

アイドルタレントがイベントをするので有名な広場だ。折りたたみ椅子が3-40個ぐらい広げてあったが、席は埋まっていなかった。
座っていたのは、年配の方と子供連ればかり。そこのはしっこに、私たちも座る。
「ハイ、みなさんこんにちわー!!」
ラーメン柄の王冠をかぶった、司会のお姉さんが、元気に登場。
「これからは、西城秀樹さんの物まねスター、バーモント秀樹さんのショーが始まりますー!」
ぱらぱらぱら…、と拍手。
すぐに、バーモント秀樹が登場した。
おそらく50歳くらいの、長髪の男性。顔はとくにヒデキに似ていない。骨格は似ているのかも…? と思った。衣装はもちろん、全盛期のヒデキ風の、白いパンツ、青いジャケット、スパンコールでキラキラのベスト。
物まねスターの、こういう営業を観るのは、初めてだ。



歌、上手い! というか、地声がヒデキに似ているみたいだった。
次に「ハウスバーモントカレーの歌」を歌い、「ハウスポテトチップスの歌」を歌い、「情熱の嵐」を熱唱。
リクエストをつのったのに、リクエストを全部無視して「ブルースカイブルー」という曲を熱唱。
そして、ショートコントとして、ヒデキ以外の人の物まねをはじめた。
まずは、ドラマ「仁」で内野聖陽が演じる坂本龍馬のまね。
……似てなかった(っていうか、地声がヒデキだ)。
つぎ、みのもんたのまね。
……似てなかった(っていうか、地声がヒデキだ)。
最後にはお約束で、「ヤングマン」熱唱。



サクッと演じて、サクっと終わらせた感じだ。
あっという間にショーは終わった。
「……大塚さん」
「何」
「なんか複雑な気持ちっていうか……悲しくなってきちゃった」
「そうねー、物まねタレントの一生って興味深いよね」
「物まねタレントになったキッカケは、とか、どんな気持ちで同じ曲を毎回歌ってるのか、とか、自分じゃなくて他人の栄光にあやかることに対する葛藤、とか」
「そんなの、きっと、ビジネスとして割り切ってるとは思うけどねえ。でも確かになあ。私も、アレ、えーとね、そっくりさんが一杯出て来る映画……『ミスター・ロンリー』を思い出しちゃった」
「うわ、あれ、超暗い映画じゃん!」



だが、実際のイベントは、思っていたものの2/3くらいの規模で、ちんまり…としていた。
イメージでは、会場いっぱいに、カレーの箱とラーメンの袋があるのかと思っていたんだけど、飲食ブースのほうが多かった。作りたて(?)のインスタントカレーと、インスタントラーメンが食べられる。
「大塚さん、カレー…食べる?」
「そうね、食べておくか。…って、カレーが1000円で、ラーメンが500円かー」
「結構いい値段するねえ」
「まあ、1個づつ、適当に買って、半分こしようよ」
さて、食べようとしたら、
「ん!?」
カレーに口を付けたら、冷たかった…。
「Tさん、カレー冷たいよ…」
「まじで?(食べてみる)うわ、ほんとだ。これは温めるのをミスしたね、バイトの人が…。いちばん偉そうな人に文句言ってくる!」
Tさんは文句言うのが得意だ。私だったら、冷たいまま我慢して食べてしまうだろう。「偉い人」はすぐさま動き、あつあつのカレーと替えてもらえた。
「あのさー、カレーが冷たかったったこととかさ、記事にしてもいいのかなあ…」
「まあ、事実だからねえ」
「イベントにケチをつけようという気は、全くないんだけど」
「まあ、でも、どんなイベントでも、そういうトラブルってあるでしょう。今日は大塚さんに当たっちゃっただけだよ」





バーモント秀樹 の、展示場内でのショーが始まった。
「え、こっちでもやるんだ!」
「むしろ、こっちの会場でやるのがメインなんじゃない?」
「そりゃそうか」
「ハウスバーモントカレーの歌」を1曲目にしたりして、セットリストを若干変えていた。
会場は噴水広場よりもホットで、YMCAの手も、みんな結構やっていた。
ホットなステージだった。



「今日、2ステージ見たの、私たちだけかもね」
「MCも、ほぼ全部同じだったね」
「うん、客いじりも、全部一緒…」
「同じショーを何十年もやり続けてるんだろうね」
「そうね……」
そのあと、カレー箱とラーメン袋を見たのだが、バーモント秀樹のせいなのか何なのか、頭が混乱し、どれを買っていいのかサッパリ分からなくなってしまった。




































そんな予算まったくない。気力もない。っていうかそんな簡単なことじゃないんだよバカあ。
帰路、菓子店・タカセのティールームで反省会が行われた。
「なんかこう、プロトタイプ的なイベントだったね。コンテンツは悪くないんだけど、まだ試行錯誤の段階っていうか……でも、私はああいうイベントも、嫌いじゃないな。大塚さんは、どうだった?」
「なんか、夢のようなイベントでした」
「ゆ、夢?」
「夢の中のような…。ものまねスター、ありえないカレーたち、外でわざわざ食べるインスタントラーメン、ホヤーっとした会場の雰囲気……。池袋、っていう土地の空気も、この感じに拍車をかけているのかもしれないなあ。
池袋さあ、うちら、埼玉出身だから、この空気に慣れてるけど、他の地域の人が来たら、違和感とか感じるんじゃないかなあ」
「たんに池袋っぽいなーって思うだけじゃない?」
「そもそも池袋っぽさって何なんだ?」
「いい意味でも悪い意味でも、ゆるさ、だね」
「東口は、中学生と親子連ればっかり歩いてるよね、イオンと客層が一緒、みたいなノリで」
「何でだろ」
「中学生は、実家から出かけられる最大の都会が、池袋なんじゃない? 親子連れは、埼玉にマイホームを持ってる人なんじゃない?」
「そういうことか?」
「まあでも、ゆるいってことは、自由ってことですよ」
「っていうか、昔からこんな感じだったっけ、池袋って。大塚さん、昔、長いこと池袋でバイトしてたんでしょ」
「西武の花屋と、パルコのCD屋と、東急ハンズの清掃グッズコーナーで働いた!」
「すごいね、池袋の東口、制覇してるねえ」
「いやー、あのころは、池袋は普通にクールな都会だと思ってたけど…」
「でもそれ、90年代の話でしょ?」
「まあそうだけど。もっと治安が悪かったけど、勢いがあったな。90年前後の西武とか、超オシャレだったしなあ~…」
「そんな時代もあったねえ。キャッチコピーが糸井重里の『ほしいものが、ほしいわ』で。」
「ポスターは無名時代の宮沢りえ、ね」
「本屋に詩集コーナーがあったり、照明も薄暗くて、わっけわからない現代音楽が大音量で鳴ってたよね」
「今思えば、あの時代は、お金あったんだね。デパート内に、さほど売れないものを、置く余裕があったってことだもんね。催事場でレアなCD売ったりさ。ルー・リードのライブ盤がでっかい音でかかってて、つい買っちゃった覚えがあるもの。クリスマスになるとクリスマス雑貨がどばーっと売ってたりさ、やっぱり薄暗くしてあって、プライマルスクリームの『インナーフライト』とかかかっててさ…」
「キラキラと、文化の香りがしてたもんね」
「そんなお洒落な池袋も、今は、バーモント秀樹が似合う街」
「バーモント秀樹は別に、あれはあれで、いいタレントさんじゃないですか」
「いや、そうだけど。今日、モヤモヤする原因は、彼が大きいですよ」
「モヤモヤする池袋。いいじゃない、モヤモヤしたって」
「池袋は愛してるよ…、今の池袋も、昔の池袋も」
そのあと、「催事場のカレーだけじゃゴハン足りなかったね、ちょっとだけ何か食べたいね」ということで、Tさんと回転寿司を食べた。インスタントのものを食べた反動か、身体がナマモノを欲していた。
1皿、130円の寿司屋だった。もくもくと食べていると、隣席の男が「かんぴょう巻き、ワザビ多めに入れて」と注文した。職人さんが「かんぴょうにワサビ入れてないんで、自分で入れてもらえますか?」と、のり巻きとワザビを渡そうとすると、男は怒って立ち上がり、「なんで出来ないんだよ!? なんで出来ないんだよー!!」とすごんだ。
その直後に、天井から、ナゾの水がピューっと落ちて来て、私のお寿司の上にかかった。絶句。Tさんと顔を見合わせる。
でも、今日は「夢みたいな日」だから諦めようっと! と思った。
