桂さんは「営業日はいつでもボイラーを動かすんで、また焼きたいものがあったら持ってきてください」と言ってくれた。
北京ダックは無理でも、夢の屋台「ボイラー軒」のメニューを少しずつ充実させていきたいと思う。もっと無難にとうもろこしを焼いたり、ジャガバターを作ったりもしてみたいし。
そんなことを思いながら開店直前の千鳥温泉を後にした。これからお風呂に入りに来る人たちに「その熱で芋が美味しく焼けたんですよ!」と伝えてまわりたくなるような、不思議な気持ちが沸き起こってくるのだった。
いよいよ最後の一品。コンビニ弁当だ。この日のために購入したダッチオーブンに詰め込んでボイラー内に設置した。
編集部よりあらすじ
銭湯のボイラーで焼き芋が焼ける。銭湯の店主に聞いた噂を確かめる連載企画、ボイラーの掃除、芋、ファミチキ、卵、リンゴ、などを焼いてきましたが今回が最終回!
※小出し記事は書けたところから即、小出しに公開する連載企画です!
ボイラーの扉を閉める際は黒くツヤツヤと光っていたダッチオーブンだったが、30分の加熱後には煤がうっすら降り積もって年季を感じる風合いに。
タイムマシーンのようだ。たしかに30分間だったはずなのに、扉の向こうでは一年ぐらい経っていたような。
軍手を一枚装着しただけでは到底持てない熱さ。とんでもないほっかほか弁当である。タオルでくるむようにして慎重に運び、蓋を開けてみた。
これはちょっと焼きが入り過ぎたようだ。特に上面の方に強い熱が加わったようで、どのおかずの表面もカリッカリになっている。
ちなみにこんな見た目ではあるが、食べてみると中身はホクホクでちゃんと美味しい。焼き魚なんか、皮がパリッとして香ばしくてなかなかによかった。
おかずの下のご飯は絶妙の加減のおこげになっていて美味しい。
こうして色々焼いてみると、ボイラーの火の入り方の特徴がわかってくる。かなりの高温がすべての方向から一気に加わるような焼き方になるのだと思う。じっくりじわじわと時間をかけて加熱していく低温調理の逆。外側をカリッとさせて中をジューシーに保つような料理に向いているのかもしれない。
そう考えた時、なんとなく「北京ダック」という言葉が頭をよぎった。「ボイラー軒」のメイン料理として出せるんじゃないだろうか。いやしかし、火加減のコントロールが難しく毎回がギャンブルのようなボイラーでの焼きに高級食材を使うのはリスクが高すぎるな。
そんなことを考えながら「焼きコンビニ弁当」を食べている私を横目に桂さんはカップ麺をサッと食べて昼休みを終え、数時間後に開店する千鳥温泉の準備作業を始めている。
芋を焼き、銭湯たまごを作り、コンビニ弁当を焦がしたあのボイラーが今日も千鳥温泉のお湯を無事アツアツにしてくれた。
桂さんは「営業日はいつでもボイラーを動かすんで、また焼きたいものがあったら持ってきてください」と言ってくれた。
北京ダックは無理でも、夢の屋台「ボイラー軒」のメニューを少しずつ充実させていきたいと思う。もっと無難にとうもろこしを焼いたり、ジャガバターを作ったりもしてみたいし。
そんなことを思いながら開店直前の千鳥温泉を後にした。これからお風呂に入りに来る人たちに「その熱で芋が美味しく焼けたんですよ!」と伝えてまわりたくなるような、不思議な気持ちが沸き起こってくるのだった。
※小出し記事は書けたところから即、小出しに公開する連載企画です!
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