食べつけないものとして、不思議に私のなかで有名
見知らぬ食べ物はいくらでもある。遠く異国の食材や料理はもちろん、身近なもののなかにだってそれは多い。
以前、ライターの西村さんが知っているけれど食べたことのないものとして、ビニールで筒状にパックされた「七味もやし」を挙げたときは、私も! と、声が出た。
七味もやしは、編集部の橋田さんにとってはお馴染みだそう。スーパーに普通に売っているのだから、そりゃよく買うという人も多いだろう。
ある人にとっての当たり前は、ある人にとっては鮮やかに未知だ。
「食べたことがない」「でも見たことは、すごくある」という食べ物はほとんどジャンルみたいにきっと、人のなかにそれぞれある。
で、私にとってその一番手がチーズドッグなのだった。
原宿ドッグは業務用、チーズワッフルが一般家庭用
このチーズドッグ、原宿ドッグという名前で一時はあちこちで売られていたように思う。
原宿ドッグというのはニチレイフーズの商標なんだそうだ。給食に採用されていたころもあり、学校で食べた覚えのある方も多いかもしれない。
私は残念ながら給食で食べた覚えがない。この、給食ですれ違った感じが、自分は食べたことがないけど、あるあるな食べ物、としての輪郭を色濃くしているのだろう。
なお、現在もニチレイフーズは原宿ドッグという名前で業務用で販売している。一般家庭向けには「チーズワッフル」という名前で販売しているのだけど、探した肌感ではあまりあちこちで取り扱っているわけではなさそうだ。
数件めぐって、大きめのスーパーで買うことができた。
同様の商品は他社からも出ており、あれこれ食べてみようとも思うも、どうにも入手は難しかった(うわさでは無印良品で扱いがあったこともあったようだが、現在はない)。
今こそ食べておかねばと立ち上がったのは、もしかしたらなんらかの野生の勘が働いたのかもしれない。
知らないのに、知った気にさせる味だ
今回は、できるだけ連続して6日間、2本ずつ食べることにした。
私は胃が小さい。
もともと小さかったのが年々さらに縮小し、本当に本当に頼りなくお恥ずかしいばかりなのだけど、チーズドッグを2本と、野菜ジュースとか、飲むヨーグルトなんかを飲めば昼食としてはちょうどいい(でもその分、間食をすごくします)。
初日はレンジでふつうに温めて食べてみた。
パッケージにならい、牛乳と食べる。
食べて、うん。と思った。
まずい訳ないのだ。ワッフル生地のなかにチーズが入っている。まずしろ(「のびしろ」みたいな感じで)は、無い。
すごくおいしい。甘いし、柔らかいし、ちょっとしょっぱくて、チーズの、発酵による独特な味わいのフックもある。
で、うまく言えないのだけど、ちょっと申し訳ないように思った。
食べなれないものにもかかわらず、「うわ〜! おいっしい!」と、驚けなくてごめん、という気持ちだ。
見ればだいたいおいしいことが事前にわかってしまう。安心が担保されたまま口に運ばれて、知らないのに知っている気まずさがあった。
チーズドッグのこと、知らないから知りたいと思って食べているのに、ホットケーキとか、アメリカンドッグとかの経験則から、どうしても、口だけ勝手に知っている側に立ってしまう。
なのに、距離はぜんぜん縮まらない
このあとも5日間、レンジに少し長めにかけたり、焼いたり、自然解凍したりで食べ続けた。
日々の経過としてみてみると、それなりにじわじわとチーズドッグとの距離を縮めて仲良くなれているように見えるのだけど、実際はあまり関係性が変わった気はしないのだった。
最初の感想として、知らない食べ物のはずなのにだいたい知っている感じで食べてしまった、あの気まずさが、がつっと関係を決めてしまったように思う。
慣れてくる感じはあったけれど、最後までよそよそしい。結局、知らない食べ物として食べ続けてしまう。
私ではない誰かにとっての懐かしさ
結局、最後まで一定の距離を感じたまま、6日間は終わった。もう1クールいけばいいという話でも、これは無いように思う。
「私ではない、誰かにとって懐かしい食べ物」である、という印象が、やはり強いんだろう。チーズドッグを正当に継承していない感覚というか。それで、遠慮が先に立つのかもしれない。
どうしても知り得ない食べ物。私にとってずっと不思議な存在で、そういうものが世の中にあることが、それはそれで心強い。
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