高いものは美味しいの法則
デパ地下で高いアスパラ缶が半額になっていたので買ってきた。
高校の世界史の教科書くらいのサイズ感だ。表記はスペイン語だろうか。総じて読めないが、絵からホワイトアスパラだということだけはわかった。
箱を開けると中尊寺みたいに金色の缶が出てきた。
今回はアスパラ高かったし、一人では味の評価に不安があったのでライター江ノ島さんに協力してもらった。
二人とも別の撮影のあとなので疲れている。疲れ切っている、と言ってもいいくらいだ。それでも今日は高いアスパラがあるから、ということで自分を奮い立たせてここまできた。
さっそく開けてみる。缶は日本の缶詰よりもずっと金属が薄くて柔らかくて頼りなかった。でもTシャツでも高くなると生地が薄くなるだろう。高いとはそういうことなのだ(偏見)。
缶の中には極太のホワイトアスパラが7本入っていた。見た目は地中海あたりに生息する貝のようである。穴に塩を入れて少し待つと出てくるタイプの貝。
考えてみたら僕はそもそもホワイトアスパラというものを食べたことがないように思う。それなのにいきなり1933円(ただし半額で買った)である。ぜいたくだが、ふだん頑張っているのだ。このくらいいいだろう。
高いホワイトアスパラは、持ち上げると自重でフォークの間をすべり落ちてしまうくらい柔らかかった。高級な柔らかさである。慎重に、三分の一くらいにカットして食べてみる。
安藤さん、どうなんですか。どうせ美味いんでしょう、いいですよそういうタメは。1本もらいますよ。
江ノ島くん、ちょっと待って。
安藤さん。
江ノ島くん、ごめん、言いたいことはわかる、でもちょっと待って。ちょうどフライパンとコンロがあるからさ、こういうのってほら、軽くソテーしてやると美味しくなるものじゃない。
いい匂いがしますね、と江ノ島さんがいう。でも江ノ島くん、これはしょうゆが焦げた香りだから、アスパラはどうだかわからないよ。
あんなに白くて柔らかかった高級ホワイトアスパラだが、焼いてからしょうゆをたらしたらおばあちゃんちの煮タケノコみたいになった。でも僕たちにとってはこちらの方が美味しそうに見える。
どうだろうか。
そういえばそのまま食べた時の感想を書いていなかった。
高級ホワイトアスパラはほんのり酸味があり、柔らかくて口の中でするっととろけた。のどを通っていくときに野菜特有のえぐみみたいなものがさっと鼻の奥を横切り、それでおしまいである。
となりでスペイン人が「Bueno!(美味い!)」と言っていたら、つられて美味いと言っていたかもしれない。そのくらい我々庶民にはわからない、外国の味だった。
しかし自己判断で焼いてみたところ、さっきまでかすかだったえぐみが5倍くらいに強調されたのだ。加えて、水分が飛んだことで歯ごたえが加わった分、噛みほぐす時間が伸びた。
今だからこうして言葉にしているが、あの瞬間はなんと言っていいのかわからなかった。
いや、江ノ島さん、気を付けて!それ
美味しくないから!!
安藤さん。
ごめん!
安藤さん、薬味じゃないかな。ワサビはくさみを消すって聞いたことがありますよ。
どこまで打たれ強いのだ。でも江ノ島くん、それはスペインのアスパラだよ。ワサビは違うんじゃないかな。
ですよね!
そのままがおすすめです
高級ホワイトアスパラの缶詰はそのまま食べた方がいいと思う。
好き好きかもしれないけれど、そのまま食べると美味しさのしっぽみたいなものを遠くに見ることができた。ワインなんかと一緒に、ちょっとだけ食べるといいかもしれない。
一つだけ言えるのは、焼くのはおすすめしない、ということです。