第一版の広辞苑がこの世になさすぎる
昔の辞書を読んでみたい。そのためにまず昔の辞書を探すことにした。
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欲しかったのは、なんでも載っていると噂の『広辞苑』の第一版だ。
広辞苑が最初に出版されたのは1955年。しかし出版当初はまだ図書館にいれるほどではなかったらしく、だいたいの図書館は1976年の第二版からしか置いていない。
しかたないので、一般開放している近くの大学図書館に行くことにした。
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枕にちょうどよさそうだなと思って頭を載せてみたが、余裕でうちの枕より分厚かった。
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冒頭には編纂者のメッセージが載せられていたが、高尚すぎて何が書いてあるのかわからなかった。
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漫画映画・動画・テレビ漫画はすべて「アニメ」のこと
昔の広辞苑を読んでみると、昔とか関係なくただ単に知らないことがいっぱい載っていた。
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ぱらぱらと見ているだけでかなり楽しいが、ところどころに1955年の香りがただよっている。
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テレビの普及率が80%を越えたのは1960年代。1955年はテレビ放送が始まった直後で、まだまだメインではなかったようだ。
アナウンサーの説明にテレビがないことがおもしろかったので、他にもテレビについて調べてみた。
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テレビがないせいか、テレビに関する言葉もいまとは違う意味で使われている。
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テレビに関する言葉をひいているうちに、聞いたことがない「漫画映画」という言葉にぶち当たった。
漫画映画とはなんだ。劇場版アニメのことか? わからなかったのでひいてみると...
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なんとなく「広辞苑は広辞苑に載っている言葉でしか説明しない」と思い込んでいたのでカルチャーショックを受けた。
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広辞苑に載ってなかったのでここから先は完全にネットの情報なのだが、「漫画映画」とはテレビがなかった頃のアニメの呼び方らしい。
さらに、テレビが普及した後もしばらくは「テレビ漫画」と呼ばれていたらしく、アニメと呼ばれるようになったのはわりと最近のことらしい。
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そして、それはそれとして「動画」の方ももともとアニメ(の場面写真)という意味だったらしい。
言われてみれば「動く画」だからアニメのことに決まっているのだが、「映像」という意味で使うことに慣れすぎていたので、漢字のことなんて考えたことがなかった。
昔の広辞苑、ちょっと読んだだけなのに知らないことがいっぱいある。
この本、めちゃくちゃおもしろいぞ!!
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ロボットはあるが公害はない、スーパーはないが電気自動車はある
楽しくなってきたので、1955年になさそうなものをもっと調べてみることにした。
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ないかなーと思った単語がことごとく載っており、私の中の昭和のイメージがガラガラと崩れていく。
逆にこれがないんだとなったのが「車」だ。
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自家用車が全国に広まり始めたのは1965年以降のこと。
1955年にはまだまだ庶民的でない乗り物だったらしく、広辞苑にも満足な説明は載っていない。
ねばって探してみたところ、「自動車」の項目にいまの車らしき説明があったのだが、説明が我々の感覚とはちょっと違う。
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1955年、思っているより私の想像を超えている。
それから、車がないのと同じぐらい驚いたのがこれだ。
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確かにスーパーマーケットだって人類史のどこかで発明されたものだから、なかった時代があるに決まっているのだが、なんだか「ずっとあって当たり前」のものな気がしていたのでびっくりした。
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母が「昔は給料を手渡しの封筒でもらっていて、初任給で封筒が『立つ』と皆に自慢できた」という、マジでその時代の人にしかわからない話をしていたことがあった。
給料が手渡しなのだから、引き落としが普及しているはずがない。
昔の広辞苑を読むと、一般庶民に普及していたもの・していなかったものがどんどん浮かび上がってくる。
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「公害」なんて辞書に載ってそうな単語ランキング上位なのに、まるで影もかたちもない。
1955年、公害はまだ社会問題と思われてなかったのだろう。
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昔の広辞苑を読んでいると、時代は確実に進歩していると思えてくる。
何十年もの時間をかけて、それぞれの分野で、それぞれのものが進歩してきたのだ。
「そりゃあ言葉も変わるよなぁ」とうならされる。
細かいところもいまと差がある
広辞苑を読むなかで、よく見かけたいまと違うポイントがこれだ。
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アジアが「アジヤ」、エンジニアが「エンジニヤ」などカタカナ語の読みが微妙に違う。
絶対に「ア」を言わないのが1955年のスタイルらしい。
他にも「同じに見せかけてよく見たらいまと違う」のがちらほらある。
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「料理」の範囲がせますぎる。
食材を切ったり焼いたりするのはなんと呼んでいたのだろうと思って「調理」「炊事」「割烹」などをひいてみたが、どれも「料理のこと」と要領を得ない説明だった。
昔は「味付け」以外の料理の作業は軽視されていたのだろうか?
このあたり、詳しい人がいたらぜひ話を聞いてみたい。
それから、時代になんの関係もないが「なんなんだ...」と思った説明がこれだ。
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この「数個」の説明を読んで、広辞苑も雑な説明をすることあるんだなと思って正直安心した。
私たちももっと適当に言葉を使っていいのかもしれない。