特集 2020年5月20日

働くかかしのおそろしさ

トラウマ必至の働き者たち

例年、秋になると各地でかかし祭りが開催され、人気キャラやその年のトピックスを表現した創作かかしが見る人の目を楽しませている。

その一方で、たわわに実った農作物を守るという使命を持って田畑に立つ実務型のかかしはおそろしさをいかんなく発揮して迫りくる鳥獣たちの心胆を寒からしめている。

一目見ておれが鳥だったらまじで食生活変えるわと思わずにいられない、そのおそろしさを観賞したい。
 

1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

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> 個人サイト バレンチノ・エスノグラフィー

ほんとうはおそろしい働くかかし

以前記事にしたが、神奈川県海老名市で毎年秋に行われるかかし祭りを10年以上、観賞している。
 

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レディ・ガガだ、横幅すごい!(2011年中新田かかしまつり)

 

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初音ミクだ!田んぼでネギ!(おなじく2011年中新田かかしまつり)

様々なキャラクターや話題の出来事をモチーフに趣向を凝らして創作されたかかし達が畦道に立ち並ぶ。

ピカチュウを見てはしゃぐ子供達、時の総理大臣のかかしの前で田んぼ政談を始めるお年寄り、そんなのどかな秋の田園風景。

しかし、この黄金の稲穂で埋め尽くされた美しい田んぼを実際に守っているのは祝祭の裏側で棒に刺さった体勢でスズメたちに睨みを効かせている彼らなのだ。
 

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ギャーなまくびだ!(おなじく2011年中新田かかしまつりの裏)


 

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「米に近寄らせない」本気度が違う。

私がスズメだったらこんなチャイルドプレイのチャッキーみたいなのに睨まれてまで米は欲しくない。

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さらに野ざらし感が強いのもいる。
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やばい。鳥も巣立ったばかりでこれ見たらトラウマ必至。

全ては丹念に育てた作物を鳥獣から守るため、ひたすらかかしとしての本質を追求した恐ろしみを集めてみた、集めてしまった。

生首こわい

12年ほど前、新潟で道沿いの藪から伸びて虚空を見つめている生首と遭遇してひっくり返りそうになったのがきっかけだった。

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まじでびっくりした。


 

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なんか鼻に詰め物してるし.....。.
 

これは絶対髪伸びてるだろう、しかも夜には棒から外れて飛び回ってるに違いない。

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夜に出会うとかなりやばい。

飛び回るといえば、山梨県の山間に開かれたぶどう畑のかかしは浮遊感がすごかった。

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絶景に浮かぶ生首。
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髪のざんばら具合がやばい。

人の背たけほどの棚に覆いかぶさるように生い茂る枝葉の上に浮かぶ生首、チャイルドプレイと八つ墓村がブレンドされたような気味悪さを晴天のぶどう畑で感じるとは思わなかった。

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わりとたくさんあるのがこわい。
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おそろしいポップデュオ。

理髪店で使われるヘッドマネキンによる生首かかしは各地で使用され、その異様さが報じられており、農作業の現場からは確かな効果があるという声も寄せられているらしい。

それにしてもこんな広いエリアカバーできるの?こわいから?と思ったのがこれだ。

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無理じゃない?
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ロシアあたりの格闘技強い人っぽさあるから大丈夫なのか。
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根元にスペアが待機していてこわい、上下に妥協なきおそろしさ。
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もうひと首あった。髪がいい感じでなびいておそろしい。

生首かかしはあまりの恐ろしさに住民からクレームが殺到し、後から胴体をつけ、ややマイルドにしたところもあったという(高知経済新聞2015年8月4日「高知のブドウ畑に怖すぎる「生首かかし」 夜中のジョギング注意も」)が、胴体があるものにはあるものなりのこわみがきちんとある。

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生活感がこわい

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頑丈なビニルハウスの中にもそれ(IT)はいた。

胴体には服を着せているものがほとんどで、おそらくはオーナーやその近親、知人のおさがりなどを使っていると思われるが、そのいい塩梅の使用感がなんというかだいぶ生々しくて、人通りの少ない田畑の近くで出会うとぎょっとする。

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リアルな顔ではないが窒息感があってなんかこわかった。

 

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とうめい人間だ!
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石にされたイケメン。なんかオシャレだ...

パーカーや黒いウィンドブレーカーをはおると駅に貼ってある凶悪犯人の情報募集ポスターの「犯行時の服装」感で満ち満ちていて思わず通報しそうになる。

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生首のような化け物感と違ったリアリティがこわい。

 

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こっち来そうだなおい。

「オズの魔法使い」や「オーデュボンの祈り」に出てくるかかしがこんなだったら物語に違った緊張感が走りそうだ。

 

女性は帽子をかぶりがちである。つばの大きい麦わら帽子に手ぬぐいを巻いたり、首回りまでカバーして日ざしから守るいわゆる「農園フード」だったり、やはり田畑に携わっている人の農作業スタイルが投影されているのだろう。

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めっちゃ折りたたんで八橋のようになった帽子。というか全体的におそろしい。


生活者の一部をまとったリアリティがある種のすごみを醸し出しているのかもしれない。ロボットには不気味の谷があるがかかしには不気味の田があるのだ。

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先ほどの生首夫人もおしゃれな花柄をまとう

同じ田んぼに立つかかしはファッションの傾向にも統一感がある。毎年立ち寄っている田んぼの3人娘を紹介しよう。

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帽子&手拭いスタイルにシンプルで上品ななワンポイントのポロ(ブランド不明)
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スポーツキャップとオーバーサイズのポロでアクティブさを演出!
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こちらはヨネックスのスポーティーなシャツ。目深に被ったハットがクール。
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瞳孔開いたままで一休み(やっぱこわい)

 

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人から蛇へ

私が定期的に回っている田んぼ界隈では生首や人型のかかしに変って光るフィルムをひらひらさせたり、シンプルなものが増えてきた。

しかし、なんかクールになって来たなあとへらへらしているとぎょっとなるような仕掛けに出くわすので油断大敵である。

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見せしめ感のあるダミーカラス。同胞に死のイメージを見せるのか、すごいやり取りだな。

スズメなど小鳥の天敵であるアレも動員されている。

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へび!(ゴムへびです)

私はヘビ好きなのでそれ自体に恐怖はないが、こういった「棒にくくりつけられた状態」が突然現れるとやはり身構えてしまう。パッと見、死体に見えるのだ。

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また表情がすごいんだこれが。

かなりエグいので写真は載せないが実際、本物の蛇(マムシ)の死骸がくくりつけられているのを見た事があって、死臭を放ちながらグロテスクな容態をさらけだし、だいぶ近寄りがたい雰囲気だった。
 

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別の畑で見たヘビ。これもゴム製。

 もっとも、本来、かかしは生首とか人型ではなくて、「嗅がし」を語源とし、悪臭を嗅がせて獣を撃退していたという説が有力で、柳田国男の「年中行事覚書」では石油を燻したり、竹の串に挟んだ髪の毛を焦がしたり、猪の生皮を焼いたりといった生々しい手法が紹介されている。とにかく相手を不気味がらせるため、昔からかかしは人と鳥獣の気味わる合戦の最前線だったのだ。

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このゴムヘビもなんかすごい死体感あった。

とかなんとかいろいろ紹介しておきながら私が最近見た中で一番怖かったのは目を塗りつぶしたうさぎだった事を告白してこの記事を終わる、かかしさん、お疲れ様です 。

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塗りつぶしたらこわいよそれは。塗りつぶしたら。

ちなみに記事中で紹介した3人娘は10年ほど観察をしており、装いの変遷なども含めいい感じでまとめられたら記事化できればと思っている。

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ハッシュタグは「おしゃれさんと繋がりたい」
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