特集 2025年4月21日

酒をやめた人だけで飲みに行く

酒をやめて4年たった。
もう飲みたいと思わないし、しらふでしんとした夜を過ごすことが心地よい。

ただ、居酒屋のつまみをもう食べることがないのか、と思うと寂しさもある。

別に酒を飲まなくても行けばいいのか。

同じように酒をやめた人と一緒に行ってみることにした。

1971年東京生まれ。デイリーポータルZウェブマスター。主にインターネットと世田谷区で活動。
編著書は「死ぬかと思った」(アスペクト)など。イカの沖漬けが世界一うまい食べものだと思ってる。(動画インタビュー)

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初々しい気持ちになる

一緒に行くのは3年前に酒をやめた住さんだ。もともと酒を飲まないべつやくさんも同行してくれた。
*住さんはデイリーポータルZ初期からのライター

かつては住さんと週に2回、2時ぐらいまで飲んでいた。
新宿三丁目にもよく来ていたが、酔っていたのでもやに包まれたような記憶しかない。

よく来ていた居酒屋の前でソフトドリンクがあるかを確かめる

チェーンの居酒屋であればソフトドリンクだけでも問題ない。ただ、もうちょっと雰囲気のある居酒屋が好きだった。ここの唐揚げがまた食べたいんだ。

こういう店はタッチパネルではないので、最初の「お飲み物なんにしますか?」で全員ノンアルを伝えることになる。久しぶりすぎて大人の店に初めて入るような気分になった。

「検査帰りってことにします?」
住さんが提案してくれた。
「いやー、飲みたいんですけど、病院の検査のアレがアレで」
なるほど、それはいい。
ただ、ここで嘘をついたらもう永遠に居酒屋に行けないような気がする。

入店して無事ノンアルコールビールを注文

 「ノンアルコールビール2つとジンジャーエール」と注文するときにやや緊張したのも事実だ。
いい年してこんな初々しい気持ちになれるなんて儲けものだ。
ノンアルコールビールのラベルを見えないようにしているのも背伸びの証である。

つまみのオーダーです

「マグロ刺し」
「お、いいですね」
「タコの唐揚げ」
「いいですねえ」

メニューを見てのコールアンドレスポンスも久しぶりだ。こういうときにいきなり「お茶漬け」と締めみたいなものを頼んで笑いを取るムーブもあった。思い出した。
もちろん食べたかった唐揚げも頼む。

ここの唐揚げにはごまだれがかかっている

カリッとした食感とごまだれでしんなりした食感のどちらもある。カツとじのような湿った揚げ物が好きなので、理想的だ。
また食べられて嬉しい。

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もう胸ぐらをつかまれない

ノンアルコールだが旧知の3人なので話は途切れない。

・住さんが歌舞伎町の居酒屋でトイレに人が入っていることに気づかずにドアをガチャガチャしたら、なかに怖い人がいて胸ぐらをつかまれた話
・住さんが六本木の店に入る入らないとかで胸ぐらをつかまれた話
・荻原さんが青山の路上で胸ぐらをつかまれた話

だいたいが胸ぐらをつかまれた話だった。
「酒やめてよかったですよ。あのまま飲み続けていたら胸ぐらだけではすまない可能性もあったわけですから」
そう言って住さんは安堵していた。そんなに胸ぐらつかまれる人生あるかなと思うが、グーグルフォトはそのときの写真もアーカイブしていた。

「こわかった~(胸ぐらつかまれた直後)」 2007年6月24日 19:48

たしかこの日は昼にイベントがあり、15時ぐらいには終わっているのに19時過ぎてもまだ飲んでいることがカメラの日付で分かる。ありがとうEXIF情報。 

そして18年がすぎた。「これだけじゃすまない可能性もないわけじゃないですから」
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蘇る飲酒の記憶

飲んでいるといろんな記憶が蘇ってきた。

居酒屋サンダル

そうだ、座敷の店でトイレに行くとき用のサンダルがあった。居酒屋なのにサンダルにスポーツとか書いてあるのがおもしろくて写真を集めていたっけ。(20年前は居酒屋のサンダルの写真を集めていた

そして向かったトイレでも強い芳香剤の匂いで時間が引きずり戻される。大森でよく行ってた焼鳥屋もこの匂いだった。

「林さん、ウインナー好きだったじゃないですか」

ウインナーが好きだったこともすっかり忘れていた。夜中の2時にウインナーをつまみにスパークリングワインを飲んでひどく酔ったことを思い出した。
「林さん、新宿が好きすぎて住もうとしてましたよね」
確かにそんなことを言っていた。飲んでタクシーで帰るならその分家賃に上乗せして新宿に住むと言っていた。ばかだ。

飲む人がいないので話がループして長居することもなく2時間で切り上げた。

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飲まないのにバーに行きたい

居酒屋に行く夢は果たせた。次に興味があるのがバーだ。
バーって飲まないで行っていいのだろうか。

さすがに躊躇したのでかつて行っていた店にした

 覚えていてくれ……!と願いつつ入ると覚えていてくれた。
「私たち、3人とも飲まないのですがいいでしょうか」
一杯のかけそばのように言ってしまった(もちろん快諾)。

「なに頼んだらいいんだろ」

3人でコーラとジンジャーエールを頼んだ。
ここで最近メルカリで買ったガラケーを自慢した。2005年の携帯で、撮れる写真の解像度の低さがたまらないのだ。 

バッテリーが劣化してるので3分しか持たない
そうそう、夜ってこんな感じだった
これぐらいでいい

いまのiPhoneで撮った写真と比べると同じ場所とは思えない。ガラケーで撮ると夜遊び感がある写真になる。必要なのはアルコールじゃなくて解像度の低いカメラだ。

「林さん、飲んでたらこのガラケー絶対なくしてますよ」

確かにその通りだ。実際に新宿の海峡(居酒屋)でデジカメをなくしたことがある。言ったことがないのにどうして知ってるんだろう。

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最後に行きたい場所がある

バーも2杯でキリッと切り上げて(酒が入っていたら絶対にそうならない)、最後に行きたい場所があるのでつきあってもらった。

いつも飲んだ帰りに撮っていた看板だ。

ここだ

飲んだ帰り、ここの看板がいつも鮮やかに見えた。きれいに見えて何枚も写真に撮っていたのだが……その感覚が蘇らない。

看板が色あせているような気もする。昔の写真と見比べてみよう。

2013年12月27日 3:25 iPhone5で撮影

こっちのほうが多幸感があふれている。
カメラが夜を明るく撮ってしまっているからかもしれないし、これが酔ったときに見える世界だったのかもしれない。

いまはそれより明るい看板がたくさんある
ちなみにさっきのデジカメだと誰だか分からない

飲み会は飲み会として輝け

帰ってきて文学フリマで売る本の原稿を印刷屋さんに入稿した。
飲んだ後にこういうことができるのはいい。

でも飲み会は楽しかったし、唐揚げも食べられた。じゃあ前みたいに来週も行くかと言ったら……そういうテンションでもない。

飲み会の賑やかな夜は今もそこにあって、ただ、僕はしんとした夜もけっこう気に入っちゃっている、ということかもしれない。

住さんへ、バーで探そうとして出てこなかった汚いデスクの写真はこれです。

この写真1枚でまた飲めた

はげます会向けおまけ

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