階級社会の壁を取り払うという意味合いも
JR目白駅から徒歩3分。道中、西村さんの蒐集の現状を聞いた。
「もともとはいろんなジャンルの切手を買っていました。でも、それだと時間もお金も際限なくかかって収拾がつかないので、いまは『旧ソ連の宇宙開発モノだけに絞っています』」
「『蒐集だけに…』」と言いたそうだった。博物館に着くと、エントランスの「グワシポスト」(まことちゃんポスト)が異彩を放つ。
「グワシポーズ」、なかなか難しい
あとでわかるが、これは「切手の博物館」20周年を記念して作られたポストで、
楳図かずお氏が上京して初めて住んだのが目白だったというゆかりが。
また、『切手を愛する人』というタイトルの像もあった。
自慢のコレクションを愛娘に見せているのだろうか
今回話をしてくれたのは田辺龍太さん(52歳)。日本郵趣協会会員で切手蒐集歴43年というツワモノだ。
よろしくお願いします
「ひとくちに切手蒐集といっても、昔は集め方の定型があったんです。でも、いまはそれぞれの興味や関心に従って自由に集めていますよ」
これはヨーロッパで発展した文化で、同じ趣味について交流することで階級社会の壁を取り払うという意味合いもあったという。
「日本では世代をつなぐアイテムだといえるでしょうね」
お気に入りのコレクションを見せてくれた
冊子の中には宇宙を飛ぶ隕石のイラスト
心眼で見れば浮かび上がってくる
いい匂いがする切手があれば人気が出るのでは?
次はイギリスの『アガサ・クリスティ没後40年パック』。
切手の図案に謎解きが隠されている
そしてオーストラリア発、美しいカブトムシのイラストが施された記念切手。
虫好きにはたまらないでしょう
冗談で「いい匂いがする切手があれば人気が出るのでは?」と聞くと、「ありますよ」と即答。おっと…。
チョコの甘い香りがするという
「とはいえ、2001年に買ったやつだから消えているかも」と田辺さん。
う、うん
「あと、これは私の所蔵じゃないんですが『星の物語』シリーズも美しいですね」
やはり目利きのプロからも一目置かれる作品だったのだ。
「昔はブータンとかの小国が外貨獲得のためにこういう企画モノを作っていたんですが、2000年以降は世界中で増えています」
ネクタイは100円ショップ、浮いたお金で切手を買う
田辺さんはとくに近代美術関係のデザインが好きだという。
『サライ』2017年2月号より
右が原作、左が切手
原作が縦に細長いのに対し、切手版では上下をトリミングしている。これもデザイナーの技なのだ。
「とにかく切手に少しでも興味を持ったら、日本郵趣協会の会員になることをお勧めすます。会報誌が毎月届くし、カタログショッピングなどもできます」
こちらが会報誌の『郵趣』
意外と面白そう
ところで、田辺さんのネクタイがずっと気になっていた。本筋とは関係ないが勇気を出して聞いてみた。
「あ、これ?」
「100円ショップのネクタイですよ。こういうところで節約して、浮いたお金で切手を買う(笑)」
すばらしき、切手愛。
鮭の切(手)身アートに驚いた
ひととおり話を聞いたあとで、館内を見て回った。
懐かしい丸型ポスト
東京・小平市が、この丸型ポストのメッカだという話はあまり知られていない。
ポストガチャガチャもあった
博物館オリジナルの「アラビックヤマトmini」220円
絵…ですか?
全国から作品が寄せられる
西村さんが言う。「これ、ちょっとヤバくないですか…」。
「切り身、どうやって描いてるんだろう」
鮭の切(手)身である
世界最初の切手モチーフはヴィクトリア女王の肖像画
さて、じつは楽しみにしていた世界最古の切手を見に行く。
左が世界最初、右が日本最初
1ペニー切手
これは通称「ペニー・ブラック」と呼ばれるもので、1840年にイギリスで発行された。肖像画はヴィクトリア女王の横顔だ。ここから切手の歴史が始まる。
こちらは「龍切手」
日本の郵便創業とともに1871年に発行。中央の料金額を竜が囲むイカしたデザインだ。
ミニ図書室も
切手好きの社交場になっていて、ここで仲よくなる人たちも
最後に向かったのは館内にあるミュージアムショップ。
切手、切手、切手
ここは入場無料エリアで、誰でも気軽に買い物を楽しめる。
額面切手コーナーに反応する西村さん
珍しい「土侯国切手」
「土侯国切手」とはて本来の郵便に使用する目的ではなく、切手コレクターの気を引くために濫発された切手だ。
店の人によれば「切手好きの社交場になっていて、ここで仲よくなる人たちも多い」そうだ。
その町の風景を描いたもの
沖縄から来たという
彼らには「『デイリーポータルZ』というサイトで3月29日公開です」と伝えたが、諸事情で今日になりました。すみません。
「あいつ鉄道好きだったな」などと思いながら切手を選ぶ
切手のデザインは時代や生活スタイルに応じて変化するという。
田辺さんいわく、「イギリスではデヴィッド・ボウイの切手まで出るご時世ですから」。あれ、田辺さん、音楽のご趣味は? 「私は世代的に矢沢永吉さん(笑)。フレーム切手はあるけど、まだ買っていません」。
実際にショップで芭蕉の俳句切手を買ってみた。俳句と挿画が相まって味わいがある。誰への手紙にこれを貼ろうかと考えると、まさに「郵趣」が湧いてくる。
「『あいつ鉄道好きだったな』などと思いながら切手を選ぶのが楽しい」。田辺さんの言葉が印象的でした。