強い気持ちで台所に立て
その料理は、Chili Cheese Etouffe(チリ・チーズ・エトフェ)と名付けられている。チーズはわかる。チリもなんとなくわかる。エトフェは、ちょっとよくわかりませんね。
このメニューはとあるレストランの看板商品でありながら、どういうわけか堂々とレシピが公開されている。公式のものかは不明だが、使う食材の指定や分量がやたらと細かいので、部外者が勝手な推量で書いたようなレシピではないのだろう。
26種類もの材料がリストアップされており、まともに買いそろえるとコストも手間も相当なものだけど、せっかくつくるのだから、可能な限りレシピ通りに忠実に買いそろえた。
ネタバレになってしまいますが、この不穏な量の乳製品。最終的にはほぼ全量が、鍋に溶かされます。気を確かに持ち、最後まで台所に立ち続けましょう。
レシピに記された最初の工程は、バターと小麦粉を炒めること。うまくいけば、美しいゴールデンのルーができるのだという。
筆者は家事分担では、台所の担当をしている。日々心血を注いでいるのは、いかに手間をかけずにそれなりにおいしいものが作れるかということだ。したがって、小麦粉を炒めてルーをつくるような丁寧な仕事はしたことがない(どうしてもホワイトソースが必要なときはハインツの缶詰だ)。
何分ほど炒めればよいのか見当もつかないが、そのうちゴールデンになるのだと信じて、弱火にかけた鍋底を掻きつづける。
鍋からは高貴な、食欲を刺激するいい香りが立ち昇っている。しかし色はいっこうにゴールデンにはならない。というか、最も金色に近かったのは、むしろ炒めはじめ。バターが溶けだした色がいちばん黄金に近かったくらいだ。レシピにあるゴールデンとはあんがい比喩的なもので、黄金比とか黄金律とか、美しさの比喩としてのゴールデンなのかもしれない。