クルマエビサイズのエビが川にいる
そもそも、日本の川に棲むエビは基本的に小さい。
2~3センチ程度の小エビ(ヌマエビ類、スジエビなど)がほとんどである。
冒頭で触れたテナガエビの仲間はもうちょっと大きいが、それでもせいぜい10㌢程度しかない。
海洋漁業大国である日本においては、「エビを食べる」といえば多くの場合、クルマエビやイセエビ、アマエビなといわゆる「海のエビ」であることが多い。
だが、内陸部ではテナガエビの仲間(より小型で腕が短いスジエビも含む)を「川エビ」などと称して食す文化も根強いく、霞ヶ浦などでは重要な水産資源となっている。
ただし小ぶりであるがゆえ、唐揚げやかき揚げ、釜揚げなどにして殻ごとサクサクとやるのが主な食し方となる。これが実に美味い。
一方で塩焼きやエビフライといった殻をむく工程が必要となる調理はクルマエビ、ウシエビ(ブラックタイガー)、イセエビなどボリューミーな海産エビ軍が一手に担うわけである。
川エビたちにあの存在感、あのプリプリっぷりは出せまい。…とお思いのあなた。
できるんです。川エビの王たる我らが『コンジンテナガエビ』ならできるんです。
ナイトスクープで存在を知る
個人的な話になるが、僕がコンジンテナガエビの存在を知るきっかけとなったのはあの長寿番組「探偵!ナイトスクープ」であった。
今からもう15年ほど前になるだろうか。
「依頼人」としてテナガエビ好きの男子小学生が登場、テナガエビファンとして日本最大種であるコンジンテナガエビの採集に釣れて行ってほしい、という内容だった。
テナガエビフリークの小学生というだけでもう面白いのだが、採れたコンジンテナガエビに度肝を抜かれた。クルマエビに腕を貼り付けたようなわがままボディー。
日本にこんなんおるんか!ほとんどオニテナガエビ(外国産の大型種)じゃん!と驚愕しきりであった。
その後、大学の実習で西表島を訪問した際に実物を見る機会に恵まれたが、やはり生で見てもデカかった。
しかしその際はあまりのデカさに神々しさすら感じてしまい、すぐにリリースした。
まさか川エビに畏怖の念を抱くことになろうとは!
実はその畏れは今でも心に根付いており、川で大きなコンジンテナガエビを見てもあまり積極的に捕まえる気にはならなかったりする。
だが、見慣れてくるにしたがって味見をしてみたいという気持ちも出てきた。
かまぼこで釣る
というわけで、もったいつけず捕まえにいきましょ。
コンジンテナガエビは南方系のエビで、アフリカから東南アジア、南日本まで広く分布する。
日本本土では黒潮の影響がある地域でわずかに見られる程度で、南西諸島に多産する傾向が強い。本記事の舞台も沖縄県某所である。
コンジンテナガエビ探しのコツは時間帯と川選び。
まず、彼らは夜行性で昼間は物陰や深みに引っ込んでいることが多いので、夜間に川面をライトで照らして捜索するのがよい。
もしいれば、眼がピンク色に光るのですぐにわかるぞ。そもそもデカすぎて見逃しようがないというのもある。
また、コンジンテナガエビは他の多くのテナガエビ類と同様、子どもの間は海で生活する。ある程度大きくなると川へ遡上してくるのである。
このライフサイクルゆえ、生息するのは海との連絡がある(ダムなどで堰き止められていない)水域に限られる。また、清浄な水であることも重要。
コンジンテナガエビの捕まえ方は大きく分けて二通り。
釣り針で釣るか、水に入って網で掬うかである。
なお、今回は釣りを選択。なぜなら濡れたくなかったからだ。沖縄といえど、1月にもなればそこそこ寒いのだ。
小さく切ったかまぼこ(動物質のものならイカの塩辛でも鶏レバーでもからあげくんでもなんでもいい)を、これまた小さな釣り針に刺してエビの目の前に持っていく。
すると長い腕でたぐりよせるようにエサを捕らえて口に運ぶ様子が見える。あとは頃合いを見計らって竿をあおれば小さな口に針が掛かってくれるという寸法だ。
……こう書くとまるで超イージーな遊びのようだが、コツを掴むまではなかなか難しい。
ライトの光に怯えて逃げたり、エサをくわえても針が刺さらなかったりで、一匹釣るのに小一時間近くかかった。
なんなら二匹目以降は痺れを切らして膝まで入水、結局は網で捕まえてやった。風邪をひいた。
見れば見るほどカッコいい。
腕の長いエビ、というのは大きくなるとこんなにも迫力に満ちた存在になるのか。
テナガエビという生物が誇る造形の素晴らしさを再認識できる。
なんというか、大きなクワガタを見つけたときと同じような興奮と感動を覚える。
プリプリ食感!ただし味は淡白
捕まえたコンジンテナガエビを居酒屋へ持ち込んで焼いてもらった。
念願のエビの塩焼き(淡水産)である。
特筆すべきはそのみずみずしい食感。プリプリと張りがあり、弾けるような歯応えだ。
味自体は海のエビたちと比べればかなり淡白で上品なものである。
人によっては薄味すぎて物足りないかもしれないが、個人的にはこの生命感に満ちた、若々しい食感と味はなかなか気に入った。
川魚にありがちな泥臭さなどは感じない。やや強い味付けで食すガーリックシュリンプなどに合いそうだと感じた。
今後も愛でていきたい
というわけで、日本最大の川エビことコンジンテナガエビは見てよし食べてよしな素晴らしいエビだった。
しかし、今後はわざわざ捕まえて食べる機会はあまりないと思う。これほど大きなエビ育つには複数年を要するため、おいしいからといって思うままに捕獲していたのではみるみる数を減らすはずだからだ。
これからはホームグラウンドの水辺で彼らの勇姿を静かに見守っていきたい。
…でもやっぱ数年に1回くらいはあのプリプリ感も味わいたいかな……。それが許されるくらい、自然を大切にできる人間になりたいもんです。