手探りのビジカジ
今回、ビジネスカジュアルに挑むのは、デイリーポータルZ編集部の林、古賀、石川、安藤である。全員15年以上の社会人経験を持つが、誰もビジネスカジュアルが分からない。
そこで、各々のワードローブの中から「これぞビジネスカジュアル!」というコーディネートを引っ張り出してきてもらった。以下、おれたちなりのビジカジである。
【編集部・石川大樹のビジネスカジュアル】
石川の考えるビジネスカジュアルは、「とにかくジャケット」。ジャケットさえ着ていれば、インナーやパンツはかなりゆるくても許容されるだろうというスタンスだ。おそらく、こういう認識の男性は多いのではないかと思う。
ボーダーのシャツにジーパン、スニーカーという、近所をぶらつくようなリラックススタイル。しかし、ジャケットを一枚羽織ることで強引に「ビジネスカジュアル」と言い張る。上司の林いわく「はてなのエンジニア感がある」
パンツをチノパンにチェンジ。そして、Tシャツが派手だ。というより、なんだか禍々しい
「メキシコの知人が送ってきた」と石川。だから何だというのか。ジャケット着てればなんでも許されると、本当に思っているのだろうか
続いてはこちら、どこが変わったかというと…
時計がドラえもんだ(しかもパチモンだ)。小物でカジュアル感を出してきたパターンである。これ一つで、全てのビジネス要素を破壊してしまうインパクトがある
最後は「あえてのジャージ」(石川)。そんな、おしゃれ上級者みたいに言われても…
しかも、あえてのプーマ
「あえて、がビジネスの場で認められるかどうかですよね」と石川。確かに、大学の授業で履いたのを最後に箪笥の肥しになっていたというプーマがビジネスカジュアルに認定されれば、コーディネートの幅はかなり広がるだろう。果たして、彼のジャケット万能説は立証されるのだろうか?
【編集長・林雄司のビジネスカジュアル】
編集長の林は金髪である。金髪だとジャケットを着るだけでちゃんとした人に見られるという利点があるそうだ。ここにもジャケット信者がいた。彼は派手な柄のシャツを好むが、ジャケットを合わせるとそこそこビジネス感が出るという。
確かに、シャツは派手だがどうにかビジネスカジュアルの範疇に収まっている気がする。シャツインも、「きちんとした感」を出すポイントか
インナーを白いTシャツにするとどうか。ややカジュアル強めだろうか。胸に「HAYASHI」と書いてあるのも、ビジネスシーンではいらぬ自己主張かもしれない
「おばけのパーカー」はどうだろう。これは、さすがのジャケットでもかばいきれないか…
【編集部・古賀及子のビジネスカジュアル】
会社では「のび太くんみたいに同じ服しか着ない」という古賀。今回唯一の女性である彼女は、男性陣のジャケットに相当するものとして、「カーディガン万能論」を唱える。
こちらが古賀の「いつもの格好」。判で押したように、ニット・スカート・スニーカーだという。なお、ちゃんとした会議の時は、ニットの下に襟付きのシャツを着る(ちゃんとしてない会議の時はヒートテック)
そして、こちらがカーディガンスタイル。なんでも「カーディガンをインするのは、今年OLの間でめっちゃ流行ってる」とのこと。また、スカートが広がっていないのもビジネス感を出すポイントだという。バーバパパみたいにぴたっとしたシルエットがビジネスカジュアルの肝らしい
最後はワンピースにジャケットでシックにまとめた。「これはもう霞が関にも行ける」と自信満々
【編集部・安藤昌教のビジネスカジュアル】
今回、ビジネスカジュアルを最も拡大解釈していたのが安藤である。彼は「襟さえついていれば、あとは何でもオッケー」という、襟付き信奉者であり、「ジャケットなんて仕事で着たことない」とまで言い切る。まあそれでも20年会社員やれてるのだから、あながち暴論でもないのかもしれない。
しかし、ジーパンは穴あきである。「襟付きシャツさえ着れば、ジーパンは破れていても構わない」と考えているようだ
ジャケットをカーディガンに変えてみた。「これは違うだろ…」と上司である林がたしなめても、「僕はリアルに打ち合わせこんな感じですよ」と譲らない。なお、ジーパンは破けている
「だって、ついてるから、襟」
カーディガンをパーカーに変更。さすがに厳しいのでは…と思ったが、シャツをインすれば「ギリギリビジネス」と言い張る。ジーパンは破けている
パーカーはどくろである
裸ジャケット。もう、襟すらなくなった。「もしかしたら、深すぎるVネックを着ている人だと思ってもらえるかもしれませんよ」と安藤。最後にとうとうふざけてしまった
プロに聞こう!
というわけで、(すでに明らかに違うと分かるものもあるが)いくつかはビジネスカジュアルとして通用しそうな気がする。果たして、プロはどう見るのか? 3000名以上のファッション改善を担当し、その著書は累計10万部を超えるパーソナルスタイリストの大山旬さんに写真を見ていただき、判断を仰いだ。
・・・・
なるほど・・・
何やら困った顔をしている。もしかして「全部ダメ」ってことなのだろうか? そんなのこっちだって困る。
大山さんは深く息を吐き、「一つひとつ、いきましょう」と切り出した。
まずは林のビジネスカジュアルから判定してもらう
大山さん(以下、敬称略)「まず、ビジネスカジュアルの定義は職場によって変わると思います。林さんの場合、金髪が許容されている時点で、ある程度のところまではOKとみていいでしょう」
―― 3つの中だと、どれが最も「ビジネスカジュアル」でしょうか?
大山「1と2はいいんじゃないですかね。特に1はビジネスカジュアルだと思います。襟付きですし、ジャケットの前をしめればシャツの柄が見える範囲も少なくなる。シャツもきちんとインしていて、こぎれいに見えます。ビジカジにもスーツ寄り、私服寄りと幅があって、シャツをインするとスーツ寄りに近づく。3のようにパーカーまでいってしまうと、もう部屋着ですよね。まあ、似合ってますけどね」
―― では、社内ではなく、よそいきのビジネスカジュアルとしてはどうですか? ちゃんとした企業のパーティーに参加するとして、どれだったら通用しますかね?
大山「そうなると、全部ダメかもしれない(笑)。林さんのキャラクターとかを知らない人の集まりでこの格好をしていたら『おやっ』って感じになると思います」
続いて、安藤のビジネスカジュアルを斬る
―― 次は問題児です。頑として「穴あきジーパン」を脱ぎません。
大山「穴あきはダメですね」
―― あ、やっぱり。
大山「ジーンズがそもそも微妙なラインですが、色落ちしているもの、ダメージがあるものは『ビジネスカジュアル』としては厳しいかと。ジーンズよりもチノパンのほうが、まだ許容範囲のところは多い。ジーンズも、濃いめのカラーだったら何とか…。でも、ベンチャー企業だったり、フリーランス、ライターさんのような職種なら許されても、普段スーツ着用の職場での『カジュアルデー』なんかだと、安藤さんのスタイルはアウトだと思います」
―― カジュアルデーなのにジーンズだめですか?
大山「日頃かっちりスーツの職場のカジュアルデーって、意外とそこまで崩せないんですよ。『カジュアル』といいつつ、やりすぎると怒られる。せいぜいネイビーのジャケットにグレーのパンツとか、Yシャツをストライプにしてネクタイなしとか、その程度。パンツもジーンズやコットンパンツではなく、スラックスみたいなものを履く方が多いですね」
―― ちなみに、安藤氏は「襟付きシャツはジャケットに勝る」と豪語しているんですが、それはどうですか?
大山「いや、最低限ジャケットはあったほうがいいですね。襟付きよりもジャケットです。せめて2のようなカーディガンと襟付きシャツならありかもしれませんが、シャツをインしていないので際どいところですね。3はシャツインですが、パーカーがアウトですね。どくろですし」
―― 裸ジャケットはどうですか?
大山「まあ……セクシーですけどね…」
困らせてしまったので次へ行こう
次は石川。ジャケットでカジュアルをねじ伏せるスタイル
―― この人はいつもこんな感じで会社に行っています。わりとベーシックなIT業界スタイルです。
大山「これは全部ビジカジではないですね。普段着の私服ですね。『ジャケットありのこぎれいな私服』だと思います。この人は、ジャケット着とけばいいと思ってるんじゃないですかね?」
―― まさにその通りです。ただ、ぼくらはついジャケットを過信してしまうんです…
大山「インナーのボーダーや派手なプリントのTシャツはカジュアル感が強すぎるので、ジャケットで帳消しにするのは難しいですよね。目安として、ジャケット、インナー、ボトムス、靴のうち、2つくらいはビジネスっぽい要素があってほしい。インナーは襟付きシャツでなくても、ニットやタートルネックのようなきれいめのものを合わせれば十分ビジネスカジュアルになります。ニットとジャケットのスタイルは、昨今のビジカジシーンのトレンドでもありますしね」
―― ドラえもんの時計はどうですか?
大山「なかなかパンチが効いてますね。これ一つで全てをぶち壊すパワーがあります。職種によっては、商談前の『つかみのネタ』としてありなのかもしれませんが……いや、ないかな。90%のビジネスマンは眉をひそめると思います」
ラストは古賀。女性のビジネスカジュアルのポイントとは?
―― 最後は女性です。本人はかなり自信満々です。
大山「良いんじゃないですかね、全て。カタい職場のカジュアルデーでも、違和感なく馴染むと思います」
―― 女性のほうがビジネスカジュアルの許容範囲が広い気がします。先ほどの安藤は「女性は会社に短パンはいてきても怒られないからずるい」と言ってました。
大山「確かに女性の場合は、明らかにカジュアル全開でなければ、ある程度は許容されると思いますね」
―― 女性のビジカジのポイントってありますか?
大山「アイテムでいうと、ジャケットかカーディガン。2のようなカーディガンは男性でいうところのジャケット代わりになるのでいいと思います。それから1のニットっていうのも、とりあえず入れておけばビジカジになりやすいアイテムの一つですね。シャツを覗かせるのも上手だと思います。この人は、ばっちりポイントをおさえているんじゃないでしょうか」
ひと通りの判定を終え、若干老けた大山さん。おつかれさまです…
パーソナルスタイリスト大山旬の「ビジネスカジュアル」講座
さて。せっかくなので、もう少し詳しくビジネスカジュアルについて聞いてみた。
―― 先ほどビジネスカジュアルの定義は職場によって異なるとおっしゃいましたが、そうはいってもある程度の「型」みたいなものはあるんですか?
大山「やはり、ネイビーのジャケットにグレーのスラックス、Yシャツは白ではなくストライプなどが基本形ですね。そこから自分なりに工夫というか、ひと手間を加えて遊んでいくのがいいと思います。たとえばインナーはYシャツが一番きれいなんですけど、もう少しカジュアル感を出していくなら無地のTシャツとか、丸首やVネックのニットなんかはありです。あと、たとえばスウェットなんかを合わせる人もいます。Yシャツの上にスウェットを重ね、ジャケットを合わせるのは、本当におしゃれな人の常とう手段だったりしますよ」
―― ビジカジを作るうえで一番便利というか、重宝するアイテムはやっぱりネイビーのジャケットですか?
大山「一つ持っていると便利ですよね。わりと何にでも合わせやすいし、基本中の基本です」
―― Yシャツ選びのポイントはありますか?
大山「シャツはカラー(襟)が重要ですね。ワイドカラー、つまり襟をしめた時の角度が90°より広がっているものがおすすめです。ワイドカラーだと襟の先端がジャケットの内側にくるので、第一ボタンを開けてもおさまりがいいんですよ。あとは、ボタンダウンのシャツもいいですね。襟がしっかり固定でき、やはりおさまりがいいです。逆に、普段のスーツで着ているレギュラーカラーのYシャツをビジネスカジュアルで使うのはやめたほうがいいと思います。ネクタイを外して第一ボタンを開けると、見栄えが悪くなってしまう」
―― 確かに、たまにジャケットから襟が飛び出してる人がいますけど、あれはカッコ悪い。
大山「それはレギュラーカラーが多いですね。襟はちゃんとジャケットの下に入り込んだほうがスマート。Yシャツも、ノーネクタイのビジネスカジュアル用に一着持っておくといいと思います」
―― ちなみに、ビジネスカジュアルでネクタイをするのはアリですか?
大山「もちろんアリです。ネクタイはビジカジでもさらにおしゃれを楽しみたい人がとり入れるという感じですね。光沢のない、仕事ではあまりつけないタイプのものを選ぶといいと思います」
―― いやあ、勉強になりました。それにしても、今日の大山さんの服装って、まさに「ザ・ビジネスカジュアル」ですよね。色々質問しておいて何なんですが、もう大山さんのスタイルをまんま真似ればいいんじゃないかと思って聞いていました。
ミスタービジネスカジュアル
これぞまさに、どこに出しても恥ずかしくないビジネスカジュアルである。試しにフリー素材で拾ったパーティーシーンに合成してみたが、まるで違和感がない。
まるで、本当に参加していたかのよう
もう少しカジュアルなパーティーもいける
一方、裸ジャケットの違和感といったらない。早くこいつをつまみ出せ
うしろに回り込むんじゃない!
もうビジネスカジュアルは怖くない
ビジネスにもおしゃれにも疎い我々にとって、ビジネスカジュアルなんてものは恐怖でしかなかった。しかし、大山さんが教えてくれた基本的なポイントさえふまえれば、なんとかそれなりには実践できそうである。
ちなみに大山さんいわく、ビジネスカジュアルの在り方はここ10年で大きく変わってきたという。世の中全体がカジュアル化し、その線引きもゆるくなってきているそうだ。さらに10年後はよりカジュアル化が進み、ドラえもんの時計が許容されるようになるかもしれない。
【取材協力】
大山旬/SO styling
http://4colors-ps.com/
パーティー会場に戦慄が走る。やっぱりTPOって大事だな