とくべつ企画「おもしろがり力」 2020年5月27日

捨てられたタンスのシールを見る

貼るだけじゃない、見るのだ。

中原中也は月夜の浜辺でボタンを見つけて,それがどうして捨てられようかと謳っていたが、私は道端でタンスを見つけた。すでに捨ててあるやつなのだがそこにはたくさんシールが貼ってあるのだ、これがどうして見逃せようか。

1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

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> 個人サイト バレンチノ・エスノグラフィー

見ずにはいられないタンス

2014年のある日、住宅街の一角で見つけたタンスにはいたるところにシールが貼ってあった。

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デスクとセット。

いろんな向きで無造作に貼り散らされ、経年を経て色あせたり、ところどころ剥がれている。当然私がこんな所にタンスを捨てるわけがない。しかしこれは実家にあったタンスではないかと錯覚するほど、人はタンスにシールを貼る生き物である。

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買ってもらったばかりのメガロマンのシールをペタペタ貼って、さらにマグネット人形の首をもいで怒られたなあ......。

実家や友人、知人はともかく、全く知らない人のタンスシールの痕跡を見られる機会はそうそうない。10件くらい集めて発表しようかと思っていたがここまで6年で2台しか見られなかったのでこの機会に見ちゃおうか。 

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いい、実にいい......。

最上段左側で睨みを効かせているのは仮面ライダーだった。

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「仮面ライダークウガ」、 左下で逆さになっているのはアンパンマンのキャラ「ひのたまこぞう」と思われる。

いわゆる平成仮面ライダーシリーズの1作目で2000年1月から2001年1月まで放映されていた。主人公の五代雄介役はオダギリ・ジョーだ。ということはここにいろいろ貼られたのはそのぐらいの頃か。隣の地味なシールがそれを裏付けていた。
 

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父の日シール!

手帳やカレンダーに貼る小さなイベントシールには「6.18 父の日」とある。父の日は6月の第3日曜と定められており、毎年変動するのでこの日付から年度を追えるではないか。
ちなみにこれがアメリカで定められたのは1966年、第36代大統領リンドン・ジョンソンによってらしい。ありがとうジョンソン、サンキュー。

で、調べてみると6月18日が父の日なのはずばり2000年。まず貼られた時期はこの周辺で間違いなさそうだ。

右の引き出しにはまたライダーの顔が見える。

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横向きだけど仮面ライダーギルス。それはそうとつまみのデザインがいいな。

先に登場したクウガの次作として2001年より放映された「仮面ライダーアギト」に登場するライダーである。という事は左から右に貼り進められていったのだろうか?

3段目がかなりのボリュームゾーンとなっていた。

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重ね貼りもいとわず、感性のおもむくままに貼り散らされている。シール貼りの神が乗り移ったかのようなバイブスが伝わってくる。

一番左はポケモン(キレイハナ)である。永谷園から発売していたポケモンシリーズ(現在は丸美屋に移管)のおまけで、オークションなどの情報ではやはり2000年前後の初期デザインのものと思われる。

その横に散らばっているテンション高めの子は味の素「ごはんがススムくん」、キャラはあ〜いたね〜となるがどんな食べ物だったか全く記憶がない。

調べてみると1999年から2005年まで発売されていた春雨、麻婆豆腐などの「ごはんがすすむ」おかずシリーズだった。だから特定のイメージが無いのか。ごはんですよ的なもんだと思ってたよ。

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中央から右手に君臨するひときわでかい丸シールは「とっとこハム太郎」(タイショーくん)新幹線500系のシールが脇を固める。

このでかいシールは丸美屋から2000年10月に発売された「とっとこハム太郎カレー」のおまけと思われる。現在では製造されておらず今となっては貴重な逸品だ。サイズは直径10cm、なんとゴージャスな事だ。

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下段になるとテイストが変わる

下段に貼られているのはドラゴンボールZである。撮った写真を拡大したらピンボケが甚だしかった。残念だがきっとタンスが微動していたに違いない。

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フィルムのようなフレームにおもに劇場版と思われるシーンが描かれている。

エンスカイから発売されていた「ドラゴンボールZ シール烈伝爆(バースト2)というシールコレクションで発売時期は2007年頃、上段のシール群よりずいぶん後である。

少女マンガがわからない

隣のデスクにもシールが貼ってあって、これが私を大いに悩ませた。 

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たいがいはリラックマとかなのだが......
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この引き出しに貼られた男女、これがわからない。

いわゆる少女マンガは「昭和アホ草子あかぬけ一番」くらいしかちゃんと読んだ事がなくて、様々な画像を見比べてもタッチやキャラの違いがぜんぜん判別できない。

しかし、途方にくれてDPZライター陣に情報を求めたところ、ものの30分足らずでライターのぬっきいさんが「槙ようこさんっぽい絵ですね、年代からして『愛してるぜベイベ★だと思います!」と、ピンポイントで作品を特定してくれた。すごい、これが神でなくて何だ。


同作品は漫画誌「りぼん」で2002年4月から2005年1月まで連載、このシールは2005年1月号付録「メモリアルバラエティシール」と判明した。
 

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作品はわかったがりぼんの付録が豊かすぎて同定するのはけっこう大変だった。

 3人兄弟かな

シール分布をざっくりまとめてみた。 

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みづらくてすいません......

タンス上段(赤・青)と下段(ピンク)はシールの年代が離れている。貼り方を見ても、上段が左から右方向へ自由な向きで散りばめられているのにたいして下段のドラゴンボールはきっちりとグリッド状に貼り込んでいる。

これは別人の仕事とみるべきではないか。

高さ約90cmの5段というタンスのサイズを見ても一人っ子というわけではなさそうだ。

さらに、デスクに貼られた「愛してるぜベイベ」はまあ女の子によるものと思われるので、3人の子がこの家具をシールまみれにしていた可能性が考えられる。

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シール貼りの遷移推定(というか妄想)、愛してるぜベイベはちょっと早いかなーどうかなーなんて考えていたらもう夜中の3時である。

今頃はみなシール貼りのセンスをLINEのスタンプなんかに活かしているかもしれないし、もしかしたらデイリーポータルZ を読んでいたりするかもしれない。
このシールを貼ったのは、あなたではないですか?


もう1台見つけているのだが目安の文字数をはるかにオーバーしてしまったので(ほんとすいません、誰となく)、またの機会にシール観賞しましょう。

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こっちは90年代っぽいな。
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