とくべつ企画「おもしろがり力」 2020年5月26日

小野式製麺機の裏に書かれたナンバーの謎を解く

家庭用製麺機の裏に書かれたユニーク番号、この「511113」はどういう意味でしょうか?

昭和の時代に小麦を育てる農家を中心に活躍した「家庭用製麺機」という機械がある(詳しくはこちら)。

数あるメーカーの中でもベストセラーだったのが、埼玉県戸田市の小野機械製造所で作られていた、小野式製麺機。

その台座の裏には謎のナンバーが書かれているのだが、その読み方を解析してみよう。

趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

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小野式製麺機の裏には謎の数字がある

私が最初に手に入れた製麺機こそ、小野式製麺機。その板の裏に、シリアルナンバーナンバーらしき数字がスタンプされていた。

文字がかすれていて読みにくいが、「05188 1号両刃型」だろうか。ちなみに小野式以外には、こういったナンバーは見られない。

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家庭用製麺機、こいつとの出会いが私の人生をうっすら狂わせた。

「1号」は製麺機の大きさを表し、小さい順に1号(標準)、2号(大型)、3号(特大)。そして「両刃型」は麺を切るロール刃が前後についているタイプだというのは、割とすぐにわかってきた。だが5桁の数字が読み取れない。別に気にしなくていいのだが、すごく気になる。

その後、我が家の製麺機はなぜか次々と増え、製麺機ユーザーからの情報提供もあり、ナンバーのサンプルは検証と推測が可能な数まで集まった。詳しくは同人誌『趣味の製麺6号』を参照いただきたい。

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『趣味の製麺 6号』より、片刃型のナンバー一覧。
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『趣味の製麺 6号』より、両刃型のナンバー一覧。
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最近ようやく撮影できた3型。すごく大きい。
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ナンバーの法則を探そう

これらのナンバーを一覧にしたものが以下の表である。数字の配列は桁数を無視した昇順だが、明らかに新しい機体が「0~」となっている点は考慮した。また1号型、2号型の前に、A型、B型という呼び方の機体も存在するが、その裏にはナンバーが存在しないので省略。

1号片刃型の読めない数字はxとしている。

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ここからナンバリングの法則を導き出す。

・4桁~6桁でバラバラ
・左の数字は、古い順に4、5、6、0、1
・型ごとの共通した特徴は見当たらない

普通に考えれば、左の2つは元号だろう。すると昭和42年から(実際はA型、B型があるのでもう少し古い)平成12年まで製造されていたということになる。

これは平成12年に小野機械製造所から直接製麺機を購入したが、平成15年に再度連絡したら生産が終了していたという、確かな情報筋による証言と噛み合う。

そして謎を解く大きなヒントとなるのが、購入者が板の裏に書き残してくれた貴重な日付である。

001.jpg
この購入者によるメモを、愛好家は「裏書」と呼んでありがたがっている。

cap02.jpg

これはもう、左二桁が昭和および平成の何年に製造されたのかを表す数字で間違いないだろう。製造されてから4年くらい在庫期間があったものもあるようだが、腐るものではないからきっと大丈夫。

左から三桁目以降は、何月何日の何台目の製造を表すとするならば、「511113」は51年1月11日3台目(11月1日かも)、「507153」は50年7月15日3台目だ。その流れですべて説明がつくぞ。

と思ったがのだが、「611160」や「108220」とか説明できない。0台目は存在しないし、60台目、20台目はちょっと無理があるかな。

それでは日付ではなく、その年に生産された数の連番だろうか。そうすると「609192」は昭和60年に9千台以上の生産数か。さすがにそこまで多くないだろう。左から三桁目以降の数字は謎のままとしておこう。

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左二桁が元号説の崩壊

ナンバーの左から三桁目以降は謎だとしても、左二桁が元号であることは間違いないと思っていた。

だがその説にとどめを刺したのが、上記の説を発表後に寄せられたこちらの二つだ。

002.jpg
これまでの推理がガラガラと崩れていく。

「03172」が平成3年の製造だとすれば、購入した1990年は平成2年なので、購入が製造より先になってしまうのだ。なんというパラドックス、頼むから時空を歪めないでほしい。

1年くらいなら何かの間違いかもしれないが、「06232」の平成3年購入に至っては製造が3年も先となる。このオーナーたちはタイムトラベラーで、製麺機を未来から買ってきたとでも?

この裏書が書き間違え、あるいは偽物ということもあり得ないだろう。ここで調査はとん挫したのである。

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シリアルナンバーに新説登場!

この問題に悩んでいたところに、新説を提唱する人が現れた。製麺機のレストアが趣味で、私以上に小野式製麺機を見てきたトーカイ麺機氏である。

氏の説によると、「左と右の数字を繋いだ2桁こそが昭和および平成の『xx年』である」というのだ。なんだその暗号化技術は。

にわかに信じがたいややこしさだが、そう考えると先ほどの「03172」、「06232」はどちらも平成2年の製造となり、裏書との整合性がとれるのだ。

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シリアルが「511113」、購入日が昭和53年の製麺機。これを51年に製造したが2年間売れず、53年に買い手が見つかったのかと思っていたが、新説だと製造は購入と同じ53年とな0る。

シリアルが「507153」、購入日が昭和54年の製麺機。こちらも新説なら製造は昭和53年となり購入の一年前。四年前よりこちらの方が自然だ。

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ホッパーに書かれた隠し番号

そしてもう一つ、トーカイ氏から教えてもらったのが、新しい小野式のホッパー(生地を入れる銀色のパーツ)の裏側に浮き出る、元号を示す番号の存在だ。

003.jpg
トーカイ氏より送られてきた写真。

写真左はシリアルが「610032」、ホッパー裏に「62」。どちらの数字からも昭和62年の製造と読み取れる。これはナンバーの左端と右端で元号を表すという説の裏付けだ。

写真右はシリアルが「01184」、ホッパー裏に「3」。そして裏書には平成4年2月12日の文字。平成4年の製造だが、金属製のホッパーはある程度まとまった数を一気に鋳造すると考えられるので、年をまたいで組立時か出荷時にシリアルが記載されたと考えれば納得だ。

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ナンバーの謎はすべて解けた!

ここまでくれば、あとは元号に挟まれた数字の謎を解くだけだ。もう勘のいい読者ならピンと来ているだろう。

一番サンプルの多い一号両刃型の数字から、最初と最後と削除して並べるとこうなる。

215
051
0226
528
19
0919
1001
1116
205
305
818
0513
0822
209

これはもう月日だろう。「0226」なら2月26日、「19」は1月9日だ。小野式に書かれた番号の読み方は、「元号の10の位、月、日、元号の1の位」だったのだ。製造順の通し番号ではなく、あくまで日付というのがポイント。

2号両刃型の「01281」のように、それが12月8日なのか1月28日なのかわからないという、今更解きようがない謎も残ったけど。1月1日なら「0101」のように、元号と合わせて6桁で共通させてもらえると助かったのだが。というか、素直に元号、月、日の順番じゃダメだったのか。

いや謎があったからこそ、こちらとしても楽しめたのだ。ありがとう、小野機械製造所。

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ナンバーはあくまで日付なので、同じ番号も存在する。これはトーカイさんが同じ人からまとめて購入した製麺機で、なんと4台が同じだったそうだ。

これにて、めでたしめでたし……じゃないんですよ。

ようやくゆっくり寝られるかなと思ったら、よく見ると一つだけおかしいのがあったのだ。

02332b.jpg
日付、値段、購入先が揃った最高の裏書なのだが、こいつのナンバーが私を狂わせる。

「02332」ということは、平成2年2月……33日。どんな閏年だ。

これが製造者のうっかりミスなのか、この番号が日付ではないなにかなのか、いつか分かる日が来るのだろうか。

蕎麦も作れる製麺機だけに、真相は「藪」の中ということで。


真実はいつもひとつ、とは限らない。すっきりしない結果となったが、こればっかりは仕方がない。もし正しい読み方がわかる人がいたら、こっそり私に教えてほしい。

小野機械製造所はもう営業をしていないようだが、当時を少しでも知る関係者とつながることができたなら、菓子折りでももって話を聞きに行きたいところである。

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