冷凍の今川焼きが自然解凍できるまで一緒に過ごす【そして自然解凍の方がうまい】

「最近の冷凍食品はおいしい」

「最近の冷凍食品はおいしい」と言うようになって随分経つが、まだおいしくてびっくりすることがある。

軽い気持ちでレンジでチンして食べたら背筋が伸びて辺りを見回してしまった。「いいの！？」と思った。誰かの許可が要るはずのおいしさ。日程を調整してお店を予約してやっと食べられるやつを突然食べてしまった気持ち。

つまりすごくおいしかった。

食べるとなくなる

食べると今川焼きはなくなってしまった。

おいしいものはずっと見ていたい。しかし早く食べないと味が落ちる。そして食べ、なくなってしまう。人がずっと抱えてきたジレンマである。

そんなことを考えていた時、パッケージの裏に自然解凍という文字が見えた。

１時間20分だ。それだけの時間、おいしいものがおいしくなるまで待つことができる。この時間だけは今川焼きと一緒にいながら食べない、という行為が許されるのだ。

今川焼きが自然解凍できるまで一緒に過ごそう。

【過ごし方①】見る

細かい氷がついていて、溶けた時に今川焼きが濡れてしまうんじゃないかと心配になったが、あまり触ったりしない方がいいんだろう。

溝がある。温めて膨らんだ時に皮が破れないよう、蛇腹っぽくなっているのかもしれない。

匂いは意外とチョコっぽくない。今川焼きの生地の匂い。まだ中が凍っていて、チョコの匂いが閉じ込められているのだ。

【過ごし方②】測る

高さは低いところで23mm、高いところで26mm。

卵１個ぐらいの重さ。味が濃厚だからか、もっと重いイメージを持っていた。そう、重さ以上に満足感があるんだよな。楽しみだな。

あと、真ん中に薄く丸い跡が付いているが、この模様は直径13mmだった。月のクレーターみたいできれいだ。

【過ごし方③】スケッチをする

シンプルな円柱だが、ところどころに柔らかさがあって描くのが難しかった。

色も暗くて陰影などもよく分からない。あんなにおいしいのにうまく表現できないもどかしさばかりがあった。

【過ごし方④】サインを考える

何回も「今川焼き」と書いているとペンの動きが定まって、サインっぽい省略する書き方になってくる。

もっと崩せるような気もするし、これぐらい元が分かる書き方をする方が今川焼きの真面目さが出ている気もする。難しいところだ。

でも添えてみたらしっくりきたので嬉しかった。

ここまでで１時間ぐらい

他にもパッケージをよく読んだり、今川焼きのテーマパークを考えたり、今川焼きの一人称を考えたりして１時間が経った。

パッケージに書いてあったのは「室温20度で１時間20分」

ということは、１時間10分ぐらいがベストだろうか。

ずっと今川焼きと一緒にいるのでお腹が空いてきた。ちょっと早めに食べてもおいしいだろう。でもここまで待って最高の状態で食べないのは違う。１時間５分で食べちゃうか、１時間10分か15分か、などとうじうじ悩んでいたら10分経っていた。

よし、食べよう。

出会いと別れ

１時間10分自然解凍した今川焼きを手に取り、割ってみる。

待ったものが期待通りに変化している。こんなに嬉しいことはない。そして、もうあとは食べるだけだ。

すごくおいしい。ずっと知りたかった「味」という情報が一気に頭に流れ込んできて渦を巻いた。

そもそもおいしいことは知っていたのだが、自然解凍はなおおいしい。生地がふっくらしているし、中のチョコの、温度のムラがないので安心して味わえる。

何よりすごく良いとろけ具合だ。冷たくて滑らか。１時間10分がベストだった。

そんな風に感動していたら今川焼きはなくなった。あんなにずっと一緒にいたのに、味に出会った途端にお別れなのだ。

出かけてみよう

今川焼きと外を散歩したい。

食べるまでに１時間20分ある。だから30分ほど移動に使って、初めての公園まで来た。

場所によって今川焼きの写り方も違う。好きとか嫌いとか、そういう表情があるのだろう。

きれいでいいところだったので、どこまでもずんずん歩けてしまう。子どもや犬と散歩している人がたくさんいて、みんな花を見せたりカモを見せたりしていた。

キャンプ場ではテントを張って、何か料理をしている人もいた。山に行く前に、こういう場所で練習をしておくものなのかもしれない。

移動で時間を使っているのもあり、あっという間に１時間20分が経った。

分かっているのに毎回感心してしまう。解凍中の風通しが良かったからか、一層ふっくらしておいしく感じた。

一番おいしい

自然解凍の今川焼きは、レンジで温めた時よりおいしかった。中でも「一緒に過ごす自然解凍」は気持ちが乗っかるので一番おいしい。

撮影にあたって冷凍の今川焼きを買いに行ったのだけど、いつもあったスーパーになくて近隣を探し回った。

見つからず、途方に暮れていつものスーパーに戻ってきたら置き場が変わっていただけだった。すごくホッとした。この時点から感情が乗っかっている。