この体験を通じて、せっかく特製麺棒があるのだから次は粉からうどんを打ってみようと思うか、やっぱり店で食べるのが楽だし安いよねと考えるか。手打ち山田うどん作り、なんだか工場見学で体験実習をしているみたいで、とても楽しかった。
うどんを食べ終えると、自分で修了証書に名前を書き入れ、声に出して読み上げた。
玉置標本殿、修了おめでとう!
埼玉に本社のあるうどんチェーン「山田うどん」を知っているだろうか。だいたい国道沿いにあって、トラックの運ちゃんがパンチ(モツ煮込み)定食やかき揚げ丼セットをモリモリ食べている店、というのが個人的なイメージである。
そんな山田うどんが「おうち山田うどん」という通販を始め、なんと特製麺棒がついた『手打ちキット「素うどん」』というのを販売開始したのだ。
まさか家で山田うどんを打てる日がくるなんて。
私は埼玉県出身なので、山田うどんは子供の頃から慣れ親しんだ味である。今でこそ丸亀製麺やはなまるうどんといった、生麺を店で茹でたコシのあるうどんを気軽に食べられるようになったが、少なくとも20年くらい前までは、チェーン店で食べるうどんといえば、茹で麺を温めたものだった。
こうして私は給食でソフト麺を、外食で山田うどんを食べ、うどんの「コシ」という概念を知らないまま大人になった。そんな埼玉県民はかなり多いはずだ。※埼玉にだってコシの強いうどんを出すお店はたくさんあります。
山田うどんはうどん以外のメニューが充実しているためか、2018年7月に屋号を「ファミリー食堂 山田うどん食堂」に変えている。これによって一気に山田うどんが人物名っぽくなった。明石家さんまみたいな。
そんな山田うどんが、通販で手打ちうどんのキットを販売開始するという情報を入手した。しかも特製麺棒がセットである。そりゃ気になるに決まっているだろう。
注文開始の9月20日に張り切って注文。そして23日にクール便で到着。伝票を確認すると出荷指示番号が0001なので、どうやら私の注文が世界初だったようだ。埼玉県民として誇らしい。
気になるそのお値段だが、素うどん4人前で2200円、送料込みで2970円。4で割れば一人前が742.5円。店で食べれば具の入ったたぬきうどんが280円なのに。
いやでもね、山田うどんを家で手作りする、そしてゆで麺ではなく生麺(!)の山田うどんが食べられるという貴重な経験を考えれば、まったく問題ない値段だよね。ほら麺棒もかわいいし。
作り方の説明動画。あの赤いタイツも手打ちセットに入れてほしい。
さっそくうどんを打つぞと腕まくりをしたのだが、届いたのは小麦粉ではなく冷凍の生地なので、まず解凍に丸一日掛かるようだ。
おいおい、山田うどんを食べるのに一体何日待たせてくれるんだ(嬉しい)。
そして翌日、ようやくうどん打ちの開始である。まずは解凍された生地を足で踏み延ばすのだが、雪見だいふくを踏みつけているみたいで心が痛む。これは粉から自分で作る場合には湧いてこない感情だ。
山田うどん特製生地の表面がものすごく滑らかだからというのもあるだろう。素人の手ごねだとなかなかこうはなってくれない。勉強になるね。
体重を少し乗せただけで、ニュイーンと伸びていく生地。気持ち良さと罪悪感が混在する踏み心地だ。
生地が柔らかめなので、大人の体重だとすぐに袋の幅いっぱいになった。薄々気が付いていたが、この手打ちうどんセットは主に子供の体験用だよな。
こうして踏み延ばす回数を重ねるごとに、生地には強い弾力が生まれた。うどんのコシはこうして生まれるのかという感動がある。
生地の見た目がほとんど変わらないからこそ、硬さの違いがおもしろい。
熟成の合間に昼寝をしてから作業再開。セットにはビニールシートが入っているので、それをテーブルに敷いてテープで止めて、打ち粉を振って生地を置き、まずは手のひらで軽く延ばす。
押した分だけムニューンと伸びるが、手を離すとミニョーンと弾力で戻ってくる。三歩進んで二歩下がる的な作業である。
ある程度まで延びたら、ここでようやく特製麺棒の出番である。
カカシマークの焼き印をうっとり眺めながら、ゴロンゴロンと麺棒を転がして生地を延ばす。ゴローン。
延ばす目安は生地の厚さが3~4ミリ、広さでいえば縦横が麺棒と同じくらいになるまで。
この作業は大人でもなかなか大変なので、子供と一緒にやる場合は、一回に延ばす生地を半分の量(一人前)にするといいかな。
延びた生地にたっぷりの打ち粉をしてから、屏風畳み(横から見るとZ字型)にして、麺をお好みの幅に切っていく。
こういう説明書通りの作業を記事に書いていると、小学生の頃に読書感想文で「それは感想じゃなくてあらすじだ!」と怒られたことを思い出す。未だに読書感想文の書き方はわからないし、この記事は作業のあらすじになっていないか心配だ。でもうどん作りは順調だ。
包丁とまな板はセットに含まれないので、自宅にあるものを使用。生地に対して直角に構え、そのまま真上から垂直に押し切るのがコツと書かれている。刺身のように引いて切ってはいけない。
本職のように素早くトントントンとは切れないが、ゆっくりと丁寧に作業すれば、それなりの麺になってくれる。太くなったら太くなったで、そういううどんだと思えばいい。うどんは自由だ。
ネットでうどんを注文してから何時間が経ち、この瞬間までに何回の食事をとっただろうか。いまこそ、ようやく、待ちに待った、幻の手打ち山田うどんを食べられるのだ。
たっぷりと沸かしたお湯に打ちたての麺を泳がせる。茹で時間は14分前後と書かれていたが、ちょっと細く打ったので9分で上げてみた。
湯切りをした麺を丼に移し、つゆを掛けたら出来上がり。具はお手本の写真に合わせて、ネギだけ用意した。
いやあ、長い時間楽しませていただいた。
こうして作った山田うどんを食べてみると、手打ちの生麺なのに山田うどんらしい食感で驚いた。ソフトな噛み応えで、モチモチのフワフワ。埼玉県民のDNAに刻まれている、あの麺の延長線上なのだ。
もちろん生麺独特の弾力や喉越しの良さはあるのだが、それでもやっぱり山田うどん独特の優しさがあり、丸亀やはなまるとは違う。これはうまい山田うどんだ。
生の山田うどんは店で食べる茹で麺よりも、三割うまい、かもしれない。
ところで生麺の山田うどんを食べられる店というのが実はある。それは東京都清瀬市にだけ存在する系列の居酒屋「県民酒場ダウドン」。都内なのに県民酒場だよ。
この体験を通じて、せっかく特製麺棒があるのだから次は粉からうどんを打ってみようと思うか、やっぱり店で食べるのが楽だし安いよねと考えるか。手打ち山田うどん作り、なんだか工場見学で体験実習をしているみたいで、とても楽しかった。
うどんを食べ終えると、自分で修了証書に名前を書き入れ、声に出して読み上げた。
玉置標本殿、修了おめでとう!
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