくらい、フラットな美味しさだ。
馬肉はそもそも牛肉や豚肉と比べるとクセのない味だから、親戚のシマウマも無難な味なのかもしれない。それか、業者が気を使ってローズマリーやワインで巧みに万人受けする味に調節しているかだ。そこのところはわからない。
シマウマの缶詰は美味しかった。美味しかったけれど、たぶんというかやはりというか、製品化にあたって毒気を抜かれた感は否めない。どうせなら、シマウマの肉の味をもっとストレートに味わってみたい。
シマウマの缶詰を食べて楽しかったのは束の間、あとにはさらなる欲求不満が残ったのだった。
珍しい食べ物を夢見て
以前、頻繁にアフリカに通う生物の教員から聞いた話。
アフリカの、特に政府の統治が完璧には及んでいない地域では、今も野生動物の肉を並べた闇市が出ることが珍しくないそうだ。
飢饉や戦争で食料が足りない地域ではその傾向はますます激しくなる。ウシやウマに近い四足獣を狩るだけでは追いつかない場合は徐々に類人猿にまで食指が伸び始める......なんだかホラーな話に聞こえなくもないが、世界には私の知らないあんなものやこんなものを食べて暮らしている人がたくさんいるのは間違いない。
そう考えるだけでワクワクするのである。