棒いらない説
最後に今回の録音の原理をもう1回ふりかえると、聴診棒は振動を拾って伝える。自作ピックアップはその振動を拾って音に変える。
で、よく考えたらこれって、棒なんていらなくて、直接ピックアップを対象に当てればいいのでは……!?
……と思ったんだけど、やってみたらちゃんと棒を通した方が大きい音で撮れました。
あやうく棒特集なのに棒不要になってしまうところだった。あぶなかった。
すばらしい棒を手に入れた。その名も聴診棒という。
聴診器はみんな知っていると思うけど、その棒バージョンである。
いろんなものの「中の音」が聴こえるのだ。
さていきなりだがクイズである。これは何の音でしょうか?
正直、ノーヒントでは難しすぎると思うので、2つだけヒントを出そう。
ひとつめ、12秒あたりの「ガタタッ」ていう音の前後で、場面が変わっている。その前はあるものを利用しているときに録った音。後半は利用していない状態でそれを録った音。
そしてもう一つのヒント。これはマイクで録音した音ではないので、普通に生活していても聞こえない音である。特殊な機材を使って収録した、あるものの内部で鳴っている音なのだ。
何を隠そう、その特殊な機材というのが、冒頭に紹介した聴診棒である。
おもに配管の漏水調査や、機械の異常点検などに使うものらしい。どうやって使うかというと…。
おお、聴こえる。水の流れる音が!
細い水流では「スーー」っという音がして、水を強めていくと「コーーーーー」という音になる。少しこもった音がいかにも「内部」という感じがして興奮する!
構造としてはただの棒である。それなのになんだこのひみつ道具感は。
というわけで、これでいろんな音を聴きまくるというのがこの記事の趣旨である。
まずは同じ水つながりで、こんなのはどうだろう。
トイレの水洗タンク
まず、蛇口からジョロジョロジョローっと水が流れ込んでくる前半。そして水が止まったあとも、タンクのフタに付いた水がタンク内にしたたるポツポツという音。そして最後は何が起きているのかよくわからないけど、チョロチョロと小さく水の流れる音が続く。
いつもは聞こえない音が聞こえるのも面白いが、逆にいつもは一緒に聴こえてくる便器内の水流音などがカットされるのも不思議な感じだ。純粋なタンクの音だけを聴くことができるのだ。
※「ボソボソ」とか「ジー」という音は録音の都合上のノイズです。
つづいて、聴診棒は機械の点検にも使うというので、こんなものを聴いてみた。
扇風機
ヴーーーーンというモーター音に、羽が風を切るシャッシャッシャッシャという音。
ふつう「弱」で回したくらいではほぼ無音だが、聴診棒を使えば一つ一つの部品が動き出すのが手に取るようにわかる。いろんな構造が組み合わさって風を起こしているのだな、ということが実感できるのだ。
さて、みなさん、聴診棒はこのようにたいへんおもしろい道具である。しかし、記事で紹介するにあたり大きな問題があった。聴くのと録るのは違うのだ。
この棒、玉を耳に入れると音が聴こえるが、ICレコーダーのマイクに当ても録れない。なぜかはきかないでほしい。やってみたらそうだったのだ。
聴診棒で伝わってくるのは棒の振動、ICレコーダーが録るのは音=空気の振動。ちょっと違うのかもしれない。(じゃあなんで耳では聴こえるのだろう?)
録音できないとなると、この記事、「サーー」とか「シュワーーーー」とか、ぜんぶ擬音語で文字で伝えるしかないのだろうか。それとも口マネ?……いや、それは伝わらん、伝わらんぞ……。
と自室であたふたしていると、ふと、1月に買って練習中のギターが目に入った。
そういえばギターの音をアンプに入れるときは、マイクで音を拾うのではなく、ピックアップという部品で弦やボディの振動を拾っているそうだ。
それを使えば聴診棒の音がレコーダーで録音できるのでは…?
しかしあいにく、うちのギターはクラシックギターなのでピックアップがないのだ。注文するにも間に合わないので(記事掲載2日前の話である)ネットでピックアップについて調べていくと、聞き覚えのあるワードに行き当たった。
このピエゾ素子こそが、ピックアップの正体であるという。
指でピエゾ素子を触ってみる。レコーダーからは、ガサガサ、と擦れる音。
あれ、全然期待してなかったけど、完全にダメ元だったんだけど、もしかして自作ピックアップ……できちゃったのでは……。
まさか本当にできるとは。俺は天才か!?
すごい高揚感に包まれ居ても立ってもいられず、さっそく実験!と思って道具一式を持って自転車にまたがって、
なんなんだこの猛スピードで上がって下がってのジェットコースター展開は。
帰って断線を直したらもう暗くなってしまったので、さっきのFacebookにピックアップができた自慢だけを書いて、そのままふて寝した。
Facebook上で専門家からのアドバイスがあり、ノイズ対策をした2号機ができた。
今度こそは壊さないように慎重に公園へ。
水の流れる音が録れた!!
前半は「コーーー」という大きな音が、後半の水飲み場は水流が弱く、よーく耳を澄ますと「シーーー」という小さな音が聞こえる。
録音成功!やったー!と思ってはしゃいだ瞬間に、レコーダーが地面に落ち、それに引っぱられる形でピックアップも落ちた。
というわけで、先ほどからアップしている動画は次に作った3号機で録音しております。
つぎはこれ。
壁掛け時計
ふだんはすぐ前まで近づいても何の音も感じないが、聴診棒を通すとカカカカカカカカカカカカって音がする。1秒間に4~5回くらいのスピードだろうか。
すました顔して実はけっこう頑張ってたんだな、という感じがする。
電気ケトル
はやく沸くように、ほんの少量だけお湯を沸かしてみた。
スイッチを入れると、小さく「ミーーー」というような音がして、これが加熱の音だろうか。
続いて水が細かく沸騰しているのか、「サーーー」という音がする。そして自動でスイッチが切れて、少し経つと沸騰がおさまり音も止まる。
最後はこれ。
炊飯器
聴診棒を当てる場所や、炊飯の進み具合によって音が違っていた。
終盤には「ゴーーー」という感じでだいぶ音が強くなり、米がご飯に変わる盛り上がりを感じる。
しかしいちど炊けてしまうとほぼ無音に。あたりまえだけど、炊くのと保存するのは全然違う行為なのだな。
さて、ここまで主に自宅の家電や水回りの音を紹介してきた。なぜなら、外に出るたびに機材が壊れるから……ではなくて、3号機は耐久性も改善されて携帯しやすかった。
ほんとうの理由は、外にあるものは意外に音がしなかったからだ。例を挙げると、
どれも中では何かしらが動いているように思うのだが、聴診棒では音を感じられなかった。
思うに、野外にあるものは箱に入っているからではないだろうか。
聴診棒が拾うのは振動なので、動いている部分に直接触れられるといちばん音が拾える。しかし野外にあるものは防水やいたずら防止のためケースや壁に囲まれている場合が多い。その外側に聴診棒を当てることになるので、動いている部分の振動がそこまで伝わってこない、ということなのではないか。
ちなみに自宅にも、たとえば外付けハードディスクなどは、音がしているはずだがケースに入っているため音が拾えなかった。
さて、みなさんもう忘れているかもしれないが、この記事の冒頭でクイズを出した。その答えである。
正解は、これを聴診棒で聞いた音だ。
エスカレーター
今回、野外で唯一おもしろい音が録れたのが、これ。
野外にしては珍しく、ケース入りじゃないむきだしの機械。それがエスカレーターなのだ。
最後に今回の録音の原理をもう1回ふりかえると、聴診棒は振動を拾って伝える。自作ピックアップはその振動を拾って音に変える。
で、よく考えたらこれって、棒なんていらなくて、直接ピックアップを対象に当てればいいのでは……!?
……と思ったんだけど、やってみたらちゃんと棒を通した方が大きい音で撮れました。
あやうく棒特集なのに棒不要になってしまうところだった。あぶなかった。
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