メニューは日替わりで毎日違うカレーを出す
場所は高円寺駅南口から徒歩2分。店の前には「妄想インドカレー」ののぼりが風にはためく。
ついに来ました
店は小さいながら手作り感満載で、カレー屋というよりは洒落たカフェのようだ。
桜のつぼみが開き始める
この店を営むのは大澤思朗さんと近藤麻衣子さん。今年の1月にオープンし、物件の都合で7月末までの期間限定営業だという。
妄想全開のお二人
メニューは日替わりで毎日違うカレーを出す。今日は「サーモンハラスのカレー」「ホタルイカとふきのとうのカレー」の合いがけ、「葉玉ねぎと手羽トロのカレー」「カーボロネロのキーマカレー」の合いがけの2種類だった。
葉玉ねぎ
ちなみに正式な店名は「ネグラ」だが、世間的にはコンセプトの「妄想インドカレー」の方が定着したそうだ。
カーボロネロを刻む
カーボロネロとはイタリア産の別称「黒キャベツ」。大澤さんによれば、食材は高円寺の八百屋で店員さんと話しながら購入しているとのこと。「珍しい野菜もじつはひっそりと並んでいるんです」。
ふきのとうを刻む
メニュー表はない。最初の頃は「TODAY'Sメニュー」的なものを作っていたが、毎日書き換えるのが面倒なのと、お客さんに口頭で説明したいという思いからやめたという。
ニューヨークとかパリとか、都会の街が好き
カレー原体験は、小学生の頃に家族でよく行っていた渋谷のネパール料理屋さん。やさしい味だったそうだ。
その時、大澤さんが「あっ、これ『ギャラクシー』なんですね」と言って包丁を見せてきた。
天然なんだろうか
大学には6年間通い、近藤さんと同じ演劇部に所属。池袋の実家の離れに古い日本家屋があり、そこを掃除して友人たちが集まる拠点にした。
「その場所を『ネグラ』と呼んでいたんです。自分たちで学園祭を企画したりして、そういうイベントの流れでなんとなくカレーを作り始めました」
スパイスが並ぶ棚
実店舗はここが初めて。客層は、近所に住む人から噂を聞いて遠くからやってくる人まで様々だ。カレー好きの情報網はすごい。
甘みが引き立つネパール山椒
そして、大澤さんはインドには行ったことがない。それが「妄想インドカレー」たるゆえんだ。
「よくアジアを放浪してそうと言われますが、じつはニューヨークとかパリとか、ああいう都会の街が好きなんです。自由の女神を見てテンション上がったり(笑)」
麗しさのあるナツメグの表皮「メース」
そんな彼にインドのイメージを聞いてみた。
「うーん、街を歩いている人が突然踊り出すかんじですかね。あとは数学が得意とか。でも妄想を貫き通すために今後も行く予定はありません」
オリジナルのスパイスを調合してくれる
このサービスは余裕がある時のみ。ミキサーでスパイスを挽いて、味を説明しながら調合します。スパイス調合は足し算。引き算ができないところが難しいという。
自分の店のエゴサーチとか大好きなんですよ(笑)
大澤さんが目指すのは、最後まで「おいしい」「おいしい」と思いながら食べられるカレー。だからスパイスは適量にとどめ、食材の味を引き立てるようにしている。
サーモンハラスを焼いてルーを煮込む
ふだんは家でカレーの研究をしていると思いきや、「ずーっとネットサーフィンしてます。自分の店のエゴサーチとか大好きなんですよ(笑)」とのこと。
カレーを待つ間、店内を見渡してみると、気になるアイテムがたくさんある。
地方の土産物集めが趣味
ラジオからは荘厳な歌劇が流れる
ビートたけしが目を入れたというダルマ
店の缶バッジ
このバッジや表ののぼりなどのデザインは、いっしょにイベントなどをやっている苦虫ツヨシさん。RSR(ライジングサンロックフェスティバル)のTシャツデザインも手がけるアーティストだ。
トイレも苦虫さんによるアートディレクション
ちなみに大澤さんの大好物はカツカレー。ココイチも大好きで、そこではいつもフィッシュカレーを注文するそうだ。
1日4回来たことがあるという男性も
さて、気づけば店内は満席。食べ終わった皆さんに感想を聞いてみたところ、「すごくおいしかった」「葉玉ねぎなど食材が面白い」「内臓にやさしい味」「マスターの人柄がにじみ出ている」など大好評のようだ。
初めて来た人と2回目だという人たち
外で待っている男性二人組もいた。話を聞けば、以前3回来てすべて満席であきらめたが、今日は並んでも食べるという。
街角スナップのような写真
また、カウンターの奥で静かに食べている男性は、オープン直後からほぼ毎日来ている猛者だった。
「1日4回来たこともあります。とくにカレー好きではなかったんですが、毎日違う味が楽しめるし、ハマっちゃいました」
仕事場が高円寺とのこと
彼のかたわらには文庫本。『志士―吉田松陰アンソロジー』という渋い本だった。
幕末とカレーはよく合うんです
そして、いよいよ僕のところにもカレーが運ばれてきた。
トンカツです
高円寺の蕎麦屋が店をたたむ際の「何でもお持ち帰りください」キャンペーンで入手した食品サンプルだそうだ。
食材の味を最小限のスパイスが引き立てている
さて、気持ちを切り替えてやがて「その時」が訪れた。
こちら、妄想インドカレーです
おおお、おいしそうだ。「手羽トロ、ふきのとう、葉玉ねぎのカレー」と「カーボロネロのキーマカレー」の合いがけで1000円。
いただきます!
食材の味を最小限のスパイスが引き立てている。「手羽トロ~」にはブラックペッパーとマスタードシード、「カーボロネロ~」にはクローブ、コリアンダー、クミン、スマックというスパイスが入っているそうだ。なるほど、毎日通いたくなるやさしい味だ。
通常は500円だがランチタイムは300円になるというチャイも注文した。
チャイにスパイスをふりかける近藤さん
「カレーには最小限のスパイスしか使わない分、チャイにはスパイスをガツンと効かせます」
近藤さんは暗い昭和歌謡が好きとのことで、こうした個人情報もスパイスの一種だ。
チャイです!
ピンクペッパーとネパール山椒をふりかけ、さらに砂糖とジャグリ(さとうきびやなつめやしの木の糖蜜)が小皿で出てくる。
ひと口飲むと…
おお、たしかにスパイスをがっつりと味わえる仕様だ。カレーとセットで注文したい一杯だ。
「妄想は逃げないんで」
というわけで、妄想インドカレーの人気の秘密がよくわかった。最後に、大澤さんに今後の展開を妄想してもらったところ、「カレー屋でもうかったらキッチンカーでアメリカ大陸を横断したい。さらにその後はカツカレーを出すお弁当屋さんをやりたい」とのことだった。
けっこう大きな夢ですねと言うと「妄想は逃げないんで」という回答。名言をいただきました。ごちそうさまでした。