「公園ワカメ」は「イシクラゲ」!
結論から言ってしまおう。公園ワカメの正体は「イシクラゲ」という生物である。
ワカメのようだが海藻ではない。クラゲと名は付くがクラゲでもない。藍藻という藻類の一種で、アシツキやスイゼンジノリに近縁であり、それらと同じく食用になるというのである。本当かよ…。かなり不気味なビジュアルだったのだが。
イシクラゲってこんなの。単体だとよくわからないかもしれないが、自生している様子を見れば「ああ、あれか!」となるはず。
半信半疑でネットを駆使して調べてみると、なるほど確かに食べられるという情報がちょろちょろ出てくる。案外メジャーな食材であるらしい。さらに驚いたことに、関西地方ではこれを食べる企画がテレビ番組で過去に放送されたことがあるそうだ。関西のタレントさんは大変だと思った。
探すと意外に見つからない。
しかし、たとえ気持ち悪いモノでも実際に食べられると聞くと食べてみたくなってしまうもの。この場合の「食べたい!」という気持ちは食欲ではなく、完全に好奇心と探究心に端を発している。
ではさっそく探しに行こう。
公園とか
運動場とか
駐車場とかに落ちてた気がするのだが…。
ある程度日当たりがよく、砂地が露出している場所でよく見かけた記憶があるので、自宅周辺の公園などめぼしいポイントを回ってみるが意外と見つからない。どこにでも落ちているイメージだったのだが。
しょうがないので実家へ帰った際に、子供の頃確実に見た覚えのある遊び場で探すことにした。
あったけど…、なんか汚い。
まずは幼少時住んでいた住宅街へ。
この辺にたくさん落ちてたんだけどな…。
とりあえず、かつてたくさんのイシクラゲが落ちていた「ワカメポイント」に足を運ぶも姿は見えず。
見栄えが悪いので駆除されてしまったのか。
ん?
あきらめて場所を変えようとしたその時。階段の隅に見覚えのある不気味な物体が。
あ…、これだけど…。
見つけた。これだ。公園ワカメもといイシクラゲだ。人目に付きにくい片隅で細々と生き長らえていたのだ。
…でもなんか記憶していたより茶色っぽいし、ゴミがまとわりついて不潔な印象を受ける。正直言ってあまり口にしたくはない。
さらにこの辺りにはものすごく猫が多いので、なんというか彼らのナニがソレしている可能性があるので、とりあえず採取せずにおいた。
もっと他に清潔な場所があるはずだ。
やっぱり水に浸けるとふえる
次は昔遊んだグラウンドへ。
出来るだけ美味しそうなイシクラゲを求め、今度はグラウンドへやってきた。
ここはまだ比較的猫も少ないし、犬の散歩も禁止されていたので、アレがコレになっている心配もやや少ない。
グラウンドのど真ん中より、こういう雑草が生えているような隅っこに多かった気がする。
十数年前にはうじゃうじゃワカメが落ちていたが、まだ残っているだろうか。
あれ?これか?
探し始めると、あちこちにカピカピの乾燥ワカメのようなものが落ちているのを見つけた。んー?これもしかして乾いたイシクラゲなのかな?そういえばこの数日は晴天が続いていたし、干からびたのかもしれない。
乾燥ワカメ?
少し手に取ってみると乾燥ワカメそっくりだ。通常時も姿はほぼワカメなのだから、乾いた状態も似ているのかもしれない。
ただ、乾燥ワカメよりも若干薄手でもろい気がする。
水に浸してみる。
たぶんそうだとは思うのだが、確信はできないので少しだけ持ち帰って水で戻してみることに。
ふえた。
10分ほど放置すると、水を吸って見慣れたあの姿へと変わった。間違いない、イシクラゲだったのだ。なんでもイシクラゲは非常に乾燥に強く、カラッカラに乾いてもかなり長期間休眠状態で生き長らえることができるそうだ。
茶色が強いやつは海苔っぽくもある。
というわけであれがイシクラゲであると確信を得たところで、雨上がりにもう一度出直した。
あるある。グラウンドはワカメだらけだ。
この状態なら見覚えのある人も多いのでは。
そこらじゅうにいくらでもある。
一人で食べるにはこれだけあれば十分だろう。
採ろうと思えばいくらでも採れるが、とりあえず手のひらいっぱい分だけ採取して持ち帰る
色といい触感といい、ワカメそっくりだ。ただ、ワカメよりもちょっとちぢれている。
根っこは無い。ただ地面にぺったり張りついているだけなので、はがしてやると砂地が露出する。
窪んで水が溜まりやすくなっている所には大量にまとまって生えていた。でも少し色が悪いのでスルー。
いざ、調理開始!
念入りに、よ~く、よおぉ~く洗ってゴミを落とす。
持ち帰ったらよく洗って砂や枯れ草などのゴミを落としてやる。これがけっこう手間なのだが、ザルを使うと多少は楽だった。
おっ、けっこうイケそう?
いざきれいに下ごしらえしてみると、あの不気味なイシクラゲも案外みずみずしくておいしそうに見えてくる。
見た目は海藻にしか見えない。よくよく見るとワカメよりも透明感があってどちらかと言うとアオサに似ている。
今回は2品の料理を作るが、もうここまで来れば調理は終わったようなものだ。
とりあえずみそ汁。
とりあえず本物のワカメに倣い、メニューはワカメを用いた定番料理であるみそ汁とわかめごはんに決めた。
素材の味がわかるよう、塩だけで味をつけたわかめ(?)ごはん。
まあ、みそ汁は火を通すからいいのだが、ごはんに混ぜ込む分のイシクラゲは生のままである。お腹を壊さないかと少しだけ心配だったが、その後も特に体調に異変はなかったので大丈夫なのだろう。
ワカメじゃなくてアオサだった
完成!グラウンドで拾ってきたワカメ御膳!
そんなわけで、たった2品のイシクラゲ御膳が完成した。調理時間のほとんどはイシクラゲを一心不乱に洗っていただけであったが。
しかし、意外や意外、盛り付けてみると素直においしそうだと思える出来栄え。当初はもうちょっとゲテモノじみたものになるかと思っていたのだが。
ではさっそく味を見てみよう。
まずはみそ汁。
さっと火を通してみそ汁の具となったイシクラゲは鮮やかな緑が飛び、茶色っぽくなってしまった。まるで煮すぎたアオサ汁のようだ。
そういえば、Wikipediaによると沖縄ではイシクラゲをモーアーサ(芝生のアオサ)とかハタカサ(畑のアオサ)と呼ぶそうだ。僕が沖縄に住んでいた間には一度も聞いたことがなかったが…。
い、いただきます…。
正直、口にする瞬間はちょっとためらった。見た目はどう見ても海藻だが、決して海藻ではないという謎の物体なのだ。どんな味がするかわかったもんじゃないではないか。
あれ?うまいよこれ。
アオサだ。アオサの味噌汁だ。おいしい。
食感は完全に同じ。アオサのように強い磯の香りはしないが、うっすらと海藻に似た風味がある。すっきりした味わいで食べやすい。
あの得体の知れなかった「公園ワカメ」がこんなにおいしく食べられるとは…。
だがこれはみそ汁に入れての結果だ。万能調味料である味噌がエグみを消してくれたのかもしれない。加熱したことで臭みが飛んだのかもしれない。
では生のまま混ぜ込んだ公園わかめごはんならどうか。
イシクラゲごはん
みそ汁に比べて鮮やかな緑が残っている分、見た目はこちらの方がきれいだ。
しかし、この場合はその鮮やかさがかえって毒々しくも感じられる。
自分で用意した食材を自分で調理して自分で食べるだけなのに、罰ゲームを受けているような表情に。
あれっ!
おいしいじゃん…。生でも。
懸念していた臭みもエグみもまったく無い。非常に食べやすい味だ。
イシクラゲは薄いのでワカメほどしゃきっとした歯ごたえは無い。また、生のままでも風味が海藻よりも薄いため、「奥ゆかしいわかめごはん」といった仕上がりになっている。
ワカメが苦手な人でもこれなら食べられるかもしれない。無理をしてまでわかめごはんを食べる必要もないと思うが。
まさに陸の海藻
「落ちてるワカメ」ことイシクラゲはおいしかった。アオサやワカメの代用にできるほどに。
ただこのイシクラゲ、やっぱり見た目が悪いのは否めないので一般的には嫌われがちである。庭で繁殖してしまい、手を焼いている人も多いと聞く。そんな人は一度、駆除を兼ねて摘み取って味見をしてみるといい。「キモい謎の物体」が「晩のおかず」に化けるかもしれない。
イシクラゲごはんがおいしかったので、多めに作って翌日の弁当にした。