すごい世界だった。ご利用は計画的に……
帰りはスマホのメモ帳にひたすら今の自分の気持ちを打ち込んで、気持ちを整理しながら帰っていたが、「VRイケメン」「この世はVR」とか「帰りの電車、いろんな普通の人がいて安心した」とか書いてあった。
貴重な経験をありがとうございました。
2019年1月26日、ホストクラブの新年会に足を踏み入れた私は「これはえらいところに来てしまったぞ……」と思っていた。
ホストクラブは普段の自分とは縁遠い世界だった。なぜこのような場所に来てしまったのか。
業界最大手のホストクラブグループ「GROUP DANDY」の広報さんとは2018年に仕事を通じて知り合った。ちなみにこの広報さん、バーチャルユーチューバーにもなっている。
年があけて新年会に声かけてもらった時、広報さんが「いわゆる会社の新年会で、表彰とかばかりなので面白くないかもしれないんですけど……」と言っていたので油断した節もある。会社に所属していた時、自社の新年会は気乗りがしない方だった。にもかかわらず人の会社の新年会には惹かれた。だって、全然違う業種の新年会ってちょっと興味がある。それに広報さんからのメールには「ホスト1200人の新年会」という単語が踊っていた。こんなイベント、見られることは今後一生ないんじゃないだろうか。
あと、自分を知っている人が全くいない場だし、場で浮こうが気にしなくてよくない? と変なポジティブさを発揮し自分を奮い立てた。そして2019年1月、私はホスト新年会が行われる新高輪プリンスホテルの飛天の間にいた。
新高輪プリンスホテルへ。FNS歌謡祭の会場としても知られる大きなハコであるが、そこを自社の新年会で抑えられるのはやはり景気がいい、と思う。
このあたりで、目を背けていた「やっぱり自分、場違いじゃね?」という事実に感づきはじめた。どうしよう。でもここまで来たらもう後へは戻れんぞ。
会場入りする直前、入り口付近で顔入りののぼりをたくさん見かけた。「……何コレ?」と思ったけど、こののぼりの用途は後々判明する。
GROUP DANDYでは42店舗を抱えており、1000人を超えるホストが在籍しているのだ。もちろんみなさん顔がよかった。
はあ~~~~……。駅などで芸能人みたいにかっこいい人とすれ違うことがあるだろう。そういう人をギュッとこの場に集めたような感じで、明らかにほかの土地当たりの平方メートルに対して空気中の「顔がいい」濃度が高すぎる。生態系の破壊では?
新年会の最初に、司会のホストさんが「みなさま早い時間から誠にありがとうございます」などと言っていたが今は17時。「いや、早くはないよ!?」と思ったけどホストの就業時間考えるとそうか17時は早いのか。これがホストジョークか。
今回は詳細なレポートというよりも、全然違う世界からホスト新年会に参加した私が見て面白かったことや発見などを共有していく。
ホスト1200人の中の異分子となった私が最初に見た光景は、ホストを束ねる会長の高見ロマンチカ氏による熱いステージだった。だいたい会社でやるこういう行事の余興にあたる催しは新人社員が務めるケースが多いが、GROUP DANDYでは会長はじめ各店舗の代表達が自ら踊り、これからのシーンをけん引していくホストたちのお手本となるのだ……!
めちゃくちゃ派手なステージだった……これがホストの世界なのか……。今回のステージのテーマは「天下布武」で織田信長公だ。
曲の歌詞が「つぶやけど増えないフォロワー」とかで、ホストも我々と同じようなこと気にしてるんだなと親近感がわく。ちなみに曲はダウンロード販売もしている。自社の上層部が曲を出している世界……。GROUP DANDYでは年明けは新年会、夏には「夏フェス」を行っている。夏フェスて。
参加している人を見ていたが本当に女性がいなかった……。1200人以上いた中、関係者女性は4人ぐらいではないだろうか……。
高校時代、受験のために選択した授業「日本史A」が、いざ教室に入ってみると女子生徒が自分だけだった時の気まずさを思い出した。その時と今、どっちが気まずいだろう? こっちは1200人だが日本史Aはたかだか十数人程度。だが今回は数時間で終わるが日本史Aは毎週授業があった。下ネタで笑いを取るヤツの発言でクラスが笑いに包まれている時が一番キツかった。
結果、自分的には1年間の女生徒ひとりの「日本史A」の方がしんどかったな。私はまだやれる。
店舗ごとや個人ごとに表彰が行われるのだが、個人の表彰の10位以上はプロモーションビデオが流れるし(これのために用意している)、上位ランクのお店であればお店オリジナルののぼりを作ることができる。これも知らない世界だった。
さながら現代のホスト戦国時代といった光景だ……。ステージに向かってそびえ立つのぼりの向こうで確認できたお顔は、厳めしい鎧に包まれていた。
2018年度ナンバーツーに輝いた七原柊也さんは高見会長リスペクトの織田信長公スタイルで登壇した。
お店のスタッフはのぼりを掲げるだけではなく、お揃いで作ったパーカーでステージを盛り上げたりもしていた。のぼりやパーカー以外でも、サイリウムや光るうちわで応援したりもする。
これはサイリウムの光に包まれてスマホで動画を撮りながらステージにあがるホスト。マンガや小説に出てくるホストのイメージそのままって感じのシチュエーションが完璧……!
そしてこれは登壇する同僚を応援する(たぶん)、同僚の名前入りの光るうちわを抱えて見つめるホスト……この瞬間に至るまでの物語を感じずにはいられない。
上位入賞者は壇上に上がって1200人の前でコメントをするのだが、コメントが熱い。この業界で夢や希望を見つけて頑張っているのが伝わってくる。ホストによるこういう場でのコメント、「アザッス、チョリッス」みたいな感じだと思っていたからいい意味で裏切られてしまった(私のホストのイメージよ)。
2018年度売上ナンバーワンに輝いたLeoの夏稀(なつき)さんは2016年はナンバー10、2017年はナンバー4と3年連続入賞している。その熱いスピーチを一部抜粋してここに記載する。
夏稀:ナンバーワンだからこそ胸張って言います。ナンバーワン以外は意味はないと。僕は「負けたくない」という気持ちだけで、少しづつ休まず努力してきた人間だと思っています。そして僕のナンバーワンを作ってくれたのはGROUP DANDY然り、Leo(夏稀さんの所属するクラブ)の従業員、内勤さん、執行部の方々です。本当にありがとうございます。
ただ、このナンバーワンもぼくにとっては通過点です。獲った瞬間に過去の栄光になるんで。今年は自分の店舗を持って、Leoに負けない・TOP DANDYに負けない店にしようと本気で思っています。ホストやっているんだったらアホみたいな夢を堂々と発言して、ドヤ顔で叶えていかなくちゃと思っている。本気で夢語れない奴は夢も叶えられないんで、僕は本当にやっていきたいと思います。
ナンバーを獲るホストたちは向上心が高かった。「どうせ私なんて」というネガティブ思考に陥りがちで、何かにおいて一位を取ってやろうという強い意志を持ったことが無い自分も頑張ろうという気持ちになった。
こうした登壇する方々の気迫にも押されてさらにビビってしまっていたが、ステージを見て「だんうえにあがる先輩すげーよなー」としゃべってるホストがいたのでそこではなんか和んでしまった。
飛天の間の料理美味しい……。久々の牛ステーキに浮かれて写真撮る前に食べようとしてしまったのでよく見ると肉に切り跡がついている……。あんまりがっついて食べるのみっともないと思いつつ、なんかチーズっぽいソースのかかった魚が美味しくて2皿食べた。
式典の最後には、最大100万円が当たる特別お年玉抽選会を行う。バブリー!!
2019年のお正月に、ある企業の社長さんが現金100万円が100人に当たるキャンペーンをTwitterで行っていたが、それよりも倍率も高い。
最初は店舗ごと抽選に5000円20人分からはじまり、1万円20人分になり、個人で10万円5人、30万円2人、100万円が1人に……。100万円かあ……100万……。なにかの手違いで自分の名前も抽選に入っていて当たらないかしらと思ったけど、もし当たったとして1200人の顔がいい男たちの前に立たなければならないことを考えるとそれはそれで地獄なのでやっぱり当たらなくてよかった。
あっちを見てもこっちを見てもスーツのイケメンだらけ。しかも着こなしもすごくおしゃれ。ホストといえばスーツのイメージがあったものの、実際店舗では洋服を着ている人も多いのだそう。
今回は式典ということでスーツを着ているホストが多かったがいろんなファッションの人がいた。ホストのファッションを見ているだけでも大分楽しいぞ……。ホストのファッションを見てくれ。
オープニング後の衣裳を変えた高見翔会長にも直撃した。衣裳のこだわりを聞くと「肩パッドですかね。ギニュー特戦隊をイメージして」。ステージの織田信長公を意識した衣装もかっこよかったが、袖にはグループのロゴが入る特注の衣裳だ。
衣裳は毎回変えているそうだがその思いを伺うと、「自分が変えているからどうというわけはないんですけど、(グループを引っ張る会長として)こういう場面場面でひとつひとつ集中していくという形を見せたい」。1200人のホストを引っ張る会長としてのそんな思いが衣装に込められていたのだ。
CANDY代表の心之♂友也(こころのともや)さん。一度聞いたら忘れないインパクトの友也さんは、ホストジャーナリスト兼アイドル研究家としても活動している。周りのホストから「神」として崇められる友也さん。カメラを向けると神は静かに瞑想に入ってしまわれた。黒い着こなしのホストが多い中、友也さんの白い神々しい衣装はよく目立つ。神の仕事のスタイルについても話を聞いた。
心之♂友也:人間の幸せってひとりで成し遂げられるものではなくて、例えば誰かの笑顔を見た時とか、幸せを感じた時に、それを共有することが一番幸せを感じるんです。自分だけがただ幸せになった時より、幸せを共有することで増幅できるというのを僕はすごく大事にしています。お客様から感謝を告げられる時、自分ひとりでは成し遂げることができない幸せを自分自身も得ることができるんです。
――(ホストに抱いてるイメージとのギャップに困惑)。なんだろう、徳積んでそうですね。
心之♂友也:ホストクラブって大きいお金が動く場ではあるので、それに応じた幸せを与えるとなると生半可なものではないと同時に、それを達成することができた時の幸せってお客様にとっても大きいものなんですよね。なのですごく感謝もされるし、涙を流す方もいらっしゃる。そうなった時に僕は幸せなんです。
みんなに感謝とか恩返しをすることによってご飯を食べられるなら一石二鳥というか。みんなに恩返ししながら生活できるなら最高だなと。自分の仕事のためだけに働いている人が多いと思うんですけど、僕はホストという仕事を通じて両方成し遂げながら働けていると思うと素晴らしいなと。周りを幸せにすることが、自分も幸せになる近道だと思ってます。
穏やかな笑みを湛える友也さんは仲間から慕われており、インタビュー中写真を撮ってくる仲間を追い払うひとこまも。
菅田将暉が大好きなホスト将暉さん。個性的なファッションが似合っていて1200人のホストの中でも存在感は唯一無二だった。思わず私が「ブドウ球菌ですか?」と聞いたポンチョ(あとでブドウ球菌調べたけど違うっぽい)は古着屋で2500円くらいだったらしい。スーツの出席者が多い中、自分を曲げない個性的な将暉さんにも話を伺った。
――ファッションもメガネも個性的ですね。ホストでは珍しいタイプなような……。
将暉:同じことやっても埋もれちゃうので何かしらで突き抜けているもの、異質な部分があったほうが注目もされるし興味を持ってもらえる。服装然りメガネ然り。あとTwitterもマメに更新してる。
――意識的にその個性的なキャラクターも作ってるんでしょうか。
将暉:そういう部分もありますが、キャラクターは普段からこんな感じです。素直でいたい。思ってることは言うし、思ってないことは言わない。仕事でも同じ。正直な男でいたい。
自分に何が似合うか・何が求められているかを見極めて取り入れる感性の高さを持つホストで2018年度は組数2位を獲得している。ホストって本当にいろんな人がいるんだな。
BUZZ所属MIKUさん。スーツが大多数なのに、何故かこれまで話を聞いたホストは個性派ばかりだった。そんなところで、スーツの小動物みたいで超顔が小さいホストMIKUさんを投入。MIKUさんには新人枠として話を伺った。
――先輩たちのスピーチ、いかがでしたか?
MIKU:発言にも力があって。いつかあそこに立てるようになりたいし、かっこいいこと言いたいなって常々思ってるけどまだ全然です。
――壇上で発言するのはやはりホストさんたちにとってもステータスなんですね。
MIKU:ですね。今も夏稀さん(2018年売り上げナンバーワンホスト)と一緒に写真撮ってきたんですけどパワースポットでした! ←かわいい
みんな話してみると印象が変わる……。ハッこれがホストのやり方……?(つい猜疑的になってしまう私)。
こちらはTOPDANDY I-OSの流星(りゅうせい)さん。実はこの方、23年前にシャンパンタワーを考案し、漫画「夜王」のモデルになったレジェンドホスト……! スーツの着こなしもこなれていて、小物使いに至るまでこだわりとセンスを感じる。流星さんには23年前に考案した「シャンパンタワー」についてなどお聞きできた。あのシャンパンタワーについても聞けるなんて!
――シャンパンタワーというものは、流星さん以前は作られてなかったんですか?
流星:もともとホストってもうちょっと暗い感じだったんです。なので、もっと明るく提供できないかなということで結婚式などから学ばせてもらってシャンパンタワーを考案しました。
――シャンパンタワーはすごく華やかなイメージです。どういう経緯であの形式になったのでしょうか。
流星:お客様に200万円ぐらい使って頂くと20本くらいのシャンパンが開くんですね。そうすると、昔はホストが一本ビンを空けるごとに場を盛り上げて、それに対してお客様も喜んでくださっていた。でも、それが3本くらい続くと、お客様の方が疲れてきてしまう。
――テンションを維持するのもお互いに大変そうですね。
流星:お客様が真剣に稼いだお金なのに、明るく使ってないのをたくさん見てきて「これは良くない」と思いました。自分自身もお金を稼ぐ苦労を知っているので、使っていただく方によりスポットライトを当てるにはどうしたらいいだろうと考えました。それで、シャンパンタワーで「あなたが今日この場を一番盛り上げた」とスポットを当てようと思ったんです。
――お客様にスポットを当てるためだったんですか!
流星:今ホストの間ではシャンパンタワーはナンバーワンを誇示するためだとか、派手さが求められていて「高さが高いものが良し」とされているんですけど、本来は女性のお客様がメインです。なので、女性が手に届く高さじゃないといけないのかな? と自分は今でも思っています。ですので、ホストというのは女性がシャンパンタワーを注ぐ時に手を添える係。派手さが求められる世界なので、23年前より大きく派手になってますけど、源流にあるのはお客様のためという思いです。
――シャンパンタワーも時代と共に変化してるんですね。
流星:変化は悪いことじゃないけど本質って大事じゃないですか。そこに要素が増えていくのも大事だけど、“なんのためのタワーか”というのは残していきたいですね。
とはいえシャンパンタワーが有名になると、結果として自分が引き合いに出していただけるのでありがたいです。こうした文化が広がることについては感謝ですね。
開始から4時間ぐらい、最後に熱狂の現金のお年玉抽選会をした後に新年会は終了した。コールっぽい終演の一言を聞いてから帰路を目指す。まだ頭が現実に戻りきれなくてふわふわする。
帰り道もホストの流れにちょっと離れてついていく形で帰ったんだけど、しばらくは顔がいい男を見るとヒッとなった。「顔がいい男1200人と自分を同じ空間に置いておくとどうなる?」 に対する答えは「顔がいい男に対してアナフィラキシーショック症状を起こす」である。
例えはアレだが、人生で最初にコミケに行ったときに、歴戦の戦場(コミケ)を勝ち抜いた勇者たちの圧倒的オタク力(ぢから)に圧倒されてすごすごと帰ってきて、地元に戻ってきても萌え絵の紙バッグの人を見るたびにヒッとなった感覚と似ている。
私は、帰り道でも街の人に擬態するホストがいるとわかってしまうようになっていた。山手線で目の前に座っていた、髪色が明るくて、スーツで、ヴィトンの市松模様のバッグを持っていた男性はきっとホストだった。
ホスト新年会の名残が残る山手線から降りる瞬間、現実に戻っていくぞという強い意志で私は戻っていった。
帰りはスマホのメモ帳にひたすら今の自分の気持ちを打ち込んで、気持ちを整理しながら帰っていたが、「VRイケメン」「この世はVR」とか「帰りの電車、いろんな普通の人がいて安心した」とか書いてあった。
貴重な経験をありがとうございました。
▽デイリーポータルZトップへ | ||
▲デイリーポータルZトップへ | バックナンバーいちらんへ |