マンガ表現は本当でした
ミスター味っ子に出てきたデザートオムレツ。プロに作ってもらったら本当に美味しくてびっくりした。マンガを描く時には一度作ってみるんだろうか。だとしたら作者の寺沢大介先生は相当の料理人ですよきっと。
マンガ「ミスター味っ子」のオムレツのフルコース対決はメインからデザートまでオムレツだった。全部美味しそうだったのだけれど、中でも気になったのがデザートオムレツである。
味っ子こと味吉陽一くんの作ったデザートオムレツはかぼちゃのジャム入り。さらに隠れたシソと梅がアクセントになっていたのだ。
作中では味皇(料理界の重鎮)が「うまい!」と力いっぱい感動するのだけれど、あれは実際に作ったら本当に美味しいんだろうか。料理のプロを巻き込んで再現してみた。
結果、美味しかったんです。
素人目に見てもミスター味っ子に出てくるオムレツはかなりアクロバティックである。煮汁たっぷりのハマグリが入っていたりうなぎが入っていたりするのだ(詳しくはマンガを読もう。できれば楽天Koboで読もう)。
あれに挑戦する前に、まずはふつうのオムレツができなくては話にならないだろう。
僕は玉子焼きはよく作るのだけれど、オムレツは正直ほとんど作った記憶がない。もしかしたら小学校の調理実習以来かもしれないくらい。
不安と期待を半々に、溶き卵を買ったばかりのフライパンに注いだ。
マンガの中で主人公の陽一くんは、対決の前夜に濡れ雑巾をフライパンの上でひっくり返してオムレツ作りの練習をしていた。えらい。
その頑張りの部分は記事に書くことでもないと判断し、僕はイメトレで省略したのだ。これが吉と出るか凶と出るか。
思った以上に卵が固まる速度が速く、イメトレしたはずのフライパンさばきを披露する前に焦げた。むう。運動会なら入場行進でころんでケガする子である。これは上手にオムレツが作れるようになるまでにあと3ページくらいかかるぞ。
しかし安心してほしい。こういうこともあろうかと、今回は料理のプロにお願いしておいたのだ。この記事ここから始まってよかったんじゃないだろうか。
料理のプロ、金丸夫妻である。奥さまは料理教室の先生。旦那さまは某社の社長でありながらプロ級の腕を持つ料理人である。ちなみに得意料理は寿司。
得意料理を聞いて「寿司」っていう人がふつういるだろうか。いるんだ、僕の友だちには。
金丸夫妻にミスター味っ子の該当巻を送り付けた翌日である。準備ができたのでいつでも来てくれとの連絡を受けた。翌日ですよ!
いそいでお宅に駆けつけると、すでにこの状態だったのだ。もう一度言うが、ミスター味っ子の話をした翌日である。
「かぼちゃは砂糖で煮てジャムにしておいたよ。そのままでも十分甘味があったから、砂糖は少な目にした。」
子どもの頃にミスター味っ子を読んでいたという奥さまはいう。
「梅干は梅シロップで伸ばして、これも梅ジャムにしてみた。あとシソはマンガだと赤紫蘇っぽかったけど、こっちの方が美味しいだろうと思って大葉にしたよ。」
マンガを読んだだけでこのくらい頭の中で組み立てられると面白味が違うだろう。そうか、知識とか経験ってこうやって使うのだ。
さっそく陽一くんの考えたデザートオムレツを作っていただく。
ミスター味っ子の醍醐味は美味しさの表現だと思う。完成した料理を食べた人が「う、うまい!」ととにかくド派手にリアクションするのだ。アニメ版だと富士山から太陽が昇ったり天使が降りてきたりする。
その分料理のレシピや詳しい作り方は省かれている場合が多い。今回のデザートオムレツもそうだった。なので再現するには作り方を推理する必要がある。
金丸夫妻いわく、かぼちゃのジャムをオムレツに仕込む場合、先に大葉でくるんだ梅をかぼちゃのジャムで包んだものを用意しておいて、それをオムレツに入れるのがいいのではないか、と。
まるで卵が自分からかぼちゃジャムを取り込んで丸まったかのような動きだった。僕のオムレツみたいに、嫌がるところを強引にフライパンから引っぺがして丸めた、みたいな強引さがない。そのため簡単そうにすら見えるのだ。
なんだ簡単じゃん、って思った人は、この記事の前半部分を読み直してほしい。僕の作ったオムレツが見えたらこっちまで逃げてきてください。
というわけで見事に美しいデザートオムレツが完成したのである。
さあ見た目は完璧である。味はどうなのか。本当に味皇がひっくり返るくらい美味しいのか。
もう見た目だけで勝ちを確信したのだけれど、あえて食べてみて驚いた。
とろとろの卵がかぼちゃのジャムと溶け合うことで味に広がりがうまれる。と、次の瞬間あらわれる梅のさわやかな酸っぱさ。おいしい。
デザートというか、もうこれを看板メニューにしてレストランを経営できると思う。
感動しながら食べていると、金丸料理長が音もなくやってきてささっと何かをすりおろしてくれた。
とたんに柑橘類のさわやかな香りが広がる。マンガでは柚子だったが、季節的に手に入らなかったので神奈川県の名産である「湘南ゴールド」という柑橘類で替えてみたのだと。どこまでもにくい演出だ。
湘南ゴールドが加わったデザートオムレツは、さらに完成度を2段階くらい高めていた。これが食べられるなら車で2時間くらいかけても行きたい。マンガで派手にリアクションしていた味皇の気持ちが今ならわかる。
料理長にも食べてもらった。
こうやってレシピのないものを美味しく作るのってセンスなのか努力なのか。僕にもいつかできるようになるんだろうか。
最後に、今回のデザートオムレツの肝はどこでしょう、と金丸夫妻に聞いてみたところ。
「やっぱりかぼちゃジャムの滑らかさかなー。この裏濾し器を使ったんだけど、これが良かったね。」
とのこと。
この裏濾し器、馬のしっぽの毛でできているらしく、金丸夫妻も注文してからずいぶん待った品なのだとか。こういう見えないところで味が変わるのも料理の面白いところだなと思いました。
金丸夫妻、ありがとうございました!
陽一くんのデザートオムレツ レシピ
卵3個、塩少々、牛乳大さじ1/2、バター15g、カボチャジャム160g、しそ1枚、梅干ジャム15g、湘南ゴールド果皮適宜
①カボチャジャム、梅干しジャムは作って冷ましておく
②卵に牛乳、塩を加えて溶く
③ラップに粉をはたきカボチャを半量ラグビー ボール状に乗せて、シソに梅干ジャムを巻いたものをのせて、残りのカボチャをのせて包むようにまとめる
④フライパンにバターを溶かし、卵を入れて半熟に加熱する
⑤③をフライパンの1/3上に乗せて、柄を逆手に持ちながらお皿にひっくり返す
⑥湘南ゴールドの果皮を削ってちらす
カボチャジャム
(作りやすい量)
かぼちゃ300g
きび砂糖50g
塩ひとつまみ
水1cup
①カボチャは種と皮を取りきび砂糖、水、塩を加えて煮込む
②柔らかくなってきたら潰しながら煮込み、全体に柔らかくなったら裏濾し器で濾す
梅干ジャム
梅干し(ハチミツ南高梅)3個
梅シロップ1/2cup
①梅は種を除き梅シロップと共に鍋で煮る
②ヘラなどで叩き潰しながらトロッとするまで煮詰める
ミスター味っ子に出てきたデザートオムレツ。プロに作ってもらったら本当に美味しくてびっくりした。マンガを描く時には一度作ってみるんだろうか。だとしたら作者の寺沢大介先生は相当の料理人ですよきっと。
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