特集 2017年3月31日

トキワ荘のあった街は今 金剛院のマンガ地蔵尊

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かつて手塚治虫、石ノ森章太郎(*)、藤子・F・不二雄、藤子不二雄Ⓐ、赤塚不二夫といったのちのマンガの神様たちが一つ屋根の下で暮らしたアパートが東京・椎名町にあった。

その名はトキワ荘。名前ぐらいは聞いたことがあるという人も多いのではないだろうか。

トキワ荘は現存していないが、その面影は街のあちらこちらに残されている。椎名町駅前にあるお寺、金剛院に新しくできたマンガ地蔵もそんなトキワ荘があった名残を、これからの世代に伝えていくものである。

(*)石ノ森章太郎氏の「ノ」は小文字ですが、本記事ではこのように表記しています。
生まれも育ちも横浜。大人げない大人を目指し、日夜くだらないことを考えています。ちぷたそ名義でも活動しています。(動画インタビュー

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椎名町駅
椎名町駅
東京都豊島区にある椎名町駅。池袋駅からは西武池袋線で1駅だ。池袋の人の多さにはうんざりするぐらいなのに、そこから1駅行っただけの椎名町近辺は、だいぶ人通りも穏やか。

トキワ荘の名残りを探す

ニコニコ商店街
ニコニコ商店街
トキワ荘のあった通りは今でこそシャッターが目立つようになってしまったが、かつては「夜まで煌々と電気がついていて、一周すれば生活必需品がそろう」街だったそうだ。クリエイティブな街で、子どもからするとちょっと「怪しい」雰囲気もあった。今に例えるなら、東京の「高円寺」に近い街であったという。
南長崎花咲公園の記念碑
南長崎花咲公園の記念碑
南長崎花咲公園にて、トキワ荘の記念碑を見ることができる。
トキワ荘で生活したマンガ家は手塚治虫、藤子・F・不二雄、藤子不二雄Ⓐ、石ノ森章太郎、赤塚不二夫、寺田ヒロオ、鈴木伸一、森安なおや、よこたとくお、水野英子といったそうそうたる顔ぶれだ。
マンガの神様のトキワ荘での日々は仕事だけじゃない。旅行もして、誰かが大変な時は手伝ったり、時にはピンチヒッターもする。
そんなトキワ荘があったところは今、出版社になっていた
そんなトキワ荘があったところは今、出版社になっていた
そしてマンガの神様たちは毎晩のように、四畳半の誰かの部屋に集まって宴会をしていたのだそうだ。その時の定番ドリンクは寺田ヒロオ考案のサイダーを焼酎で割った”チューダー”であったらしい。
トキワ荘跡にある出版社、マンガ本ではなく難しそうな本を出していた
トキワ荘跡にある出版社、マンガ本ではなく難しそうな本を出していた
そうしたエピソードをこの街で知っていくうちに、「マンガの神様」として自分の中で存在が大きくなっていたけれど彼らも私たちと同じ人間なんだなと思うようになった。当たり前だけど。そしてもっとこの街のことが知りたくなった。

マンガ地蔵尊のある金剛院へ

金剛院
金剛院
そんなこの街にあるのが真言宗 豊山派 蓮華山 金剛密院 仏性寺(通称 金剛院)という真言宗のお寺。サイト上に「駅から30秒」と書いてあったが、書いてある通り、駅北口を出てすぐにあった。
境内と、御本尊の阿弥陀如来の御朱印
境内と、御本尊の阿弥陀如来の御朱印
金剛院の歴史は約500年と古い。金剛院は大永二年(1522年)に開創された。江戸後期の天明年間には大火事の被災者を多く助けた功績として、将軍の縁戚しか許されない朱塗りの山門建立を許可されて赤門寺とも呼ばれていた。朱塗りの山門にはそんな歴史が!

住職の話によると、日本のお寺は8万位ある。そのほとんどのものが水があり、川があって、そこに人々が生活をするために集まってきて、お地蔵さんができて、信仰の場所としての小さなお堂ができたのが始まりだという。その金剛院の起こりも例外ではない。人びとの営みがあって、信仰があって、古くから愛されてきたお寺なのだ。

マンガ地蔵尊

マンガ地蔵尊
マンガ地蔵尊
そしてこれが新しいこの街の歴史である「マンガ地蔵尊」。マンガの街にぴったりのデザインはとしま南長崎トキワ荘協働プロジェクト協議会メンバーによるもの。
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ご尊顔アップ。後光、そして右手に持つ錫杖はペンを模している。左手のスライムみたいなキャラクターは如意宝珠(にょいほうじゅ)をかたどった「チエの実クン」
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お地蔵さまが身に着けている優美な装束には「カリカリッ」「シャッシャッ」などマンガを描くことを連想させるような擬音が。ちょっとジョジョ(ジョジョの奇妙な冒険)っぽい。
マンガ地蔵尊の御朱印もいただきました(うれしい)
マンガ地蔵尊の御朱印もいただきました(うれしい)
このマンガ地蔵尊は御朱印もあって、創造力を授かるいいお守りになりそう。創造力ください! こちらは書置きのみで一体200円。

金剛院と新しい試み

梵字のマーカーをアプリで読み取る
梵字のマーカーをアプリで読み取る
お寺ではマンガ地蔵尊以外にも、境内のマーカーに反応する「AR金剛院」の導入など、新しい取り組みを多数行っている。
内容はお寺の説明や般若心経を読み上げてくれる番組など
内容はお寺の説明や般若心経を読み上げてくれる番組など
アプリで自分の代わりに般若心経を読み上げてくれる。このアプリはカラオケの字幕のように、今読んでいるところを色で教えてくれるので一緒に読み上げることも可能。

寺カフェ・「なゆた」

赤門テラス なゆた
赤門テラス なゆた
また、山門の前には各種イベントなども行う地域のコミュニティーとなる「寺カフェ」なゆたもある。
お寺ごはん(864円)※ランチタイムのみ
お寺ごはん(864円)※ランチタイムのみ
寺カフェ「なゆた」も利用させていただいたのだが最高だった。お寺の境内を眺めながら健康的なメニューがいただける。こちらは本日のお寺ごはん。
お寺の境内を眺めながら頂ける、健康的な食事に感動
お寺の境内を眺めながら頂ける、健康的な食事に感動
揚げ物もあるが、これは車麩のゆかり揚げ。健康的だ……。カフェのWi-fiも無料で使うことができるから長居できちゃう。
おいしそうでしょう、おいしいんですよ、これ
おいしそうでしょう、おいしいんですよ、これ
神社やお寺といった古い歴史を持つ場所は新しいものに対して消極的なところも多いと思うが、ユニークなお地蔵さまをはじめ、この金剛院はいろんなことに挑戦している。そしてそれらは金剛院第33世住職の野々部利弘さんが考案したもの。そんなわけで住職にいろいろと話を伺ってきた。

金剛院住職インタビュー

金剛院第33世住職の野々部利弘さん
金剛院第33世住職の野々部利弘さん
――マンガ地蔵尊は3月にできたばかりと伺いましたが、反応はどうでしょうか。

野々部さん「マンガ地蔵尊と御朱印の影響かどうかはわからないけども巡礼は増えています。もともと境内でイベントをたくさんやるので、お寺に若い人は結構来ています。」

――今、御朱印をはじめ神社仏閣めぐりはブームだと言われいてますが、それは住職さんから見ても実感されていますか?

野々部さん「御朱印を始めとして、参拝される方は増えましたね。あとは健康・ウォーキング目的で回られる方も多いし、真剣に願いがあってお祈りに来る方もいらっしゃるし、人それぞれその思いは様々ですね。また、お寺の西には外国人観光客向けの人気のゲストハウス「ファミリーイン西向」があるのですが、そのこともあって外国人観光客も増えています。」

――マンガ地蔵尊もそうですし、ARアプリといい、すごく革新的なことをいろいろやられている印象を受けました。

野々部さん「お寺に限らずどんな世界も、昔の価値観でずっとやってきたのが、今の時代に合わなくなってきました。古いことにこだわっていると新しいことについていけなくなるし、伝統があるから新しいことができるんですよね。」

野々部さん「けど、かといって何もないゼロベースのところで新しいことを始めてもそれは流行でしかない。伝統があって、その基本があるから挑戦できる。祈りという芯なる骨格があるから。だからなんでも新しいことができるのかもしれません。」
マンガ地蔵尊と野々部さん
マンガ地蔵尊と野々部さん
――なるほどー。伝統があるから新しいことができるっていいですね……。

野々部さん「今の人たちは会社にも学校にもマニュアルや規則やしがらみがあってそれから出られないじゃないですか。管理する上でそうせざせざるをえないんだけど。」

野々部さん「コミュニティーがなくなってしまっているので私たちは人工的にそういう場所を作らなければならないし、現代人は会社とか学校とか家庭とか、いろんなしがらみがある中そういうしがらみから解放されるサードプレイスが必要だと思い、いろいろ挑戦しています。」
金剛院の桜ももうすぐ。春はすぐそこ
金剛院の桜ももうすぐ。春はすぐそこ
参拝者が増えれば地域全体の回遊も増える。現代にはコミュニティーが足りないと、自ら率先してそうした場所を作る。金剛院の住職は金剛院だけではなく地域全体、いや社会全体を見据えているという印象を受けた。

神社仏閣に参拝するのは1年に1度、初詣だけという人もいるだろう。今は本当に情報にあふれていて、それはすごくいいことだけど、その反面何も考えないでいられる時間というのが減ったような気がしている。自分はよくお寺や神社に参拝するのだが、その目的のひとつは参拝する時に「無心になれる」ということだったりする。お寺や神社はいいぞ。

終わりに

トキワ荘周辺には展示や、オリジナルグッズの販売などを行う「トキワ荘通り お休み処」があるのでこの地域周辺、マンガの神様たちに関してもっと深めたければここがおすすめ。
トキワ荘通り お休み処。中ではマンガも読むことができる
トキワ荘通り お休み処。中ではマンガも読むことができる
ここで扱っている冊子「トキワ荘のヒーローたち~マンガにかけた青春~」(1500円)がおすすめすぎるので勝手にゴリ押ししたい。
個人的にこれがおすすめです
個人的にこれがおすすめです
区で展示を行った際の冊子で、貴重な資料がたくさん載っているのはもちろんなのだけどマンガの神様たちによる飲み会や、旅行中の写真がたくさん載っているので見ているだけで幸せな気持ちになれる。増刷が大変という話を聞いたので手に入れるなら今かもしれない。
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