読んだよ 2024年4月25日

悩んだときに思い出す、人生狂わす本「エヴェレスト 神々の山嶺」

デイリーポータルZのライター、関係者が愛読している本を語ります。

今回はライターの安藤さん。レコメンドは「エヴェレスト 神々の山嶺」(角川文庫)

聞き手は唐沢、佐伯、石川です。

では安藤さん、お願いします。

インターネットにラブとコメディを振りまく、たのしいよみものサイトです。

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石川:
厚い!レンガみたいな本。

こんなです

安藤:
山の話なんですよ。エベレストの。
実際にあった出来事をベースに書かれた小説です。

石川:
山って登山ってこと?

安藤:
はい。エベレストって50年代にイギリス人が初登頂したらしいんです。その前に何度も失敗して、4回目だか5回目だかにようやく成功して、その人たちは有名になったんですけど、この本はその1つ前に挑戦して失敗した登山隊がメインの話なんです。

※このへんうろ覚えでしゃべってます。違ってたらごめん。

唐沢:
成功はしてない?

安藤:
その登山隊が最後に目的されたのが山頂のちょい下のところで。
でも結局帰ってこなかったから、あれが登る途中だったのか、登った後に下ってる途中だったのかわからなくて。

唐沢:
なるほど

安藤:
もしそれが頂上に立ったあとに下る途中だったとしたら、その人たちが1番ということになりますよね。でも、結局帰ってこなかったので次の人たちが栄誉を得たんです。で、その人たちの遺体がまだ見つかってない。実際には90年代に見つかったらしいんですけど、これはその前に書かれた本なんだと思います。

石川:
なるほどね。

安藤:
で、見つかったらカバンの中にカメラがあるはず。そのカメラが見つかって現像したら、もし登り切ってたんだったら絶対山頂で撮ってる写真があるはずなんです。そうすると初登頂が戦争を挟んで30年ぐらい遡るんですよ。歴史が塗り替えられる。そのカメラを巡る話です。

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捻挫してブルーシートにくるまって思い出す

※これ以降、物語のネタバレを含みますのでご注意ください

唐沢:
主人公はいるんですか?

安藤:
います。日本の有名な登山家で長谷川恒雄っていう人がいて、そのパロディで長谷恒夫っていう人が出てきます。そのライバルの登山家が主人公です。

唐沢:
そっちなんですね。

安藤:
2人が切磋琢磨し合いながら、エベレストとかヒマラヤを攻めていくっていう話。

その主人公が、結局、エベレストの山頂まで登頂したかどうかわかんないうちにどっか消えてしまうんですね。で、最後にそのノートだけ見つかって、ノート見れば登ったかどうかわかるんじゃないかと言って見るんですよ。それがね、めちゃめちゃ怖いんですよ。そのノートの中身が。

唐沢:
危険な状況とか、心理的な怖さ?

安藤:
山やってる人はね、ここだけでも読んでほしいんです。

いいか。やすむな。やすむなんておれはゆるさないぞ。
(中略)
あしが動かなければ手であるけ。てがうごかなければゆびでゆけ。ゆびがうごかなければ歯で雪をかみながらあるけ。はもだめになったら、目であるけ。目でゆけ。
(中略)
ほんとうにもううごけなくなってうごけなくなったら
思え。ありったけのこころでおもえ。

って書いてあるの。

一同:
うわー

安藤:
初めて読んだのが20年前だけど、すごい怖いなと思ったんです。
そのあとに僕はトレイルラン(山の中を走る長距離走競技)をやり始めました。
僕がやってるのはこんな厳しい登山じゃないんです。道が整備されたところを走ってるだけなので。でも寒いし怖いし、幻覚とか見る。

石川:
十分厳しいですよ!

安藤:
嫌になってリタイアする人が半分ぐらいいるレースなんです。それで2018年に出た大会で、僕も足を捻挫してしまって

唐沢:
えっ

安藤:
リタイアしたんですよ。そのときにこれを思い出して。こんな、ただ足を捻挫しただけで、まだ手も動くし、全然まだいけるのにって。

でも、大会としては出場者が泥だらけになって目で這ってたら迷惑じゃないですか。そうやって大人の発想をしてしまって、リタイヤを選んだんです。朝までブルーシートにくるまって、お前はありったけのこころで行ったかって思いながら、迎えのバスが来るまで泣きながら待ちました。

唐沢:
へえー

安藤:
そんなことがあったから、20年ぶりにもう1回読んだら、なんか全然見え方が違ったんですよね。

思い入れの深さに比例して付箋がでかい
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いろいろ悩んだ時に思い出す本

安藤:
登場人物たち、山に命かけちゃってるから、みんなもうダメになってるんですよ。仕事とか。

石川:
はいはいはいはい

安藤:
ほんともうだめ。仕事やめてるし、奥さんとも離婚してるし、全てを投げ打ってるわけですよ、みんな。全然社会的にはダメな人たちが居酒屋に集まって、山の話をしてるわけです。

で、「お前まだ山やってるか?」って言い出すわけです。みんな年取ってて、40代後半。
でね、僕、今そのぐらいなんですよ。しかもこのまえ会社辞めて、もう職はなくて、本ばっかり読んでるんですよね。

石川:
ははは

唐沢:
山やってるんじゃなくて、本やってるんですね。

安藤:
すごいかぶるなと思って。こいつらダメだけど、山だけはやってるんですよ。僕もなんかやんなきゃダメだと思って……走ってます。

唐沢:
走ってる(笑)

安藤:
職もないし、することないけど、まだやってるぞっていうのは見せなきゃダメだと思って走ってる。だから僕の人生は、この本に影響されたなと思って。転換点というか、いろいろ悩んだ時に思い出す本なんです。

石川:
その人生は、いい方に導かれてるんですか?

安藤:
わかんないんですよ(笑)

佐伯:
(山に)そうまで賭けちゃう動機がわかんないな。

安藤:
僕も最初読んだ時にはわかんなかったんですよ。けど今はちょっとわかって、年齢もあると思うんですよ。

40後半ぐらいになってくると、まだいけるかどうかを悩む時期なんです。その僕がリタイアしたレースも、もう1回行けるかどうか。

石川:
そうか、肉体のリミットがあるんだ。

安藤:
そうなんですよ。もうそこで諦めても全然いいんです。誰も責めないから。

石川:
でも今すごいチャンスじゃないですか。お金まだ残ってるし、時間あるし。

安藤:
だから今年しかないと思って。今年はその2018年にリタイヤしたレースと、もうひとつ海外のレースもエントリーしちゃった。
だから、そういう人生狂わす本です。

石川:
すごいな、おすすめになってるのかな。凄みはとにかく伝わりました。ありがとうございました。

「面白そう~読んでみますね!」と軽々しく言いづらいタイプの薦め方をされた唐沢さん(右)

Kindle版です。レンガみたいな本が欲しい方はリンク先で「文庫」を選んでください。

エヴェレスト 神々の山嶺 (角川文庫)

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