褒め言葉を集める
褒め言葉を習字にするために、まずは誰かに褒められなければいけない。残念ながら普段人に褒められることが少ないので、SNS上で無理矢理褒め言葉をかき集めることにした。
ここまで必死に「褒めてアピール」をするのは恥ずかしかったが、”記事の企画の一環で”と言えば全て許されるような気がしている。せっかくの機会なのでなりふり構わずやることにしたのだ。
私の必死さが伝わったのだろうか?友達がたくさん反応してくれた。今までこんなに褒められたことがないので、いっそ企画変更して日めくりカレンダーにでもしてやりたいとさえ思った。
「生きてる」「すごい」「立派です」など、取ってつけたような褒め言葉も目立ったが、褒められていることには変わりないのである。とても嬉しい!
褒め言葉を書く
意外にも褒めが集まったので、早速習字にしてみる。
小学生以来習字というものに触れてこなかったので、買い出しの時点でなんとも言えないワクワク感があった。半紙・墨汁という響き、なつかしい......。
いざ、褒め言葉を書いていく!!!
なんとか書き上げた。私は字が上手い方ではないが、過去に学校で教えられた習字の知識を駆使してそれとなくいい感じに書くことができた。ビバ・義務教育。
習字でしたためることで、褒め言葉を噛み締めることができて嬉しい。
どんなに自分への褒め言葉を書いても何の罪悪感もない。なぜならただ言われたことを書いてるだけだからだ。
13年ぶりの習字は難しかった。普段パソコンやスマホでしか文字を書かないから、一枚描くのに時間がかかる。これを75枚。気が遠くなる作業だ。
長くて小さな半紙に書ききれない褒め言葉もあったので、長い半紙でも書いてみることに。
集中力が切れてきて、だんだん字が汚くなる。バランスも悪くなる。
これは大量の枚数を書く宿命なのだろうか。通常なら書けば書くほど上手くなると思うが、逆に私の本来の字の汚さと適当さが存分に発揮されはじめる。それでも諦めずに、家のリビングでひたすら習字を書き続けた。
毎日習字を書いていると、母親が懐かしがって「私も書きたい」と言ってきたので、試しに書いてもらった。
それに続いて父親も「書きたい」と言ってきたのでお願いする。
家族に乱入されつつ、懸命に褒め言葉を書き続ける。全て描き切るのに3日もかかってしまった。まさか自分に向けられた褒め言葉に首を絞められるとは思わなかった。
今までこんなに大量に習字を書いたことはない。引くほどの量である!
褒め言葉を部屋にたくさん貼ってみる
ではさっそくこれを壁に貼ることに。狭めの自室で過ごすことが多いので、目立つところにどんどん貼っていくことにした。
全75枚の習字を壁に貼り続けること2時間。
ついに、私の理想の褒め言葉部屋が完成したのだった......!!!
そんなつもりはなかったが、ここまで全面に貼ると予想に反して不気味さを感じてしまう。
だが見渡す限り私への褒め言葉だと思うと気分がいい。なんて自己肯定感が上がる部屋なんだ。
褒め言葉の部屋で、もっと楽しく過ごしてみる
せっかくなのでこの自己肯定感が高まる部屋をもっと活用したい。そうだ、ここでお酒を飲んだらさらに最高ではないか?褒め言葉に囲まれながらお酒を飲むなんて、想像するだけでニヤニヤしてくる。
褒め言葉とお酒の相性は抜群であった。一度言われただけの褒め言葉をここまで堪能できるのはすごい。まさに褒めのリサイクル。何度噛んでも味がするスルメのようだ。ただ、やりすぎると自信過剰になってしまう気もしたので、用法用量を守って正しく活用しなければならないと感じた。
もはやこの部屋は私にとってのリラックス空間と化したので、より癒されるような空間にしたくなった。癒しといえばキャンドル。部屋中にキャンドルを炊いてみることにする。
部屋全体が明るいとすごくポジティブな気持ちでいられたが、暗くすると突然怪しげな空気が立ち込めるのが不思議だ。おしゃれなキャンドルが不吉なろうそくにしか見えない。
まるで耳なし芳一を彷彿とさせる。リラックスなんてとんでもない。今すぐここから逃げ出したいと思うような緊迫感を感じる。褒められていたはずの私だったが突然「調子に乗るなよ」と誰かに言われているような気分だ。
しかしだんだん慣れてくると、キャンドルの香りと褒め言葉を見比べ、うっとりすることもできるようになる。慣れとは怖いものだ。褒め言葉は私を狂わせる。
私はこの不気味な空間で一人、褒められたことを噛み締めニヤニヤする妖怪と化したのであった。
自分に向けられた褒め言葉を書き、飾り、見ていると嬉しくなってくる。こんなに褒めてくれる友達に感謝したいと素直に思った。
しかし何度も見ていると段々と味がしなくなる。スルメと一緒なのだ。この褒め言葉もう何回も見たしな〜と飽きてくる。しかも根がネガティブなので「友達たちは本当にこんな風に思ってくれているのだろうか?」と不安になってくる。褒め言葉をわざわざ集めて自己肯定感を高めようと思っても、元がネガティブなのでやっぱり無理なのかもしれない。
疑心暗鬼になる前に次の褒め言葉をかき集めて、どうにか自己肯定感を高めたままにしたい。なのでもっとたくさん褒め言葉をかき集めていくことにした。たくさんの”褒め”が集まりさえすれば、少しでもこの不安が払拭されるに違いない!と信じて......