ちなみに記事中で紹介した3人娘は10年ほど観察をしており、装いの変遷なども含めいい感じでまとめられたら記事化できればと思っている。
ほんとうはおそろしい働くかかし
以前記事にしたが、神奈川県海老名市で毎年秋に行われるかかし祭りを10年以上、観賞している。
様々なキャラクターや話題の出来事をモチーフに趣向を凝らして創作されたかかし達が畦道に立ち並ぶ。
ピカチュウを見てはしゃぐ子供達、時の総理大臣のかかしの前で田んぼ政談を始めるお年寄り、そんなのどかな秋の田園風景。
しかし、この黄金の稲穂で埋め尽くされた美しい田んぼを実際に守っているのは祝祭の裏側で棒に刺さった体勢でスズメたちに睨みを効かせている彼らなのだ。
私がスズメだったらこんなチャイルドプレイのチャッキーみたいなのに睨まれてまで米は欲しくない。
全ては丹念に育てた作物を鳥獣から守るため、ひたすらかかしとしての本質を追求した恐ろしみを集めてみた、集めてしまった。
生首こわい
12年ほど前、新潟で道沿いの藪から伸びて虚空を見つめている生首と遭遇してひっくり返りそうになったのがきっかけだった。
これは絶対髪伸びてるだろう、しかも夜には棒から外れて飛び回ってるに違いない。
飛び回るといえば、山梨県の山間に開かれたぶどう畑のかかしは浮遊感がすごかった。
人の背たけほどの棚に覆いかぶさるように生い茂る枝葉の上に浮かぶ生首、チャイルドプレイと八つ墓村がブレンドされたような気味悪さを晴天のぶどう畑で感じるとは思わなかった。
理髪店で使われるヘッドマネキンによる生首かかしは各地で使用され、その異様さが報じられており、農作業の現場からは確かな効果があるという声も寄せられているらしい。
それにしてもこんな広いエリアカバーできるの?こわいから?と思ったのがこれだ。
生首かかしはあまりの恐ろしさに住民からクレームが殺到し、後から胴体をつけ、ややマイルドにしたところもあったという(高知経済新聞2015年8月4日「高知のブドウ畑に怖すぎる「生首かかし」 夜中のジョギング注意も」)が、胴体があるものにはあるものなりのこわみがきちんとある。
生活感がこわい
胴体には服を着せているものがほとんどで、おそらくはオーナーやその近親、知人のおさがりなどを使っていると思われるが、そのいい塩梅の使用感がなんというかだいぶ生々しくて、人通りの少ない田畑の近くで出会うとぎょっとする。
パーカーや黒いウィンドブレーカーをはおると駅に貼ってある凶悪犯人の情報募集ポスターの「犯行時の服装」感で満ち満ちていて思わず通報しそうになる。
「オズの魔法使い」や「オーデュボンの祈り」に出てくるかかしがこんなだったら物語に違った緊張感が走りそうだ。
女性は帽子をかぶりがちである。つばの大きい麦わら帽子に手ぬぐいを巻いたり、首回りまでカバーして日ざしから守るいわゆる「農園フード」だったり、やはり田畑に携わっている人の農作業スタイルが投影されているのだろう。
生活者の一部をまとったリアリティがある種のすごみを醸し出しているのかもしれない。ロボットには不気味の谷があるがかかしには不気味の田があるのだ。
同じ田んぼに立つかかしはファッションの傾向にも統一感がある。毎年立ち寄っている田んぼの3人娘を紹介しよう。
人から蛇へ
私が定期的に回っている田んぼ界隈では生首や人型のかかしに変って光るフィルムをひらひらさせたり、シンプルなものが増えてきた。
しかし、なんかクールになって来たなあとへらへらしているとぎょっとなるような仕掛けに出くわすので油断大敵である。
スズメなど小鳥の天敵であるアレも動員されている。
私はヘビ好きなのでそれ自体に恐怖はないが、こういった「棒にくくりつけられた状態」が突然現れるとやはり身構えてしまう。パッと見、死体に見えるのだ。
かなりエグいので写真は載せないが実際、本物の蛇(マムシ)の死骸がくくりつけられているのを見た事があって、死臭を放ちながらグロテスクな容態をさらけだし、だいぶ近寄りがたい雰囲気だった。
もっとも、本来、かかしは生首とか人型ではなくて、「嗅がし」を語源とし、悪臭を嗅がせて獣を撃退していたという説が有力で、柳田国男の「年中行事覚書」では石油を燻したり、竹の串に挟んだ髪の毛を焦がしたり、猪の生皮を焼いたりといった生々しい手法が紹介されている。とにかく相手を不気味がらせるため、昔からかかしは人と鳥獣の気味わる合戦の最前線だったのだ。
とかなんとかいろいろ紹介しておきながら私が最近見た中で一番怖かったのは目を塗りつぶしたうさぎだった事を告白してこの記事を終わる、かかしさん、お疲れ様です 。