特集 2023年1月17日

木ではなく家電にとまって鳴き出す「セミのおもちゃ」をつくる

寒い時期には、あの暑かった夏のことをすっかり忘れてしまっている。外に出ると一瞬で汗だくになったこと、日なたが憎くて日陰が恋しかったこと、お店に入ると冷房が効いていて生き返ったこと……。すべてが遠い記憶だ。

そんな夏の記憶と強く結びついているのは、セミの鳴き声である。ミーンミンミンミンというあの声を聞くと、寒い季節でも夏に思いを馳せられるかもしれない。そんなことを考えていたところ、「セミのおもちゃ」のアイデアを思い付いた。

1983年徳島県生まれ。大阪在住。散歩が趣味の組込エンジニア。エアコンの配管や室外機のある風景など、普段着の街を見るのが好き。日常的すぎて誰も気にしないようなモノに気付いていきたい。(動画インタビュー)

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磁石で貼り付いて、自動で鳴き出すセミのおもちゃ

この記事の公開月は1月である。夏なんてもう遠い昔のように感じられる。なのに「セミ」である。季節感がまったくないなあ、と思うかもしれないが、「冬に夏を感じる」のが目的なので、みなさんもこれを読みながら暑かった頃の気持ちを呼び起こして欲しい。

そんなわけで、思い付いたセミのおもちゃを早速つくってみた。

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形状も含めてすべて手づくりだけど、思った以上にセミっぽくできた。具体的な種をイメージしたわけではないので、「なんとなくセミっぽいもの」として見てもらえれば
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裏側には、磁石とスイッチが付いている
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おっと、ブーーーっと飛んできたセミが食洗機に近づいてきたぞ!
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食洗機にとまった! お分かりかと思うが、磁石でくっついている
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すると自動的に鳴き声が! 「ミーンミンミンミン……」というミンミンゼミの鳴き声が台所中に響きわたる

セミが磁石で家電にくっつく
→ 裏側にあるスイッチが勝手に押される
→ それにより音声再生がONになり、セミが鳴き出す

という単純な仕組みである。

普段は木にとまるセミが、家中のいろんな家電にとまって鳴き出すのだ。飛んでいる(手で持っている)ときには鳴かず、とまってから自動で鳴き出すという点が絶妙だと思うのだが、どうでしょう。

鳴いている様子が動画じゃないと分からないので、ぜひこちらをご覧あれ。

 

ミンミン鳴くのはミンミンゼミで、ほかにも日本にはいろんなセミがいる。なので鳴き声は3種類搭載して、毎回ランダムで変わるようにした。

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ものすごくうるさいクマゼミ。個人的には、夏といえばクマゼミだ。擬音語では「シャワシャワシャワ」と表すらしい
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「カナカナカナ……」という余韻を残した鳴き声はヒグラシ。「ひぐらしのなく頃に」が好きなので、この声は外せない
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そしてミンミンゼミ。早起きしてラジオ体操に行っていた小学生時代を思い出す

シンプルに楽しめるおもちゃが完成した。これの中身がどうなっているのかも、少し紹介したい。

セミの外装をがんばって作る

このネタ、実は半年以上前から考えていたのだけど、なかなか制作に踏み切れない理由があった。それは、自分は昆虫の見た目が苦手だということ……。普通こういうのは「好きだから作る」のだけど、今回に限っては苦手なのに作らないといけない。

じゃあ作らなければいいじゃん、と思うかもしれないが、ネタとしてはすごく気に入っているのだ。見た目さえ我慢すれば良いものができるに違いない。そういう確信を持って、強い心で制作に望んだのである。

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まずはセミの写真を観察し、デフォルメした形状を3Dでモデリングした。うお、この時点で若干ゾクゾクする
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それを3Dプリンタで出力。羽がない状態だと、「風の谷のナウシカ」の王蟲っぽさを感じる。セミの抜け殻のようでもある
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羽もモデリングして3Dプリンタで出力した。だいぶ簡略化したけど、これでもセミの羽だって分かるシンボリックさよ

あくまで「セミっぽく見えること」を追求したので、特定の種を再現したわけではなく、かなりデフォルメしてある。もしかすると、昆虫好きの方には奇妙な形に見えるかもしれないけど、そこはごめんなさい。

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あとは筆で色を塗っていく。途中、ダンゴムシのようなものが生まれた
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セミの写真を参考にしながら、色を塗り重ねていく。ビジュアルにもだんだん慣れてきて、完成形に近づくにつれ楽しくなってきた。何であっても、ずっと見ていると慣れるもんだ
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そして出来上がったのがこちら。もっとデフォルメする予定だったのに、思いのほかリアルになってしまったぞ……
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3Dプリンタで印刷すると、曲面が段々になる特有の積層痕が生まれる(指紋のように渦巻いているのがそれ)。普通は削ったりして誤魔化すんだけど、あえて残すことでより生物っぽい見た目になった
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セミの中身をコンパクトに作る

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セミの内部に格納する回路を組む

あとは、「スイッチを押すとセミの声を鳴らす」機能を実現するための回路が必要だ。小さいセミの中に収めるためには、コンパクトに作る必要がある。

電源は、ボタン電池だとパワーが足りなかったので、「4LR44」というカメラ用の小さい6V電池を使用することにした。

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4つのモジュールからなる構成

動作を制御するマイコンは、「ATtiny85」という小さいチップを使用。入力電圧を5.5V以下にする必要があるので、6Vから3.3Vに降圧する「DCDCコンバータ」を置いて、あとはセミの鳴き声を再生する「MP3再生モジュール」と「スピーカー」を配置すれば完成だ。

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裏面はこんな感じ。制限があるほど燃えるタイプなので、サイズ制限のある基板を作るのはとても楽しかった
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電池ボックスは3Dプリンタで造形して、両端に銅箔を貼り付けて電極とする簡易構成
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組み上がった回路をセミの中にスッポリと格納する。メカセミである。もう見慣れたと思ってたけど、このビジュアルには若干の不気味さがあるな……
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そうして完成したのが、このセミのおもちゃなのである

セミをいろんなものにくっつけて遊ぶ

磁石がくっつくものなら、どんなものにでもセミをくっつけて遊ぶことができる。家のなかにあるものだと、主に家電が遊び場になるだろう。木ではなくて、家電に生息する新種セミだと妄想しながら遊ぶと楽しいよ。

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ブーーー。セミが飛んできたぞ!
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レンジフードにとまるヒグラシ。意外と似合っていて違和感がない
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冷蔵庫にも、
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オーブンレンジにもセミ!

楽しい。楽しいのだけど、やっぱりちょっと怖いかも。寝ているとき枕元にこれを置かれると、ビックリして飛び起きてしまう自信がある。

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キッチンの壁にもセミ。これはシチュエーションがイヤだな

外装がプラスチック系の家電だと、セミをくっつけて遊ぶことができない。そんなときにはこれを使おう。

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鉄板である。写真のものは、スマホに貼り付けてマグネットで固定できるようにする用途で売られていた
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これを両面テープでエアコンに貼り付ける
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すると、違和感なくセミをくっつけることが可能だ
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テレビにもセミ。この状態で高校野球を見た日には、夏成分がオーバーフローして感極まってしまうかもしれない

どういう風に鳴くのか、まだ動画を見てない方は最後にぜひ見ていって下さい。

 

もともと見た目が苦手だったセミ。でもここまで作る過程でだんだんと慣れて、愛着がわくまでになってきた。これがあれば、冬でも夏の感傷にひたることができるし、がんばれば屋内でもセミ取りが楽しめる?

わりと手軽に遊べて面白いおもちゃに仕上がったのではないだろうか。


磁石で貼り付けるとスイッチが押される構造について

セミで採用している仕組み、どこかで見たことがあると思った方がいるかもしれない。

これ、私が以前つくって商品化が決まっている「なんでもぜんまい」と同じ構造なのだ。

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磁石と同じ面にスイッチがあって、貼り付くと自動でONになる構造
 

実はこの「磁石で貼り付けることでスイッチが入る(そしてモーターが回転する)」というアイデアで、実用新案を取得している。せっかく知財を持っているのと、取得するのにかなり費用がかかったこともあり、この仕組みを他にも応用できないか? と考えていて、ピッタリとアイデアがハマったのがセミだった。

よく面白いアイデアに対して「特許を取った方がいい」とアドバイスする方がいるのだけど、必要な費用について考慮されていないことが多い。実用新案は約2~30万円で、特許だと約5~60万円かかるのが一般的なようだ(弁理士に依頼する場合の総額。自分で全部やればもっと安いけど、慣れないと特許の文章を書くのは大変だし、回避可能な意味のないものになってしまう可能性がある。経験者以外はやめといた方がいいと、個人的には思う)。

しかもその後、維持費が毎年かかり続けることになる。確実に権利を活用できる保証がなければ、個人で取得するのは厳しいだろう。

何が言いたいかというと、「個人で特許を取ってガッポガッポ」というのは、一筋縄ではいかないということです……。セミ、流行らないかなあ。

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