漁港を始め、見どころ豊富な南大東島
北大東島のついでに立ち寄った南大東島ではあったが、思っていたより見どころが多くてとても楽しめた。全く飽きることなく丸一日自転車で走り回り、顔や手足が真っ黒こげに日焼けしたくらいだ。
特に岩盤掘込み式の漁港はこれまでに見たことがなく、こんな港が存在したのかと相当なカルチャーショックを受けた。そしてその素晴らしさを十二分に味わうことができた。
沖縄県の東の果てに位置する絶海の孤島の南大東島。アクセスは大変ですが、行ってみる価値は大いにありますよ。

5月に沖縄県の南大東島と北大東島に行ってきた。沖縄本島の遥か東に浮かぶ絶海の孤島で、周囲を険しい断崖に囲まれていることから波風の影響を受けやすく、フェリーを港に接岸することができない。
なので荷物も人もクレーンに吊るされて乗り降りする――という話を前回の記事「大東島では荷物も人もクレーンに吊るされ上陸する」に書かせて頂いた。
実はその記事ではあえて言及しなかった港が南大東島に存在する。島の北西部に位置する「漁港」である。これが、とにもかくにも凄いのだ。
この旅行における私の主目的は北大東島であった。失礼ながら南大東は「せっかく北大東に行くのだから南大東にも寄ってみよう」という完全なる“ついで”での訪問で、どのような見どころがあるのかすら全く知らずに訪れたくらいだ。
到着した日は午後だったのでその日は宿で観光地図を貰っただけで何もせず、翌日にレンタサイクルを借りて島を周ってみることにした。まず目指すは島の中心集落「在所」である。
海によって隔絶された南大東島は長らく無人島であり、人が住むようになったのは明治33年(1900年)と比較的新しい。
八丈島の実業家であった玉置半右衛門(たまおきはんえもん)の開拓団が入植してサトウキビの栽培を行うようになり、以降は特定の自治体に属さず製糖会社の社有島として自治が行われてきたという極めて特異な歴史を持つ。
戦後は南大東村として製糖会社から独立した自治体になったものの、現在も島の中心は製糖工場という印象は変わらない。
南大東島の周囲は約20kmほどだ。それほど大きくない島なのに機関車? と思われるかもしれないが、かつて南大東島にはサトウキビを製糖工場に搬入したり、砂糖や糖蜜(砂糖を絞ったあとの液)を港へ搬出するための機関車軌道が巡らされていたそうだ。輸送手段がトラックに変化したことで軌道は撤去されたものの、当時に築かれた倉庫群は今もなお現役で使用されている。
珊瑚礁が隆起してできた南北大東島は島全体が石灰岩でできており、その石材を積んで築かれた白い倉庫は実にユニークかつ美しいものである。……が、それ以上に個人的にグッときたのが役場の前にそびえる配水塔だ。
ちなみに石灰岩で覆われている南北大東島は水はけが良すぎるために雨水がすべて地中に染み込んでしまう。なので川などが存在せず、飲用水は海水を淡水化して使用している。飲むとほんのり塩気が感じられる……ような気がした。
とまぁ、南大東島は中心集落からして興味を引くものが多いのだが、せっかくなので観光地的な見どころも紹介しておきたい。
まずは島の北西に位置する鍾乳洞「星野洞」だ。南大東島の名所といえば、筆頭に挙げられるくらいの主要スポットである。
このサトウキビ畑の風景こそ、南大東島における一番の見どころであるような気もするなぁ。そんなことを思いながら自転車を漕ぐこと20分ばかり、ようやく星野洞に到着した。
星野洞は南大東島で最もメジャーな観光スポットではあるものの、係員が常駐していないのであらかじめ電話連絡を入れておく必要がある。私は宿で地図を貰った時にそう教えられていたので、前日のうちに予約しておいた。
サトウキビ畑のなかにポツンと受付の建物があり、中にいた係員の女性に入場料を支払う。貸していただいたタブレットは説明を聞くためのもので、洞内の各所に対応した番号をタッチするとポータブルスピーカーから音声案内が流れるという仕組みだ。
ちなみに星野洞という名称は、星野さんの土地で発見されたから名付けられたのだとか。なんともローカル感溢れるネーミングかつ、かなり辺鄙な場所にあることもあり、正直あまり期待してはいなかったのだが、これが想像以上に凄い鍾乳洞で驚いた。
南大東島には100もの鍾乳洞があるというが、その中でもこの星野洞は最も大きく美しいものだという。なるほど、確かに素晴らしい光景だ。さすがは南大東島最大の観光スポットである。
ちなみに地中の洞窟は涼しいイメージがあるが、この星野洞は湿度が100%近くかなり蒸し暑い。なんでもその湿気こそ鍾乳石の白さを維持する秘訣なのだとか。お肌も鍾乳石も、美しく保つには乾燥が大敵なのだ。
南大東島を代表するもう一つの観光スポットとして「バリバリ岩」がある。岩山が真っ二つに切り裂かれた割れ目の中を歩くというもので、ちょっとした探検気分を味わうことができる。
いやはや、これはまた不思議な場所である。亀裂の合間から差し込むわずかな太陽光を求めてビロウの木が背を伸ばしており、実に神秘的な雰囲気を醸している。
観光地図には「正午頃がオススメ」と書かれているのだが、なるほど、確かにこの亀裂の深さだと太陽が真上に昇る正午頃でなければ日の光が入ってこないので、神秘的というよりは不気味に感じられてしまうことだろう。
ちなみになぜこのような亀裂ができたかというと、南大東島はフィリピン海プレートに乗って毎年7cmほど北西に向かって動いているとのことで、その影響で岩山が裂けたのだとか。地球の地殻変動をダイナミックに体感することができる、なかなかに興味深いスポットである。
さてはて、だいぶ話が反れてしまったが、ここからが本題の「漁港」である。
南大東島についての知識がほぼ皆無であった私が「漁港」に立ち寄ってみようと思ったのは、道路の案内標識にその名が頻繁に記されていたためだ。
主要なポイントの案内標識にはもれなく「漁港」の名があり、そのあまりのフィーチャーっぷりに興味をそそられ、ちょっくら見に行ってみようと思ったのだ。
やけに扱いが目立つとはいえ、所詮は漁港であろう。せいぜい前回の記事で紹介した西港と変わらないか、それ未満の規模だろう……と思っていた。
自転車でシャーっと坂道を下っていく。すぐに視界が開けて漁港が姿を現したのだが、その思わぬ光景に私は思わず目を剥いた。
いやはや、これには本当に驚かされた。私の眼前に広がっていたのは、これまでの人生で一度も見たことがないような土木構造物だったのだ。
まるで超巨大なドック(船渠)のような(参考記事→「明治のドックは良いドック」)、漁港という概念を超越した漁港である! これは凄い!! 凄すぎる!!!
前述の通り南大東島には船を繋留できる港がなく、かつては漁船もまたクレーンで海に降ろしたり陸に揚げたりしていたという。そのため、海産資源が豊富な海域でありながらも、クレーンで吊り下げ可能な小型の漁船しか使用できなかったそうだ。
船の繋留が可能な「漁港」の建設は平成元年(1989年)に始まり、平成12年(2000年)に一部併用開始。その後さらに整備が進められ、平成18年(2006年)頃に現在の姿になったそうだ。当時は他に類を見ない、日本唯一の「岩盤掘込み式漁港」とのことである。
波風の影響を受けにくい入江が存在しないというのなら、岩盤を内側に掘り込んで人工的な入江を作ってしまおうという、なんとも大胆不敵な発想の賜物なのだ。いやぁ、たまげた、たまげた。
うーん、見れば見るほどに惚れ惚れする掘削っぷりである。説明板によると削り出した岩の量は約250万立方メートル。東京ドーム2杯分というが、まったくもってピンとこない。まぁ、とんでもなく膨大な量ということであろう。
世の中にはこれほどまでにダイナミックかつ美しい漁港があったのか。ため息を漏らしながら良いビューポイントを探しつつ写真を撮っていると、ふと港の下方からうにゅーんとクレーンが伸びてきた。
船を繋留できる漁港ができたとはいえ、どうやら小型の漁船は従来通りクレーンで陸に揚げるらしい。繋留スペースの問題からか、あるいこれまでに染みついた慣習からか。
ちょうど漁師さんが戻ってくる時間だったらしく、次々と小型の漁船が入ってきては、クレーンで吊るされ上陸していた。
とても小さな漁船なのに、巨大なマグロやらカツオやらが出てきたのには驚かされた。それだけ南大東島の周囲は豊かな漁場ということなのだろう。
これまでは小型漁船しかなかったので島内で消費するくらいの魚しか捕れなかったのだが、漁港ができた現在はより大きな漁船を導入することができ、現在は那覇に卸すことができるくらい漁獲高が増えたという。
南大東島の人々にとって、この漁港による恩恵は計り知れないものなのでしょうなぁ。
他に類を見ない漁港なだけに、上から眺めるだけでも土木構造体の迫力を満喫することができた。しかしながら、下から見上げる眺めも気になるところ。せっかくなので漁港に下りてみることにした。さてはて、どのような景色が広がっているのだろう。
白い。とにかく白い港である。供用部分はコンクリートで舗装されているものの、それ以外の部分や周囲の岸壁が剥き出しの石灰岩なので驚きの白さだ。
なんだか洗剤のキャッチコピーみたいだが、強い日差しと相まって、とにかく目に痛いくらいに白い。
そして、石灰岩特有の質感がこの漁港の異質さをより一層際立たせている。まさに他に類を見ない、唯一無二の港であろう。
珊瑚が堆積してできた石灰岩ならではの特徴として、白さのみならず化石が多いという点も挙げられる。剥き出しの岸壁を眺めていると、そのあちらこちらに珊瑚の化石が埋もれているのだ。
遠くから見ても良し、近くで見ても良し、至近距離で見てもまた良し。岩盤掘込み式漁港とは何たる素晴らしいものなのか。この漁港を見るためだけでも、南大東島まで来る価値があるというものである。
実をいうと「岩盤掘込み式漁港」が存在するのは南大東島だけではない。南大東島の北に浮かぶ北大東島にも、まったく同じ工法の漁港が存在するのだ。
南大東島の漁港と対を成す対岸の漁港として平成20年(2008年)より整備が進められ、ちょうど今年の2月に完成したばかりだという。
どのようなものかと北大東島の漁港にも行ってみたのだが、南大東島の漁港と比べると、なんだかちょっと様子が違った。
剥き出しの岩盤がない分、完成度や実用性としては北大東島の漁港の方が高いのだろう。しかし、見ごたえや味わいという点では、やはり岩盤剥き出しの南大東島漁港に軍配が上がりますな。剥き出し、万歳!
北大東島のついでに立ち寄った南大東島ではあったが、思っていたより見どころが多くてとても楽しめた。全く飽きることなく丸一日自転車で走り回り、顔や手足が真っ黒こげに日焼けしたくらいだ。
特に岩盤掘込み式の漁港はこれまでに見たことがなく、こんな港が存在したのかと相当なカルチャーショックを受けた。そしてその素晴らしさを十二分に味わうことができた。
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