死ぬ前にやっておきたいちょっとしたこと
ちょっとしたことでもやり残したことをやるのはやっぱり良い。でも「あと1年後に死にます」と言われたらもっと大事なやり残したことに囚われて、絶対にリコーダーのあの棒を正しく使っておきたいなんて思わないだろう。
人生の余裕があるうちに細かいやり残しリストをちゃんと消化しておこう。楽器繋がりでいうとドラを思いっきり叩くとか。誰かドラ思いっきり叩かせてくれないかな。
編集部から「棒」にまつわる記事を書いてほしいと言われて、ずっと心に引っかかっていた棒のことを思い出した。
リコーダーについているあの棒だ。もちろん筆者も小学校、中学校と人並みにリコーダーの授業を受けた記憶はあるが、あの棒をきちんと使った記憶がないのである。
おそらく今後の人生でリコーダーを吹くことはもうないだろう。しかし、だからこそ、リコーダーについているあの棒を正しく使わずして一生を終えていいのだろうかという想いが募る。いましかない、あの棒を正しく使うのは!
個人的には全然使った記憶のないあの棒だが、もしかしたら筆者だけが正しい使い方を知らないだけで他の人は全員当たり前に正しく使っていたかもしれない。小学生時代から続く壮大なドッキリである可能性も捨てきれないので、念のためにアンケートを取ってみた。
結果は半数以上の約65%がよく分からず使っているか、使っていないかだった。やっぱり!けっこう多くの人が正しい使い方を知らないまま人生を歩んでいるのだ。安心してください、もう大丈夫です。今日正しい使い方が分かります。
さっそく約15年ぶりにリコーダー御開帳~!と意気揚々と戸棚を探したが当時のリコーダーは見つからなかった。たぶん実家(だと思って実家を探しても無いパターンのやつ)だ。
一番安いやつを買ったからなのか妙に中古感のあるリコーダーが送られてきたが、当時使っていたリコーダーもこんなもんだったかもしれない。リコーダーというアイテムのノスタルジックさが醸し出す雰囲気だったとしたらすごい。Amazonは郷愁も買えるのか。
改めてみるとほんとうに清々しくただの棒だ。世の中に棒状のものはたくさんあるが、ここまで「ただの棒」然とした棒はないんじゃないか。棒の中の棒。The best of BOU。
きちんと使った記憶はないものの、掃除用の棒だという噂はどこからか伝わってきて小学生の時に既に知っていた記憶がある。
音楽の先生がちゃんと教えてくれたんだっけか。それとも「この棒は掃除用だ」と噂を流すおじさんが登下校時に出没して不審者として扱われていたんだっけか。今となっては定かでない。
一方で、妻にこの棒を使っていたか聞くと、なんとリコーダーの授業時には毎回、それもリコーダー使用前と後にきっちり使っていたらしい。うちの学校とは雲泥の差だ。
ちょっとリコーダーに申し訳ないことをしてしまったなという気持ちがわいてくるが、これはリコーダーの持ち主がどうこうというより音楽の先生のスタンスによるものだろう。どんなに問い詰められようと「俺は知らなかった」が全てである。
もしかしたらリコーダーの最初の授業で手入れの仕方みたいなのを習ったの忘れているだけかもしれないが、授業の時に毎回掃除をすることは確実にしていなかった。
周りも、男子は特にリコーダーを振って中の水を出すくらいしかやっていなかった記憶がある。文明が発達していない頃のリコーダーの扱い方だ。
Twitterでとったアンケートに「棒の使い方の説明書がついていた」というコメントもいただいたが、うちの学校ではついていなかったか、ついていても早々に道具箱の奥で丸まっていたに違いない。
思い出話が長くなってしまったが、いよいよ正しい使い方を実践していきたい。調べるとヤマハ公式サイトのQ&Aに使い方が書いてあった。シュヴァルベンシュヴァンツ(ドイツ語でアゲハ蝶のこと)みたいなかっこいい名前がついていたら良かったが、どこを探しても掃除棒、掃除用の棒としか呼ばれていない。やっぱり地味だね、君。
そうか、ガーゼと一緒に使うのか。確かにこの棒単体で掃除できないよなと思う反面、追加で道具が必要って反則じゃない?とも思う。
それならせめて初回用のガーゼも基本セットとして同梱してほしい。小学生が自力で「ガーゼ」という解を見つけ出すのは至難の業だ。もしや発想力を試されているのか?
先端の穴にガーゼを通すのは、リコーダーの中でガーゼが棒から取れて残留しないようにするためだ。こうやって正しく使うとただの棒でもちゃんと考えられているんだなーと今更ながら感心する。「ただの棒」然とした棒とかいってごめんね。
なるほどなるほど、これはきれいになるな。ちゃんと掃除したぞ!という満足感も高い。本来ならば小学校低学年で味わう喜びを大人になったいま感じている。
喜びをしっかり自覚し、こうして文章として表現できるという意味では、ここまで正しい使い方をしてこなかった甲斐がある。やはり一度きちんと体験しておいてよかった。
ちなみに色々調べたらリコーダーから垂れてくる水の大部分は唾液ではないことも分かった。特に冬場など、吹きいれた温かい息が笛のなかで冷えて結露することによる水分だ。だから使用前にもこの棒で掃除をしたほうがよいというわけ。(2020/10/08 10:30 結露に関する記述に間違いがあり修正しました!)
小学生の時から「こんなにつばがリコーダーに入り込んでいる感じしないのにな」と思っていたが、やっぱり唾液じゃなかったのか!十数年ぶりに疑問が解消されてすごくすっきりした。過去に戻って自分にドヤ顔で知識を披露したい。
大満足のうちにリコーダーをしまおうとしたら、一連の過程をみていた妻が「うちのやりかたと違う!」と言い始めた。なんと、こんなところにも複数の作法が存在するのか。リコーダー掃除の家元とかいるのだろうか。
妻の通っていた小学校ではガーゼをもっと小さくして、棒に巻き付けるのではなく、先端の穴に通して結んで使っていたという。
これを同じように分解したリコーダーに突っ込んで、そのままリコーダーの先から引っ張り出していたようだ。こちらもgifでどうぞ。
引っ張り出すのにけっこう力がいるのだが、すぽんっ!と抜けた時が気持ちいいし、なんだかマジックを披露しているみたいでかっこいい。個人的にはこちらのやり方の方が好きだ。
基本のやり方だけでなく、応用編的なやり方までも一気に体験できた。大人になってからやるリコーダー掃除としては十分すぎる経験をしてしまった。私は満足です。
ちょっとしたことでもやり残したことをやるのはやっぱり良い。でも「あと1年後に死にます」と言われたらもっと大事なやり残したことに囚われて、絶対にリコーダーのあの棒を正しく使っておきたいなんて思わないだろう。
人生の余裕があるうちに細かいやり残しリストをちゃんと消化しておこう。楽器繋がりでいうとドラを思いっきり叩くとか。誰かドラ思いっきり叩かせてくれないかな。
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