特集 2021年4月6日

ナイフとフォークで食べるおにぎりのことを考える

考えましょう

ナイフとフォークで食べるハンバーガーのことを考えていた。あの過剰さ、あのワイルドさ。

もともと手で食べるために考えられたものなのに、たくさん食べたい、いっぱいいっぱい挟みたいという願望が優って、一番のアイデンティティを手放した恰好である。

あれがおにぎりに起こるとどうなるんだろう。

1987年東京出身。会社員。ハンバーグやカレーやチキンライスなどが好物なので、舌が子供すぎやしないかと心配になるときがある。だがコーヒーはブラックでも飲める。動画インタビュー

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ナイフとフォークで食べるハンバーガー

愛嬌があってすごくいい。『憧れの芸能人に会えるチャンスなのに好きすぎて会いたくない』という主張に似てる。似てるかな…? いや、似てる。似てると思うのだ。ある要素が過剰になりすぎて、そもそもの部分を捨てちゃってるのだ。

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こういうハンバーガー。これ以外にも、何も過剰じゃないのに上品に食器で食べるハンバーガーもあるし、逆にすごく大きいのに手でギュッとやってかじりつくハンバーガーもある。しかし、今回は上のイラストのようなハンバーガーのことを考えます。

このハンバーガーのように『もともと手で食べるものなのに、他の要素が大きくなりすぎた結果、手で食べることを諦めた』という状況が他の食べ物にも起こったっていいんじゃなかろうか。例えばおにぎりとか。

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コンビニおにぎりをナイフとフォークで食べてみる

『ナイフとフォークで食べるおにぎり』のことを考えたいのだ。おにぎりに何かが起こってナイフとフォークで食べるしかなくなった時、そこにあるのはどんなおにぎりなのか。そしてハンバーガーの時のようなワイルドさはそこにあるのか。それを考えたい。

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こんな感じである。「?」の部分を考える。
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始めるにあたって、コンビニの普通のおにぎりをナイフとフォークで食べてみる。具は梅のり佃煮です。おいしそうだったので。
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食べるぞ。
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ギュムッ
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パク…

「ギュムッ」となった。海苔はナイフで切りにくい。ちぎるようにして一口大にしたが、そこに道具を使う心地よさがないのだ。おにぎりにもナイフにも申し訳ない。ナイフとフォークで食べるおにぎりには海苔は巻いていない、ということがわかった。

ナイフとフォークで食べるおにぎりへの道①
・切りにくいので海苔は巻かない
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海苔のパリッとした食感が恋しくなって途中から手で食べた。おいしかった。

やはりそのままでは『ナイフとフォークで食べるおにぎり』ではないのだ。

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具を乗せたおにぎり

ここから何か工夫をして、食器で食べざるを得ないおにぎりを考えてみよう。

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こうしてみた。過剰なツナマヨ。

具が多すぎて上に乗せちゃいましたというおにぎり。

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なんかおしゃれだ。

薄味に作ったツナマヨなのでたくさん乗っていても全然くどくなくておいしかった。ナイフとフォークを使う理由もある。

ただ、これは果たしておにぎりと呼んでいいのだろうかという疑問がずっとあった。カナッペ(クラッカーにチーズとかが乗っているきれいなやつ)なんじゃないか。カナッペの、クラッカーの部分がご飯になったやつ、のすごく大きいやつじゃないかこれは。ナイフとフォークで食べるご飯のカナッペなんじゃないか。

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カナッペ(写真:写真AC

よく考えてみるとカナッペからも距離があるが、きっとおしゃれな雰囲気がそう思わせるんだろう。『ナイフとフォークで食べるおにぎり』にはもっとワイルドであってほしい。

ナイフとフォークで食べるおにぎりへの道②
・ナイフとフォークでおしゃれな雰囲気が出やすくなっているが、そこに勝てるぐらいのワイルドさが欲しい

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ワイルドへ

もっとワイルドな方に振ってみよう。

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振った。
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ワイルド(wild):荒々しく力強いさま。(出典:デジタル大辞泉)

おにぎりでシャケの切り身を挟んだ。すごくいい。こういうことなんじゃないか。

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見たことない絵面って合成っぽくなりますよね。

ワイルドだ。シャケをいっぱい食べたいという気持ちが溢れている。積みすぎて倒れそうなハンバーガーと同じだ。

ナイフとフォークで食べるシャケは食べにくかったが、食べやすさはそこまで問題じゃなかった。むしろちょっと食べにくいぐらいがいいのだ。ハンバーガーだって食べにくいぐらい大きくしたりたくさん挟んだりしてる。

ナイフとフォークで食べるおにぎりへの道③
・やはりワイルドさだ。気持ちが溢れた様子を形にするんだ

ただ一つ腑に落ちなかったのは、これってライスバーガーなんじゃないか、ということだ。挟む、という要素があるだけですごくハンバーガーっぽい。おにぎりにしかないゴールというものが他にあるんじゃないだろうか。

ナイフとフォークで食べるおにぎりへの道④
・ハンバーガーにはできない、おにぎりならではのゴールを探そう

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こうしたら、よりおにぎりだったかもしれない。
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おにぎりそのものを重ねる

おにぎり、シャケ、おにぎりと重ねるからライスバーガーっぽいのかもしれない。おにぎり、おにぎり、おにぎりを重ねたらどうだろう。そこにおにぎりしかいなかったら、いくら重ねてもハンバーガーとは言えないんじゃないか。

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どうかな。
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ソーセージおにぎり、赤飯おにぎり、チャーハンおにぎりを縦に重ねた。
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ハンバーガーっぽくはないが、おにぎりっぽくもないな。
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ギュムッ

赤飯おにぎりに弾力があり切りづらく、下のソーセージおにぎりのご飯がつぶれてしまった。おにぎりを重ねる時は赤飯おにぎりを一番下にした方がいい。なんてどうでもいい情報なんだ。

そしてやはりおにぎりらしさがなかったように思う。「おにぎりしかないから重ねてもハンバーガーじゃありませんー」という屁理屈がみみっちくて全然ワイルドじゃない。対極と言ってもいい。

味は、チャーハンの味と赤飯の食感とソーセージが口の中を程よく住み分けていて悪くなかった。

ナイフとフォークで食べるおにぎりへの道⑤
・ワイルドさとは、理屈から生まれるものではない

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あんかけおにぎり

一旦、全然違う角度からシンプルに考えてみよう。例えば、おにぎりの表面にたれみたいなものがかかっていたら、食器を使わざるを得ないだろう。

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おにぎりを軽く焼いて、中華あんをかける。
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うまそう。

うまそうと思ったが、食べたらうまかった。中華あんの味と焼いたおにぎりの香ばしさがすごく合う。

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あんをたくさん絡めたくてスプーンで食べた。

あ、ダメだ。ダメだダメだ! やめろ! 手を止めろ!

ナイフとフォークで食べるおにぎりを考えているんだ。そしてこういうやつ、居酒屋で見たことがある。焼きおにぎりのお茶漬けみたいなやつだ。レンゲで食べるすごくおいしいやつ。

ナイフとフォークで食べるおにぎりへの道⑥
・ナイフとフォークで食べよう

原点へ

おにぎりを重ね、挙句スプーンで食べ始めていよいよ行き詰まった。原点に戻って考え直そう。

まず、ナイフとフォークで食べるあのハンバーガーは過剰だったのだ。だからナイフとフォークを使うことになった。おにぎりも過剰であればいいのだ。過剰でさえあれば、自ずとナイフとフォークが付いてくるのかもしれない。

過剰なおにぎりとは何だろう。やはり大きいんじゃないだろうか。

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お米を二合炊いた。
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ラップ二枚で包んで形を整える。
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ゲームの回復アイテムみたいなものができた。

大きなおにぎりに際限はないが、とりあえずナイフとフォークを使わざるを得ないという説得力が感じられればいい。

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ある。説得力。

ナイフとフォークで食べるおにぎりへの道⑦
・本当のナイフとフォークで食べるおにぎりには、おにぎりの方からナイフとフォークを使わせる気迫が出ている

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食べた。

大きすぎちゃったおにぎりを、やむを得ずフォークとナイフで食べ、その『大きすぎた』という過剰を全身で受け止めた。こういうことだったんだなと思った。あれこれ工夫をするとその過剰さが濁ってしまう。ただただ、無邪気に『大きなおにぎりが食べたい』と望むことで、そこにナイフとフォークがついてくるのだ。

色々試したが、結局これこそがナイフとフォークで食べるおにぎりなのだと腑に落ちた。

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これ。

過剰なおにぎりとは

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おにぎりらしさと、ナイフとフォークを使う説得力を指標にしてまとめた。

コンビニおにぎりを含めて6種類のおにぎりをナイフとフォークで食べた。工夫した4種類の道がどこも行き止まりで、スタートに戻って考えた、ただただ大きなおにぎりが正解だった。

おにぎりのおにぎりらしさとはやはりあのかわいいフォルムにあって、過剰なおにぎりとはそれがすごくでかいっていうことなのだ。

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見事、最初の図が埋まりました。

錯綜

この記事はずっと何をしていたのかというと、ずっと考え事をしていたのだ。ナイフとフォークで食べるおにぎりのことをずっとずっと考えていたのだ。

その最中「握る」という行為についても考えていた。「握る」を辞書で調べたら意味の3つ目に「握り飯を作る」とあった。意味がループしていたのだ。

錯綜しているな、と思った。僕と同じで。

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