特集 2024年6月26日

スポーツせずに食べるスポーツようかんとスポーツカステラとスポーツお餅

スポーツようかんというものの存在を知ったのはいつだったろう。井村屋が出す、体を動かすのに必要な糖分、塩分、エネルギーを効率的に摂れるうえ、スポーツ時にワンハンドで食べられるように開封性良く設計されたようかんだ。

スポーツようかん。知らずに聞けばほとんどお笑いコンビ名なわけだけど、考えてみれば効率的でいい商品であると、すっかり世の中に定着したように感じる。

近年、スポーツタイプのカステラ、V!カステラという商品も文明堂から出た。同じコンセプトの餅の商品もあるらしい。

こうなると、スポーツに縁遠い私も食べてみたくなるというものだ。

よし、食べるか。スポーツせずに。

東京生まれ、神奈川、埼玉育ち、東京在住。Web制作をしたり小さなバーで主に生ビールを出したりしていたが、流れ流れてデイリーポータルZの編集部員に。趣味はEDMとFX。(動画インタビュー)

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> 個人サイト まばたきをする体 Twitter @eatmorecakes

私たちはいつだって五郎さんでいたい

下宿の部屋で布団に入ったままむしゃむしゃとおはぎを食べる……。そう、『ドラえもん』のてんとう虫コミックス10巻「アパートの木」に出てくる大学生の五郎さんだ。

てんとう虫コミックス『ドラえもん』第10巻 27ページ 小学館 1990年 第84刷より

のび太がママからのおつかいでお重に入ったおはぎを差し入れたときのこのアクションは、脳内のいつでも取り出し可能な場所に入っている。

私たちはいつだって布団に入ったまま寝そべっておはぎが食べたい。

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スポーツが、ずっと私を避けてきた

私はスポーツをしない。

わざわざしないのではない。やりましょう、行きましょうと、スポーツ側が言ってくれればいつだって私は出ていくのだ。

なのに、スポーツのほうから私を避けている。

というのも、やる気はあるのに、ぜんぜんスポーツができない。

(速い……! 走れている!!)と思って駆け抜けても100メートルのタイムは20秒を超えるし、ソフトボールは(飛んだ!!!)と思って投げても目の前3メートルにたたきつけられる。

1塁から2塁へ走るぞと腰を落としてかまえていたら、チームメイトから声がして、なんだか騒がしいなあと振り返るとみんなで「攻守交代だよ〜」と手をふっていた。

当時の私(右)

スポーツの側が、私をぜんぜん相手にしてくれないのだった。

私はようかんが大好きで、カステラも大好きで、それに餅こそ好物だ。

まさか、食べものを装ってスポーツがこちらにやってくるとは思わなかった。

ありがとう、スポーツ! やっと一緒におもしろいことができるね。

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スポーツようかん、スポーツカステラ、スポーツお餅

まず買ったのは、井村屋の「スポーツようかん」。

2012年の発売開始から12年を経て、開封性がいよいよ高まり、当初あずき味だけだったのが、2017年にカカオ味も出るなど着々と進化している。

カカオ味のようかん、という時点ですでに興味深いのに、かさねてスポーツなんだな

はじめて買ったのだけど、完全に片手のみで食べられるのには驚いた。

スポーツしないただのようかんであれば、ここまでパッケージ技術は研ぎ澄ませられなかっただろう。

スポーツ時にすっと食べられるように、なんとパッケージを切らなくても真ん中をぎゅっと押すとにゅっと出てくる

スポーツと出会ったことでようかんが開けやすくなったのだ。

世の中、何があるか本当にわからないものだと思う。

文明堂の「V !カステラ」も初めて購入した。公式サイトによるともともとカステラは、栄養の吸収が良いことでアスリートの間でかねてから支持されていたのだそうだ。

かっこいいパッケージ

V!カステラは勉強をするときの捕食としてもすすめられている。頭を使うことで糖分が足りなくなる感じはスポーツをしない私にもうっすら覚えはある。

いずれにせよ、「むちゃくちゃ頑張っている」シーンが食べる状態として想定されていることにはかわりない。

そして、餅だ。

Enemochi(恵根餅)という商品名で、持久系のスポーツに必要なゆっくりとした栄養補給ができるように作られたスポーツ向けの餅だというから興味深い。

むしろスポーツからいちばん遠いともいえる食べ物である餅をよくここまで連れてきてくれました
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これじゃただの羊羹だ

スポーツせずに食べるぞ! と、気合い十分で買ったはいいが、いざ食べるとなるとこれがなかなか申し訳なかった。

走って帰ってきたところでもないし、いま走ってないし、このあとも走る予定がない。

非常食を非常時でない時に食べることはあって、でもそれは多くが賞味期限が切れそうなタイミングだ。このスポーツようかんは、賞味期限もまだまだ先なのだ。

本当に、ただ純粋に食べる。 

箱を開けると、「準備運動しっかりと!」とあった。スポーツをする人はね、と思う。

準備運動をする必要のなさにこんなにも恐縮するものか

食べるとまさにいい塩梅の塩羊羹だった。食べながら以下の公式が頭に浮かんだ。

スポーツようかん - スポーツ = ようかん ​​​​​​

つまり、これは……ようかん!

さては、ただ普通にようかんを食べているだけだな。

カカオ味はようかんの味わいを残しながら生チョコレートのようなまったりした風味。思った以上にあずき味とフレーバーが棲み分けられている。

ようかんと生チョコレートがスポーツを介してつながるとは

おなかがいっぱいになって、糖分がカーっと頭に回る。

あきらかに元気になった。何の予定もなく、いたたまれなくなって足踏みする(スポーツ)。

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こんなに手軽にお正月の伊達巻が食べられるとは

翌日もスポーツの予定はなく、小腹がすいておやつにV!カステラをいただいた。

アスリートが食べるやつを、アスリートが活躍する現場からは一番遠いと思われる私んちの6畳の居間で漫然と食べる。

私もついに五郎さんになれたんだ。

ねそべる布団がないのでソファにふんぞり返ってます

食べて驚いたのは、味がかなり伊達巻に近いことだ。

カステラをバータイプとしてデザインし直すために、本来はふわふわであるスポンジをみしっとさせている。

結果、しっとりした食感はそのままに密度が高まり、正月のおせちに入っている伊達巻を巻かずに棒状に焼いたみたいな味わいが出た。

人はカステラをスポーティーにすることによって、伊達巻きを年中ポータブルに食べられるようになってしまったのだ。

こんな因果が急発生するのだから人類はやめられない。

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はちゃめちゃにしょっぺえ ゆべし

ようかんとカステラは、ハンディタイプにしたらどうなるか、ある程度素人でも予測ができる食べ物だと思う。

最後の餅だけがちょっとわからない。

べたべただし、もちもちだし、とろとろだし、焼き立てじゃないと固くなるし、どうしたらいいんだ。

パッケージは平たい。切り取ることなく圧着ハガキをぴりぴりめくるように開ける。

餅への扉、イージーオープン

中には平べったいやや弾力のあるソフトキャンディのような柔らかいものが、オブラートに包まれて出てきた。なるほど、餅のべたべた感はオブラートに包むんだな。

噛みちぎって、さらに「そうか!」と食べる頬を打った。

そうか……!

これは、ゆべし だ。フレーバーとして「くるみ餅」とパッケージに書かれていたが、ゆべしのことだったんだ。

道の駅のアイドルこと、ゆべし。その人気度から言っても、ようかん、カステラときてスポーツ界に名乗りを上げるのはなんら不思議なことではない。

味に驚いたのはenemochiにもうひとつ見つけて買ったフレーバー「塩餅」の方だった。

雨もふり出して、いよいよスポーツができない
パッケージから取り出すとこんな感じ。オブラートでさらさらしていてシュルっと出る

スポーツ時は塩分補給も大事らしいことは地獄のインドア勢である私も噂に聞いている。スポーツようかんも、しっかりめの塩味がした。

塩餅も、塩スイーツ的な味なのかな? と、軽い気持ちでかじりついたらこれがむちゃくちゃにしょっぱい。

驚いて思わず笑う。塩分濃度の高さで笑わされるとは思わなかった。

パッケージをみると食塩相当量が0.9gとあり、0.9gってサバの塩焼きの半身と同じくらいある。ずいぶん本気で塩だね!?

「くるみ餅」の食塩相当量は0.1gと書かれているから、「塩餅」が急に本気で塩9倍なのだった。

スポーツを、しもしないのに食べて、なんかすいませんねえとナメた態度でいたのだけど、最後でいきなり真顔になった。

これだ、スポーツ食品の本域は。いますぐ走って汗をかかないといけない気がする。

けれど外は雨で、私は引き続き家にいて、座っていた。

空にかざすが逆光である
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