特集 2023年3月21日

工事現場にある旗振りLED看板になりたい

道路脇の工事現場を通りかかると、旗を振るアニメーションが表示されたLED看板を見かける。実写を元に作られたであろう低解像度の人物が、ヌルッとした動きで旗を振っているアレだ。

暗闇の中で無限ループしながら旗を振り続ける様子を見ていると、深淵を覗いているような不思議な気分になってくる。

謎の魅力をもったあの看板を真似してみたい。なんなら、自分があの看板のモデルになってみたい。そんな夢を叶えてみた。

1983年徳島県生まれ。大阪在住。散歩が趣味の組込エンジニア。エアコンの配管や室外機のある風景など、普段着の街を見るのが好き。日常的すぎて誰も気にしないようなモノに気付いていきたい。(動画インタビュー)

前の記事:木ではなく家電にとまって鳴き出す「セミのおもちゃ」をつくる

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工事現場にある旗振りLED看板の魅力

車やバイクに乗っている人は、一度は目にしたことがあるのではないだろうか。この看板のことである。

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警備員が無限に旗を振り続ける看板たち(セフテック株式会社の画像素材データより)

セフテック株式会社が発売しているLED看板で、サイズやアニメーションの違いでいろんなバリエーションがあるようだ。本当は動画があればいいんだけど、私が見かけるのはほとんどがバイクに乗っているときなので、まだ撮影する機会に恵まれていない。

お辞儀をするだけの看板も見たことがある。電源を入れている間、看板の中の人は深々とお辞儀をし続ける。滑らかな動きが妙に魅力的で、ずっと見ていられる。

 

この看板シリーズ、元は実写だと思うが、「低解像度×少ない色数×背景が真っ黒×動きが限定的」という低スペックの世界に落とし込まれているおかげで、実用性だけでなく鑑賞物としての魅力が増している。リアルな実写映像では出せない、「仕様上の制約が生み出す美」みたいなのが確実にある。

これいいよなあ、と前から思っていたのだが、よく考えると同じような表示器を自作できるなと思った。もちろん製品が備える「耐久性」や「警備員の動きの正確性」なんかは置いといて、単に表示だけを真似するというパロディの意味だ。自作ができれば、あの看板の中の人になることだって可能だろう。作ってみるか。

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あの看板を作る

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作った。たった三文字で完成する工作記事があってもいい
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表示はフルカラーの「LEDマトリクス」で、横32ドット、縦64ドットというサイズだ。セフテックの看板も、1ドットのサイズこそ違うものの、解像度はこれに近いように見える

LEDマトリクスは、いまや電子工作の定番アイテムなので、入手も簡単だし、制御もそれほど難しくない。今回は縦長のものを3000円ほどで購入した。

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LEDマトリクスを支える本体は、金属ではなく木で作る。ちょうどいいサイズに切り出した木に、銀色のテープを巻いて金属感を出してみた。お手軽工作である
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ミニサイズのキャスターも装着し、小さいながらも移動が楽な看板に
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表示の制御は「ESP32」というマイコンで行い、電源供給は背面に貼り付けたモバイルバッテリー。今回はいくつかのアニメーションを切り替えたかったので、表示切替用のスイッチも付けた
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なので表示器としては、これだけで完結している。余計な配線もないシンプル構成

さくっと表示器が完成したところで、いよいよ肝心の「アニメーション」制作に取りかかろう。

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旗振りアニメーションをつくる

警備員が着ているのは、反射材の付いた蛍光ジャケットだ。本来ならそれを着て撮影に臨まねばならないが、遊びで買うには高かったので、代わりとしてちょうどいい色のレインコートを見つけてきた。

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目にも眩しいオレンジ色のレインコート

撮影したアニメーションは、最終的に32x64ドットの超低解像度になる。つまりディテールにこだわっても、すべて潰れてしまって見えなくなる。なので、色味を第一に装備を揃えた「なんちゃって警備員」である。そこはお許しを……。

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ここで取り出したるは、黄色いテープ
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レインコートにテープを貼ることで、さらに「なんちゃって」度の高いジャケットができあがった
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サイズが合ってなくて収まりが悪い、黄色いヘルメットもかぶる。仮装大賞で2~3点しかもらえなさそうなコスプレであるが、ほら薄目に見れば、あの看板の警備員と見分けがつかないはず
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こんばんは、あの看板の人です。こうして比べてみると、看板の人の堂々とした佇まいが光っている
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そして旗を振る

警備員の旗の振り方には決まりがあり、規則に沿った振り方をしなければならないらしい。なので、私の振り方は間違っている。現実世界の警備員ではない、「異世界警備員」というフィクションとして見てもらうのがいいだろう。このふにゃふにゃした警備員は、まだどこかの異世界にいるのです、たぶん。

今年の「地味ハロウィン」で、「あの看板の警備員」として無限に旗を振り続けるのはどうだろうか。

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旗を振る映像から特定のフレームを抜き出し、背景を黒で塗り潰したのち32x64ドットに縮小する。これくらいの解像度があると、旗を振っている様子はハッキリと分かる。必要十分な解像度である

色数は商品によって違うのだけど、モデルにした警備員が登場する看板のスペックを見ると「表示色:3色(赤(R)32階調/緑(G)32階調)」との記載が。写真を見る限りでは、赤と緑は輝度の違いで32階調を表現しているようだ。

現物がないので想像が混じっているが、写真を参考にオレンジと黄緑に近い色を選んで、輝度の違いで各32階調を作ってみた。

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その色(赤32色+緑32色+黒1色)だけを使って、元の写真を減色する

計65色もあるので、減色してもわりと実写っぽい画像になった。この絶妙な色数が、あの看板の良さを作り出しているのだ。

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旗を振る動きを計8フレームに落とし込み、全フレーム減色したものを準備した。ただよう「モータルコンバット」感
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LEDマトリクスに表示するためには、各画素ごとのRGB値を用意する必要がある。プログラムを組んでちゃちゃっと変換
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その数値をマイコンに焼き込むと、無事LEDマトリクスに自分の姿が映し出された
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用意した8フレームを一定間隔ごとに切り替えて、パラパラ漫画みたいにアニメーションにしてみる。おー、上手くいった

あの看板の人に、俺はなったんだ……!

こうして私は、看板のなかで永遠の命を手に入れたのであった。

⏩ 次ページに続きます

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