未公開部分が見たい
テーマパークの風景は「しょせんニセモノ」とか「チープだ」とよく言われる。しかしオリエンタルトリップの場合はそうも言い切れないぞ、と思った。もう、ほとんど本物の遺跡といっていいんじゃないか、と。
とにかく今回はそれを主張したかった。
私個人としては、資料でしか確認出来ない未公開部分を見てみたい。公開して欲しい。
あ、でもここを見てしまうと「遺跡のロマン」感もなくなってしまうかもしれないな……。
悩ましい。

うどんでおなじみの香川県で「パスポートのいらない海外旅行」ができる場所があるという。
なんでも、海外でしか見られないような建物が山奥にあるらしいのだ。
どういうことだろう、そんなものが香川にあるのだろうか。
香川の山奥にアンコールワットのようななにかがあった。
しかし驚くのはまだ早い。実は同じ敷地に、他の遺跡もある。そう言ったって混乱するかもしれないが、とにかくそうなのだ。
さらにさらに敷地には、中東でしか見られないモスクもある。
実はこれ、香川のテーマパーク「レオマリゾート」内のエリア「オリエンタルトリップ」で撮影したもの。「レオマリゾート」は1991年に誕生した四国唯一のテーマパークである。
その中にある「オリエンタルトリップ」は、アジアの歴史的遺産を忠実に再現したエリア。アンコール王朝の寺院、ブータンの寺院、そしてモスクにはそれぞれモデルがある。
最初に紹介したアンコールワットのような寺院だが、これはタイとカンボジアの国境付近に存在する遺跡がモチーフになっている。名前は「プラサット・ヒン・アルン」。日本語で「丘の上の暁の寺院」という意味らしい。
ブータンの寺院は、ブータンにある「タシチョ・ゾン」という施設がモデルになっている。本来は寺院と国会議事堂を兼ねた場所らしい。
モスクもなにかモデルがあるのかな、と思って広報の人に聞いてみる。
すると、「一般的なモスクを参考に」とおっしゃていたので、我々が想像する「モスク」の感じをイメージしているのだろう。
しかしここまで聞いて、なんだレプリカか、そんなのテーマパークでは珍しくないだろう、と思った方もいるだろう。
たしかに日本には世界の名所や建築を再現したテーマパークが数多くある。しかし、この「オリエンタルトリップ」は、他のテーマパークと比べても、ちょっと違う。
再現度が半端じゃないのだ
例えばアンコール王朝の寺院。
本気なのである。
それもそのはず。
実はこれ、すべて現地の職人たちが手作りしているのだ。
「プラサット・ヒン・アルン」は、タイの石造建築職人の手による。
それってもはや本物ではないか。
また、ブータン寺院である「タシチョ・ゾン」も同様。現地の技術を継承したブータン人大工たちが、香川に来て作ったのだ。いや、本物でしょう、これは。
「オリエンタルトリップ」のテーマは「パスポートのいらない海外旅行」。実際に園内では、オリエンタルトリップ専用のパスポートを配っている。
確かにそのテーマ通りで、もはやこれはアジアの建築を真似たテーマパークというより、ほぼ本物のアジアが香川にあると言っていい。
驚くべきことに日本で一番小さい県香川には、小さいアジアがあるのだ。
香川で「パスポートのいらない海外旅行」ができるわけである。
私がこの建築群を「本物」と言って止まないのには、また別の理由がある。
実はこれ、本当に「遺跡化」しつつあるのだ。
どういうことか。
この日、私はオリエンタルトリップをレオマリゾートの広報の方に案内してもらいながら回っていたのだが、その人の話が大変面白かった。それはプラサット・ヒン・アルンを見ているときのこと。
ーーこの遺跡、本当にすごいですね レオマリゾート広報:昔は建物の中まで入れたんですよ ーーえっ!この中に!確かに入り口みたいなのはありまけど、囲いがあって入れませんね。ってことは外観だけじゃなくて、中まで細かく再現されてるんですか? ![]() レオマリゾート広報:はい。人目に触れない建物の中に仏像のレプリカもあるみたいです。 ![]() レオマリゾート広報:中に入れていた頃よりお客様が増えたので、建物も痛んできて……。現地の職人さんが作ったのでどうしようもできないらしいんですよ。 ![]() |
実はプラサット・ヒン・アルンだけでなく、タシチョ・ゾンもまたブータンの建築基準で建てられている。かつては2階部分も入れたらしいのだが、現在では1階部分しか公開されていない。
現地の職人に作ってもらうとそうなることは分かるが、しかし日本にそんな場所があるとは……。
どうやらオリエンタルトリップには、私たちが見ることのできないアジアがまだ広がっているらしいのである。やばいです、ロマンしかありません。川口浩探検隊に行ってほしいタイプのやつ。
そんな感じでワクワクが止まらない私を、更に奮い立たせる情報が広報の人から。
「実は昔、この他にも復元遺跡があったんですよ」
なんだって。
ということは、かつては現在の「オリエンタルトリップ」よりももっと広い「オリエンタルトリップ」が広がっていたということか。
聞くところによると、現在公開されている敷地は元々の敷地の半分ぐらいらしい。
航空写真で見てみると、確かに赤く囲ったエリアが現在公開されていない
なぜ全て公開していないのか。
その遺跡は取り壊されてしまったのか。
…と好奇心の赴くままに色々聞いたのだが、ここで更なる驚愕の事実が発覚する。
実は、現在パークで働いている人の一部しか、かつての「オリエンタルトリップ」がどのようであったのか分からないらしいのだ。
ええ。そんなことありますか。
実はこれには「レオマリゾート」をめぐる深い事情が関係している。
なんと「オリエンタルトリップ」を有する「レオマリゾート」、3回オープンしているのだ。
どういうことか。
「レオマリゾート」は1991年に「レオマワールド」としてオープンしてから2000年に一度閉園、経営母体を変えた「NEW レオマワールド」として2004年に再オープンした。
そしてその後にまた経営再編があって2010年に大江戸温泉物語グループの一施設として再々オープン。ホテル・温泉・テーマパーク・夏季限定のレオマウォーターランド(プール)を併設したリゾート施設「レオマリゾート」になったのだ。複雑。
いまはこんな感じで複合リゾート施設へと大変貌を遂げたわけであるが、その大きな変遷の中で「オリエンタルトリップ」に関する資料が少なくなり、現在では1991年の開業当初、瀬戸内海や香川の平野が見渡せるこの場所にアジアの遺跡をつくったという言い伝えだけが残っているらしい。
言い伝え……。
詳細がわからないのに異常な再現度の遺跡がある。
それって、由来を知らないけどなぜかある歴史的遺跡と同じじゃないか。これぞまさに本当の遺跡。テーマパークの作り物が本当に遺跡化した瞬間である。興奮する。
では当時、オリエンタルトリップにはどのような建物があったのだろうか。残念なことに現在、この閉鎖空間に入ることはできない。当時の姿を詳しく推測するには資料や当時訪れた人の話などを当たるしかないわけだ。
まずは案内してくれた広報の人に聞いてみる。
ーーその閉鎖されている空間ってなにがあったんですかね? |
なんと「水上マーケット」である。斜め上を攻めてきた。水不足で悩まされている香川県にとっては、水上マーケットは一種の夢だったのだろうか。
さらに、私の祖父母にも話を聞いてみた。
実は私の祖父母は二人ともレオマワールドに関わりがあるのだ。
祖母はかつてレオマワールドのゲームセンターで働いており、そして祖父はレオマワールドの遊園地ゾーンにあるジェットコースターを作ったのだ。祖父はかつて、遊園地の遊具を作る会社で働いていた。
ーー「オリエンタルトリップ」って昔は今よりも広かったんだよね? |
動物園もあったらしい。
さらにはバードケージもあったらしく、ますます当時のオリエンタルトリップが気になる。
しかし、さすがにもう20年以上前の話。どの人に聞いても明瞭にその姿を覚えている人がいない。
やはり、幻の遺跡は幻のままで終わってしまうのだろうか。
そう思っていたところに、一筋の光が指した。当時のことを克明に伝える文書が発見されたのである。
それがこちら。
発行は1992年。レオマ開業の1年後である。祖父母の家の本棚に眠っていた。
早速開いてみよう。ドキドキする。
そしてパンフレットからは当時の園内マップを発見した。それがこちら。
このマップで言えば、
確かに広報の人の話通り、ほぼ半分が公開されないまま残っているのだ。
では、現在公開されていない部分には一体なにがあったのか。
もう言葉はいらない。とにかく見ていただこう。
「サンティナート」というネパール寺院があるのだ。これも当然、ネパールの職人が来日して作ったと書いてある。すごい再現度。香川の山奥で、精密なネパール寺院が人目に触れずに残っている状況、やばくないですか?
そして、
広報の人の記憶にあった水上マーケットだ。正確には「ウォーターマーケット」というゾーンらしく、レストランとショップがあるショッピングゾーンだったらしい。
そしてそして、
その名も「バードパラダイス」。ガイドブックによれば1300羽もの珍しい鳥がいたらしい。香川の山奥に1300羽もの鳥がいたとは……。今、彼らはどこにいるのだろうか。
その他にも、「陽明城」や「レオマコロシアム」など今は見れない施設がたくさんあったらしく、これらがそのまま、香川の山奥に眠っているのである。
人目を浴びることなくただ存在するネパールの寺院や、水上マーケット……。もう、完全に本物の遺跡である。
間違いない、香川には「パスポートのいらない海外」があるのだ。
現在、オリエンタルトリップは遺跡の完成度を楽しむというより、そこに植えてある花と遺跡のコラボレーションを楽しむフォトジェニックなスポットとして人気だ。
美しく咲き誇る花を目当てに来る女性客も多く、四国随一のコスプレスポットとしても利用されている。2015年、オリエンタルトリップをリニューアルするとき、来園客向けのアンケートで要望が多かった「花や自然」を楽しめるようにしたという。
開演当初に作られたオリエンタルトリップは現在、3万坪の敷地に咲き誇る100種42万坪の季節の花々が楽しめる「レオマ花ワールド」になったのだ。
花々と遺跡のコラボレーションが美しいことは言うまでもないが、そうしたオリエンタルトリップの利活用方法は、元々そこにある動かしようのない遺跡を新しい観光名所に利用した、ともいえるかもしれない。
そういう意味でもオリエンタルトリップは本物の遺跡のようではないか。
テーマパークとは、あるテーマに基づいて園内の景観やショップなどの全体が演出されている遊園地のことである。したがってテーマパークにとっての「テーマ」とはその場所を考える上でとても重要だ。日本全国、多くのテーマパークがそのテーマを具現化しようと奮闘している。
オリエンタルトリップの場合、テーマは「パスポートのいらない海外旅行」であることは先ほども書いたとおりである。
そしてレオマリゾートはその変遷と共に、当初意図されていた「パスポートのいらない海外旅行」というテーマを予期せず、高い再現度でもって具現化しているのだ。そこを訪れると色んな意味で外国の遺跡を見ている気がする。
そう考えると香川の山奥にそびえるこの風景、あながち「作り物」といって済ませることは出来ない気もしてくる。この風景にはレオマリゾートが辿った歴史が刻み込まれているのだ。
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