オリジナル商品の量産の道が開けた
アイデアがあっても個人ではなかなか受けてもらえないという話をよく聞くし、実際そういう場面に出くわすこともあるが、インターネットの力でオリジナル商品を作る環境は整いつつあると感じた。
今回は部品だったが完成品でも同じように作ってもらえると思う。
最初にお金がかかってしまうのはやむを得ないが、アイデアを持っているなら参考にしてほしい。
自分の商品を世の中に向け販売する…これはロマンだ。うまくすれば大ヒットするかもしれない。
ただし大企業でもない限り自分の考えた商品を作るなんて簡単に出来る事ではない。
しかし先日、中国へ2つの部品を注文して思った通りのものを作ってもらう事ができた。しかも比較的安く、それもただの個人として。
これは物凄い事じゃないか。
インターネットの発展とともに自分で考えたりデザインしたりした商品を売るハードルはものすごく低くなっている。かくいう僕もオリジナルのLEDバッジなどをハンドメイドして売っている。
ハンドメイドにはハンドメイドの良さがあるが、より多くの人の手元に届けようとした場合、量産も選択肢のひとつだ。しかし量産に関する情報はまだまだ乏しい。
僕がハンドメイドで作っているバッジ(ブローチ)ではこの電子部品を使用している。
この電子部品を日本のネットショッピングサイトから買っているが、製造元は中国の会社だった。
その製造元の会社のウェブサイトを見ていると、製品ページからこの部品だけ無くなっている事に気づいた。
嫌な予感がしたので、今後も販売が続けられるのかその会社に訊ねてみたところ「材料が廃止されたのでご了承ください」と返ってきた。まだネットショッピングサイト上では在庫があったが、入手できなくなるのは時間の問題じゃないか。
代わりになる電子部品がないか、国内、海外を問わずあらゆるネットショッピングサイトを探したが、見つける事ができず中国の「アリババ」というサイトへ行き着いた。
アリババとは、中国の商談仲介サイトだ。決められた個数以上じゃないと買えない「最小発注個数」があるので比較的大口の取引となる。恐らく企業同士向けのサイトだ。
なお僕は海外からパーツを仕入れた経験など皆無だし、英語も怪しいので、見るだけのつもりだ。
最初は会員登録もしていなかったが、途中で会員登録を済ませ「matrix led 8×8」などと検索して代替既製品がないか探した。しかし結局見つける事はできない。もう打つ手はない。
そうするとアリババに参加しているメーカーの1社からこんなメッセージが。
僕は会員登録をした後、検索をしただけだったのでドキっとした。あとで知ったがアリババでは利用者が「何を検索したか」がメーカーに開示される仕組みがある(設定でオフにも出来る)。
僕の感覚だと結構すごいことだが結果的に話が早かったので合理的なのかもしれない。
正直なところ、僕も全く”あて”がないので、このマトリックスLEDのメーカーの担当者さん(仮にウーさん)とメッセージをやりとりすることにした。
ウーさんは「こういうのが作れるよ」という感じで資料を送ってくれたが、僕が欲しいマトリックスLEDとは違っていた。
逆に「こういうの作れますか?」とファイルを添付して質問してみることに。ファイルは寸法と配線図と外観を含むJPGファイルだ。
ちなみに僕は企業ではなく個人だが、一人称を「we(私たちは)」とか「us」とか言って、会社っぽい雰囲気を出そうとしている。
日本では個人は嫌がられる事が多かったからだ。個人だと分かった途端連絡が取れなくなったり、そもそも問合せフォームの会社名が必須項目になっていて問合せができない事も多々ある。
しかしこの無駄な見栄はあまり意味がなく、中国では個人だろうがちゃんと向き合ってくれるのだと後で知った。
僕の無駄な見栄を見抜いていたのかどうか分からないが、
ウーさんは僕の希望に合う部品を作ってくれると言ってくれて、そのために金型も作ってくれることに。
金型作成には結構なお金がかかる。iPhoneの一番高いやつより高額だ。しかし一度作ってしまえばそれ以降は値段を安く抑えることができる。まとまった数が必要な場合は国内のネットショッピングサイトから買うより割安だ。
見積に対する僕からの返事は↓のような感じ。
金型の作成前に設計図データ(CADデータ)をチェックしたいということと、最初は少ないロットで注文したいとお願いする。
引き受けてもらえたのはありがたいが、正直なところ、ちゃんとしたものを作ってもらえるか心配だ。似たような事をしている人がいるか検索してみたが全く出てこなかった。中でも金型は一度作ってしまうと作り直しが利かないので、あらかじめ見せてもらう事にした。
この時にすっかり忘れていたが、最小発注個数(MOQ)もこの時点で確認しておくべきだった。
担当のウーさんも「最初は少ないロットで」と言う僕の要望に、「そうした方が良いです」と言ってくれた。
ウーさんは僕の依頼にあいまいな点があると一つ一つ確認してくれて、とても丁寧だ。それに「いつ寝てるの?」って思うほどいつでもメッセージが届く。
そうしてメッセンジャーでやり取りをし、仕様や金額が固まれば「ORDER」画面を作成してくれる。ORDER画面は何を、何個、金額がいくら、送料がいくら、送り先はどこといった、通常のネットショッピングサイトとほとんど同じ画面だ。支払いもクレジットカードでできる。
おそらく支払ったお金は一旦アリババが貯めておいて、受け取り連絡するまではメーカーには支払われない仕組みだと思う。
利用者の不利にならないように徹底していて、よく考えられたサービスだ。
その後、お願いしていた通り金型の設計図(CADデータ)が送られてきた。
ここだけ画面が違うのはメールで送られてきたからだが、基本的にメーカーとのやり取りはアリババのメッセンジャーでやった方がいいと思う。そうして履歴を残しておけば万一のトラブル時にアリババが助けてくれるみたいだ。
僕には文中の「サイン」の意味が分からないし、検索しても当然出てこない。電子署名?アリババのシステムにそういう機能がある?など色々考えたが、わからないので聞いてみる。
思ったよりアナログな方法だった。このやり取り、後から考えると本当に馬鹿馬鹿しいが、設計図データには本当に電子署名みたいな機能もあるし、相手は全く商習慣やバックグラウンドが違う相手なので全く分からなかったのだ。
印刷してサインしてスキャンして画像データにして送り返す。
このサインによりウーさんの会社ではサンプルの生産が開始される。
楽しみな気持ちと不安が入り混じって数日待つと、ウーさんから待望のメッセージが届いた。
サンプルの生産が完了したという事と、今度は「CIを確認してください」という連絡だった。
僕はCIが何なのか全く分からなかったが、検索するとCIとは「コマーシャルインボイス」の略で税関が確認する書類のことらしい。
CIにより荷物の中身や金額やそれによる税金の算出などがおこなわれる。CIに間違いがあると通関できないのでしっかりと確認する必要があるようだ。
ウーさんにはCIにも問題ない旨の返信を行う。
CIを確認が終わればついにメーカーがサンプルを発送してくれ、数日後には荷物が届く。その時に宅配のお兄さんが代引きと同じ要領で内国消費税(と場合によっては関税)を請求してくるので支払う。
外国で買った商品がある程度以上の金額になると日本の消費税がかかるのだ。
急いで荷をほどいたので、届いた荷姿を写真に撮るのを忘れてしまった。段ボールを開けるとビニールテープでグルグル巻きになった箱が入っている。
その箱を開くとビニールに包まれた部品が入っている。
なにしろ初めて外国へオーダーメイドしたので、ちゃんと出来ているか心配で仕方がなかった。
届いた部品の寸法などを一つ一つ噛み締めるように確認していく。そしてそれぞれ問題ない事を確認して胸をなでおろす。
全て問題なかった。完成品を基板に取り付けてちゃんと動いた時はちょっと感動してしまった。
サンプルがOKなら2回目の作成を依頼する。サンプルがちゃんとできていたのでずいぶんと気分が楽だ。
発注の段階で僕の発注数は最小発注個数に足りなかった事が分かったが、ちょっとだけ追加費用を払えば快く引き受けてくれた(そんな大変な金額でもなくよかった)
もちろん2回目の生産品も問題なし。
初めての中国へのオーダーメイドを無事終え、実はもう一つ作りたい部品がある。
これも同じくハンドメイドのLEDブローチに使う部品で、これまで日本のメーカーにお願いしていた。
そのメーカーは個人相手にも引き受けてくれるすごくありがたいメーカーだが、少量の生産が得意な一方、作る数が増えるとちょっと割高だった。
マトリックスLEDの時はウーさんに声を掛けてもらい、助けてもらいながら進める事ができたが、声を掛けてもらえるケースばかりではないし、ウーさんはめちゃくちゃデキル人だった。かなり運が良かった。
次にアリババのRFQという機能を使ってみる事にした。
RFQとはRequest For Quotationの略で、意味は見積リクエストだ。
つまり、普通ネットショッピングサイトでは商品ラインナップの中から欲しいものを探すが、こういうものを作るにはいくらかかるかを聞く事ができる。
プラスチック部品を量産する場合、射出成型という方法を使う事になる。
RFQの画面では以下のような情報を提示して見積もりをしてもらう。
簡単な自己紹介
射出成型をお願いしたいこと
プラスチックの種類(ABS、PPなど)
製造個数
設計図データを送ります
何に使う予定か
ファイルが画像しか添付できなかったので肝心の設計図データは送る事が出来なかった(よく調べたらZIPファイルは添付できたので圧縮して送る事はできた)
本当に見積が来るのか、全く来ないかも知れないと不安だ。
そんな心配をよそに、
ものの30分ほどで十数件の見積が次々と集まってくる。
一様に「設計図データ(CAD)を送ってくれたら正確な見積を送ります」という内容だった。それはそうだと思う。
形式はSTEPファイル形式(.step/.stp)でと言う所がほとんどで指定通り送った。
僕がすごいと思ったのはこれ↓
ここに頼めば日本語でやりとりもできそうだった。
そしてアリババのシステム経由だけではなくて、なぜか僕のメールアドレスにもたくさん見積が届いていた。これアリババの規約的にどうなんだろう…
極め付きはフェイズブックのメッセンジャーにも。僕はアリババには名前くらいしか登録していなかったが、フェイスブックで名前検索して送ってきたということだろう。僕と同姓同名の人に中国から見積が届いたかもしれない。
見積をくれた会社の中でどの会社にお願いすれば良いのかは全く分からない。値段ももちろん大切だが、メッセージの返信が早い方が信頼できるんじゃないかと思い、一番返信が早いメーカーにお願いする事にした。
やりとりはほぼ前回と同じになるので割愛するが、その会社は日本語が通じる会社ではないので英語でやり取りをすることになる。
入金から数日後に仕様書が送られてくる。前回はなかったので射出成型ならではだろう。なぜかプレゼンテーション用のパワーポイント(.ppt)形式だ。
仕様書には以下の様な内容が書かれている。
まずはプラモデルを作った事がある人ならお馴染みのゲートだ。ゲートとは熱して溶かしたプラスチックを流し込む注入口にあたる。
プラスチックが冷えて固まった後、この位置で切り落とすので製品にはどうしても跡が残る。
そしてパーティングライン確認だ。パーティングラインとは金型が噛み合わさる位置で、金型同士のわずかな隙間に溶けたプラスチックが入るので、完成品にはわずかに線が入る可能性がある。
しかし今回の場合は部品のカドの部分に来ているのでほとんど気にならないんじゃないかと思う。
つづいてエジェクタピンの位置。エジェクタピンとは、冷えて固まった製品を押し出して型から取り出すための棒だ。
エジェクタピンで押し出される部品は、まだ中まで完全には冷え固まっていないため、その場所がわずかに凹むはずだ。
最後に、この赤くなっているところは通常より部品に厚みがある部分だ。プラスチックは冷える時に縮むので、赤くなっている部分はうっすら凹む(=ヒケ)可能性があると教えてくれている。
いずれも問題はないのでこのまま作ってもらう事にする。
仕様書の確認が済むと作成に入る。今回のメーカーさんはやはりレスポンスが早いうえに、進捗を結構マメに送ってくれるのですごく安心できた。
しばらくするとサンプルが届く。
届いた中国の射出成型会社のパーツと、それまで作ってもらっていた日本の射出成型会社のパーツを比べている。全く同じだ、よかった。中国製の方が少し太いのは僕が設計を変えたからだ。
条件が同じではないので一概に比べられないが、同じABS(プラスチックの種類)の白であるものの日本製のほうがやや青みがかっているように見える。
また中国製の方が「気のせいかな?」くらい本当にわずかに柔らかい。
あと部品のカドは日本製の方がシャープな気がする。目で見ても分からないが、指でなぞってみたときに指紋に引っかかるようだ。
仕様書に書かれていた、部品を押し出してできたエジェクタピンの跡だ。
プラスチック製品にはよくこういう跡が残っているので見た事があるかもしれない。
こちらはゲートを切り離した跡だ。これもプラスチック製品をよく見ると似た跡が残っているかもしれない。
パーティングラインとヒケはほとんど分からなかった。
サンプルに問題がなかったので、同じように量産を依頼すると、数日後に荷物が届く。
ガッシリとしたダンボールが使われている。
中に部品がみっちり詰めてある。無事届いた事にホッとする。
数え間違いでなければ12個予備が入ってるようだ。そして特に不良品も見られなかった。
こうして、海外の会社に苦手な英語で、しかもオーダーメイドで作ってもらう事ができた。正直なところ何をどうすれば良いか分からなかったし、不安しかなかったが、2回ともメーカーの担当者さんがデキる人だったおかげでなんとか成功する事ができた。
ただ他の人に話を聞くと、トラブルになった場合もあるようで、もしかすると運が良かったのかも知れない。
日本の会社がきっちり期日までに納品してくることと比べるとスケジュールには寛容だった印象だ。ただ絶対にこの日までに欲しいというようば場合、事情を説明すれば聞いてくれるんじゃないかとも思う。
アイデアがあっても個人ではなかなか受けてもらえないという話をよく聞くし、実際そういう場面に出くわすこともあるが、インターネットの力でオリジナル商品を作る環境は整いつつあると感じた。
今回は部品だったが完成品でも同じように作ってもらえると思う。
最初にお金がかかってしまうのはやむを得ないが、アイデアを持っているなら参考にしてほしい。
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